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コンシューマー業界における事業再編

~事例に学ぶその手法~

現状からの変革を図るために事業再編やM&Aを行う際は、外部の経営資源をいかに活用するかを思考することが重要です。コンシューマービジネスでの事業再編事例を解説します。

はじめに

昨今、M&Aを経営課題に掲げる企業が多く見られます。現状からの変革(Transformation)を図るために事業再編を検討する時、M&Aは有力なツールですが、買収だけでは戦略の視野を狭めてしまいます。買収に限らず、「外部の経営資源を活用する」という広い視点から思考することが重要です。それを念頭に、事業再編の手法について、主にコンシューマービジネスでの事例を参照しながら解説します。

なお、本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りします。

1. 変革局面ではM&Aだけでなく、事業再編をして外部の経営資源を活用する

市場が拡大を続けている時には自力で成長する余地があるが、市場が成熟し、業界内にプレーヤーが多い過当競争状態などになると、成長余地に限度が出てくる。このような、企業が変革を求められる局面で、非連続な成長の手段として、よくM&A(買収)が経営課題に挙げられる。しかし、そうした手段はM&Aに限らない。
事業を構成するのは、設備や人的資源、知的財産やノウハウ、顧客基盤など、有機的一体として機能する有形・無形の経営資源である。変革が求められる局面では、これら経営資源を広く外部にも求め、自社の経営に活用することが重要な選択肢となる。

他社の経営資源を自らの利益に活用するためには、出資等により対象事業に「資本のフック」を掛けることが必要であり、その結果、事業リスクを負い、一方で、果実を享受することになる。以下、その手法としてM&Aのほか、資本提携、経営統合および事業統合について、その特徴や活用事例についてみていく。なお、M&Aという用語は、広義に、資本提携なども含む組織・事業再編一般を指す場合もあるが、本稿では狭義に「買収」を指すものとする

2. 他社の経営資源を取り入れる手法

(1) 資本提携

市場が拡大を続けている時には自力で成長する余地があるが、市場が成熟し、業界内にプレーヤーが多い過当競争状態などになると、成長余地に限度が出てくる。このような、企業が変革を求められる局面で、非連続な成長の手段として、よくM&A(買収)が経営課題に挙げられる。しかし、そうした手段はM&Aに限らない。他社が持つ経営資源を活用する方策としては、まず、契約による他社との提携が挙げられる。他社のブランドや技術、販路などを活用することによって、業務の拡大や効率化、コスト削減などを図ることができる。

他社との提携には、業務提携と資本提携がある。業務提携は、技術提携や販売提携のように、特定の分野における協業関係を構築することである。さらに、協業しようとするパートナー企業が、相互にあるいは一方に対して出資を行う(資本のフックを掛ける)ことによって、より深い協業関係を構築しようとするのが資本提携である。資本提携は単なる出資で終わることは少なく、業務提携とセットで行われるのが通例である。

コンシューマービジネスにおいても、総合商社が小売企業の株式を保有するなど、資本提携は一般的に広く使われている。

(2) M&A(買収)

資本・業務提携は、あくまで他社の経営資源を「利用」できるに留まる。経営基盤を抜本的に変革しようとすると、新しい経営資源を内部に取り込むことが必要になってくる。他社の経営資源を自社の支配下に取り込んで「占有」し、より積極的な利益貢献を期待するのがM&Aである。

なお、紙幅の都合で詳述できないが、買収の反対側の「売却」という手段も、事業再編における重要なツールである。求心力と遠心力の双方の視点を持つことが肝心である。

M&Aの事例としては、ファミリーマートによるam/pmの買収(2009年。その後2010年に合併)、イオンによるダイエーに対する株式公開買い付け(2013年8月。連結子会社化し、その後2015年1月に株式交換により完全子会社化)、ローソンによる成城石井の買収(2014年10月)などがある。ファミリーマートはこの買収で、am/pmの店舗網、特に首都圏のドミナントという資源を手に入れた。

(3) 共通点と相違点

他社に資本のフックを掛けてその経営資源を自社の利益に活用するという点は、M&A(買収)も資本提携も同じである。相違点は、出資の程度である。出資比率を上げるに従ってグリップの程度は強くなり、出資比率が過半数を超えると一方の企業が他方の経営権を取得することになるため、提携というよりM&Aになる。

 

また基本的に、出資比率に応じて対価たる資金が必要であり、マイノリティ出資にとどまる資本提携に比べ、経営権を獲得するM&Aの方が取得コストは高くなる。さらに、契約締結のハードルも高い。M&Aで自社のコントロール下に置ければ望ましいが、費用対効果との比較でどの程度、資本のグリップを効かすか検討が必要である。例えば、特定のマーケットに参入するために、そこに販路を持つ企業に資本のフックを掛けてその販路を活用したいというようなケースで、対象企業を買収しなくとも資本提携でその効果が得られることもある。ほしい効果が支配権を取らないと活用できないものなのか、よく考えてみる必要がある。
事業を構成するのは、設備や人的資源、知的財産やノウハウ、顧客基盤など、有機的一体として機能する有形・無形の経営資源である。変革が求められる局面では、これら経営資源を広く外部にも求め、自社の経営に活用することが重要な選択肢となる。

他社の経営資源を自らの利益に活用するためには、出資等により対象事業に「資本のフック」を掛けることが必要であり、その結果、事業リスクを負い、一方で、果実を享受することになる。以下、その手法としてM&Aのほか、資本提携、経営統合および事業統合について、その特徴や活用事例についてみていく。なお、M&Aという用語は、広義に、資本提携なども含む組織・事業再編一般を指す場合もあるが、本稿では狭義に「買収」を指すものとする

3. 他社と経営資源を統合する手法

(1) 事業統合

M&Aのように、外部から経営資源を一方的に取り込むのではなく、複数の企業が互いに経営資源を拠出して統合するという手法もある。各社が持ち寄ることで新しい経営資源が加わり、シナジーが期待できる。このうち、当事者同士が一部の事業を統合して「共有」するのが事業統合である。

この特徴は、資本のフックの部分にある。資本提携では、会社全体に資本のフックを掛けるが、それだと協業の範囲に比べて大きく、投資対効果も見えにくいことがある。これに対し、事業統合では、対象事業に直接、資本のフックが掛かる。これにより対象事業の成果に対する権利が明確になる。ただ、事業統合は、自社に加え、合弁のパートナー企業も対象事業の持分を保有することになり、ひとつの会社に対して複数の当事者の利害が存在するため、経営に潜在的な不安定さがあるという課題がある。

事業統合は、例えば、三菱重工業と日立製作所の火力発電事業の統合(2014年2月)のように、製造業ではよく活用される形態である。しかし、コンシューマービジネスにおける再編では、あまり目立った事例がない。

(2) 経営統合

複数の企業同士が互いの経営資源をすべて統合して「一体化」するのが経営統合である。複数の企業がすべての経営資源を一体化することにより、経営基盤の厚みが増す。そして、特にポイントとなるのは、文字通り経営(マネジメント)が統合する所であり、マネジメントが一体化する結果、資本によって他方に強制力を持つという概念(資本のフック)自体がなくなる。
百貨店業界の再編は、2000年代に急速に進んだが、この時の手法はいずれも経営統合であった。2003年に、そごうと西武百貨店が統合してミレニアムリテイリングとなり、2007年には、大丸と松坂屋が統合してJ.フロント リテイリング、阪急百貨店と阪神百貨店が統合してエイチ・ツー・オー リテイリングが設立された。そして、2008年に、三越と伊勢丹の統合により三越伊勢丹ホールディングスが設立された。

(3) 共通点と相違点

事業統合も経営統合も、複数の企業が経営資源を統合すると言う点は共通である。また、統合に当たって自社からも事業を拠出し、それが新会社の対価を構成するため、M&Aと比べて、基本的に資金負担は少ない点も特徴である。
相違点は、統合する範囲が全社丸ごとなのか、一部の事業なのかである。この統合範囲に起因して、経営統合は、すべて一体化するがゆえに調整の余地がなく、戦略などに不一致があると合意形成が難しくなるという課題がある。髙島屋とエイチ・ツー・オーリテイリング、キリンホールディングスとサントリーホールディングスは、経営統合の検討を進めたが合意に至らず破談となっている。

一方、事業統合は、共有する経営資源の範囲は調整によって決められるため、すべて統合する経営統合に比べて落とし所も見つけやすい。経営統合の緩衝材のような使い方も考えられる。例えば、2012年の新日本製鐵と住友金属工業の合併も、その10年ほど前から、溶接材料事業の統合(2002年・日鐵住金溶接工業)、ステンレス事業の統合(2003年・新日鐵住金ステンレス)をはじめ、個別の事業統合を進めていた事実がある。いきなり経営統合で一体となるのではなく、段階的に事業統合することで統合のインパクトを緩和する使い方である。

また、両者の違いで重要なのは「経営が一体化するか否か」である。経営統合ではマネジメントが一体化するのに対し、事業統合ではマネジメントは一体化しない(事業レベルでは一体化する)。

[図表]事業統合と経営統合(経営の一体化)参照

経営が一体化しないことの影響としては、事業統合では、前述の通り、合弁のパートナー企業も対象事業の持分を保有する結果、対象事業に対して利益相反が残存するということがある。

経営統合では、マネジメントが他社と一体化することにより、従前からの経営の自主独立性は保てなくなる。このことも、マネジメントの意思決定に影響を及ぼすものと考えられる。とはいえ、あくまでそれは意思決定の一要素である。経営統合をはじめ、変革局面でのマネジメントの決断は、直面した困難に対する危機感が背中を押す。新日鐵住金の経営統合も、鉄鋼業界のグローバルにおける競争環境の激化が、統合の決断を促した。また、百貨店業界において経営統合が進んだのも、その背景には長引く消費不況があった。M&Aが起こるトリガーのひとつに業績不振に陥った企業の救済があるが、各社の業績が悪化する中で、これに近い力学が働いたと言われる。

事業統合と経営統合(経営の一体化)

4. コンシューマービジネスにおける事業再編手法

ここまでは、事業再編の手法の基本的な特徴についてみてきた。ここからは、コンシューマービジネスにおける活用という視点に切り替え、事例を踏まえてみていく。

(1) 拡大型の手法

コンシューマービジネスでは、購買力を高め、販路を拡大する観点から、いわゆる水平統合を中心に規模拡大が事業再編の目的であることが多い。その点、規模拡大に親和性があるM&Aないし経営統合という「拡大型」の手法が主流と思われる。

以下は、拡大型の事例である。なお、これらの経営統合はいずれも、実質的にグループ内事業再編として行われた点には留意すべきである。

  • 2011年、三菱商事の食品中間流通事業子会社の菱食、明治屋商事、サンエス、フードサービスネットワークの4社が経営統合し、食品卸業界では第1位となる三菱食品が誕生した。
  • マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東の3社は、2015年3月に共同持株会社(ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス)を設立し、経営統合すると発表した。これにより、食品スーパー業界でライフコーポレーションを抜いて業界1位に浮上する。
  • イオンは、グループのドラッグストア4社を2015年9月に経営統合すると発表した。イオンがウエルシアホールディングスに対して224億円を上限にTOB(株式公開買い付け)を実施し、ウエルシアの株式保有比率を過半数に引き上げた後、その傘下にCFSコーポレーション、タキヤ、シミズ薬品の3社を子会社化する。これにより規模が拡大し、売上規模でマツモトキヨシホールディングスを抜いて、一気に業界首位に浮上する。
(2) 協業型の手法

従来、コンシューマービジネスでは、資本提携や事業統合という、必要な部分で連携を図る「協業型」の手法は比較的地味な存在であった。しかし今後、協業型が適合する場面も増えることも予想される。その辺を、最近の事例を踏まえてみてみたい。

【事例1】伊藤忠商事とチャロン・ポカパン(CP)グループの資本・業務提携
伊藤忠商事とタイ最大級の財閥チャロン・ポカパン(CP)グループの資本・業務提携では、CPグループが伊藤忠の第三者割当増資1,024億円を引き受け、実質的な筆頭株主となる一方、伊藤忠もCPのグループ企業に25%出資して持分法適用会社とした(2014年9月)。この提携により、伊藤忠は、アジアに幅広いネットワークを持つCPとの連携でアジアへの食品原料などの供給拡大が狙え、CPグループは、伊藤忠の営業・情報網を活用して欧米の販路を拡大できる。さらに両社は、中国最大の国有複合企業である中国中信集団(CITIC)の傘下企業へ出資することを表明した(2015年1月)。これによりCITICの持つ中国でのブランド力やネットワーク、強みとする金融分野をはじめとした傘下事業との連携が期待できる。


この例は、海外展開において現地企業の販路など具体的な経営資源へのアクセスする手段として資本提携を活用している。グローバル化の進展に伴い、海外への販路構築にはスピード感も必要となる中、手間の掛るM&Aに比べて実行のコストおよびハードルが低い資本提携は、機動性の面から重要な手段になると思われる。

【事例2】国分と丸紅の業務提携
食品卸大手の国分と総合商社の丸紅は、2014年12月、卸事業に関わる業務提携等に向けた検討を行うことにつき合意し、2015年6月実施に向けて具体的に協議を開始することを発表した。プレスリリースによると、その要点は以下のとおりである。

  • 丸紅は、国分が設立する首都圏エリア子会社への資本参画を検討する。
  • 国分は、丸紅の菓子卸事業子会社の山星屋と低温卸事業子会社のナックスナカムラへの資本参画を検討する。
  • ナックスナカムラと国分の低温卸事業子会社である国分フードクリエイト東京との業務提携等を検討する。
  • 両社は、伸張しているデリカ市場への対応を図るべく、惣菜事業に関する業務提携等を検討する。
  • さらに、両社の保有する経営資源を活用し、共同商品開発の検討を行うと共に、物流の効率化・機能強化に向けて相互に協力する。


これをみると、国分と丸紅のそれぞれの子会社に資本参画すなわち、資本提携に準ずる資本のフックを掛け、菓子卸事業や低温卸事業といった経営資源の相互活用が想定されている。また、低温卸事業では子会社同士の業務提携等を検討するとしており事業統合の可能性もある。さらに、それ以外での協力関係も検討が予定されている。

このように、拡大型での再編がマッチしない場面では、補完的に事業統合や資本提携を活用する方法があるが、これはそうした折衷的な協業型の活用例である。

5. 最後に

他社の経営資源を自社の利益に活用する手法について、コンシューマービジネスでの再編事例を参照しながらみてきた。今後は、従来の拡大型の手法中心の業界再編に加え、東レとユニクロが「ヒートテック」という新素材を共同開発し、ヒット商品を作り出したように、従来なかったプレーヤーとの組合せで価値を創出する協業も考えられ、協業型の事業再編も増えてくると思われる。そうした場面において、本稿が事業再編手法の選択に参考となれば幸いである。

*この記事は、2015年1月末現在の情報に基づき作成しました。

著者:
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー株式会社
パートナー 井出正樹

2015.02.12

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。
 

 

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