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ケースでわかる事業再生 第11回

法的整理におけるファイナンシャルアドバイザーの存在価値

一般に法的整理では弁護士が主導的な役割を果たすと考えられています。しかし、プレパッケージ型の民事再生においては、当社のようなファイナンシャルアドバイザーが数多くの局面において主導的な役割を果たします。そこで第11回は、このプレパッケージ型民事再生のケースを用いて、法的整理手続における財務関連のアドバイザーであるファイナンシャルアドバイザーの役割と起用した場合のメリットについて解説します。

事例:プレパッケージ型の民事再生

Ⅰ.法的整理の類型

法的整理には、会社の事業が継続しない清算型と、継続する再建型という2種類があり、それぞれ清算型としては破産と特別清算、再建型としては民事再生と会社更生という手続が用意されている。また、再建型には会社自身で再建を目指していく場合と、スポンサーの支援を得て再建を目指していく場合とがあるが、後者について、法的整理手続を申し立てるまでにスポンサー候補が決定している場合のことを、特に「プレパッケージ型」と呼んでいる。

本コラムでは、このプレパッケージ型の民事再生のケースを取り扱う。一般的に法的整理に至った会社に対しては信用不安が起こりやすいが、プレパッケージ型では、法的整理に至ったことと同時にスポンサー候補による支援表明をリリースすることで、信用不安を防ぐことができるなどのメリットがある。

 

Ⅱ.ケース概要:プレパッケージ型の民事再生

当社のクライアントであるA社は、ゴルフ場を経営していた。地方の有力者がバブル期に作った名門のゴルフ場である。ゴルフ場経営にはコースの造成・維持費用など多額の設備投資が必要となるため、プレイヤーから預託金という形で資金を募り、経営を行うのが一般である。預託金を差し入れたプレイヤーはゴルフ場からさまざまな優遇を受けられる一方、その権利を売却することで投下資本を回収することも可能であった。しかし、預託金の返還期限が到来した頃にはバブルが崩壊し、ゴルフ場の経営は傾き、プレイヤーに対して返還ができずに倒産に至るゴルフ場が続出した。A社も同様の状況であり、期限の到来する預託金に対して返還できるだけの体力が残っていなかった。

ゴルフ場は預託金を返還しなければならないプレイヤーを何百人と抱えているため、全員一致の私的整理で合意形成することは難しい。他方、そのプレイヤー基盤を活かしつつ経営を合理化することにより再建が可能な場合もあるため、法的整理の中でも民事再生、もしくは会社更生の手続が選択されることが多い。A社も民事再生の手続を選択することとなったが、A社は1年未満の間に資金ショートする危険性があった。そのため、至急スポンサーを招致することで、支援表明による事業価値の毀損防止だけでなく、資金的な支援も仰ぐ必要があった。こうしたことから、A社は、民事再生の申立前にスポンサー候補を決定し、民事再生手続の開始決定後ほどなく一時的な資金支援を取り付けることが可能な、プレパッケージ型民事再生での再建を目指すこととなった。

Ⅲ.ファイナンシャルアドバイザーの存在価値

一般に法的整理は弁護士が主導的な役割を果たすと考えられている。しかし、プレパッケージ型の民事再生においては、ファイナンシャルアドバイザーが主導的な役割を果たす局面が多い。

今回はその局面のうち、(1)スポンサー候補の募集・選定、(2)ストラクチャーの選択、(3)財務シミュレーションという3つの局面におけるファイナンシャルアドバイザーの役割を、A社のケースをもとに解説をする。

図表: プレパケージ型の民事再生におけるファイナンシャルアドバイザー(FA)・弁護士の役割
※クリックして画像を拡大表示できます。
1.スポンサー候補の募集・選定

一般的に債権者、特に預託金債権者は、「スポンサー企業はゴルフ場を高く買ってくれるのか」、「今後どのようなゴルフ場にしてくれるのか」など、スポンサー候補企業に対して非常に高い関心を持っている。プレパッケージ型ではない民事再生の場合、手続開始決定後にスポンサー候補の選定が行われるため、裁判所はその選定過程に関与することができる。その選定過程の公正性を監督するのが裁判所の役割の一つである。しかし、プレパッケージ型の民事再生では手続開始決定前にスポンサー候補が決定されるため、その過程に裁判所が関与することはできない。こうしたことから、手続開始決定後、会社は裁判所に対して、スポンサー候補選定過程の公正性を説明し、同意を得なければならない。

この公正性を説明するにあたり、ファイナンシャルアドバイザーを利用する価値は大きい。理由として、ファイナンシャルアドバイザーが国内外の多様な業界の企業とネットワークを有している点が挙げられる。ネットワークを活用して、スポンサー候補企業を広く募ることができるため、候補の母集団の偏りを裁判所に指摘されるおそれが低減する。また、選定手続や基準も集積された専門的知見に基づいているため、候補の決定が恣意的だったと裁判所に判断されるおそれも低い。

A社のケースにおいても、地元の有力者だけでなく、わたしたちデロイト トーマツ グループの有する日本の全国ネットワークに基づき、広くスポンサー候補を募った。また、A社の経営状態に関する詳細調査(デューデリジェンス)に基づき、適切な資料開示をスポンサー候補に対して行った。候補の選定基準も入札価格だけでなくゴルフ場再生に適したスポンサーであるかを総合的に考慮し(今後の経営方針、財務の健全性、プレー権の扱い、労働者の扱い、ストラクチャー等)、真にA社のゴルフ場を再建できるスポンサーを公正に選定した。結果、A社のスポンサー候補に対しては、民事再生開始決定後、速やかに裁判所により公正性に関する同意がなされ、その事業継続に混乱や問題が生じることは一切なかった。


2.ストラクチャーの選定

会社からスポンサーへの経営権の移譲については、さまざまな仕組み・方法があり、これをストラクチャーと呼ぶ。会社法上は、大きくは「株式の取得」と「事業の承継」の2種類に分かれるが、これらを組み合わせることも可能である。その組み合わせは、経営権を移譲する側とされる側の交渉により決定されるが、法的な視点はもちろん、税務および会計の視点からの検討が必要とされる。特にプレパッケージ型民事再生の場合には、スポンサーとの交渉に時間的余裕がなく、判断力の早さも要求される。こうしたことから、ストラクチャーの選定にあたって、専門的な知見と経験を豊富に有するファイナンシャルアドバイザーを利用する価値は大きい。

A社のケースでは、「事業の承継」をベースとしたストラクチャーが検討された。すなわち、債務超過である企業の「株式の取得」によるストラクチャーとしては、一般的に減資および増資による場合、備忘価格での株式譲渡による場合が考えられるが、A社はゴルフ事業だけでなく他の事業も営んでおり、スポンサーはその他の事業の承継を望んでいなかったため、ゴルフ事業のみ承継するストラクチャーが検討された。具体的には、事業譲渡と会社分割が検討に上がったが、当社はA社のアドバイザーとして、スポンサーの意図をくみ取りつつ、A社に有利になるよう交渉をサポートし、会社分割が選択された。結果、当初想定していたスケジュールどおりのタイミングでスポンサー候補との交渉を着地させることができた。


3.財務シミュレーション

民事再生法には、弁済を受ける債権者の優劣が定められている。プレパッケージ型の民事再生では、主な弁済原資はスポンサー資金であるが、その分配は債権者の優劣にしたがってなされる。しかし、実際に再建を成功させるためには、優劣の範囲内において関係者の利害調整をしなくてはならず、それが代理人弁護士およびファイナンシャルアドバイザーの腕の見せ所となる。特にゴルフ場の債権の場合には、預託金債権者、取引先、労働者、銀行、地方自治体など多数の関係者が存在しており、交渉の準備過程において、それぞれへの分配額を変えることによって他の債権者への分配額がどのように変化するか、シミュレーションをしなければならない(なお、分配は将来行われるため、分配の時期を前後させることで分配額がどのように変化するかシミュレーションする場合もある)。また、民事再生手続を利用するためには、清算型の手続を利用した場合よりも多く債権者への分配ができることを裁判所および監督委員に説明しなくてはならず、その説明のためにもシミュレーションが必要となる。これは翻って、そうした分配をできるだけの入札価格を提示できるスポンサーを募集・選定する必要があることを意味する。すなわち、財務シミュレーションは、多数の債権者の調整だけでなく、スポンサーの選定においても必要なのである。

A社のケースにおいても、分配額のシミュレーションは、まず手続開始前の申立準備段階において、スポンサー候補の選定に活用する目的で行われた。この時点では、スポンサー資金の額を変化させることで、預託金債権者に対する分配額がどう変化するかをシミュレーションした。A社のケースでは預託金債権者は法的には最も劣後する一般債権者であったため、そうした債権者に対する分配の額すらマイナスになるような買取価格を提示したスポンサーは、候補から除外せざるを得なかった。

次に、手続開始決定後の現況調査段階において、A社の代理人である弁護士と債権者との交渉に活用する目的で、分配額に関する財務シミュレーションが行われた。具体的には、担保権を有する金融機関に対して、その担保権の抹消を交渉するため、担保権の評価額および各金融機関への割付額について再度シミュレーションを行った。A社とスポンサー候補との間の経営権移譲に関する契約には、一般的な取り扱いに従い、スポンサー候補が必要とする事業用資産に担保が付いている場合には、それを抹消することが条件となっていたからである。この時点では、各金融機関に対する弁済額を変化させることで、預託金債権者に対する分配がどのように変化するかをシミュレーションした。これは一度ではなく、代理人弁護士と各金融機関との交渉が行われるたびに複数回微調整が行われた。結果、A社と各金融機関との間で担保権の抹消に関する合意がなされた。

最後に、民事再生計画案を策定する段階において、代理人弁護士の裁判所および監督委員に対する、分配額に関する説明に活用する目的で、財務シミュレーションが行われた。シミュレーションはあくまで試算にすぎず、例えば未払いのプレー代の回収や有休資産の売却による弁済原資の増加、逆に予想外の費用の発生などによる弁済原資の減少など、予定していた分配額と実際に分配できる額にはブレが生じる。この時点では、そうしたブレを織り込んだシミュレーションを実施した。その結果をもとに、代理人弁護士と協議を行い、再生計画案に記載する分配額が決定された。代理人弁護士は、裁判所および監督委員に対して分配額に関する説明を行い、その後の手続きは円滑に進捗した。 

 

以上から分かるとおり、プレパッケージ型民事再生の成功のためには、スポンサー候補の募集・選定、ストラクチャー選定、財務シミュレーションそれぞれの有機的な連携が不可欠であり、そこではファイナンシャルアドバイザーが主導的な役割を果たす。今後も弁護士と協同しながら、窮境の企業の力添えをしてきたい。
 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
リストラクチャリングアドバイザリー
シニアアナリスト 市村義之輔

(2017.5.18)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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