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事例で見る事業売却

記事:事業売却(5)

通常、M&Aの事例研究では、スキームや手続きのポイントについて解説されることが多いが、ここでは事業売却の現場にスポットを当て、(1)事業売却に至った背景と(2)同じ社内で、事業売却を推進する立場と事業売却に伴って他社に転籍する立場とに分かれた従業員の心情を見てみる。

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最後に、実際の事例で事業売却の舞台裏を紹介する。
通常、M&Aの事例研究では、スキームや手続きのポイントについて解説されることが多いが、ここでは事業売却の現場にスポットを当て、①事業売却に至った背景と②同じ社内で、事業売却を推進する立場と事業売却に伴って他社に転籍する立場とに分かれた従業員の心情を見てみる。

【事例】
•電気機器メーカーA社によるX事業の売却

【事業売却に至った背景】
(A社に関する事項)
•A社はX事業について、高い技術を有しているが、研究開発費の負担が重く、今後事業を続けていくためには毎年多額の投資が必要。他の事業とのバランスから、X事業への投資の継続は難しいと判断。
•株主、債権者からの圧力が強く、グループ全体における効率化を目的とした事業の見直しが求められている。

(X事業に関する事項)
•X事業は、ヒット商品が出る年と出ない年とで、利益の変動幅が非常に大きく、不確実性が高い。
•X事業が属する業界は、その市場規模に対して参加企業が多く、過当競争となっている。
•業界内では、競合企業同士の資本・業務提携や合弁会社の設立が活発に行われている。

【従業員の心情】
(事業売却を推進する立場・・・本社)
•X事業の売却は全社戦略上、「すべきこと」であり、前向きな取り組みであるという認識。
•売却条件の中では、売却事業に携わる従業員の処遇に重点を置く。雇用維持、雇用条件の維持を買収企業に求める。

(事業売却に伴って他社に転籍する立場・・・事業部門)
•現在のグループの中では、事業部門が必要とする、十分なレベルの投資ができないと認識。グループに留まるのではなく、新しい会社の中で新しい展開を期待。
•従業員にはそれほど大きな動揺はない。雇用の確保及び雇用条件の維持について、経営者が努力しているという心証が得られたことが奏功。

この事例で非常に特徴的であったのは、売却される事業部門の面々が、この事業売却を前向きに捉えていた点である。第一の理由として、X事業が売り時の範囲内にあり、事業自体の価値が棄損していなかったためと考える。事業に体力がある状況においては、従業員も変化を前向きに考えやすいからであろう。
また、買収企業が同業他社であったことも理由の一つと言える。同業他社であるがゆえに、「あの技術とうちのこの技術が結びついたら面白そうだ」「あの会社の雰囲気はこんな感じ」といったように将来の姿を思い浮かべやすかったように思う。必ずしも明るい未来だけが広がっているわけではないが、人が不安を感じるのは、情報がないことが原因であり、たとえマイナスの内容であっても情報があるというのは重要である。

さらに加えると、売却される事業部門のマネジメント層が、グループ全体の方針に理解を示していたというのも重要なポイントだ。マネジメントのメンバーが、「自部門の売却が全社最適に適っている」と考え、部門の利益を優先するのではなく、全社の利益のために行動したことが、他の従業員にも伝わったのではないだろうか。

事業売却が行われる状況は、個々の会社によって異なるが、本事例から事業売却を成功させるためのエッセンスを感じ取っていただき、活用していただけるのであれば幸いである。

※本文中の意見に関する部分は私見であり、法人の公式な見解ではない旨申し添える。

デロイトトーマツグループの事業売却の実績は下記をご覧ください。

■ 実績:事業売却

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