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ケースでわかる事業再生 第10回

事業再生における損失を負担する「責任」の所在 ~第二会社方式を用いた事業再生の成功事例

事業再生においては、経営者、株主、債権者、従業員、取引先等の各関係者がそれぞれの立場においてさまざまな「責任」を負う。実際に誰がどのような「責任」を負うのか、第二会社方式を用いた事業再生のメリット・デメリットについて事例を通じて考察する。

Ⅰ.事例概要

X社はある地方の特殊な部品を製造・販売するメーカーである。

地域における名門企業で、創業数十年を数える。過去、グループ企業を通じて事業領域を拡大していたが、バブル崩壊などの影響もあり、90年代に一度経営に行き詰っている。当時は銀行の支援のもと不採算子会社を切り離す過程で、創業家経営者から銀行が招聘した外部経営者Aに交代し、株主も創業家から取引先企業連合が主体となっている。

グループ会社を整理した後はX社1社となり、事業もA部門、B部門、C部門の3つに整理され、しばらくは業績堅調であった。しかしながら2000年代後半に入り原油価格の高騰やリーマンショックなど外部環境の変動を受けてB、C部門の損益が悪化し、債務弁済が滞ったところでメインバンクを通じて当社に相談があった。

 

Ⅱ.事業再生の流れ

1. 厳しい事業実態と緊急外科手術の必要性

当社ではまず実態把握のデューデリジェンスを実施した。その結果、全社損益は帳簿上の損益よりも悪く財務内容も大幅な実態債務超過であることも確認された。

また、外部環境は非常に厳しく、このままでは全ての部門が継続できなくなると判断し、部門の閉鎖・売却などの緊急外科手術的な措置が必要と診断した。

 

図表1: 事業特性/実態に合わせた処方箋
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2. 第二会社方式を用いた再生計画

各部門の処方箋に基づき、当社の支援のもと、X社は再生計画を策定し、取引銀行はじめ各関係者との交渉・バンクミーティングを経て債権者全ての同意を得ることが出来た。

当該再生計画は、中核のA部門を会社分割により切り出し、B部門については大手企業へ事業として売却、C部門については事業を停止したうえで工場は不動産として売却することで、それぞれが持つ潜在的な経済合理性を最大に引き出すことが骨子であった。

株主は出資金額がゼロ、債権者は多額の債権放棄、経営者は保証履行に伴う私財提供をそれぞれ行うことで、各自の責任を果たすこととなった。

 

図表2: 私的整理によるX社再生の枠組み
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Ⅲ.本件における再生計画成立のためのポイント

1. 誰がどの程度の責任を負うべきなのか?

本件を成立させるには、誰がどの程度の責任を負うべきなのか?という点がポイントであった。私的整理の枠組みで行う以上、債権者のみならず株主や経営者など各関係者が同意できるものでない限り成立しない。

合意が出来なければ法的整理へ移行し、仕入先などに迷惑がかかれば最悪の場合、事業の存続自体が不可能となってしまう。

当社では、法律論と経済合理性から基本的な枠組みを構築したうえで、これまでの経緯などの「筋」論も関係者とのミーティングを通じて入念に検討し、責任負担の在り方についての調整について助言を行った。

図表3: 利害調整の枠組み
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2. メインバンクの覚悟

本件では各関係者の多くが痛みを伴うものであったため、調整は難航した。最終的に合意に至ったポイントは、最も大きな損失を被るメインバンクが多額の債権放棄による損失負担への覚悟が出来ていたこと、計画実行後の支援体制などについて腹を括っていたことにあると考えられる。この背景として、メインバンクが地方銀行であり、X社が廃業すれば連鎖的に地域経済全体へのマイナス影響が出るため、「逃げない姿勢」を明確にしたことが大きい。

メインバンクが上記のような覚悟を持っていたため、株主や経営者Aも相応の負担を負うことについて最終的には同意している。
 

3. X社の再生計画実行後の状況

計画実行フェーズに入ったX社は、外部環境の好転にも助けられ計画を大幅に上回る好業績で推移している。稼ぎ出した収益を基に、工場の新設投資の検討も視野に入れており、わずかながら従業員数も増やしているようである。

事業の再生においては、法律論や経済合理性からだけでは着地点を見出すことは困難であり、当事者同士では利害関係の対立から必ずしも話し合いが成立しないことがある。各関係当事者の責任負担の在り方とともに、利害関係のない外部専門家の関与の重要性について、あらためて考えさせられる案件となった。

 

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
リストラクチャリングアドバイザリー 
ヴァイスプレジデント 柳澤 純一

(2017.3.22)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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