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DeFi(分散型金融)が実現するWeb3.0時代の組織と新規事業のあり方
金融エコシステムの未来 第2回
2021年以降バズワードとなったNFT(非代替性トークン)及びWeb3.0の不可欠なインフラであるDeFi(分散型金融)に焦点を当て、これから企業の方がこうしたトレンドにどのように向き合うべきなのか、整理を試みる。
目次
- 1. はじめに Web3.0時代の到来に備えて
- 2. なぜWeb3.0にDeFiが不可欠なのか
- 3. DeFi・DAO・Web3.0の関係
- 4. Web3.0型サービスにおけるDeFiの活用例 - STEPN
- 5. 終わりに DeFiとどのように関わるべきか
Web3.0はまだ黎明期にあり、その厳密な定義には諸説あるが、上図のように「個々人が直接つながれる新しい分散型インターネットのあり方」を指す言葉といえる。
この新たなムーブメントやその技術的な基盤としてのブロックチェーンは広く知られるようになってきたが、その発展と定着に不可欠であるDeFi(Decentralized Finance:分散型金融)の存在には十分な理解と関心が及ばないケースが散見される。
※Web3.0そのものの動向についてはこちらの記事を参照されたい
本稿では、DeFiがWeb3.0時代の組織と新規事業において果たす役割を概説し、読者の皆様が今後DeFiとどのように関わるべきかを整理してみたい。
2. なぜWeb3.0にDeFiが不可欠なのか
DeFiは「特定の主体を介すること無く金融取引を実現するサービス」を指し、ブロックチェーン上に構築された一連のスマートコントラクト*を用いる事で、これまで金融機関が果たしていた機能を実現する。
*スマートコントラクト:合意した契約条件を予めプログラミングしておくことで自動的に契約を執行する技術
上図はお金の貸し借りという基本的な金融取引を提供するDeFiの代表例であるCompoundを従来の金融サービスと比較した図である。
DeFiには、金融取引の自動化による高いコスト効率やサービスがオープンソースとして提供されることによる利活用の敷居の低さといった特徴から、下表のように様々な分野での活用がなされており、2022年5月時点で約2,000億米ドル*(約26兆円)もの資金が取引される一大市場となっている。
*本記事参照
Web3.0では、GAFAのような事業者を介在させない代わりに、サービスを持続可能なものとすべくその立ち上げや運営に貢献する者への経済的なインセンティブを新たな形で用意する必要があり、ここにブロックチェーン上のトークン*が用いられるという特徴がある。
*しるし・象徴といった意味を持つ英単語で、転じて貨幣・硬貨を指す時に使われる
こうしたトークンを媒介とする貢献と報酬の交換が積み重なって形成されるトークン経済圏の維持・発展がWeb3.0型サービスの成否を分けることとなるが、この時にトークンを用いた価値交換を滑らかにするインフラとして利用されるのがDeFiである。
Web3.0という言葉が人口に膾炙したのはNFTが盛り上がりを見せた2021年以降だが、DeFiが先行して2020年中ごろより勃興し一定の成熟を見せていたことは偶然ではなく、必要条件であったといえる。
3. DeFi・DAO・Web3.0の関係
Web3.0の潮流をカネの面で支えるのがDeFiであるとすれば、ヒトの面での後押しになっているのがDAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)と呼ばれる新たな組織の形である。
DAOは「特定の代表者・管理者の存在なしに予め定められたルールに基づき参加者が集合的に意思決定・ガバナンスを行う組織」のことで、参加のハードルが低く、多くの関係者を巻き込みやすいという利点から、Web3.0型サービスを広く普及させるために採用されることの多い組織形態である。
一方で、DAOを立ち上げて軌道に乗せるためには、(従来型組織の経営者が持つような)強いリーダーシップが必要であり、また、多数決を基礎とするDAOは複雑で素早い意思決定には一般に不向きである事から、組織の“DAO化”の程度は様々に試行錯誤がなされている最中である。
現時点では、上述したようなWeb3.0型サービスとそのトークン経済圏の発展に伴い、特に熱量の高い貢献者やユーザーがコアとなって緩やかに形成するコミュニティがDAOに進化していく、というのが一つの道筋であるように思われる。
このように、ブロックチェーン技術が信頼できる情報を相互に直接共有できるようにすることで、金融の世界でDeFiが興り、DAOという新たな組織を可能とし、Web3.0を社会に浸透にさせていく原動力を生んでいる。
4. Web3.0型サービスにおけるDeFiの活用例 - STEPN
では、ここで具体的な事例の中でどのようにDeFiが活用されているかを紹介したい。DeFiの影響・重要度が金融業界に留まるものでないことを示すために、あえて異なる分野のケースとして、STEPNを取り上げたい。
STEPNは、オーストラリア企業であるFind Satoshi Labにより提供されているフィットネスゲームで、歩く・走ることでもらえるトークンが金銭的価値を持つことから多大な人気を博しており「Move To Earn(動いて稼ぐ)」と呼ばれるカテゴリを築きつつあるサービスである。
STEPNでは、以下のように様々な種類の独自トークンが用意されている。
- GST – 歩く・走ることでもらえるゲーム内通貨としてのトークン
- GMT – ガバナンストークン*だが、GSTと同じくゲーム内通貨の機能も有する
*サービス運営の方針を決める投票への付議・参加権が付いたトークン - NFT – 以下のゲームアイテムがNFTとして用意されている
- スニーカー : 一つ以上のスニーカーNFTを持たないとゲームが始められず、そのパラメータによりもらえるトークン・アイテムの質・量が変化する
- 宝石 : スニーカーにはめることでそのパラメータを向上させられる
- バッジ : 執筆時点では未提供
STEPNにおけるDeFi活用で最も重要な点は、DEX(Decentralized Exchange: 分散型暗号資産取引所)の利用である。
ゲームで得られるGSTが価値を持つためには、GSTが他のトークンと交換できることが必要であるが、ホワイトペーパーによるとSTEPNではまず運営チームがOrca、RaydiumやPancakeswapといった主要なDEXに流動性提供*を行うことでこれを実現した。
*DeFiサービス利用者向けに特定のトークンをスマートコントラクトに預けること
その後、サービスの成長と共にGST価格が上昇する中でDEXに運営チーム以外からの流動性提供が集まり、FTX等の海外企業が運営する暗号資産取引所でも取引が可能になることでGSTの時価総額が高まり安定的なトークン経済圏が育つ好循環が築かれたが、その始まりは上述のように運営チームによるDEXというDeFiサービスの利用であり、これは、Web3.0型サービスの立ち上げに伴って新しく発行するトークンに価値を付けていくプロセスに共通して不可欠かつ重要なステップであるといえる。
また、STEPNではスニーカーを多く集めることでGSTを獲得できる時間を増やしたり、宝石をスニーカーにはめることでスニーカーの性能を上げたりすることができるが、こうした取り組みを通じてNFTの保有を促すのは、DeFiでもよく見られるステーキング*を応用した施策と捉えることできる。
すなわち、保有するトークンを売却しないようにインセンティブ(ここではより多くのGSTが稼げること)を提供することでNFTの供給を絞って価格を一定に保っていると考えられる。
*一定量のトークンを所定の条件で預ける事で更なるトークンの獲得等の報酬を得ること
このように、一見すると金融とは全く関わりの無いサービスであっても、トークンを用いたWeb3.0型サービスを志向する限り、トークンの価値や経済圏に関する施策でDeFiを活用することは不可欠であり、サービスの種類によってはDeFiでみられるコンセプトを応用することも効果的である場合がある。
5. 終わりに DeFiとどのように関わるべきか
ここまで、DeFiとWeb3.0の密接な関わりに触れ、DeFiが金融業はもとより様々な業種にとって今後大きな影響を与えうる存在であることを示してきた。では、企業は今後DeFiとどのような関わりを持つことになるのであろうか。
まず考えられるのは、自社の強み・特徴を活かしたWeb3.0型サービスの立ち上げ時である。前章の事例を始め、Web3.0型サービスにはその業種を問わずトークン経済圏の構築・拡大が不可欠であり、自ずとDeFiを理解し活用することが求められる。
また、既存のWeb3.0型サービスに利用者・貢献者として深く関与する中でDeFiとの関わりが生ずる機会もあると思われる。例えば、米国の著名ベンチャーキャピタルAndreessen Horowitz(通称az16)は自身が投資するWeb3.0型サービスを運営するDAOへ積極提案を行うことで知られており*、Web3.0が成熟するに従って、このように企業がDAOの運営に参加することはごく自然となっていく可能性が高く、その際にはやはりDeFiへの十分な理解が求められる。
*出所
さらに、送金や資金の貸し借り・運用といった通常の金融取引時にDeFiが用いられることもそう遠い将来の話ではないかもしれない。システムの信頼性、取扱可能な資金・流動性の規模、法規制等、課題は山積みであるが、一部の新興国でビットコインが法定通貨となり、主要先進国ではブロックチェーンを用いたデジタル通貨の発行・活用の取り組みが官民ともに加速しており、技術基盤を同じくするDeFiの活用に向けた下地が昨今あらゆる面で整備されつつあるといえる。
当社では、ブロックチェーン技術の活用に関する様々な取り組みをビジネス・法規制・技術の観点からサポートしており、今回はその経験に基づき、現在急速に注目を集めるWeb3.0のインフラとしてのDeFiの重要性と今後の関わり方について整理を試みた。本稿が読者の皆様の検討の一助になれば幸いである。
執筆者紹介
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアマネジャー 川口知宏
マネジャー 横田一生
※ 本記事にてご紹介致しましたサービスはあくまで事例であり、当社が推薦する意図はございません。