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デジタルマーケティング戦略におけるSNS分析

J1所属クラブの公式アカウントSNS分析事例

1. はじめに

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の普及により、消費者自身が情報発信源となって商品認知度の向上・企業イメージの形成に寄与することが一般的になりつつあります。それに伴い各企業はSNSを活用したデジタルコミュニケーション戦略に重点を置き、インターネット上での消費者とのコミュニケーションを積極的に行うようになりました。

その中で、効率的なアカウント運用は出来ているのか、消費者がサービスに対してどのような感想を抱いているのか等をSNSデータから定量的に評価することが重要になります。

本稿はSNSの中でもTwitterデータに焦点を当て、まずTwitterから取得可能なデータの特徴について説明します。次に実際の分析例としてJリーグ マネジメントカップ2021(JMC2021)にて実施した、J1所属クラブの公式Twitterアカウントを対象としたSNS運用に関する定量的な評価分析について紹介します。

 

2. Twitterから取得できる主なデータ種別

最初にTwitterで取得可能な主なデータ種別や、それらを利用して実施できる分析例について紹介します。基本的に分析の前段階のデータ抽出作業ではアカウント名や投稿時間を条件に入れる場合が一般的ですが、以下で説明するように特定のキーワードを含む投稿等を指定した柔軟な抽出も可能になります。

①アカウント名・アカウントID 
Twitterの投稿データを抽出する際には、アカウント名やアカウントIDを条件に入れることが可能です。またアカウント名を指定しないデータ抽出をした場合(特定のキーワードを含む投稿の抽出等)でも、取得できたアカウント名から個人の趣味嗜好が読み取れる場合もあります(例:プレイしているゲーム名や、応援しているスポーツチーム名をアカウントに入れている場合等)。

②投稿年月日・投稿時間
特定の期間に投稿されたデータを抽出したい場合には、投稿年月日を抽出条件に入れます(例:2021/10/1~2022/10/1の1年間)。また抽出データの投稿日から、平日・休日・祝日のどのタイミングで投稿が多くなっているのかについても分析が可能です。同時に投稿時間も取得できるため、日中・夜間等の生活サイクルを切り口にした分析も可能になります。

③投稿地域・国・利用言語
「日本で投稿されている日本語の投稿」や、「米国で投稿されている中国語の投稿」等、投稿された場所(国名)と、投稿文に利用されている言語を指定したデータ抽出が可能です。例えば日本国内で展開されている外国人向けサービスのSNS上での評判を調べる際には、利用言語にはターゲットにしている外国人層の出身国言語、投稿国は日本と条件指定することで、目的とするデータの取得が可能になります。

④投稿本文・ハッシュタグ
データ抽出の際にはアカウント名や投稿期間だけでなく、特定のキーワードを含んだデータの抽出も可能になります(例:社名や製品名を含んだ一定期間における投稿の抽出等)。また投稿本文の内容から、ポジティブな内容なのか、それともネガティブなのかを判断し、サービスに対する率直な感想を分析することが可能になります。加えて、投稿内で使われているハッシュタグを特定することで、どのような形で情報伝搬がされているのかを分析することも可能になります。

⑤リツイート数・リプライ数
投稿に対する反応の度合を測る指標としてリツイート数やリプライ数を利用することが可能です。特にリツイートの場合は、投稿元のアカウントをフォローしていない第三者ユーザのタイムラインにも投稿が表示されるため、情報拡散効果の評価指標として適しています。またリプライに対しても反響の大きさの指標として利用できる他、どのようなリプライ内容が多いのか、好意的なリプライがどれだけあるかなどを分析することで、サービスに対する消費者が持つイメージを把握することが可能になります。

⑥投稿時点フォロワー数
投稿時点でのフォロワー数を取得することも可能です。これによって、分析対象の投稿がどの程度のユーザ数に対して表示されたかが分かります。また、次の投稿時点でのフォロワー数との差分を計算することで、その投稿によってどれだけフォロワーが増えたのか(もしくは減ったのか)を近似的に計算することも可能です。

 

3. Jリーグマネジメントカップ2021での分析事例

ここでは前述の分析指標の利用例として、Jリーグマネジメントカップ(JMC)2021で行った分析について紹介します。JMCはJリーグに所属する全クラブを対象に、マーケティング、経営効率、経営戦略、財務状況の4つの評価軸をもとに各クラブのビジネスマネジメント力(BM)をポイント制で評価し、総合得点でリーグ毎にランキング作成を行っているものです。

このJMC2021のコラムにて掲載した、J1所属クラブの公式アカウントを対象にしたSNS分析の事例を、前段で説明した各データ種別と紐づけながら解説していきます。

  • 分析対象データの抽出(利用データ種別:①アカウント名・アカウントID)
    本分析では2021シーズンでJ1に所属していた20クラブを対象に、各クラブのTwitter公式アカウントのアカウントIDを指定した上で、2021年1月1日~12月31日の間に投稿されたデータを抽出しました。この投稿データに関して、投稿年月日、投稿本文の内容、リツイート数、フォロワー数変化などを利用して、各クラブのアカウント運用方針の差異について考察を進めました。
  • シーズン中における投稿数の時系列推移:(利用データ種別:②投稿年月日・投稿時間)
    まず初期分析として2021年シーズンJ1所属20クラブ全体を対象に、シーズンの各タイミングにおける投稿数の変化について可視化を行いました(図1)。2021シーズンでは世界的なスポーツイベント開催に伴うシーズン中断期間がありましたが、その期間については投稿数が少なくなっていることが分かります。逆に試合が行われているシーズン前半・後半では投稿数が多くなる傾向にあり、実際に各クラブの投稿を見ると試合の実況ツイート、試合結果、次回の試合開催予告についての投稿が多くなされていました。

  • 投稿トピック内訳についての可視化(利用データ種別:④投稿本文・ハッシュタグ)
    次に各投稿の内容に着目し、どのようなトピックが多くなっているのかについて分析を行いました。投稿内容の分類方法として、文中に含まれる特定のキーワードを利用したキーワードマッチングを採用しています。本分析では図2に記載しているキーワードを利用して、各投稿を<人事情報>、<物販関連情報>、<試合情報>、<その他>の4区分に分類しました。

各シーズン区分でカテゴリの内訳を見た所、図3のような結果になりました。これより試合が行われているシーズン前半・後半においては、<試合情報>の投稿が最も多くなっていることが分かります。また、<人事情報>についてはプレシーズンとアフターシーズンで多くなっており、クラブの人事発表が行われるタイミングと違和感のない結果になっています。一方で<物販関連情報>の投稿については、どのシーズン区分でもほぼ同水準の20%前後で推移しており、あまり季節性の見られない推移になっていることが分かります。

これをクラブ毎に見た場合は図4のようになります。これより、<物販関連情報>の投稿の割合が最も高いのは川崎フロンターレであることが分かります。川崎フロンターレについてはクラブの物販収入が高く、SNS上でもグッズ販売の告知などを活発に行っていることがTwitterデータにも表れていると考えられます。一方で、<試合情報>については横浜F・マリノスが高くなっています。横浜F・マリノスは2021シーズンにおいて好成績を残している為、その結果として試合関連の投稿が活発に行われたと考えられます。これより、各クラブが重点的に取り組んでいるビジネス施策の状況や、試合成績の状況によって、Twitterに投稿される内容も影響を受けていることが分かります。

  • 各投稿カテゴリにおける情報拡散・ファン囲い込み効果の定量評価(利用データ種別:⑤リツイート数・リプライ数、⑥投稿時点フォロワー数)
    企業・団体におけるTwitterアカウント運用では、話題性のある投稿をして多くのリツイートを獲得し、その結果として幅広いユーザに対して自クラブの情報を露出させ、多くのファン(=フォロワー)を獲得することが重要になります。そこで、情報の拡散性の目安であるリツイート数と、ファンの囲い込みに関する目安であるフォロワー獲得数に着目し、効果的なアカウント運営を実現するためのドライバーとなっているのはどの投稿カテゴリなのかについて、分析・考察を行いました。
    まずリツイート数に関しては、各投稿のリツイート数を投稿時点のフォロワー数で割ることで、各アカウントのフォロワー規模感を考慮した情報拡散度合の指標(=アクティブ反応率)を算出しています。またフォロワー獲得数に関しては、投稿した時点でのフォロワー数と、次の投稿時点でのフォロワー数の差分を計算することで、その投稿によってどれだけフォロワー数が増えたか(もしくは減ったか)を近似的に求めています。
    2021年におけるアクティブ反応率とフォロワー獲得数を各軸に設定し、投稿種別・クラブ別にプロットしたものが図5になります。これを見ると、<人事情報>についてはアクティブ反応率が高く、かつフォロワー獲得数も多い右上に位置しているものが多く見られます。つまり、選手の移籍等の話題についてはリツイートにより情報拡散されやすい傾向にあり、かつファンの囲い込みにも有効な話題となっている可能性が考えられます。
    一方で、<物販関連情報>や<試合情報>については原点付近に位置しているものが多く、情報拡散やファンの囲い込みにあまり寄与していない、既存のフォロワー内に閉じた情報発信となってしまっている可能性が考えられます。

この結果より、より多くのフォロワーを獲得して自クラブの露出を増加させるためには、まずはタイムリーな人事情報の発信をすることが鍵になっている可能性が示唆されます。選手の加入や新体制発表に関する投稿頻度を高めることでSNS上でのファンとの接点を増やし、クラブに対する関心度を高めたうえで物販情報やチケット情報を流すことで収益向上が狙えるのではないかと考えられます。

 

4. おわりに

今回はSNSの中でもTwitterに着目し、取得可能な主要データの説明や、実際の利用例としてのJMC2021の分析事例を紹介しました。冒頭でも述べた通り、スポーツクラブに限らず他の業界においてもSNSにおける商品認知度の向上・企業イメージの形成は重要課題になっています。

その中で今回のようなSNSでの投稿状況の把握や、効果的なアカウント運用の評価についての定量分析の必要性が今後さらに増していくと考えられます。今回紹介した分析事例は分析対象の業界特性を織り込むことで、様々な企業に対してご提供することが可能になります。ご興味があれば、ぜひ当社までご相談ください。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
Digital
シニアアナリスト 堀川 峻洋

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