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ケースでわかる事業再生 第3回

スポンサー型再生(2)債務者企業・金融債権者の視点から

窮境に陥った企業をスピーディーかつ効果的に再生させる手法として、スポンサー型再生が挙げられる。本稿では当該手法の利点やポイントについて、事例を通じ、スポンサー企業の視点から説明したい。

※本稿では私的整理によるスポンサー型再生を前提として説明する。

1.スポンサー型再生の利点(スポンサー企業の視点)

(1) 既存事業基盤の見通しやすさ

再生企業は経営資源が毀損しているケースが多いものの、なかには相応に競争力のある事業基盤が維持されている例もある。技術力や顧客基盤は認められるものの、財務基盤に大きな問題を抱え、結果として業績が悪化しているような場合である。かような状況の企業であれば、スポンサーの支援(特に財務面や信用力補完)により、業績の回復が見通しやすい場合がある。
 

(2) 買収価格が抑えられる可能性

正常な経営状況にある企業に対するM&Aに比べて、買収価格が抑えられるケースが一般的である。
 

2.スポンサー型M&Aの成功に向けたポイント

(1) リスクの緩和

再生企業は、粉飾決算、潜在債務、労務問題等を抱えているケースが少なくない。このようなリスクに対しては、通常のM&Aにおけるデューデリジェンス以上に慎重な調査を行うとともに、発見された事項に対して適切なリスク緩和策を取る必要がある。例えば、会社分割や事業譲渡による第二会社方式の活用等、買収ストラクチャーを工夫することが必要である。再生型M&Aにおいては、M&A取引契約で一般的である表明保証条項が実質的に機能しないケースが大半であることも留意を要する点である。

(2) 金融債権者目線の把握

スポンサー型再生においては、金融債権者から債権放棄等の金融支援を受けるケースが多い。債権放棄を伴う場合、スポンサー契約等M&A取引に関して法的拘束力を持つ契約は、金融債権者の同意が得られる前提となる、いわゆる停止条件が付されることが一般的である。スポンサー企業は実質的な「売り手」と考えられる金融債権者の目線を把握しておくことが有効であり、金融債権者サイドにおいて許容しうる金融支援額を考慮した買収価格の検討が必要になる。

(3) 入念なPMI(Post Merger Integration)

スポンサー型再生においては、通常のM&A以上にPMIにエネルギーを必要とする場合が多い。特に長年の業績低迷で従業員のモチベーションが低下している場合は、スポンサー企業から早期に再生ビジョンを示し、マインドを刷新することにより、人的資源を活性化していくことが重要である。スポンサー企業からの人員派遣はもとより、スピーディーな再生を図るべく、一定期間、外部専門家をターンアラウンドマネージャーとして起用することも有効なオプションである。
 

3.製造業X社の事例

【案件概要】

製造業X社は、ローコストオペレーションを得意とし、業績は堅調に推移しているが、今後の業績拡大・高付加価値化に向けた戦略を模索していた。かような折、M&Aアドバイザーより、同業であるY社買収への関心有無の打診があった。Y社は特殊技術とユニークなビジネスモデルにより優良な顧客基盤を有していた。しかし、高コスト体質に加え、過大な設備投資や本業外投資により借入金が増加したところでリーマンショックに直面し、資金繰りが大幅に悪化した。Y社のメインバンクは単独の存続は困難と考えており、応分の金融支援を前提にスポンサー企業を探索していた。

X社はY社の技術力・ビジネスモデルを高く評価し、自社の経営戦略にもフィットすると判断しY社事業を買収した。買収後は、Y社の技術力とX社の高い生産性を組み合わせたサービス提供により顧客の評価を高め、業容を拡大している。
 

【案件のポイント】

(1) リスクの把握と緩和策

デューデリジェンスの結果、Y社には本業外事業や旧経営陣に関連する簿外債務の存在が懸念されており、X社はY社を株式譲渡スキームで買収することは困難と判断した。旧株主・旧経営陣の表明保証履行能力は乏しく、X社は、事務的な煩雑さを伴うものの、受皿会社を設立する事業譲渡スキームで旧会社のリスクを遮断することとした。

(2) 金融機関との入念な交渉

X社はY社のメインバンクと入念な交渉を行った。メインバンクとの交渉を通じ、金融債権者の許容しうる金融支援額を適切に把握したうえで事業譲渡対価を見積もり提示した結果、金融債権者同意を短期間でスムーズに取得した。

(3) スピーディーな再生計画の策定と実行

金融債権者との交渉を並行し、X社は新生Y社の事業計画を策定し、事業譲受後速やかに、Y社従業員に対して説明を行い、早期のモチベーション回復に成功した。X社はY社に対して自社従業員数名をターンアラウンドチームとして派遣し、再生計画の早期着手と定着化に尽力した。

案件成功のポイントは、X社がY社の事業の魅力を適切に見極め、自社経営戦略とのフィット感に確信を持ったうえで、再生プランの策定・実行・定着化をスピーディーに実施したことが大きい。また、スポンサー型再生は、再生企業側の金融債権者との折衝が長引くケースが多いが、X社は当初よりY社金融債権者とのコミュニケーションを密にし、短期間で交渉成立させたことも成功要因のひとつと考えられる。

※本文中の意見に関する部分は私見であり、法人の公式な見解ではない旨申し添える。


デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
 シニアヴァイスプレジデント 西村 岳

(2016.2.19)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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