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ケースでわかる事業再生 第8回

事業再生局面における事業承継

オーナー企業の事業再生局面において、事業承継の論点が絡む場合には、ファミリーの論点とビジネスの論点の両面から、複合的な検討が行われることになる。第8回は、再生局面における事業承継に関する諸論点について解説する。

はじめに

オーナー企業の事業再生局面において、事業承継の論点が絡む場合には、ファミリーの論点とビジネスの論点の両面から、複合的な検討が行われることになる。再生局面における事業承継に関する諸論点について解説する。
 

ファミリービジネスにおいて事業承継が躊躇されるケース

ファミリービジネスは日本企業の約97%を占めており、日本経済における中心的役割を果たしているといわれる。ファミリービジネスは、ファミリー、ビジネス、オーナーシップという3つの構成要素が有機的に絡み合い、時として利害調整が必要となる場面が存在する。近年、ファミリービジネスはその長寿性や安定性などでその強みが見直されてきており、ファミリービジネスの承継を支援するための国の制度も整備が進められている。

  • 経営承継円滑化法に基づく支援措置(相続税の納税猶予制度)
  • 事業引継ぎ支援センターの開設
  • 第二創業促進補助金制度の創設

これらの支援制度は、平時であれば有効な施策となるが、事業再生局面のような有事の場合には活用できないと考えられる。仮にファミリーに後継者候補がいる場合においても、事業再生局面におけるファミリービジネスの事業承継に関しては以下の理由により、親族内承継が躊躇されるケースが見受けられる。
 

(1)借入金に対する経営者の個人保証の存在

ファミリービジネスはその多くが中小企業であることから、借入による資金調達にあたって金融機関から経営者による個人保証を設定されることが一般的である。

ファミリービジネスの事業再生局面において事業承継を考えなければならないという場合には、この個人保証を子息子女に負わせたくないと思う経営者がほとんどではないだろうか。平成26年2月より「経営者保証ガイドライン」の適用が開始され、個人保証に関する制限や例外が定められたものの、尚のこと子息子女に個人保証を負わせたくないので、自分でけじめをつけると考える経営者も多いのではないだろうか。
 

(2)ビジネスの先行きが不透明なケース

今後、日本国内における人口減少は避けられず、国内の需要に支えられている業種・業態の中小企業は厳しい経営環境に置かれることとなる。特に事業再生局面においては、ビジネスの窮境原因が存在することから、通常でも難易度の高いターンアラウンドのハードルが高くなってきている。そのようなビジネスの先行きへの不安が、経営者にとって、親族への事業承継を躊躇する要因になるケースは多いと考えられる。
 

事業再生局面における事業承継パターン

(1)自力立て直し型

経営者自らが自力で事業再生への道筋をつけたうえで、後継者へ事業承継を行うパターンである。事業再生の現場においては、金融支援の軽重にもよるが、一定の経営責任(けじめ)を果たすことが求められることになる。しかし、中小企業では他に経営できる人材がいないことが多いので、そのまま自ら事業再生の陣頭指揮を取るというケースが大半であると考えられる。

ビジネス、ファミリー、オーナーシップのいずれも支配しているオーナー社長が経営者で、強いリーダーシップを有している場合には、この型が適していると考えられる。私が関与した実例のひとつに、「個人保証を外せる財務数値まで立て直し、子息に承継する」という強い意思を持って改革に取り組んだ経営者がいたが、私の経験上、このパターンで重要なことは、事業再生局面に至った原因を真摯に振り返り、取引金融機関などの利害関係者の意見も踏まえながら、経営者自らが反省し前向きに変わることであると考えられる。


(2)親族後継者立て直し型

経営者が高齢や健康上の理由などで続投が難しい場合や、経営責任の一環として経営者が経営の一線から退かなければならない場面で、親族後継者に立て直しを託すというパターンである。

親族後継者がすでに社内におり、一定の経験を積んでいる(30~40代超)ことが条件になると思われるが、事業再生に至る窮境原因が経営者に起因するような場合には、取引金融機関から期待されて親族後継者が登板することもある。

このケースにおいては、親族後継者の双肩にさまざまな重圧がのしかかることになる。借入金の個人保証も前経営者とともに背負い、事業と従業員の将来を背負い、ファミリーも背負い、また、取引金融機関などの利害関係者の期待も背負うこととなる。

私の経験上、このパターンで危ういのが、(1)親族後継者が責任を「他責」にしているケース、(2)前経営者が口を出すケースの2つである。

(1)の親族後継者が責任を他責にしているケースとは、経営責任は前経営者にあるのだから、自らに責任はないので好きにやるというようなケースである。このような無責任感が表面化すると、従業員や取引金融機関からの信頼を失うリスクが懸念されることになる。

(2)の前経営者が口を出すケースは、いわゆる「お家騒動」で最も多いケースとなる。著名な同族企業においても前経営者が親族後継者に対して横槍を入れて、会社が大混乱に陥る事例が存在しているが、事業再生局面においては、メインバンクの牽制が働くことから、「お家騒動」が発生するというケースは、私が知る限り少ないと思われる。


(3)ワンポイントリリーフ型

親族後継者の経験が不足する場合や、まだ社内にいない場合に、親族後継者への承継までの期間、ワンポイントリリーフとしてファミリー外の人材が経営立て直しを担うパターンである。典型事例として、(1)番頭経営、(2)ファンドの活用の2つのケースが挙げられる。

(1)の番頭経営は、江戸時代から戦後の高度経済成長の間も日本を代表するファミリービジネス企業において数多くの事例があり、日本のファミリービジネスにおける伝統の手法とも言えるかもしれない。事業に精通した番頭役が事業を立て直した後に親族後継者への承継を図るというモデルである。このケースで実務的にクリアしなければならない課題は、個人保証をどうするかという点になろう。通常オーナーシップのない番頭経営者に個人保証まで負わせることは負担が大きいと思われるため、メインバンクとの調整が必要になる。

(2)のファンドの活用は、近年ますます増加している。ワンポイントリリーフとしてファンドがオーナーシップを保有し、事業をターンアラウンドさせた後に、改めて親族後継者にイグジット(事業を売却)するというケースである。ファンドというプロの事業再生ノウハウを活用できるという点で、事業再生の実効性が高くなる。このケースの課題としては、親族後継者へのイグジットに際して企業価値が高まっていることから、親族後継者側で資金を用意する必要が生じる点である。このケースで事業のターンアラウンドが成功していれば、メインバンクなどがファイナンスを支えてくれるであろう。
 

まとめ

オーナー企業の事業再生局面において事業承継が絡む場合には、ファミリー、ビジネス、オーナーシップ、利害関係者の間の最適解を見つける必要があるため、アドバイザーとして高度な専門性が求められる。事業再生計画の立案・実行支援のみならず、ファミリーの承継プランの立案・実行支援も並行して必要となる。また、取引金融機関に対しては、返済計画の立案、事業再生計画の進捗報告が必要となるが、会社および取引金融機関のコミュニケーションの潤滑油としての役割が求められることとなる。

 

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。
 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
リストラクチャリング アドバイザリー
シニアヴァイスプレジデント 
三村 貴裕(公認会計士)

(2016.11.25)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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