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ケースでわかる事業再生 第12回

成功するための事業再生計画策定ポイント

事業再生の実務において、蓋然性(=実現可能性)の高い再生計画を策定する必要性が語られて久しいものの、これを実現するための具体的な手段が確立されていないと実務関係者の間では捉えられがちです。第12回では、実際に中堅装置メーカーの事業再生計画の策定と実行支援を事例として用いながら、蓋然性の高い再生計画を立てる際のポイントについて考えていきます。

事例:中堅装置メーカー(A社)の事業再生計画の策定

A社は、顧客の投資動向に左右される受注ビジネスで、案件ベースで採算管理を行っていた。しかし、主要顧客が投資を抑制した結果、A社の新規受注高は減少。既存案件も顧客要因による期ずれが散見され、売上高も減少した。A社は独自にコスト削減に取り組んでいたが、売上総利益率は低下し、営業損失へと転落していた。

A社の再生計画は、「成り行き計画」に「改善施策」を加味した内容であった。費目別に改善施策を織り込んでおり、抜け漏れはないように見受けられた。しかし、当社が計画策定後の実行段階から関与して施策内容を精査したところ、A社が策定した「調達改善」、「過剰品質抑制」、「工程管理の徹底」などのP/L改善施策に再検討が必要で、計画の蓋然性に疑問符がつきかねない状況であることが判明した。

 

施策の合理性検証

「調達改善」施策は、再生企業にとって本質的に期待効果が薄い。実際、A社の仕入先は、A社が再生状態にあることをどこからか聞きつけ、支払条件の見直しを迫っていた。単価削減交渉を実施し、効果を発現させることは難しい状況であり、「調達改善」施策には合理性が薄いとの結論に至った。

 

施策の実行性と現場での浸透性

「過剰品質抑制」施策は、顧客への説明責任が発生することもあるが、自社努力で完結できることも多く、A社のように受注型で案件ごとに採算管理を行うメーカーにとっては注力すべき合理的な施策である。そこで、過剰品質を抑制するための具体的手立てをA社の部長、課長、現場担当者へ個別にヒアリングした。すると、答えの多くが抽象的な内容であり、なかには「過剰品質」という言葉にピンと来ない担当者もいた。過剰品質を抑制するために、課長、担当者はそれぞれ何をすべきなのか。誰も明確に答えられなかった。施策の実行性と現場での浸透性が不十分であった証左と言える。しかし、施策自体は合理的なため、施策を現場行動へ噛み砕き、実行へ移すこととした。

まず、A社の設計、製造、調達、営業の課長以上を一同に集め、製品仕様のなかでA社に裁量が委ねられている領域を個別案件ごとに抽出。次いで、設計部門と調達部門を中心に手順、考え方を纏めた「部品点数削減・部材変更の切り口マニュアル」を策定した。これを踏まえ、調達部門は直接材・間接材問わず、安価な代替部材を週次レベルで設計部門に紹介。設計担当者は調達部門からのインプットや類似案件等を参考にして部材変更や部品点数削減を行い、設計課長は部品表を全件レビューした。個別案件ベースではあるが、売上総利益率が当初予算比で10%以上改善した案件も出てきた。

同様の問題が「工程管理の徹底」にも見られた。ここでは、A社製造部門の役割分担の軸に合う形で当該施策を噛み砕き、必要作業ごとに標準時間を設定してPDCAサイクルを回し、進捗管理を行った。結果、現場のアイドルタイムを顕在化、直接労務費を削減できたことに加え、生産性も向上し、新規案件の受注に繋がった。

A社に関与して最初の3週間で上記取り組みを関係部門へ展開、以降は定着化に向けた支援に切り替えた。A社はその後も取り組みを継続してV字回復を実現、安定的な利益を創出している。

事業計画策定プロセスの重要性

再生企業にとって時間は何よりも重要である。資金繰りを改善し、業績を浮上させていくためにも、一日をどのように過ごすかが極めて重要となる。しかしA社の場合、改善施策の再検討に3週間を要した。この3週間もA社にとっては重要な時間にほかならず、避けることができたのであれば、避けるべき時間であった。そのためにはどうすべきだったのか。

答えは、事業再生計画策定プロセスにある。計画を策定しながら改善施策を立案・実行すると、改善施策の実現確度を確認し、成果を発現しながら計画に織り込むことができた。例えば、「過剰品質抑制」施策を立案する際、設計部門や調達部門の現場担当者とも密接なコミュニケーションを行い、現場で実際に実行してみることである。他社の事例になるが、財務・事業・現場改善の専門家によるプロジェクトチームでこのように対応して成功した事例が複数ある。A社の事例を振り返るたび、蓋然性の高い再生計画を策定するには、計画策定プロセスが肝であることを再認識する。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
リストラクチャリングアドバイザリー
ヴァイスプレジデント 相原啓人

(2017.7.20)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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