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株式対価による組織再編ストラクチャー

Financial Advisory Topics 第38回

株式取得時の支払対価としてキャッシュの代わりに株式が用いられることがあります。(買収やグループ内再編等の)組織再編時において支払対価として用いられる株式は、株式対価と称されます。再編後もエクイティ拠出の関係性が継続されることから、株式対価は経営統合や資本再編の際にしばしば用いられますが、そのストラクチャーは複雑な構造である場合も見受けられます。本稿では、こうした株式対価による組織再編ストラクチャーに関して、基本的な類型についての整理を行うと共に、最近見られるやや複雑な派生形について解説します。

I. 基本的なストラクチャー

買収時

下記のような意図をディール当事者の双方が持つ場合、買収は株式対価を用いた経営統合として行われる可能性が高くなるものと思われる。

  • バイサイド側: 買収資金をエクイティ・ファイナンスで賄いたい
  • セルサイド側: 統合後の企業グループへのエクイティ投資を継続したい

こうした意図を基礎としつつ、交換される株式に係る諸条件が双方で合意された際には、株式対価による買収が成立する。バイサイドはセルサイド側の事業を取得し、セルサイドは統合後の企業グループに係る株式を取得し、両者の経営統合が達成されることになる。

この際に、買収の円滑な完遂のために、会社法制等で整備されている各種の組織再編制度から、状況に応じた適切な手法が選択されることになる。具体的には、例えば、双方の法人の統合が望まれる場合には、合併が検討されると考えられる。双方の既存法人を維持することが望まれる場合には、株式交換または株式交付が検討されると考えられる(※)。双方の現状のガバナンス体制を維持しつつ、対等な立場での経営統合が望まれる場合には、共同株式移転が検討されると考えられる。

※ 株式交換以外にも、例えば、買収会社(バイサイド)側へ、被買収会社の株主(セルサイド)が当該被買収会社の株式を現物出資し、買収会社の株式を取得する等の手法が用いられる場合も考えられる。

グループ内再編時

企業グループ内での資本関係の再編のために、株式対価による組織再編が行われることがある。この場合にも、会社法制等で整備されている各種の組織再編制度から、状況に応じた適切な手法が選択されることになる。具体的には、例えば、比較的単純な持株関係の変更を行いたい場合には、単独株式移転や株式交換が検討されると考えられる。持株関係の変更に加えて、事業を保有する法人を変更したい場合には、会社分割が検討されると考えられる(※)。

※ 現物出資も会社分割(新設分割)と同様の効果をもたらすが、日本においては、税務上の影響等から、会社分割の採用を優先的に検討されることが多いものと思われる。

なお、グループ内における100%の持株関係下にて会社分割等を行う場合には、支払対価の授受を省略しても企業グループレベルでのエコノミクスの本質に影響が無いことから、いわゆる無対価の条件にて再編が行われることがある。この場合には、分割を実施する法人において、株式対価の際には資産(株式)が増加するところ、無対価の場合には自社の純資産が減少する構造となる。

組織再編手法の選択に際しては、再編実施における各ステークホルダー間の合意形成の容易さのほか、法務、税務および会計上の影響等も考慮されることが一般的であると考えられる。

II. 複合的なストラクチャー

三角再編

他社の株式を取得する会社が、自社の親会社(「親会社の親会社」等も含む)が発行する株式を株式対価とする場合の組織再編を、三角再編と称することがある。

三角再編は、買収側の企業グループの視点(親会社の視点)から見ると、自社グループの株式を株式対価として用いた組織再編に該当する。

三角再編の主たる当事者は、買収会社、被買収会社、株式対価としての株式を発行する親会社の3社である。

よく見られる三角再編の類型として、三角合併と三角株式交換を挙げることができる。三角合併は、買収会社が合併会社に、被買収会社が被合併会社に該当し、買収会社が被買収会社の株主に合併対価として親会社株式を支払う構造となる。三角株式交換は、買収会社が株式交換により親会社(中間親会社)となる会社に、被買収会社が株式交換により子会社(孫会社)となる会社に該当し、買収会社が被買収会社の株主に(当該被買収会社の株式と交換に)親会社株式を渡す構造となる。

三角株式交換は、買収時における連続した再編プロセスの一つとして利用されることもある。図4は、マネジメントバイアウト(MBO)の最終的な資本再編時に三角株式交換が用いられる例を示している(※)。

※ MBOの実行時には、買収資金調達における各種レンダー間の優先劣後関係の構築や、投資期間中の余剰資金回収に際しての付随的支出の低減等の観点から、買収ビークルを垂直方向に複数準備することが多い。また、再IPO等のイグジット時には買収ビークル以下が切り離されることが多い等の背景にも鑑みて、オーナー株主等の旧経営陣の出資先は最上位の買収ビークルに変更しておくことがよく見られる。

買収SPCを合併消滅会社とする「三角再編」

米国では、買収側の企業グループが準備した買収SPCを合併消滅会社としつつ、合併存続会社である被買収会社を取得するような三角再編が行われることがある(※)。

※ 被買収会社を合併存続会社とする主たる理由の一つは、当該被合併会社のビジネス上の継続性を重視すること等であるとされている。なお、後述のように、吸収合併における日本の会社法制では合併存続会社側が合併消滅会社の株主に対して合併対価を支払う枠組みが想定されていることから、合併存続会社の株主が合併対価を受け取る仕組みは日本の合併制度では想定されていないものと考えられる。

この手法による場合、買収SPCが親会社株式を取得するまでの流れは、三角合併と同様である。一方で、三角合併では買収SPCが合併存続会社となるところ、本件手法では被買収会社が合併存続会社となる。また、本件手法(株式対価利用)の場合、合併存続会社である被買収会社は、合併前の自社の株主に買収SPCから承継した「親会社株式」を交付すると共に、被買収会社の合併前の株主は、被合併会社の株式を買収SPCの株主に渡すことになる。すなわち、合併対価の決済において、合併消滅会社の資産(親会社株式)と合併存続会社の株式との交換が併せて行われる点も、本件手法と(日本における)三角合併との相違点になると考えられる(※)。

※ 日本の吸収合併においては、合併消滅会社の株主が合併対価の交付を受ける構造であるため、本件では図5上段のとおり、買収SPCの株主(親会社)が合併存続会社(被買収会社)より合併対価の交付を受ける構造である。この日本における構造を出発点とした場合、本件の三角再編では、合併消滅会社の株主である親会社が合併存続会社である被買収会社から交付された合併対価(本件手法の場合には「親会社株式」)を、被買収会社の株主が保有する「被買収会社株式」と交換しているものと整理できるように思われる。なお、後述の現金対価の場合と同様に、本件のストラクチャーに基づく買収において株式対価と現金対価が併用される場合には、現金対価は合併消滅会社の親会社から被買収会社の株主に支払われることが多い模様である。

なお、本件手法はReverse triangular mergerと称されるものであり、「逆三角合併」との訳語が充てられることが多いと思われるが、このTriangularは主要な買収当事者として「買収SPCの親会社/(合併消滅会社となる)買収SPC/(合併存続会社となる)被買収会社」の三者が登場するという意味で用いられており、親会社株式の使用は必ずしも必須と考えられていない点に留意が必要であると思われる。具体的には、図5のように、日本語にすると「現金対価による逆三角合併(Reverse triangular merger with cash considerations)」というような手法も存在する。(※)

※ 本稿は株式対価スキームを主題にしている関係上、当該現金対価スキームを付随的に紹介しているが、日本企業が行う米国企業買収案件では、「現金対価による逆三角合併」スキームのほうが寧ろ主流であると考えられる点にも、留意が必要であると思われる。これは、米国の株主が日本企業の株式を取得する場合における当該株式の流通性に起因した限界や、こうした株式の交付は(Form 4等を始めとした)米国SEC開示の必要性を買収企業が負う場合が多いことに起因すると共に、当該買収スキームは(特に被買収企業が米国上場会社である場合には)株主間の合意形成の容易さが他スキームよりも優れている等の背景があるように思われる。なお、図5では、親会社と買収SPCの2階層のストラクチャーとしているが、実務においては、親会社(典型的には、日本の上場企業)の下に、米国子会社と買収SPCが存在し、現金対価は米国子会社から被買収会社の株主に渡される、というような3階層のストラクチャーの採用が多いように思われる。

III. 組織再編会計上の留意事項

株式対価による組織再編ストラクチャーは、上記で紹介した以外にも多くの派生形や複合系が存在することから、こうした買収やグループ内再編がどのように会計処理されるべきかについても、実務に際しての課題の一つとなることが多いものと思われる。

この点に関して、組織再編会計は一般に複雑であり、かつ会計基準間の差異も存在することから、シンプルかつ画一的な結論を本稿にて示すことは困難であるように考えている。一方で、以下のような視点からの整理を行うことが、特に実務においては概して有益であるとも思われるため、事前にご留意を促させていただきたいとの意図より、本稿の末尾にこれらを簡単に総括することとさせていただきたい。

連結財務諸表の視点からの整理: 複合的なストラクチャーにおいては特に顕著であるが、一つ一つの再編プロセスを各法人の個別財務諸表への影響から積み上げる方式の整理を最初から行ってしまうと、これらの再編が全体としてどのように整理されるべきか等の把握が困難になる傾向が、実務では強いようにも思われる。この点に関して、再編の事前と事後で当該再編がどのような相違を企業グループに対して(すなわち、連結財務諸表に対して)もたらすかという点にまずは着目し、全体像を先に整理するようなアプローチを取ることが、有益である場合も多いように思われる(※)。

※ 連結財務諸表の視点からは、連結グループ内取引に留まる再編は、共通支配下再編として会計処理されるべきことにもなる。

一連の組織再編か否か: 組織再編会計では、複数の取引が一つの企業結合(または事業分離)を構成している場合があるとされている。特に、日本の会計基準では、段階取得における支配獲得がどの時点までに完了するか(=一連の企業結合であるか)の判定に応じて、計上されるのれんの金額が異なる点もあり、この点は会計処理において重要なポイントの一つでもある。特に複合的なストラクチャーにおいては、再編の事前と事後に該当する時点を特定する意味でも、初期段階において当該一連性の整理を行うことが有益である場合も多いように思われる。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&Aトランザクションサービス
ディレクター 柿沼 和紀

(2024.10.11)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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