事例紹介

ホテルバリューアップの考え方

既存ホテルからのバリューアップ

コロナ禍前のインバウンド需要増大に伴うホテル建設ラッシュや多様なホテルブランドの登場により、既存ホテルの存在感を出すことがますます難しくなって来ています。ホテル間の競争がより厳しくなる中、既存ホテルのバリューアップについて考察いたします。

ホテルバリューアップの背景

近年、COVID-19の流行に伴うリモートワーク・在宅勤務の一般化、WEB会議の定着化が進む中、国内出張数の低減により宿泊特化型ホテル(ビジネスホテル)やシティーホテルなどの平均的稼働は、厳しい状況のまま推移していました。入国規制の緩和や国、地方自治体による様々な観光客誘致方策の実施もあり、徐々に回復することが期待されていますが、コロナ禍前水準に戻るには、一定の期間が必要と推察されています。一方、建物のハード面でみれば日本における既存ホテルは、築30年を超えるホテルが全体の60%強となっており、収益性の低減はバリューアップやリニューアル計画にも影響していることが考えられます。既存ホテルの活性化の遅れは、不動産資源の劣化と周辺へ遡及する課題であるとも考えられるでしょう。

「ホテルバリューアップの考え方」と一口にいっても、ホテルの種類・形態、役割・立地等、様々な切り口・要素があり、ユーザーのホテル利用目的の変化や個人が発信する情報の影響が大きくなる中、その有り様も異なってきています。

日本宿泊施設定員稼働率
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過去5年間における客室改装実施の状況
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ホテルバリューアップ:種類・形態

ホテルのバリューアップの考え方は、ホテルのタイプごとに今まで以上により複雑化、難度化しているのではないでしょうか

  • 「ホテルチェーン型」:各ホテルブランドの概念、イメージに共感、共有した事業者やオーナーがブランドマニュアルに即した空間構成、サービスを提供しています。エリアや場所が変わってもベースのサービスや機能は統一されています。ホテルチェーン型の主力商品である宿泊特化型(バジェット型)ホテルでも、基本性能(安心感)+エリア固有の地域性を考慮した付加価値+αが求められています。
  • 「地域型」:単一のホテル事業であり、地域やエリアに特化したサービスや空間体験を提供しています。
    観光ニーズだけでなく、近郊の日常使いも想定した目的地となるホテルを意識したバリューアップが求められます。
  • 「ライフスタイル型」:NYに誕生したライフスタイル系ホテルに代表されるホテルタイプの出現により、外資系のみならず、国内系でも同様カテゴリーのホテルが多く現れています。カルチャー系ホテルの競争の中で何を売り物にするのか、戦略が求められています。形態や空間構成だけでなく、機能やオペレーションを含めた優位性が求められています。
  • 「シティ・フルサービス型」:施設の規模の大きさや付帯機能を保有する故に、宴会需要や団体客、飲食需要の減少は大きな影響となっています。施設構成や空間利用のターゲットや利用シーンの検討など、従来の使い方に拘らない運用に追随できる汎用性を視野に入れての検討も必要となっています。
     

タイプごとの画一的な解決策はなく、立地環境、地域性、施設の魅力度を分析したうえで、固有の課題と価値を読み解いた計画策定が重要と捉えられます。

ホテルバリューアップの考え方

従来、宿泊特化型(バジェット型)ホテル利用のシーンでは、出張会議が終われば、相対的に軽度なデスク作業が中心であり、客室の主要な機能は休息休眠であったものから、今まで以上に出張先(ホテル)でのWEB会議、ワーク時間の増加により、室内で過ごす時間も増え、デスクワークの利便性やデスク環境への拘りも必要となってきているのではないでしょうか。ロビーなどの共有部においても、快適に作業ができる空間とホテルならではの良さの両方が求められています。また、様々なホテルタイプの中でもバジェット型ホテルの利用者減少に伴い、同形態ホテルからのバリューアップや再編検討の必要性に迫られているのではないでしょうか。既存ホテルは、駅からの利便性や立地環境の点において、優れている施設も多いことからホテル資産の有効活用化、空間活用化は重要課題の一つと考えられるでしょう。

ホテルバリューアップに求められる役割・機能

ホテルのバリューアップを考えるうえでは、建物のハード面での検証、戦略も重要な項目となります。リニューアル、バリューアップの検討に際しては、ホテルに限らず建物のライフサイクルを認識する必要があります。建設当初のコストはライフサイクル全体から見れば、全体コストの一部に過ぎず、保全・維持にかかる費用が過半を占めています。

ホテル商品性の側面からは、目に見える意匠や機能だけの整備に囚われがちでありますが、不動産としての資産を総合的に検討する必要があります。一般的なリニューアル項目と築年数との関係を記載すると、15年までは内外装の補修、設備機器の修繕が中心となり、15~20年頃には社会的劣化(商品性やデザイン性の陳腐化、競争力の劣化)対応のために内装リニューアルを行うことが設定とされます。20~30年目においては、設備の経年劣化、機能劣化に伴い、計画的な設備更新が必要となります。30年を超過する頃を目途に大規模リニューアルを実施する事例が多く、このタイミングに合わせてホテルブランドチェンジや、意匠性を含めたバリューアップを行うことが多いと考えられます。  

日本におけるホテル竣工年の割合を考慮した場合、30年目以降の大規模リニューアルに該当する適齢期の建物は、50%を超える割合となっています。80年代、90年代に建設された施設の在り様は、立地環境や建物のハード面としてのポテンシャルを備えた施設も多いことが想定されるでしょう。同年代のホテルには、様々な機能の側面や利用形態、周辺エリアへの影響も含めて、複合的な面があると考えられます。さらに地方都市では、シンボル性や拠点性を備えもつ施設であることが想定され、エリア全体への影響も考慮した計画が必要とされます。新規ホテル開発に注目されがちですが、多数存在する既存ホテルこそ注視すべき存在とも考えられます。有効なバリューアップにより本来のポテンシャルや良さを生かしながら、より魅力的なホテルへと生まれ変わることが可能ではないでしょうか。併せて現在のバリューアップでは、ESGに代表される環境面での配慮やCN(カーボンニュートラル)への側面での対応も無視できない存在でしょう。

建物維持・管理に関する構成比率と建物維持に関する費用イメージ
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ホテル竣工年の比率
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ホテルの付加価値向上を手に入れる:デロイト トーマツのホテルアドバイザリーサービス

ユーザーニーズに適した競争力のあるホテルへと変えるには、ホテル構成の再編が必要になります。ホテルに求めるニーズの多様化により、最終目的地としてのホテルや付加価値に重点を置いたもの、異業種ブランドとの提携など、その形は様々です。

新しいホテルの設えは、流行りのスタイルやデザイン性を追随するのではなく、その場のホテルに求められる役割・機能を明確にする必要があります。ホテルコンセプトだけでなく、食(レストラン機能)やその他の付帯的ホテル機能も十分に検討する必要があります。当社は、中立的立場の不動産専門家・ホテル専門家として、ホテル構想立案・バリューアップ策定構築を行っています。新規ホテル開発のみならず、既存ホテルの有効活用、価値最大化に向けてご支援いたします。

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執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
不動産アドバイザリー
ヴァイスプレジデント 濵﨑 孝浩

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