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ケースでわかる事業再生 第4回

私的再生の何が難しいのか?(1)-調整を阻害する利害対立構造

私的整理型事業再生(いわゆる“私的再生”)を目指す債務者企業にとってみれば、様々な利害関係者との条件調整、スケジューリング等に苦慮することが多いことから、手続き的な側面の強い法的再生に比べ私的再生のハードルは高いとも言われる。今回は、私的再生における基本的な利害対立構造に触れる。

1.私的再生における特徴的な利害対立構造

(1) 債務者企業 vs. 取引銀行

債務者企業は将来の借入金元利支払負担をなるべく軽減し、かつ経営の自由度を早く確保したいと考える。一方、取引銀行は一定の条件が充足されることを前提に債務者企業の再生に協力する。ここでいう「一定の条件」とは、事案共通の一般的ものとして以下のようなものが挙げられる。

A) 安易な金融支援を助長しないために債務者企業の適度な自助努力を伴う合理的な経営改善プランを債務者企業に策定させ、取引銀行間全体で再生支援の合意形成を図ること
B) 経営改善策の着実な実行とその効果発現のため、金融機関が債務者企業の経営を監視する仕組みを整え、一定規模を超える設備投資といった債務者企業の経営に大きな影響を与えうる行為・決定に制限をかけること
 

(2) 再生スポンサー vs. 取引銀行

再生スポンサーは自身が評価する債務者企業の事業価値をなるべく抑制して投資を行い、将来の再生リスクをヘッジしようとする一方、取引銀行はスポンサーが評価した債務者企業の事業価値に基づき債権回収極大化を図ろうとすることから、「買い手」と「売り手」の利害対立が生じる。複数の再生スポンサー候補の中からオークション形式でスポンサー最終候補を選出する事案が多いのは、実質的な対象事業の「売り手」である取引銀行にとっての経済合理性を担保するためでもある。

ただし、日本の金融機関が私的再生時のスポンサー招聘にかかる意思決定を行うに際しては、瞬間的な債権回収極大化のみでは意思決定せず地域雇用の安定維持やスポンサー候補の評判といった定性項目を考慮に入れる傾向もあるため、最終的なスポンサー候補決定の合意形成に時間を要することもある。
 

(3) 債務者企業 vs. 再生スポンサー

債務者企業は再生スポンサー候補に対し、企業全体をそのまま引き取り従業員雇用と処遇の維持を要求することが多い。中には、事業運営の継続性の名目で債務者企業の現経営陣がそのまま留任することを前提として再生スポンサー候補に条件検討を求めるというケースもあったりする。良く解釈するならば「美味しいところだけ摘み食いしないでほしい」という債務者企業の要求になるが、債務者企業の将来に責任を持つことになるかもしれない立場での再生スポンサー候補にしてみれば「清濁まるごと飲み込んでほしい、しかも高い事業価値で」というのは虫が良すぎるということになり、利害対立が生じる。
 

(4) オーナー経営者(兼連帯保証人) vs. 取引銀行

非上場中堅オーナー会社が債務者企業である場合、オーナー経営者自身やその親族が人的・物的保証を差し入れているケースが大半である。債権放棄を伴うような重い金融支援が検討されている場合、保証履行見合いの私財提供により一部弁済に充当することもあり、その負担程度・範囲を巡ってオーナー経営者と取引銀行(保証債権者)の間で利害対立が顕在化することもある。
 

(5) 取引銀行(メイン行) vs. 取引銀行(非メイン行)

一般に融資残高シェアや長期にわたる取引歴などで見て債務者企業との関係が深い取引銀行はメイン行と呼ばれる。その他の取引銀行(非メイン行)からすれば、債務者企業の経営内部情報を相対的に多く有するメイン行と完全同列な形で自行が金融支援を実施することに抵抗感を抱くことも少なくない。他方メイン行は、金融支援の自行負担が按分ベースよりも膨らむ、いわゆる「メイン寄せ」圧力がかかることを回避したいという思惑が働くことも多い。

また、稀にメイン行不在の事案もあるが、その場合はメイン行対非メイン行という対立軸が形成されない一方で、協議のイニシアティブを持つ取引銀行がないため銀行団の意見調整に手間取ったり、メリハリの乏しい玉虫色の計画内容に着地したりするということもある。
 

(6) その他

不動産等の担保により債権が保全されている割合の格差が取引銀行間で生じているケースでは、保全割合の低い取引銀行(非メイン行であるケースが多い)が自行に不利な金融支援にならないよう銀行間協議で強い主張をなすこともある。また、これは私的再生の局面に限ったことではないが、例えばリストラ対象事業に関わる役員・従業員が各個人の“居場所”という意味合いを含む形で当該事業の維持・存続をかけリストラプランに反対するということも珍しくない。
 

2.利害調整のためのポイント

裁判所が関与し、かつ多数決原理の下で進められる法的再生手続きと異なり、私的再生の場合は各所で発生する利害対立を債務者企業が主体的に処理しながら、最終的には金融支援を行う取引銀行すべてから再生に向けての同意を取得する必要がある。かかる利害調整と同意取得をスムーズに進めるための重要ポイントは以下の2点である。

(1) 利害対立関係の客観的・専門的な特定

事案により利害対立関係の構図や濃淡は必ず異なる。また、私的再生プロセスを進めていく過程で後になって利害対立が顕在化する事象もすべての事案において必ずある。個々の利害対立関係の生じている背景や各当事者の想定される主張、解決に向けた落とし所と手順、それが他の利害対立問題に与える影響等を見定めるためには客観的かつ専門的な解析がカギを握っている。どこでどう糸がほつれているか、それを解いていく途中で別のほつれが生じる可能性も見ようとせず闇雲に糸をいじっていても、利害調整協議は進まないことが大半である。

(2) 全体感を持った利害対立解消ストーリーの構築

さまざまな利害対立関係を解消していくためには、上記の構造解析を踏まえつつ個々の“局地戦”をいつまでに、どのように沈静化させ、全体の利害対立関係を解消するかという作戦をストーリー化することが重要である。時間の経過と共に情勢が変わり泥沼化する局地戦も生じ得るが、そうならないよう常に戦況を見極めその後の展開を読み、全体最適の観点でストーリーを能動的に梃子入れしていくスタンスが重要である。

私的再生特有の事情により勃発しているさまざまな局地戦にどう対応したら良いかや、この先どのような展開になるかなど、通常の債務者企業は経験値もないため考えも着かず、思考停止・機能不全に陥ってしまうことが殆どである。タイムリーな打ち手により戦況を悪化させず、当面のゴールである私的再生の成立に辿り着かせるため、私的再生の複雑な利害関係対立に手馴れた適切な外部専門家・アドバイザーを起用することは必須であると言えよう。


次回は、さまざまな利害対立関係の生じた事例を紹介する。

※本文中の意見に関する部分は私見であり、法人の公式な見解ではない旨申し添える。


デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
 パートナー 浅尾兼平

(2016.3.16)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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