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「事例」で見る 事業構造改革実現のためのポイント -シリーズ第2回-

“問題はわかっているが解決法がわからない”

企業活動において、事業構造の改革まで行わなければならない「有事」の局面があります。こういった有事の際のさまざまな阻害要因の排除と、その改革実行で発生する障害、また、改革推進のための留意点を、事例を基にシリーズで解説していきます。第2回目は「問題はわかっているが解決法がわからない」ケースについて解説します。

1. はじめに

会社が事業構造の改革を行わなければならないような「有事」局面を打開する際に、超えなければならない以下の3つの壁があります。

1:解決方法はわかっているが、実行部隊が動かない
2:問題がわかっていてもどうやって解決すればよいかわからない
3:まず、何が問題かわからない。

シリーズ第1回で「解決方法はわかっているが、実行部隊が動かない」ケースについてご紹介しましたが、今回は2つ目の「問題がわかっていてもどうやって解決すればよいかわからない」ケースについて、「海外の赤字子会社の再生」事例に即して説明していきます。海外子会社の再生においては、往々にして経営判断のための情報が足りず、正確性にも欠ける中、日本と異なる法制度・慣習を理解・対応する必要があります。また、親会社と子会社の利害が自ずと相反する部分があるため意思決定が難しく、思い切った判断が遅れ、赤字が拡大するケースが散見されます。以下実際の事例でこれらの課題と対応の方向性について議論します。

2. まずは客観評価を開始

日系メーカーA社では、海外子会社B社が近年多額の赤字を出しており、その再生方針の策定が急務でした。しかしB社現地経営陣による事業計画の正確性に常々問題があり、思い切った意思決定の土台になり得なかったうえ、実際の打ち手を考えるうえで日本との慣習・法制度の違いが曖昧に理解されており、「問題がわかっていてもどうやって解決すればよいかわからない」状態でした。この結果として方針決定が延び延びとなり、親会社の経営陣と担当役員の人事異動などが間に入ってしまうことで、益々意思決定が難しくなっているという悪循環でした。当然ながら、事業を継続することが最大の関心事であるB社現地経営陣や従業員からの情報提供や働きかけが、問題の先延ばしに拍車をかけていました。このように、B社の現状についての正確な把握と関係者間での共通認識醸成が欠けていたため、長期に渡り前に進めない状態が継続していました。

そのような状況下、親会社はデロイト トーマツ グループによる客観的な状況評価と検討すべき対応策の検討を依頼しました。デロイト トーマツではこの種の業務をIBR(Independent Business Review)と呼んでいます。これは文字通り第三者的・客観的に事業を評価し、この評価に基づき経営オプションを複数抽出し、その比較評価を行いました。

事例 

【図表】デロイト トーマツ グループの客観的事業性評価サービス(IBR)

出典:デロイト トーマツ アンカー マネジメント株式会社作成

3. 単独再生は厳しいことが判明

B社経営陣の策定した事業計画は1年を立たずして大幅下方修正が必要なほど楽観的ものでした。B社現地経営陣は本社による事業終息の決断を避けるため楽観的な絵を描き、A社から派遣された経営陣も現地経営陣の意見を覆すほどのコミュニケーション力・情報収集能力・分析力を持たず、結果、根拠もコミットメントもない事業計画となっていました。デロイト トーマツ グループの専門チームは事業計画を主要なパラメーターに分解し、事業計画の前提を確認・修正を行いました。ただし、全ての売上・コスト項目を詳細に分析していると時間・労力負担が過大ですので、スタート時点の全体分析を通じ、項目による掘り込み度合いのメリハリをつけています。今回は一部通貨の為替レート、幾つかの原材料価格の相場、主力製品の価格見通し、組合や法制を踏まえた人件費単価の見通しが重点項目として合意され、これらについて特に過去実績、足元実績と見込みのボトムアップ試算、市場・競合データなどによる裏づけを行い、従業員・顧客・サプライヤーヒアリングで再裏づけをかけて、計画の再検証を行いました。経営陣が計画に織り込んでいた新規事業やコスト削減については、最新の進捗状況を施策一つひとつ確認し、現実的な数字に引き直しを行いました。

当初B社作成の事業計画は3年後の黒字化を見込んでいましたが、デロイト トーマツによる試算では更に赤字が拡大することが判明した上、感応度分析によるシナリオ検討においても極めて悲観的な結果しか見通せない状況となりました。これら検討の結果、A社はB社単独での再生から売却・撤退を中心としたオプション検討を開始することで意思決定を行いました。また、デロイト トーマツの評価はB社現地経営陣とも議論を重ねた結果だったため、厳しい評価ながら結果への合意を得ることが出来ました。

4. 解決に向けたステップへ

事業の売却・撤退の意思決定を行うには、事業の回復見込みがないことを示すだけでは不十分です。当然ながら売却・撤退自体に現実性があり、それに関わる各種問題を解決する方法が見出されている必要があるからです。

売却に関しては企業のどの事業・資産が売却可能性をもち、どの程度の売却金額が見込めるのかを検証する必要があります。撤退に関しては当該国でどのような法的・私的スキームが活用可能なのか、実現までの費用負担と期間はどの程度なのか、またその際にボトルネックになるような法規制・慣習・契約などはないのかを洗い出す必要があります。

具体的には売却に関し、我々はB社の各事業を収益性だけでなく、立地・製造ライン・R&D・顧客の共通性などを検証し、分割可能性と各事業の競争力評価を行いました。抽出されたB社からの切り離しが可能な事業について、国内外の買収事例を調査し、潜在的な買い手候補と売却金額を試算しました。また、独禁法抵触リスクが適切に評価されていなかったことが過去の売却検討のボトルネックになっていましたが、想定される売却相手での抵触リスクは高くないことが現地法律専門家との協議で明らかになり、大きな前進となりました。撤退に関しては、当該国での撤退・清算支援の経験豊富なデロイトの現地メンバーや法律専門家と協働し、利用可能なスキームの洗い出し、労働法・倒産法などの法的制約および労働契約・顧客やサプライヤーとの契約・これまでのリストラ状況などを確認し、A社B社それぞれの損失額およびキャッシュアウト・清算完了までの期間の概算を行いオプションの抽出を行いました。

特筆すべきは当該国が債権者寄りの破産法制度を有していたため、破産申立て前の事業売却や親会社や銀行への弁済が破産管財人により取り消される可能性がある点を指摘し、売却シナリオおよびB社資金の取扱に入念な準備手続きを設計出来たことがあります。また、破産懸念のある場合に取締役が破産申立てをしなかった場合に取締役が法的責任を問われる可能性があり、申立てが必要な状況・時期の把握と対応策を事前に設計しておいたため、不測の事態を避けることが可能になりました。一方、現地経営陣が事業存続のために検討していた再編計画のリスクを特定し、事前に問題を防ぐことが出来ました。 

5. 最後に

問題であることがわかっていても、正確な状況把握の難しさ、ステークホルダーの問題、オプション出しについての経験不足などにより、解決策になかなか到達出来ない場面があります。これらは内部の関係者にとっては極めて難しい問題ですが、客観的な外部者にとっては極めてシンプルな問題であることが少なくありません。

企業は生き物であり、取り巻く環境は個々の企業によって千差万別ですが、「実行」することがなければ「変化に対応」することもできません。また、「実行」に先立って現実性のある綿密なプランニングが必要となります。


私たちデロイト トーマツ グループは「実行支援サービス」の提供を通じて、クライアントの「再生」「変革」の際に、一番にご相談いただける存在であるとともに、“Deloitte makes an impact that matters”を胸に、社会に対してインパクトを与える企業でありたいと考えています。


本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

デロイト トーマツ アンカー マネジメントについて

デロイト トーマツ アンカー マネジメントでは、「有事」の局面における事業構造改革の「実行」を支援する事業構造改革サービスを行っています。さまざまな企業の有事に対応してきた実務家チームが、“処方箋”を書くだけでなく、派遣・常駐して課題解決の実行/サポートを行うこのサービスは、開始当初より多数のご相談をいただいています。
 

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