なぜその“サステナビリティ”は企業価値につながらないのか ~サステナブル・ブランディングの重要性~ ブックマークが追加されました
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なぜその“サステナビリティ”は企業価値につながらないのか ~サステナブル・ブランディングの重要性~
ESG/気候変動シリーズ(ファイナンシャルアドバイザリー) 第4回
ESG/SDGsが企業経営の重要なアジェンダとして注目され、様々な取り組みが進められている一方で、それらが自社の中長期的なパフォーマンスや企業価値の向上にどうつながっているかに関して、実感を持てないケースが少なくありません。このような状況下でこそ、自社らしいESGアクションを選定して実行し、ステークホルダーに対して適切なメッセージを発信していくという戦略的なサステナブル・ブランディングの必要性が高まっていると考えられます。本稿では、ESG/気候変動ウェビナー第6回「ESG/SDGsへの取り組みを企業価値へとつなげるには~サステナブル・ブランディングと社会的インパクト可視化の両輪~」の内容をもとに、サステナブル・ブランディングの重要性が高まっている背景や、その手法、成功の秘訣について解説します。
情報過多の時代にステークホルダーの記憶に残すには
昨今の情報社会では日々、大量の情報が生み出され続けている。そのような中で、一企業による発信内容は、情報の受け手にとっては大量の情報のごく一部である。受け手に知ってもらい記憶にとどめてもらうこと自体が、非常に難しくなってきている。このような背景から、ESG/サステナビリティの領域でも、企業はブランディングの観点を取り入れて発信していく必要がある。ここで重要な活動とは、まず「何をするのか」、そして、「何を伝えるか」だけではなく、サステナビリティに関する自社のイメージをどうやって意図的に「ステークホルダーに知ってもらい、憶えてもらうか」であり、ステークホルダーの記憶に残すことこそが、その後の企業への評価につなげる突破口になると言える。
では、人々の記憶に残りやすくするためには、どのような点に気をつければいいのだろうか。
サステナブル・ブランディングの3つの手法
情報過多の時代に、情報の受け手であるステークホルダーに対して自社のESGアクションを知ってもらい、憶えてもらう突破口を作り出すために有効なサステナブル・ブランディングの手法を3点、紹介する。
<サステナブル・ブランディングの3つの手法>
- シンボリックアクション型ブランディング
- 「推し」を軸にしたコミュニケーション戦略
- 生活者の賛同、共感の連鎖
1. シンボリックアクション型ブランディング
シンボリックアクションとは、企業理念・パーパス(存在意義)を起点とした自社のサステナビリティに関するイメージを示すシンボルとなる活動のことを指す。従来型のブランディングのように自社の活動から事実を集めてきてメッセージを発信するアプローチとは異なり、先にパーパス起点で世の中に伝えたい自社イメージを想定したうえで、企業が伝えたいメッセージやイメージを体験・共感できるようなファクトを作り、そこでの体験談・エピソードを拡散することでイメージを醸成していくアプローチである。
具体的には、自動車メーカーが自社技術を周知させるためにサーキットをつくってレースを開催する、育児サポートのために企業内保育園を整備するといったことが例として挙げられる。
2. 「推し」を軸にしたコミュニケーション戦略
自己表現の方法は時代と共に変遷し、以前は出身・大学などの「所属」や車・洋服などの「所有」による自己表現が中心だったものが、最近は「推し」が自己表現の方法のひとつになりつつある。「推し」とは、具体的な行動や応援(例:商品を買う、ライブに行くなど)を意味している。企業がESG/サステナビリティ領域においてステークホルダーの体感や共感を伴う「推される」事業や取り組みを作り出すことができれば、記憶に残りやすくなる。そのうえで、口コミに近い「推し」を軸としたコミュニケーションを行うことによって、情報量の増加(拡散)やステークホルダーとの接触頻度増加(常時接続)などのメリットを期待することができる。
3. 生活者の賛同、共感の連鎖
もう一つ重要なのは、注目度の高い社会的課題に対して、生活者を巻き込んでいくことである。例えば、SNS等で企業側がそのスタンスを明確にし、メッセージとして議論を投げかけた論点に対して、社会的な注目度が高まり、生活者の賛同や共感の連鎖が起こることによって、社会変革のムーブメントが創出されるといったことがある。
企業が、前述のシンボリックアクションや「推し」と共に、賛同や共感の連鎖も活用することで、ステークホルダーの記憶に残りやすいサステナブル・ブランディングを展開していくことが可能になると考えられる。
ここまで、企業のESGアクションをいかにステークホルダーの記憶に残していくかについて論じた。最後に、サステナブル・ブランディングを成功に導くKSF (Key Success Factor) を2点、紹介する。
サステナブル・ブランディング成功の秘訣
<サステナブル・ブランディングのKSF>
- パーパスの定義・再解釈
- インターナルブランディングによる社内の巻き込み
1. パーパスの定義・再解釈
サステナブル・ブランディングを行うにあたっては、事業変革や活動の指針となるパーパスとの紐づけが重要だと考えられる。「なぜこのパーパスを置いたのか」という背景はハイコンテクストであることから、その背景を社内でよく議論し、ストーリーとして説明・共有することが必要である。パーパスを定義・再解釈することで、それを起点にした長期ビジョンを打ち出し、事業計画を立て、事業変革を起こし、その成果を社内外へ効果的に伝えるためにシンボリックアクション等をもとにコミュニケーションを実施し、モニタリングするという、一連のPDCAサイクルを行うことが可能になる。
2. インターナルブランディングによる社内の巻き込み
前述の「推し」にも通ずる話だが、サステナビリティの領域では周囲の人を巻き込むことが重要である。企業は外部向けのファンづくり、共感づくりを考える前に、まず、社内の熱量を上げて巻き込むインターナルブランディングに取組むことが近道である。従業員が自社の取り組みを信じることができて初めて、外部にもその熱量が伝わると言える。
まとめ
ESG/サステナビリティへの取り組みは企業のポジティブな評価につながるといわれる一方、それを実感できないケースも少なくない。その原因として、情報過多の時代において自社の発信をステークホルダーの記憶に残すことが難しくなっていることが挙げられる。このような状況を突破するために、企業のブランド価値を体感・共感できるシンボリックアクションを中心に据えたコミュニケーション戦略が有効だと考えられる。さらに、サステナブル・ブランディングを成功に導くには、パーパスの背景にあるストーリーの共有とインターナルブランディングによる社内の巻き込みが肝要である。自社らしいESGアクションを選定して実行し、ステークホルダーに対して適切なシグナルを発信していくという戦略的なサステナブル・ブランディングの重要性が、ますます高まっている。
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執筆者
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
ブランディング アドバイザリー
栗原 隆人