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ケースでわかる事業再生 第6回

事業再生におけるビジネスモデル理解の重要性

事業再生においては、金融支援の獲得等の財務的な施策と同時に、本業のオペレーションを改善し、事業自体の収益性を高めることが必須となる。第6回は消費財を商う中堅小売チェーンのケースから、ビジネスモデル(稼ぐ仕組み)の正しい理解の重要性について解説する。

ビジネスモデルと事業再生の「処方箋」

事業再生の実務においては、非主力事業からの撤退や債務免除等の金融支援の獲得といった財務的な施策を医者の治療に例えて、「外科治療」と呼ぶことがある。病巣を切除するのに即効性がある点が似ているからだ。これに対して、対象企業(事業)のオペレーションを改善し、時間をかけて収益力を回復させていくやり方を「内科治療」と呼ぶことがある。事業再生においては、対象企業の状況に応じて、必要な「外科治療」「内科治療」を組み合わせた治療法を施すことが重要である。

どのような治療法が適しているかは事業再生の極めて早い段階で仮説が立てられ、その後の財務内容・事業内容の確認作業を通じて、より精緻な再生プランとして具体化される。その際に重要なことは、対象企業のビジネスモデルを正しく理解し、それがどの程度機能しているか(痛んでいるか)を把握することである。「ビジネスモデル」とは多様な意味で使われている言葉のひとつだが、ここでは分かりやすく「企業が利益(またはキャッシュフロー)を稼ぐ仕組み」と定義したい。企業にとって「事業再生が必要な局面」とは「稼ぐ仕組みが上手く機能しなくなった状態」であり、「事業再生」を「ビジネスモデルの機能不全の原因を突き止め、以前のように上手く機能するように治癒すること」と捉えることができる。

しかしながら、多様で複雑な企業活動を通りいっぺんの『ビジネスモデル』に当てはめ、これまた型通りの治療法を押し付けたのでは、事業再生の処方箋を大きく誤ってしまうことになりかねない。そこで、本稿においては、ビジネスモデルの正しい理解がその後の事業再生を大きく左右する重要なものであることを、ケースを通じて紹介したい。なお、紹介するケースにおいては、対象会社のビジネスモデルの本質的な強みは失われていないと見立て、強みが自律的に発揮されるように、オペレーション改善中心の「内科治療」を施している。

 

小売チェーンA社のケース

  •  A社は消費財を商う中堅小売チェーン。
  •  高度成長期に、「安さ日本一」をうたい文句に、当時は珍しかった低価格販売で消費者の支持を集め、チェーンオペレーションによる業容拡大に成功。現在では業界大手の一角に位置づけられる。
  • 最近はA社同様低価格を武器にした大手量販店との競争が激化、利益率が急激に低下した。消費低迷による既存店の売上減少を積極的な新規出店により補ったこともあり、借入金の多さが財務面の大きな負担であった。

 

A社のビジネスモデルは大手量販店と同じか?

A社事業の再生処方箋の検討に着手した当初、A社の取引金融機関からは、店舗の販売員を中心とする人件費の大幅な削減を求める声が強かった。その背景には、競合大手が、人件費や店舗コストを抑えて低価格販売で顧客訴求する、いわゆるローコストオペレーションで引き続き業容を拡大していることがあった。

確かに、A社の販売員は正社員が中心であり、アルバイト中心の大手量販店に比べて人件費の水準は高かった。これが大手との利益率の差に現れているように見えたから、はじめは金融機関の指摘も的を射ているかと思われた。

しかしながら、A社社内の声を聞くと、「ローコストオペレーション」の方向性を強めることには、明らかな違和感があった。そこで、店頭で顧客にアンケートを実施し、どのような点がA社顧客の来店や購入決定の動機となっているかを確認したところ、意外な事実が分かった。つまり、顧客は、会社自身が考えるほどA社の価格が安いとは評価しておらず、むしろ、販売員の商品知識や「顔なじみの販売員がいる」という点を高く評価していたのだ。しかし、A社自身「日本一安い」で成長した過去の成功体験に捉われ過ぎて、大手に対抗した安値提示により売上を確保することに固執し、過剰な値引き販売に陥っていたのである。

最終的に、人件費の多さよりも、それに見合った販売利益が確保できてないことが問題だと結論付けた。そこで、店長の値引きの裁量を狭めて過剰な値引きの抑制を図るとともに、業績評価の基準を売上高から利益重視に変更すること等により、利益重視の経営方針への転換を社内に明らかにした。店頭ではオプションとのセット販売等の顧客提案が活発化し、粗利率の改善に貢献した。人件費については、教育の行き届いた販売員がA社の強みの源泉であるから、店頭の人員削減は最小限に止めた。むしろ不採算店の閉店により余剰となった販売員を存続店にシフトさせ、残業の多さや休暇のとり難さといった販売員の不満に対応して、販売員の離職防止を図った。すると、もともとインセンティブによる販売員の誘導がよくはたらく会社であったことから、業績評価基準の変更の効果が現れるのも早く、数ヵ月後には粗利率が数%改善。望外のスピードで業績改善が実現することとなった。

 

ビジネスモデルの正しい理解の重要性

A社は、交通の利便性の高い店舗立地や手厚い接客で、エントリー層やライトユーザー中心に顧客の支持を獲得しており、大手量販店と中小専門店の中間に位置づけられる。こうして説明すれば、明らかに大手量販店のローコストオペレーションとは違っていると分かるが、過去に「日本一安い」のキャッチコピーで成功していることから、今でも「安売り店」とのイメージが強く、ローコストオペレーションとのビジネスモデルの混同が生じたものと思われる。

もし販売員の人件費削減を中心とする「ローコストオペレーション」の方向に向かっていたら、果たしてA社の今日の業績改善は実現できただろうか。同じ商品を取り扱いながら、大手量販店(アルバイト販売員中心のローコストオペレーション)とは異なる仕組みで顧客の支持を獲得し、利益に結び付けていたA社のビジネスモデルを破壊してしまっていたに違いない。A社のケースを通じ、企業の稼ぐ仕組みを正しく見極める難しさ、再生プランを描く上でビジネスモデルを正しく理解する重要性を改めて肝に銘じる経験となった。

執筆者


デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ミドルマーケット 
シニアヴァイスプレジデント 五十鈴川 憲司

(2016.7.15)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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