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日本における外国人材活用の動きについて(特定技能制度の活用)

Financial Advisory Topics 第39回

日本では将来的な労働力不足を補う手段として外国人材の活用が進んでいます。今回は外国人材活用戦略の柱の一つである「特定技能制度」に焦点を当てた内容を紹介します。

日本の労働力不足を補う外国人材の活用

近年、日本における外国人労働者が増加している。今ではコンビニエンスストアや飲食店等にとどまらず、宿泊施設や建設現場などの様々な場所で外国人材の姿が見られる。こうした動向は、日本の人口減少が進行する中で、労働力不足を補うための重要な施策として、政府が外国人材の活用を推進していることに起因する。

日本政府が発表した「未来人材ビジョン(令和4年5月)」では、図表1に示す通り2050年の日本の生産年齢人口は2020年の人口の3分の2まで減少すると推定されている。減少する生産年齢人口と対応するように国内の外国人労働者への需要は増加しており、2023年末には外国人労働者が初めて200万人を突破し、過去最多を記録している。しかし、前述の日本政府の発表では、図表2に示す通り2030年には外国人労働者への需要に対して供給が不足し、外国人労働者の需給ギャップが発生する予測も公表されている。

データソース:経済産業省「未来人材ビジョン(令和4年5月)」(https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf

 

データソース:経済産業省「未来人材ビジョン(令和4年5月)」(https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf

現在日本の外国人材には、主に技術・人文知識・国際業務、特定技能、技能実習(育成就労)等の在留資格(ビザ)が存在するが、本稿は日本社会の喫緊の社会課題である労働力不足を将来に亘って補う目的のために2019年に新設された「特定技能」の活用実態と課題、今後の見通しについて解説する。

特定技能制度の活用実態

特定技能制度は、深刻化する人材不足に対応するため2019年4月に新たに導入された在留資格制度である。「生産性の向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業」が対象とされ、図表3に示す通り、在留資格は相当程度の知識・経験が求められる特定技能1号と、さらに熟練した技能が求められる特定技能2号に分けられる1

データソース:出入国在留管理庁(2024)「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」(https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf

特定技能の人材受入れ上限数は、図表4に示す通り2019~23年度の5カ年で34.5万人とされていたが、2024~28年度の上限数を82万人まで増加することが決定された。特に、工業製品製造業や飲食料品製造業等、2023年末時点で上限目標値を超えている業種については目標値が大幅に引き上げられた。一方、ビルクリーニングや宿泊業など受入進捗に課題が残る業種もある。また、対象分野には「自動車運送業」「鉄道」「林業」および「木材産業」の4分野が追加された。

データソース:出入国在留管理庁データ(https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/nyuukokukanri07_00215.html

特定技能の送出し国としては、2023年末時点で1位のベトナムが全体の53.1%を占め、圧倒的に多い。2位にはインドネシア(16.4%)、3位にフィリピン(10.2%)が続く。

今後、特定技能の数を継続的に増加させるためは、ベトナム・インドネシアに続く新しい国からの送出しを増やすことが重要である。例えばスリランカは今後送出し人数の増加が期待される国の一つであるが、同国では多くの公立学校で日本語が選択必修科目に含まれており、10~13年生(日本の中学~高校に相当)で日本語を選択することが可能である。学校教育において日本語授業が整備されていることに加え、スリランカ政府として特定技能希望者へ日本語コースを提供したり、渡航までにかかった日本語教育費用を還付したり等、政府として日本への人材送出しを促進している。しかし、技能試験の合格率は一般的に3~4割と非常に低い。これは十分な資格・能力を有した質の高い教師が不足していることが一因である。このように政府としては積極的な姿勢だが、日本への送出しに関しては課題が多く残されている。

特定技能の送出しに関する課題

近年、日本の経済的な魅力が相対的に薄れてきており、円安も相まって、他国との人材獲得競争が激化していることが指摘されている。しかし外国人労働者の受入れ促進には、給与水準や為替相場等の経済面もさることながら、日本への送出しまでの過程・手続きや、日本での中長期的なキャリアパスの構築という点にも目を向ける必要がある。以下に、特定技能の就労プロセスに焦点を当てて、日本への送出しに関する課題を詳述する。

特定技能1号・2号として就労できるのは、日本国内に在留する外国人(技能実習2号修了者2や留学生等)に加え、海外から来日する外国人(技能実習2号修了者、新規入国者)も対象となる。今後、特定技能人材を増やすためには、海外から新規で入国する外国人を増やす必要があると考えられることから、本項では、海外から日本への送出しにおける課題を説明する。海外から来日して日本で就労する場合の流れを韓国の類似制度と比較して整理したのが下図表5ある。

データソース:労働政策研究・研修機構(2024) 「韓国・台湾の外国人労働者受入制度と実態」(https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2024/documents/0281.pdf

このプロセスに即してみると、第一の課題として、入国するための語学試験および技能試験のハードルの高さが挙げられる。海外にいる外国人が特定技能で就労するには、現地で開催される語学試験および技能試験の両方に合格する必要がある。語学試験では、日本語能力試験(JLPT)のN4相当以上を取得する必要があり、初学者の場合8~12カ月程度の学習期間を要するとされる。また技能試験も、外国語で受けられる分野・業種もあるが、実施言語が日本語のみの分野・業種もある(建設分野等)。日本語学習環境が整っていない国の外国人にとって、これらの試験合格は容易ではなく、特に、非漢字圏の外国人にとっては高いハードルとなる。また上述の通り、語学試験に加え、業種別の技能試験に合格する必要があり、一定の専門知識が求められる。技能試験が行われている国も限られているため、受験の機会が限られているという点も指摘できる。

第二の課題として、受入れ先(就職先)を見つける際のハードルがある。特定技能外国人が受入れ先を見つける方法として、求人募集に直接申し込む、または民間の職業紹介事業者による斡旋があり、個人や民間に委ねられている。日本語能力が十分ではない外国人が、海外から日本での就労先を見つけることは、情報収集やコミュニケーション等で非常にハードルが高く、また日本に伝手のない外国人にとって信頼できる職業紹介事業者、就労先を選定することは容易ではないだろう。一方で、韓国の雇用許可制3では、政府傘下の公的機関が外国人労働者の選抜試験から就業までのプロセスを直接担っており、効率的な送出しに取り組んでいる。具体的には、雇用労働部(日本の厚生労働省に相当)の傘下機関である産業人力公団が、現地で外国人の選抜試験の実施および求職者情報の管理を行い、同じく雇用労働部傘下の公共職業安定所が、雇用主と外国人労働者とのマッチング等を行っており、組織的に体系づけられた送出しを実施している。

第三の課題は、長期的なキャリアパスの構築の難しさも挙げられる。特定技能には図表5に示す通り、1号と2号の2段階が存在するが、特定技能1号での在留期間は上限5年と制限がある。特定技能2号は在留期間に上限はないものの、特定技能1号からの切替えには、班長としての一定の実務経験および、特定技能2号評価試験等の合格が必要となる。この技能試験は、試験の難易度が高いことから、受験者数は限られており、合格率も低い状況である4

特定技能1号・2号の受け入れ促進には、上述の通り、経済的側面だけでない課題があると考えられる。日本への入国にかかる語学試験や技能試験の対策への支援拡充、就労先との雇用契約締結までの体系的・効率的なプロセスの構築、また日本での中長期的な就労機会拡充やキャリアパス構築支援等、日本で働くことのメリット・魅力の向上に向けた総合的な施策検討が求められている。

今後の見通し

特定技能等の非熟練労働者の諸外国からの送出しに関しては、自国内の経済成長や内需拡大と関係性が強く、概ね一人あたりGDPが6,000~7,000 USDに達すると送出し圧力が弱まり、高度人材5への移行や労働者の国内回帰圧力が高まると考えている。現在特定技能外国人数が最も多いベトナムやインドネシアは、図表6に示す通り、2028年頃に一人当たりGDPが上記水準に達すると見込まれており、送出し人数が減少に向かう可能性がある。

データソース:IMF World Economic Outlook(https://www.imf.org/en/Publications/WEO)より作成

上記をふまえ、現状の特定技能・技能実習生数および2029年の予想一人当たりGDPを示したものが図表7である。今後、送出しの主力国となる可能性が高い国はバングラデシュ、インド、ウズベキスタン、カンボジア、スリランカ、ラオス、キルギス、ネパール、ミャンマー等が想定され、デロイト トーマツはこれらの国々における優良な送出し機関等とのネットワークを幅広く構築している。

データソース:厚生労働省「外国人雇用状況」の届け出状況まとめ(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37084.html)、出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数の公表等」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37084.html)、IMF World Economic Outlook(https://www.imf.org/en/Publications/WEO)より作成

デロイト トーマツでは、特定技能制度に関する情報収集調査や制度構築支援等を多数手掛けており、これまでに構築したネットワークのアセット化や独自のビジネス化も視野に入れ、今後も本業界における動きに注目し、幅広いネットワークを形成していく方針である。

各種調査・支援実績

【注記】

1 出入国在留管理庁(2024)「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」

2 技能実習生には1号から3号まであるが、技能実習2号まで良好に修了した者は、特定技能1号への移行が可能となる。(出所:外務省「特定技能外国人を受け入れるまで」, URL:https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/fna/ssw/jp/introduction/, 最終閲覧日:2024年11月27日)

3 韓国の雇用許可制は、製造業、建設業、サービス業、漁業、農畜産業において、外国人の非専門人材を雇用するための制度である。

4 特定技能2号の対象分野は、導入当初は、建設分野と造船・舶用工業分野のみであったが、2023年6月の閣議決定により、介護を除く全ての分野での受け入れが可能となった。2024年6月末時点での特定技能2号の在留者数は153名であり、うち建設分野が66名、造船・舶用工業分野が23名となっている。(出所:出入国在留管理庁 「特定技能在留外国人数(令和6年6月末)」, URL:https://www.moj.go.jp/isa/content/001424794.pdf, 最終閲覧日:2024年11月18日)

5 高度人材とは、高度な知識や技能を有している人材を指し、日本の在留資格においては、「高度専門職」や「技術・人文知識・国際業務」等の在留資格を有する人材を指す。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りします。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
インフラ・公共セクターアドバイザリー
シニアマネジャー 元岡 亮
マネジャー 波多野 寛子
マネジャー 岡本 智美
コンサルタント 林 まい子

(2024.12.17)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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