デロイトエコノミストネットワーク2025年グローバル経済見通し ブックマークが追加されました
最新動向/市場予測
デロイトエコノミストネットワーク2025年グローバル経済見通し
不確実性は高いが総じて経済は拡大
2025年は、経済的不確実性が各国の動向を決定づける最大の要因となりそうです。しかし一部の例外を除いては、おおむね成長傾向が続くと見られます。
【訳注】本レポートの経済見通しは、デロイト グローバル メンバーファーム所属の各執筆担当エコノミストによる、2025年1月時点の見解です。
デロイトのチーフ・グローバル・エコノミストによる序文
Ira Kalish
2024年は、インフレが抑制されて主要国のリセッションは回避できるとの期待で始まりました1。概ねこの期待は正しかったといえます。しかし年末にかけ、インフレの想定以上の長期化が鮮明になってきました。米国が強い成長を実現したのに対しその他の先進国の成長は弱めでした。また、年末には多くの国で通貨下落が起き、特に新興国にとって景気悪化要因になる可能性もあります。
2025年は、世界各地で選挙結果を受けた政策転換が見込まれることから、不確実性を伴う幕開けとなりました。新たな政策は、インフレ、借入コスト、通貨、貿易、資本移動、製造コストの動向に変化をもたらす可能性があります。こうした中、政府と中央銀行は引き続きインフレ抑制と成長促進という二つの目標のバランスを取ろうとしています。
本レポートでは、デロイト グローバルのメンバーファームが、それぞれの国の経済見通しを提供しています。この見通しが皆さまにとって興味深く有益なものとなれば幸いです。また、我々デロイトのエコノミストは今後も皆さまのために更に深い考察をご提供してまいります。
米州
米国
執筆者:Michael Wolf
米国経済は引き続き、他の先進国を上回る成長を見せています。2024年の実質GDP成長率は2.8%に達する見込みです。金利の上昇にもかかわらず、個人消費は堅調に伸びています。比較的逼迫した労働市場、インフレ調整後の実質賃金の堅調な伸び、および移民の急増が、個人消費全体を押し上げました。企業投資も比較的好調を維持しましたが、これは主に産業政策の後押しにより工場建設が急増したためです。
力強い経済に加え、連邦政府の巨額の赤字が政府支出を支えています。マイナス面としては、高い住宅ローン金利が住宅投資の抑制要因となっている一方、強いドルが輸出を抑制し、輸入を促進していることが挙げられます。
米国連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ指数として注目する個人消費支出(PCE)価格指数は、2024年10月には前年同月比2.3%の上昇となり、同年3月の2.8%上昇から鈍化しました。その結果、FRBは2024年9月から12月の間にフェデラル・ファンド(FF)金利を100ベーシスポイント引き下げることができました。2025年も追加の利下げが予想されますが、サービスインフレが長引いていることもあり、利下げのペースは緩やかになると見られます。連邦政府の財政政策も今後の利下げのペースに影響を与えるでしょう。
実際、連邦政府の経済政策は米国の経済見通しにおける最大の不確実性要因です2。デロイトのベースラインシナリオでは、大統領選挙期間中に提案された政策3の多くは、そのまま実施されることはないと考えています。例えば、関税は一部の貿易相手国に対する段階的な引き上げにとどまり、不法移民の強制送還はわずかに増加する程度だと見込んでいます。またFRBは独立性を維持し、税制改革法(TCJA)は延長されると予想しています。
このような形で政策が実施された場合、実質GDP成長率は2025年に2.4%を記録した後、2026年には1.7%に減速するでしょう。デロイトのベースラインシナリオでは、インフレ率の上昇や実質GDP成長率の低下といった、関税による経済への悪影響は、2026年までは本格的に実感されないと見ています。一方、関税の引き上げは輸入と個人消費の前倒しを促すでしょう。そのプラス面としては、個人消費の一時的な拡大と企業在庫の増加が見込まれます。マイナス面としては、輸入が輸出を上回るペースで伸びる結果、海外部門がGDPの押し下げ要因となることが予想されます。
不法移民の強制送還についても、デロイトのベースラインシナリオでは比較的穏当な実施を予想しています。これによる国内需要の低下や労働力の伸びの鈍化といった負の影響は、2025年後半に現れ始め、本格的に実感されるのは2026年以降になると見ています。労働力不足の影響が最も深刻に実感されるのは、不法移民への依存度が高い農業、建設、医療などの部門でしょう4。例えば、米国農務省の推計では農場労働従事者の41%が不法移民です5。
TCJAの延長や規制緩和の実施によるプラスの影響が現れるのも、2026年近くになると予想されます。TCJAを延長するには通常の立法手続を経る必要があるため、今年前半に成立する可能性は低そうです。企業は、TCJAの行方が明確になるまで巨額の投資を控えると見られます。規制緩和も企業投資を促進すると考えられますが、緩和策が実施され、企業がそれに反応するまでには時間がかかるでしょう。
ただし、ここで論じたベースラインシナリオがそのまま実現する可能性は極めて低いということに注意が必要です。連邦政府の政策をめぐる不確実性を踏まえ、デロイトはこれらの政策の内容次第で経済状況が改善または悪化する場合の代替シナリオも作成しました。
例えば、上方シナリオでは、ベースラインシナリオに比べてより大幅な減税、より低い関税率、より積極的な規制緩和、より限定的な強制送還を想定しました。このシナリオでは、実質GDP成長率は2025年には2.7%に達し、その後2年間は3%超にまで加速すると予想しています。
下方シナリオでは、公約通りの関税が課され(中国からの輸入品には一律60%、その他の全ての貿易相手国からの輸入品には20%)、強制送還がより大規模に行われ、政府支出がより大幅に削減されると想定しました。このシナリオでは、実質GDPは2025年には1.6%の成長にとどまり、2026年には2.1%減少すると予想しています。
不確実な政策環境を除けば、米国の経済見通しは引き続き明るいでしょう。経済は潜在成長率に向かって徐々に減速しています。失業率は依然として低く、インフレ率は2%に近づいています。その結果、FRBは緩やかなペースで金融緩和を進めると予想され、これによって近い将来、より長期的な景気低迷に陥ることを回避できるでしょう。
カナダ
執筆者:Dawn Desjardins
今後1年間、カナダ経済は無数の困難に直面するでしょう。最大の課題は人口増加の減速と、国内および米国の政策をめぐる不確実性です。こうした課題が見通しの下振れリスクとなる一方、安定したインフレ率、金利の低下、高い家計貯蓄率がこの下振れを相殺する重要な要因として働くでしょう。
デロイトは、2025年のカナダ経済について比較的楽観的な見通しを維持しており、GDPは小幅成長にとどまった2023年と2024年に比べ、より力強く成長すると予測しています。とはいえ、決してリスクがないわけではなく、米国政府によるカナダ輸出品への関税は今後1年間のカナダ経済に深刻な悪影響をもたらしそうです。
プラス面
前述の通り、デロイトは2025年のカナダ経済はより力強く成長すると考えています。これは、年央までにカナダ中央銀行の金融政策が中立的からやや景気刺激的なスタンスへと転換すると見られるためです。インフレ率も見通しの好材料となっており、総合インフレ率は今後1年間、目標の2%近くを維持すると予想されます。このように、消費者にとって状況は著しく改善しており、年初には消費税免除の影響もあり個人消費は拡大しています。住宅ローン金利更改の波が再び訪れていますが、その影響は安定した労働市場と高水準にある家計貯蓄残高によって緩和されるでしょう。ただし、時間が経つにつれ、人口増加の減速が個人消費に影を落とすことになりそうです。
2025年の住宅市場は、金利に敏感な消費者が市場に戻ることから改善すると予想されます。既に2024年第4四半期にはそれが明確に現れており、この動きは加速し続けると見られます。金利低下が建設事業の回復を下支えすることが期待されますが、引き続き供給状況が購買力改善の妨げとなるでしょう。
不確実性
2025年の大きな不確定要素は、企業信頼感の持ち直しでしょう。米国の新政権が税制、規制、貿易政策をどのように押し進めるかが不確実であれば、企業は2025年中には様子見に徹する可能性があります。カナダドルが弱まり、米国の買い手にとってカナダの物品・サービスの魅力が高まることから、輸出はやや改善すると予想されます。ただし、ベースラインシナリオでは米国がカナダとメキシコからの輸入品に関税を課す可能性を考慮していないため、この予想も高い不確実性にさらされています。
2025年にカナダが深刻な課題に直面することは確実です。低迷する国内生産性に対処する政策が求められていますが、首相辞任に伴う連邦議会の休会により、企業投資を促す政策の実施は先送りされそうです。また政府にとっては、防衛・安全保障支出の拡大を求める圧力への対応が引き続き優先課題となっています。そして、もし実際に関税が課された場合には、政府は企業と消費者の支援に注力せざるを得ないため生産性向上策の実施に十分なリソースを回せなくなるでしょう。
メキシコ
執筆者:Daniel Zaga、Marcos Daniel Arias
メキシコの2024年の経済成長率は1.6%と、過去数年の実績(2023年は3.5%、2022年は3.1%)と比べて大きく落ち込む見通しです。この減速の背景には、メキシコと米国の両方で大統領が交代し、不確実性が高まったことがあります。その結果、設備投資が妨げられ、投資額は2024年第3四半期末時点で前年比2.3%の減少となりました(2023年同時期は23.7%の増加)。
さらに、政府はインフラプロジェクトへの支出を減らしており、その影響は建設部門(2024年9月までに2.3%減)などの低迷に現れています。
2025年も政府は厳しい財政規律を維持する必要があるため、こうした傾向は続くと予想されます。また、年初の数カ月間は政治的不確実性が高まりそうです。2025年の実質GDP成長率は1%と予想します。これは最低賃金の上昇(2025年は12%上昇の見込み)により、消費が堅調を保つと見られるためです。リスクは相対的に安定すると予想されます。米国による関税の可能性は見通しの下振れリスクとなる一方、国内への企業移転6が年末にかけて投資を促進する可能性もあります。
現状を見るとインフレ率は高止まりしそうですが、中央銀行が目標とする3.0%(プラスマイナス1%)の範囲内には収まるでしょう。デロイトの2025年の予測値は3.8%ですが、この水準であれば着実かつ緩やかなペースでの利下げが可能と思われます。2024年末時点の基準金利は10.0%となる見込みで、20年間の最高水準付近にとどまっていますが、2025年には利下げが行われ、年末には7.5%になると予想します。
このシナリオでは、2025年を通じて為替レートが1米ドル20ペソ前後で推移すると予想していますが、国内で実施される憲法改正や対米関係の変化を受けて乱高下が生じる可能性も排除はしません。
財政再建への課題
2024年のメキシコの財政赤字は過去最大のGDP比6%に達する見込みです。これは市場の関心を集め、格付機関のフィッチとムーディーズが同国のソブリン債の見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げる一因となりました。メキシコの債務水準は危機的とはいえませんが(GDP比51.4%)、現在の財政は成長を重視する傾向にある一方、政府は今後数カ月の間に野心的な財政再建計画を提示するよう迫られています。この計画に従えば、2025年には公的支出が1.9%減少する結果、財政赤字はGDP比3.9%まで縮小する見込みです7。意欲的な目標ではありますが、様々な問題も立ちはだかります。例えば、経済成長率の鈍化と石油生産量の減少は、いずれも歳入に影響する問題であり、政府の計画における最重要課題となっています。
最後に、メキシコでは2025年6月1日に初の国レベルの裁判官選挙が予定されており、司法制度に大きな転換をもたらしそうです。8
またメキシコは、輸出の80%超を占める貿易相手国である米国との関係維持に多大な努力を払うことになるでしょう。関税の可能性も再燃しており、もし最大限に課せられた場合、両国間のバランスは大きく変わることになります。
コロンビア
執筆者:Daniel Zaga、Nicolás Barone
コロンビア経済は、2023年にはかなり低迷し、成長率は2022年比でわずか0.6%となっていました。建設(4.1%)、製造(3.6%)、小売(2.8%)などの主要部門で付加価値の減少が見られました。
しかし、2024年の経済成長率は第3四半期までの累積で1.6%増を記録しています。これは間違いなく明るい兆しであり、前年に比べ状況が大きく改善していることを示しています。成長率が最も高かった部門はエンターテインメント(9.8%)で、2024年6月と7月に開催されたスポーツイベントが寄与したと見られます。2位は農業部門(8.9%)、3位は行政部門(4.2%)でした。
インフレ率や失業率などの主要マクロ経済指標も改善を見せています。インフレ率は1月の8.3%から11月には5.2%へ、失業率も1月の12.6%から10月には9.1%へと低下しました。
コロンビアの投資状況
コロンビア経済における最大の懸念の一つは投資の不足です。2023年末時点で、投資は2022年比9.5%の減少となっています。
2024年第3四半期には、投資は年率では4.0%の増加となりましたが、累積ではわずか0.64%の増加にとどまっています。投資全体の約20%を占める住宅投資は最も低調で、前年比9.1%の減少となりました。一方、全体の約40%を占める機械・設備への投資は前年比5.9%の増加でした。最後に、全体の30%を占めるその他建築物への投資は12.8%の増加となりました。
デロイトの投資診断レポート(investment diagnostic report)によると、その他建築物は短期的なGDPに最も大きな影響を与える部門とされ、この現象は2024年第2・第3四半期における景気回復と一致しています。一方、機械・設備部門は長期的なGDPに最も大きな影響を与えます。
政府の経済改革
2024年に政府は改革法案をいくつか提出しました。その一つである医療制度改革法案は議会で否決されました。一方、年金改革法は7月16日に成立しました。主な変更点は、労働者が保険料を納付する基金の管理に対し、公的部門の関与が大きくなることです。現行の法定最低賃金の2.3倍までの収入については、全ての年金を政府が負担することになるため、年金制度の長期的な資金調達において政府の拠出が増えると見られます。9
さらに、2024年12月2日には地方交付制度改革法案が承認されました。この改革により、政府の歳入から地方自治体への交付金が増えることになります。現在、政府は歳入の約27%を交付していますが、今回の改革でこの比率を2035年までに段階的に39.5%へ引き上げる予定です。
いずれの改革も中長期的に財政を圧迫すると考えられるため、今後の政権は新たな財源を見いだす必要があるでしょう。また、労働改革法案も承認を待っている状況です。これは、特に夜勤や休日・日曜出勤をする労働者などの労働条件の改善を目指したものですが、結果的に採用・解雇コストの上昇を招くことになります。そのため現在、低下傾向にある失業率に影響を与える可能性があります。
最後に、政府は2025年予算の財源を確保するため、GDPを0.9%押し上げることを目指した資金調達法案を提出しました。この法案では、オンラインギャンブルへの課税を主な財源と位置づけています10。しかし、現行の法案は2024年12月11日に議会で否決されました。これを受けて政府は、引き続きオンラインギャンブルに重点を置き、税制措置と脱税対応の強化を図る修正案を出すと発表しました。
全体としてコロンビア経済は、物価と失業率の面では強い回復の兆しとマクロ経済上の安定性が見られるものの、一部に留意すべき弱点が残っています。成長を阻害する最大要因の一つは、やはり投資の不足です。投資は2024年第3四半期には前年比で4.0%増加しましたが、年初来で見ると前年比わずか0.64%の増加にとどまっています。改革に伴い情勢が変化する中、政府は財政状況を健全に保つための新たな財源を模索する必要があるでしょう。
アルゼンチン
執筆者:Daniel Zaga、Federico Di Yenno
2023年12月に発足した現政権は、以下を柱とする経済プログラムを実施しました11。
- 中央銀行による財政ファイナンスを終わらせるための財政再建
- 中央銀行が民間銀行に対して保持していた有利子負債の解消。過去の政権は、過剰な貨幣供給を不胎化する目的で有利子負債を保持していたが、その利払いのため内発的に貨幣を創出する原因となっていた
- 為替レート政策。2023年12月、非公式為替市場との乖離を縮小するため大幅な通貨切り下げを実施。その後、インフレ期待を固定させるため2024年を通して毎月2%の切り下げを行った
2024年には、公共事業支出、エネルギー・輸送補助金、年金、公務員給与の大幅な実質削減を通じ、財政黒字を達成しました。その結果、1月から10月の間に基礎的財政収支はGDP比1.8%の黒字を達成し、利払いを含む財政収支もGDP比0.5%の黒字となりました。政府は、2025年もこの財政均衡を追求し続けると表明しています。
現政権は発足直後、当時100%を超えていた非公式為替市場との乖離の縮小を目指し、最初の切り下げを実施、為替レートを1米ドル366アルゼンチンペソから800アルゼンチンペソとしました(54%の切り下げ)。その結果、インフレ率は2023年11月の前月比12.8%(年率160.9%)から加速し、12月には25.5%(年率211.4%)、2024年1月には20.6%を記録しました。これにより、実質賃金が大きく下がり、特に深刻な打撃を受けた公的部門と地下経済は、1年間を通して回復が困難な状況でした。
アルゼンチン経済は、2023年には既にGDP成長率が年率マイナス1.6%を記録していましたが、財政調整と最初の為替レート調整の結果、2024年第1四半期のGDP成長率も前四半期比マイナス2.2%と大きく落ち込み、第2四半期もマイナス1.7%と低迷しました。最も打撃を受けた部門は、製造(上期年率マイナス15.6%)、公共事業中止の影響を受けた建設(マイナス21%)、小売(マイナス12.6%)でした。一方、農業部門は2023年の干ばつ被害から回復し、力強い成長を示しました。
第2四半期半ばには、経済活動は安定し、回復に向かう兆しが見られました。この回復は、インフレ率の段階的な低下による実質賃金の改善や、中央銀行による連続的な利下げを受けた現地通貨建て民間信用の拡大によって支えられました(民間信用の拡大は、商業銀行が中央銀行の有利子負債に資金を供給する代わりに企業や家計への融資を拡大し始めたことにもよります)。その結果、第3四半期の経済活動は前四半期比で3.4%成長したと推計されます。
アルゼンチンは、中央銀行のバランスシートの負債サイドを有利子負債の解消によって再編することに加え、資産サイドについても、輸出の増加と輸入の大幅減少を通じて外貨準備高を積み上げ始めています。純外貨準備高は、2023年11月のマイナス120億米ドル(つまり、中央銀行の有する準備高が今後1年間の債務を下回っている)から、2024年11月にはマイナス50億米ドルまで改善しました。
さらに政府は、経済の各主要部門で一連のマクロ経済規制改革を導入し、「基盤法(Ley Bases)」に対する議会承認を得ることに成功しました。これにより、所得税・財産税、労働改革、一部の公的企業の民営化、無申告資産に対する租税特赦、大規模投資優遇制度などの重要な改革を推進しています12。
その結果、カントリーリスクは、既に財政黒字と改革の初期実績とが相まって、2023年11月半ばの2,500ベーシスポイントから2024年7月には1,600ベーシスポイントへと改善していましたが、さらに無申告資産に対する租税特赦の影響で8月から急低下しています13。租税特赦により、国内で資産を申告していなかった納税者が最大10万米ドル(特定の投資についてはそれ以上)の罰金を支払うことなく金融システムに参入できるようになりました。その効果は予想以上でした。200億米ドル以上がシステムに流入したことでアルゼンチン債券は持ち直し、カントリーリスクが800ベーシスポイント以下にまで下がったほか、非公式為替レートも低下しました。
このように2024年終盤には、経済は緩やかな回復を示し、インフレ率が11月に前月比2.4%(年率166%)まで低下、為替レート乖離(公式・非公式レート間)が約5%に縮小(2023年11月末は130%)したほか、カントリーリスクも低下しました。ただし2025年も、重要な制限・規制の撤廃を続ける必要があります。
特に、公式為替市場への自由なアクセス、輸出入の正常化、公式・非公式の両市場での同時取引の自由、特定の産業における輸出税・輸入関税の削減・撤廃などの、外国為替に係る制限がいつ撤廃されるかが不確実な状況です。外国資本の流入増加を妨げているこれらの制限の大部分は、2025年下半期までには撤廃されるとデロイトは予想しています。
またデロイトは、2025年の経済成長率は3.7%に達すると見ています。その要因としては、経済の2大牽引役である製造業と建設業の回復、バカムエルタ鉱区の開発により記録的な石油・ガス生産量を達成した炭化水素産業の活性化、長年赤字続きだったエネルギー産業での54億米ドルの黒字達成が挙げられます14。一方、政府の経済プログラムの支柱である財政黒字は2025年も継続する見込みであり、これを受けてインフレ率は1年をかけて年率32%まで下がり続けると予想されます。
2025年のもう一つの重要な要素は、「大型投資優遇制度」の効果でしょう。この制度は、2億米ドルを上回るプロジェクトを誘致するために、財務、関税、為替面での優遇措置を30年間提供するというものです。これまでにリチウム、銅、金、太陽光エネルギー、石油、天然ガスに対する複数の投資プロジェクトが制度に取り込まれています。さらに今後1年を通して新たなプロジェクトが続々と追加され、こうした分野での国家の潜在力が有効活用されることになるでしょう。
欧州
ユーロ圏
執筆者:Pauliina Sandqvist
2024年:わずかに拡大も、成長パターンにはばらつき
ここ数年間、ユーロ圏は他の多くの西側地域を下回る低成長に甘んじてきました。2024年もユーロ圏の成長率は低迷しました(約0.8%15、これに対し2023年は0.4%16)。ただ、金融政策の引き締めや地政学的不確実性を考慮すれば、成長していること自体が経済的力強さの表れともいえます。
また産業によるばらつきも分析から明らかになっています。金利の上昇や経済的不確実性の高まりを受け、特に機械・設備産業と建設業への投資が減少し、資本集約型の産業が大きな打撃を被りました17。一方、資本よりも労働力への依存度が大きいサービス業は緩やかに拡大しました。その結果、特にドイツ、オーストリア、フィンランドなど製造業の割合が高い国ほど低調な一方、スペインのようにサービス業を主体とする国ほど成長率が高くなりました。
民間消費は2024年に回復したものの、予想より勢いがなく回復開始時期も遅れました。これは貯蓄志向が高まり貯蓄率が上昇し続けたこと、つまり消費の伸びが所得の伸びを下回っていたことが原因です。ユーロ圏の貯蓄率は2024年第2四半期には15.7%に達し18、12.5%程度だったパンデミック前の水準を大きく上回りました。消費者信頼感は持ち直したものの19、不確実性の高まりと金利の上昇を受け貯蓄志向が強まっています。
当然ながら2024年は投資が縮小しましたが、その一方でインフレ軽減措置や防衛費拡大などによる政府支出の増大が経済活動を下支えしました。純輸出もGDP成長にプラスに働きました。
消費主導の緩やかな回復が続く
経済的不確実性が高まる一方で利下げが進行する中、2025年のユーロ圏には何が期待できるでしょうか?答えは民間支出に牽引された継続的な回復です。購買力の回復、高い貯蓄率、インフレ率の低下、堅調な労働市場が個人消費を押し上げるでしょう。ただし、そのためには消費者が貯蓄志向から消費志向へと転換する必要もあります。
2025年全体としては、金融政策と財政政策の相互作用が鍵となります。一方では、緩和的な金融政策により貯蓄意欲が弱まり、投資資金の調達条件が緩和されることから経済活動が活発化する可能性が高いでしょう。他方では、大半のユーロ圏諸国が財政再建へと舵を切り、高インフレの影響を軽減する支援措置を中止していることから、財政政策による経済押し上げ効果が限定されると見られます。すなわち、GDP成長率への政府支出の寄与は小さくなると予想されます。
こうした中、金利低下に加え「次世代EU」プログラムから提供される資金が投資活動の下支え役となりそうです。ただし期待される効果は各国の資金割当額に応じて国ごとに大きく異なるでしょう。
また、海外需要が経済活動を促進するものの効果は限定的と見られます。EU域外の多くの地域では成長率が鈍化すると予測されますが(そうした地域は過去2年間、欧州やユーロ圏を上回るペースで成長してきました)、欧州では特にEU域内貿易が牽引し、成長ペースが好転する見通しです。そのため輸出の増加が見込まれますが、輸入も増加する可能性が高いため結果的にGDP成長率への純輸出の寄与は限定的となりそうです。
全体としては、インフレ率は今後1年間でやや軟化し2024年の2.4%から2025年には2.1%へと低下する見込みですが20、これは賃金上昇率が鈍化する中、高止まりしていたサービスインフレが落ち着くと見られるためです。インフレ率の動向はエネルギー部門のベース効果によって多少変わってくるでしょう。
ユーロ圏全体の実質GDP成長率は2024年の0.8%から2025年には1.2%とわずかに上昇する見込みです21。ただし家計の貯蓄意欲の低下や地政学的問題の深刻化が貿易に及ぼす影響などを踏まえると、これらの予想にはかなりの不確実性が伴います。
イタリア
執筆者:Marco Vulpiani、Claudio Rossetti
2024年のイタリア経済は減速を続け、わずかな成長にとどまりました。拡大したサービス業を除き、製造業と自動車をはじめとするほぼ全ての産業で弱さが続きました。イタリアの消費者信頼感と企業景況感は2024年を通して低調でしたが、その背景にはユーロ圏の主要諸国の経済も不振だったことがあります。家計実質可処分所得の回復、インフレの鈍化、消費者信用へのアクセス改善によって消費が下支えされ、総需要を一部押し上げました。ただ消費者物価インフレ率は低水準にとどまる見通しで(1.6%)、2025年のイタリアのGDP成長率は緩やかに改善し1%に達すると予測されます。
供給サイドでは、2024年のGDP成長に寄与したのはサービス業のみで、他のほぼ全ての産業は縮小しました。鉱工業生産は2023年に縮小していましたが2024年も落ち込みました。実績は産業によって大きく異なります。最も縮小した産業は自動車とファッション(皮革製品、衣類、繊維)でした。また建設業では2021年以降、投資額が著しい伸びを記録していましたが、2024年には住宅修繕に対する税額控除の縮小により住宅建設産業が大打撃を受けました。2025年も他の税制優遇措置が期限を迎える際に同様のリスクが生じると見られます。住宅以外の建設は「国家復興・強靭化計画」による資金と有利な銀行借入条件の恩恵を受けるでしょうが、建設業全体としては減速が予想されます。
自動車およびファッション産業の(生産、収益、雇用面での)重要性を踏まえると、両産業で生産が急減したことはイタリアの成長にとって重大なリスクとなります。特に自動車産業の低迷(自動車生産の減少は鉱工業生産全体の減少を大幅に上回りました)には様々な本質的要因があります。しかし最も重要な要因は需要の低下でしょう。実際、需要はコストの上昇(特に電気自動車)と、消費者行動の変化(若い世代は自動車を所有するよりカーシェアリングを好むとされる)という二つの要因から大きな影響を受けています。また特に電気自動車は、充電インフラの不足、充電時間の長さ、走行距離の短さがネックとなりイタリアでは未だに利用が進んでいません。
一方、2024年のイタリアのGDP成長率に最も寄与したサービス業では観光業が引き続き主な牽引役となりました。観光業は特に外国人観光客に支えられ、拡大を続けています。2024年のイタリアの観光消費総額は増加となりましたが、これは主に観光客1人当たりの平均消費額が増加したためです。この増加はもっぱら外国からの観光客によるもので、国内消費の弱さを反映した国内観光客の微減分を十分に補いました。観光はイタリア経済の主要産業であり、国内GDPと雇用に直接的にも間接的にも(高額消費の「乗数効果」によって)大きく貢献しています。イタリア国内の様々な観光地の中でも、中世の歴史を残す地域(borghi=ボルギ、小さな村々の意)が果たす独特の役割は注目に値します。これらの村々はイタリアの貴重な歴史的、芸術的、文化的遺産です。
こうした村々はイタリアの平均的な自治体と比べて人口減少が著しいという特徴がありますが、デロイトの最近の経済調査レポートでは22、イタリアのGDPと雇用に重要な貢献をしていることが明らかになっています。したがってこうした地域で輸送やデジタルのインフラ整備を進めることが、将来的な人口減少対応や地域の発展・魅力づくりを促進するための抜本的な機会となるでしょう。
2024年には継続的な雇用の拡大、賃金上昇率の高まり、インフレの鈍化を受け、家計実質可処分所得が増加しました。さらに最近の金利の緩やかな低下も借入に有利に働き、家計の負担を低減させています。その結果、前年には減少していた財消費が2024年には徐々に持ち直しました。しかし不確実な地政学的状況の中、家計は前年までの高インフレ下で激減した貯蓄を回復させようとしているため、消費の持ち直しは限定的でした。過去2年間で激減していた貯蓄が2024年に急激な増加に転じたことが、消費の足かせとなった格好です。2025年には家計の貯蓄率が徐々に正常化し、消費を再び押し上げるものと予想されます。
イタリアのインフレ率は2024年に減速し、欧州主要国の中でも特に低い水準となりました。にもかかわらず電気とガスの価格は依然としてフランスやドイツなど他の欧州主要国より高い水準にあり、イタリア企業の競争力に影響を与えています。2025年もインフレ率はユーロ圏の予想水準および欧州中央銀行の目標値である2%を下回ると見られます。こうしたインフレの鈍化に加え、名目賃金が上昇することで、実質賃金は徐々に回復すると予想されます。イタリアの労働市場は2024年に総じて縮小しました。実際のところ、雇用者数は増加し続けているものの労働時間が特に鉱工業部門で減少しています。
最後に、2024年のイタリアの財の輸出は低調でした。EU市場での売上(特にイタリアの最大輸出先であるドイツへの輸出)が減少した一方で、EU域外市場での売上(特にイタリアにとって第2位の輸出先である米国への輸出)が増加し、これを補いました。他方で財の輸入は大幅に減少したため、最終的に純輸出は同年のGDP成長率にプラスに寄与しました。
イタリアの投資は引き続き高い資金調達コストと建設業における奨励制度の縮小の影響を受けることになるでしょう。消費と輸出は家計の購買力と国際貿易の回復に支えられ、2025年には改善が期待されます。2025年のイタリア経済は、ユーロ圏諸国の予想平均とほぼ同程度の緩やかなプラス成長を維持すると見られます。消費者インフレ率は若干上昇しそうですが、ユーロ圏平均よりは低い水準となるでしょう。
ドイツ
執筆者:Alexander Boersch
不確実性が高まる中、わずかに回復
ドイツ経済にとって、2025年は将来を左右する波乱の1年となりそうです。2024年末には欧州委員会が新体制となり、2025年1月後半には米国で新政権が発足する中、ドイツでは2月の連邦議会選挙により経済政策の優先順位が変わると予想されています。全体としては、2025年には金利の低下により経済はやや回復すると見られますが成長水準は依然低いままでしょう。ドイツ経済が直面する構造的な課題を踏まえると力強い成長は期待できません。また特に米国の貿易政策が転換する可能性があることから、経済見通しには大きな不確実性が伴います。したがって経済的競争力の向上と不確実性の低減に焦点を当てた経済政策が求められます。
明暗が分かれる経済
2024年はドイツ経済にとって失望感の強い1年でした。年初には実質所得の上昇、堅調な労働市場、高い貯蓄率、利下げ予想を踏まえ、景気は消費者主導でわずかに好転するだろうという期待がありました。しかし、早くも夏の初めにはこの期待は非現実的に見えてきました。民間消費は停滞し、投資は減少し、対外貿易も成長にほとんど寄与しませんでした。鉱工業は特に不振で、鉱工業生産はパンデミック前の水準を10%超も下回り、年間で約4%減少しました。
一方でサービス業は安定的に成長しました。こうした状況でドイツの経済成長率はマイナス0.2%と、2年連続の微減となりました。この水準を見ると現状は景気後退よりは景気停滞の段階に近いといえますが、それが経済の安心材料になることはありません。ドイツでは長年こうした停滞傾向が続いており、GDP水準は現在もパンデミック前の水準をわずかに上回る程度です。
しかし金融政策の面で経済には明るい材料も見えます。現在は利下げサイクルの真っ只中であり、2025年もこの状況が続くと予想されます。欧州中央銀行の銀行貸出調査によると23、ドイツ企業の信用需要は既にやや持ち直しており、6四半期間マイナス圏にとどまった後、2024年夏以降はプラス圏に浮上しています。さらなる金融緩和が支えとなり資本コストの低下傾向は今後数四半期も続くと見られることから、融資需要は一層高まると予想されます。
不確実性が投資、消費、貿易に影響
しかしながら、投資が急増する可能性は低そうです。2024年秋に行ったデロイトのCFO調査(ドイツ)の結果でも24、力強い成長への期待はほとんど示されていません。向こう12カ月間の投資意欲を示す指標値はほぼ変化がなく、ゼロ付近にとどまっています。つまり企業は投資額をこれまでと同程度に抑えておきたいということです。ただし状況は産業によって大きく異なり、この傾向は2024年から続いています。具体的には、製造業の投資計画は縮小している一方で、サービス業の投資計画はわずかながら再び拡大しています。
全体として、高い不確実性が投資の抑制要因となっています。経済政策不確実性指数は2022年以降、ドイツの経済的不確実性が欧州や米国に比べてはるかに高い水準にあることを示しています。ウクライナでの戦争との関わりの深さとその後のエネルギー危機がこの傾向を一層悪化させています。これは状況を打開する上で経済政策が重要な役割を果たし得ることを示唆してもいます。
消費者サイドでは、個人消費が増加するための基礎的条件はそろっています。インフレ鈍化と高い水準の賃金妥結額が実質所得を押し上げています。金利水準の低下は貯蓄の魅力を低下させ、消費の押し上げ要因となるはずです。さらに労働市場も概ね安定しています。にもかかわらず高い不確実性が主因となり、2024年上半期も個人消費は低迷しました。ようやく夏以降、消費が若干回復する最初の兆しが見えてきました。第3四半期には小売売上が増加し、民間消費がわずかに上昇しました。実質所得がさらに上昇していることから、民間消費のゆるやかな回復は今後も続くと予想されます。
ドイツの2024年の輸出は不調で、経済成長にほとんど寄与できませんでした。この状況が2025年にどれだけ変わるかは、米国の新政権の貿易政策、およびドイツの2大重要輸出先である米国・中国間の関係進展に大きく依存することになりそうです。ただいずれにしても、新たな貿易・地政学的環境において対外貿易がこれまでのように投資の刺激要因としての役割を果たすことはできないでしょう。
結論として、デロイトは2025年のドイツの成長率は0.7%になると予想します。これは2024年を上回ってはいますが、力強い回復からはほど遠く、成長基調にあった2010年代の水準にさえ届いていません。成長率が上昇するには、ドイツと欧州の両方で構造的な経済政策改革が行われる必要があります。短期的には、経済政策の不確実性を低減させ、金利の低下とそれを受けた個人消費が成長を牽引する状況を実現することが不可欠です。
フランス
執筆者:Olivier Sautel、Maxime Bouter
2024年のフランスのGDP成長率は、公的支出、公的投資、対外貿易収支に牽引され、1.1%になると推定されています25。年間を通じた輸入の減少と民需の低迷により貿易収支が改善し、成長率にプラスに寄与しました26。2024年にパリで開催された世界的なスポーツ競技大会もGDPにプラスに寄与(第3四半期に0.25%ポイント)しましたが、この一時的効果は2024年第4四半期には消失すると見られます。27
2025年のGDP成長率は0.9%となる見通しで28、民需が牽引役になりそうです。財政赤字の縮小を目的とした公的支出削減と財政政策は、成長にマイナスに働くでしょう。2024年には名目賃金の上昇率がインフレ率を上回りましたが、この傾向は2025年も継続し、家計の購買力を押し上げるはずです。また金利の低下は貯蓄意欲を減退させ、民需にプラスに働くと予想されます。こうしたプラスの効果にもかかわらず、失業率の上昇が民需を圧迫する可能性もあります。企業投資は引き続き低調が見込まれますが、これは利下げ効果が出るまでの時間差、企業に対する公的支援の終了、税率の引き上げによるものです29。
財政政策と金融政策の役割
2023年と2024年には「フランス再興」や「フランス2030」などの公的な政策が成長を後押ししました。しかしこうした政策は今後終了するため、2025年の成長にはマイナスに働く可能性があります30。一方2024年には欧州中央銀行が利下げを実施しましたが、金融緩和の効果が現れるまでには時間差があるため、金融政策による成長への効果は2024年にはマイナスにとどまり、2025年になってプラスに転じると見られます。このように2024年には財政政策がプラス、金融政策がマイナスに働いていましたが、2025年にはこの状況が逆転することになりそうです31。
労働市場の動向
2024年にはフランスの労働市場は活況を呈し、失業率は7.3%と2008年以来最低となりました。しかし雇用創出は減速しており、ネット雇用者増(前年比)は2022年の50万人から2023年には21万人、2024年上半期には7万3000人にまで落ち込んでいます。失業率は2025年には景気減速により約8%にまで上昇する可能性がありますが32、2026年には経済成長率の上昇が見込まれることから低下すると思われます33。
財政状況
欧州委員会によると、フランスの財政赤字は2023年以降、他のユーロ圏諸国を上回っており、2023年にはGDP比5.5%に到達、さらに2024年にはGDP比6.4%に拡大する見通しです34。欧州委員会はこの赤字が2025年には5.3%まで縮小すると予測していますが、それでも財政危機の時期以外では異例の水準です。当然ながらEU理事会は2024年、フランスに対して過大な財政赤字是正手続きを開始し、マーストリヒト基準を満たすための財政調整措置を義務づけました。フランス政府は2024年に全省庁での財政削減を発表し、2025年にもさらなる措置が見込まれています。これにより例えば、家計への支援が120億ユーロ(GDP比0.4%)減少し、大企業からの歳入が210億ユーロ(GDP比0.7%)増加します。こうした措置により財政赤字は2025年までに5.3%に縮小する見込みですが、名目GDP成長の停滞や利払い額の増加により赤字が拡大する可能性もあります35。公的債務は、2023年のGDP比109.7%から、2024年には112.7%、2026年には117.1%に増加すると予測されています36。
フランスの経済見通し
2025年のフランスの経済見通しは厳しいでしょう。主要な成長ドライバーを公的需要から民間需要に転換させることには不確実性が伴います。実質賃金の伸びや金利の低下は一定の後押しとなりますが、公的支出の削減や失業率の上昇による悪影響を打ち消すには不十分と見られます。また、停滞した投資環境も成長見通しをさらに悪化させます。財政再建措置は必要ではあるものの、それにより経済活動が抑制され、財政赤字の拡大が続くことも考えられます。こうした要因に加え、政治的不安定や国際的・地政学的緊張がもたらす深刻なリスクを踏まえると、2025年のフランスの経済見通しは厳しいといえます37。
スペイン
執筆者:Ana Aguilar
2023年のスペイン経済は、予想と欧州全体の成長水準をともに上回りました。2025年のスペインの成長率は約2.5%38と、欧州平均の2倍となる見通しです39。サービス業の好調という世界的な傾向がスペインに有利に働きました。さらに欧州全体の状況とは異なり、スペインの製造業は2024年末時点でも未だ拡大傾向にあります。購買担当者景気指数はスペインのサービス業と製造業の成長が今後数カ月も続くことを示唆しており、景況感も明るさを維持しています。
2025年は雇用と賃金の伸び、金利と貯蓄率の低下に支えられ、消費が主要な成長ドライバーになると予想されます。サービス業と製造業の成長により労働市場は拡大するでしょう。2024年末時点で、雇用は大半の業種で拡大(11月は2.4%)を続けています。失業率は若干低下すると見られますが、引き続きEU平均を大幅に上回る見込みです。
インフレ率は2023年下半期から2024年にかけて徐々に低下したのち、2025年には欧州中央銀行の目標である2%付近に落ち着きそうです。一方2023年に企業と労働組合代表の間で合意が形成されたことを受け、賃金は約3%上昇すると見られます。これにより2022年から2023年のインフレ急上昇に見舞われた家計の購買力は徐々に回復するでしょう。2024年末時点で、小売支出は拡大(11月は前年比3.5%)を続けています。貯蓄率は若干下がったものの依然として高い水準(2024年第2四半期は13%、第1四半期は14%)40にある一方、家計の債務水準は下がり続けています(家計債務はGDP比で2024年第2四半期が45%、2023年第2四半期が49%)41。金利がさらに低下すれば家計の負担は軽減されるでしょう。ユーロ圏の金利は今後も低下傾向が続き、預金ファシリティ金利は現在の3%から、2025年末にかけて2%程度にまで下がると予想されます42。
2024年にスペインのGDP成長を支えた要因の一つは公的支出でした。しかし危機の影響が落ち着き、EUの財政ルールによる制約が始まる中、公的支出の寄与度は縮小すると見られます。危機対応措置の終了、経済成長、財政措置が奏効し、財政赤字は2025年にはEU基準の3%をわずかに下回る見通しです。欧州委員会はスペインから提出された中期財政構造計画の評価を行い、EU理事会による承認を提案しました。この計画では、今後7年かけて財政調整を達成し、公的債務比率を持続可能な軌道に乗せるとしています。スペインの独立財政監視機関は、実際の純歳出額によっては公的債務(対GDP比)の削減幅は計画の想定より小さくなる可能性があるため、さらなる調整が必要になる可能性があると強調しています43。
輸出は2025年も経済成長に寄与するものの、過去数年間非常に堅調だった観光輸出の伸びがやや減速すると見られるため、2024年の寄与度には及ばないでしょう。米ドルに対するユーロ安は輸出に有利に働きますが、関税が段階的に適用されれば2025年中にも財の貿易に影響が出始め、2026年以降はさらに大きな影響が現れると予想されます。ただ、スペイン経済は他の欧州諸国ほどリスクにさらされてはいません。米国への商品輸出が全商品輸出に占める割合は、EU平均が20%であるのに対し、スペインは5%にとどまっています。しかも米国はスペインに対して貿易黒字の状態にあります。ただしEUの製品に関税が課されればスペインも影響を受けるでしょう。
成長の達成と生産性の向上において鍵となる投資は、2024年は予想を下回り低調でしたが2025年には回復しそうです。この背景には、金利の低下、大規模変革への取り組み、企業によるレバレッジ解消の著しい進展(非金融企業の債務総額(GDP比)は、2024年第1四半期は65%、これに対しパンデミックのピークだった2021年第1四半期は91%、金融危機のピークだった2010年第2四半期は120%)44があります。しかし長引く不確実性(スペイン中央銀行の企業調査によれば、現在ビジネス活動を制約している最大要因)45により、企業の投資意欲を低下させる可能性もあります。
北欧諸国
執筆者:Bryan Dufour
北欧諸国の見通し
北欧地域の2025年の成長率は約2%と、2024年の推定値1.1%から大きく改善する見通しです。成長率は5カ国全てで1.5%を上回ると見られ、最も高いデンマークが約2.5%、最も低いフィンランドが1.5%強となる見込みです。各国はそれぞれ独自の課題を抱えています。
スウェーデンは国内労働市場の改善に取り組んでいますが、北欧諸国内でも特に高い失業率に今後も悩まされることになりそうです。フィンランドも同様の失業率(8%)になると見られます。また同国では、ロシアのウクライナ侵攻後に従来の貿易ルートが崩壊しており、今後も貿易見通しの不振が続くと見られます。デンマークでも貿易が引き続き最大の不確実性となりそうですが、その背景には中東での貿易ルートが崩壊する恐れがあること、および関税適用の可能性が高まっていることがあります。ノルウェーでは、長らく待ち望まれた民間消費と国内経済の回復が近づいているようです。一方アイスランドでは、北欧諸国内で最も高いインフレ率と金利への対応が続きそうです。
スウェーデン
北欧最大の経済を有するスウェーデンの成長率は、2025年には約2%となり、不振だった2024年の0.6%から改善する見通しです。2024年終盤の経済指標は依然として弱かったものの、2025年の回復を期待させる兆しも見られました。インフレ率の急低下(1%未満に低下)が予想される中、民間消費が主要な成長ドライバーとなり、ほぼ横ばいだった2024年の0.1%減から2%増へと改善する見込みです。また投資も信用条件の緩和に支えられ、前年の2.2%減から2%増へと回復する見込みです。
失業率は8.3%と北欧諸国で最も高い水準にとどまっていますが、今後は低下基調をたどることが予想されます。
ノルウェー
ノルウェーは政策金利が2023年10月に4.5%のピークに達して以降、北欧で唯一利下げを行っていません。2025年の早い時期に最初の利下げが予想されていますが、インフレ率が目標の2%をやや上回る水準で推移すると見られるため慎重な姿勢が維持されそうです。この利下げ転換により、過去2年間、投資活動が停滞していた非石油部門を中心に投資が活発化すると予想されます。投資額は3.1%増加し、GDP全体の成長を押し上げると見られます。GDP成長率は1.5%を超える見通しですが2.0%には届かないでしょう(2024年は1.2%)。3年ぶりに名目賃金の上昇率がインフレ率を上回ると見られる中、民間消費(1.8%増の予想)も重要な役割を果たすことが期待されます。
デンマーク
2025年のデンマーク経済は北欧諸国内でも特に好調が予想され、成長率は2.0%~2.5%に達する見通しです(2024年は2.8%)。前年から低下となるのは、特に海産物や医薬品などの輸出の減速が予想されているためです。
北欧諸国内で最も輸出依存度の高いデンマークは、現在の地政学動向を左右する通商面での不確実性に特にさらされているといえます。しかしインフレ率が反発するとの予想(1.4%から2%へ)にも関わらず国内需要は高まる見通しであり、輸出主導の成長減速を相殺すると見られます。2024年に低迷していた民間消費は約1.5%の増加が予想される一方、投資は2024年の1.4%減から2.2%増へと好転する見通しです。
フィンランド
北欧で唯一のユーロ使用国であるフィンランドは、ロシアとの地政学的緊張に最も敏感な国でもあり、2025年も先行き不透明な状況が続くと見られます。この問題は今後もフィンランドの通商見通しの重石となるでしょう。しかし金利の低下に支えられ、投資は著しく低迷した2024年(6.5%減)から、2025年には力強く回復することが予想されます(3.4%増)。
またフィンランドは、インフレ率が抑制されているというメリットがあり(インフレ率は目標の2%を若干下回る見込み)、欧州中央銀行の継続的な金融緩和にも支えられて、民間消費は1.8%増加する見通しです(2024年は0.5%増)。最近発表された一部の物品に対する付加価値税の引き上げは重大な影響をもたらすとは思われませんが、経済の回復に伴い追加の措置が講じられる可能性はあるでしょう。
アイスランド
アイスランドの2024年の経済成長率は推定わずか0.7%と、前年の5.0%から急落しました。2025年には回復が期待され、予想成長率は2.0%超を維持しているものの2.5%には届きそうにありません。最大の成長ドライバーは国内需要になると見られますが、海外からの観光も回復しそうです。
ただしアイスランドは引き続き北欧で最も高いインフレ率(3%超)と金利(7%超)に直面する見通しで、それらが成長を抑制するでしょう。さらにレイキャネス半島での火山活動による潜在的影響は未だに重要な不確実性要因となっており、継続的リスクとして注視されています。
ポーランド
執筆者:Aleksander Laszek
2024年のポーランド経済は主要な貿易相手であるドイツ経済の弱さに反して意外な回復を見せましたが、そのペースはむしろ緩慢でした。
昨年のポーランド経済の成長を牽引したのは国内需要でした。景況感に関しては、欧州委員会のデータによると消費者信頼感が最も力強さを示しています。堅調な労働市場が賃金と実質所得を押し上げ、サービス業と国内市場の生産業者に恩恵をもたらしました。一方で、世界経済の不振を受け輸出は低調でした。こうしたマクロ経済状況は企業部門の業績に反映されており、国内売上が伸びた一方で輸出は減少しています。
ポーランドの2024年の経済成長率は3%となる見通しです46。この実績は他のEU諸国に比べると力強く、ポーランドを最も高成長な5カ国の一つに位置づけるものですが、同国のこれまでの回復幅や過去20年間の長期的な平均成長率3.8%に比べるとやや勢いに欠けます。この減速は低調な海外需要に加え、高齢化などの長期的要因によるものといえます。
2019年以降、ポーランド人労働者数は高齢化の影響で減少傾向にありますが、これまでその影響はポーランド国内で働く外国人(主にウクライナ人)の増加によって相殺されてきました。注目すべき点として、ポーランドは過去5年間、欧州で最も急速に成長してきた国の一つであり、この間の累積成長率は12%に達します。これは同期間のドイツの成長率0.5%と比較すると目を見張る実績です。一方で、これはポーランドが追随を図り続けているテクノロジー先進国である米国の成長率10%をわずかに上回るにすぎません。
2025年の経済成長率は3.5%に加速するとデロイトは予想しています。実現した場合、ポーランドはEU諸国内でGDP成長率上位3カ国に入ることになりますが、これにはドイツ経済の回復とEU基金からの資金受入の増額などによる投資の拡大が前提となります。あいにくポーランドは、インフレ率の上昇に加え、社会保障費の増大やロシアのウクライナ侵攻を受けた軍備強化の必要性による大幅な財政赤字に直面しています。
2025年には世界情勢の変化がポーランドの経済成長に影響を与えると見られます。ポーランドと中欧は非常に開かれた経済圏であるがゆえに、米国の選挙後の政策変更に良くも悪くも左右されそうです。一方では、新政権下での規制緩和がイノベーションや世界的成長を促進するでしょう。しかし他方では、関税が中欧に直接的に、または西欧の主要な貿易相手国への課税を通じて間接的に打撃を与える恐れがあります。米国で減税を主体とした財政拡大の結果金利が上昇すれば、新興市場や中欧からの資本逃避を招きかねません。さらに、NATOの保証が弱まればこの地域のリスクプレミアムは上昇すると見られ、特に輸出依存のドイツが高い政策的不確実性に直面している現状を考えると事態は深刻です。
デロイトは、ポーランドは中期的に欧州で最も急成長する経済大国であり続けると考えています。1人当たりGDPが相対的に低いため、過去35年間に見られたような高成長への収斂が今後も続くと見られます。一部の産業や企業は既に欧州全体の水準の労働生産性を達成していますが、まだ他の領域には非効率性が残っています。生産性の低い組織で働く人が減少する中、全体的な生産性は以前より緩やかなペースではあるものの今後も高まっていくでしょう。労働年齢人口の減少はリスクですが、まだ多少の余裕は残されています。ポーランドの失業率(約3%)はEU域内でもかなり低い方ですが、就業率にはまだ上昇余地があります。しかもポーランドは過去10年間、国内労働力に外国人をうまく取り込んできました。
ポーランドは新型コロナウイルスのパンデミック、ウクライナ・ロシア紛争、ドイツの景気後退を実に巧みに切り抜けてきました。この先もウクライナ・ロシア紛争の継続や世界の貿易摩擦といった対外的な問題に加え、巨額の財政赤字や高齢化などの国内問題もあり、困難が続くようにも思われます。しかし、これまで証明されてきたポーランド経済の力強さと目を見張るような成長パターンは今後も続いていくはずです。
英国
執筆者:Debapratim De
英国の経済回復は勢いを失ったようです。2024年は予想外に好調なスタートを切った英国経済ですが、その後は成長の減速、企業景況感の悪化、インフレの上昇という状態で2025年を迎えています47。
本稿執筆時点のGDPデータによると、10月までの5カ月間で経済が成長したのは1ヵ月のみでした。特に製造業の不振が続いています。企業サーベイでも、製造業がパンデミック後の長引く不調から一時的には回復したものの再び縮小していることが示唆されています。サービス業は成長を続けていますが、2024年上半期に比べてペースは鈍化しています。
新たに選出された労働党政権が政策安定と公共投資を公約に掲げたことは、企業から好意的に受け止められました48。しかし秋の予算では1990年代初頭以降で最大となる選挙後増税が発表され49、その負担の大部分を雇用主が担うことが明らかになりました50。これにより企業信頼感と設備投資意欲が押し下げられたと思われます。
利上げの遅行効果と、以前のインフレ率急騰以降長引いている「値上がりショック」を受け、消費者需要は勢いを失っています。家計の信頼感は2022年の底から持ち直してはいますが、依然パンデミック前の水準には全く届いていません。低い失業率と実質賃金の回復にもかかわらず英国の消費者の貯蓄は未だにパンデミック前の水準を上回っています。
消費者は自身の経済状況は改善しているとしながらも、全般的な経済環境については依然慎重な見方を示しています51。最近の経済活動の低迷や総合インフレ率の上昇を踏まえれば、こうした心理も理解できます。インフレ率は輸送、住宅、エネルギーの価格上昇を主因に、9月の1.7%から11月には2.6%に加速しました。
このような状況に加え、経済規模の大きい欧州諸国の成長不振や長引く地政学的不確実性といった難しい外部環境を踏まえれば、当然見通しは悲観的になるはずです。
しかし、英国の経済成長率は2024年の推定値0.8%から2025年には1%に改善すると予想されています。
この加速の主な要因は、昨秋の予算で発表された緩和的な財政政策です。政府の経常歳出は次の会計年度に490億ポンド(GDP比約1.7%)増加する見込みで、増加額は2010年から2019年までの年平均増加額140億ポンドに比べ著しく拡大します52。この歳出増加分の大半が賃金と雇用に回り、家計の消費と需要を押し上げると見られます。政府による投資拡大も、時間差を伴いながらも民間部門の活動を下支えするはずです。最近の英国債利回り上昇が、政府の利払い負担増を通じて公的支出を抑制する可能性はあります。しかし、今年予定されている全体的な財政緩和策が撤回される可能性は低いと思われます。
金融緩和も成長の回復に寄与するでしょう。総合インフレ率は9月以降上昇しており、今後さらに加速すると見られます。ただデロイトは、年内平均は3%を十分に下回ると予想します。重要な点として、コア・インフレ率や変動の少ないサービス価格上昇率で測定される基調インフレ圧力はここ数カ月間安定しており、今後いくぶん落ち着くと思われます。これによりイングランド銀行の利下げ余地が生まれ、成長を支えるでしょう。
最後に労働市場は、冷めつつあるものの歴史的水準から見れば依然逼迫しています。失業率は低く、賃金の伸びは極めて堅調です。雇用主に対する増税により、企業が負担増の一部を従業員に転嫁する結果、今年は民間部門の雇用と所得の伸びが鈍化すると見る向きもあるかもしれません。しかし失業率の急上昇や実質賃金の低下を招くことはなさそうです。デロイトは、実質賃金は2025年を通して上昇し、最終的には消費者需要の幅広い改善につながると考えています。
しかし、財政出動による公共投資の効果がGDPに反映されるまでにはある程度時間がかかるでしょう。冬の間は成長が低迷し、春以降に次第に持ち直した後、2025年下半期になってようやく緩和的財政政策の本格的な効果と家計消費の力強さが実感され始めるとデロイトは予測しています。
ただし依然、下振れリスクも残っています。地政学的展開や世界の通商動向により回復が阻まれる可能性もあります。国内では牽引役が民間部門から公的部門にシフトする中、企業投資や設備投資が激減することも考えられます。しかしどちらかと言えば、緩和的な財政政策と消費者の経済状況の継続的改善が今年の成長を推進する可能性が高いでしょう。
成長率の0.8%から1%への上昇は微々たるものにしか思えないかもしれません。実際、1%の成長率は金融危機後の英国の成長トレンドを大幅に下回る水準です。とはいえ、現在の情勢や外部からの逆風を考えればまずまずの数値といえるでしょう。こうした状況でも英国は今年、欧州の3大経済大国を上回る成長を達成する見通しです。
アジアとオセアニア
中国
執筆者:Xu Sitao
投資家の間ではここ3カ月間、中国政府の政策的支援により変動の激しい国内株式市場は実質的に底を打つものの消費者信頼感の回復や大半の地方政府が抱える財政難の根本的解決には至らないだろうとの考えが広がっています53。国内需要の活性化を目指す政府の取り組みは、依然として緩慢かつ曖昧であるという認識です。
こうした背景の中、2024年12月11日~12日に北京で習近平国家主席が主宰する中央経済工作会議が開かれ、政府による経済救済計画の詳細が示されました。習国家主席によると、2024年の経済成長率は目標としていた5%前後を達成する見込みです。しかし今後については、困難な外部環境や「ポスト不動産時代」への経済的転換にともなう需要不足が、引き続き重要な経済上の課題になるということです。そのため2025年は適度に緩和的な金融政策と財政拡大が実施されることになります54。また同会議では、不動産市場と株式市場の安定が短期目標として掲げられました。
懐疑的な市場関係者は、地方政府の債務借り換えを進めるという中央政府の公約と、多くの地方政府が財政不足に直面しているという現状との乖離に注目しています55。2025年の財政赤字の対GDP比率は上限の3%を超えて上昇すると見られますが、それを大幅に上回ることはなさそうです。
近年、先進国を中心にあらゆる国の政府が最大限の刺激策を講じている中、なぜ中国政府はこのような保守的にも思えるスタンスを維持しているのでしょうか?これには3つの重要な理由があります56。第一に、中国は2008年終盤に打ち出した4兆元の刺激策による副作用や落とし穴を回避しようとしています。第二に、中国は関税が大幅に引き上げられた場合に備えてある程度の財政的余裕を残しておきたいと考えています。そして第三に、中央政府は、これまで不動産部門の活況に乗じて想定以上の利益を得てきた地方政府の裁量を増すことに慎重になっています。
さらに大きな疑問は、不動産市場が未だ下方スパイラルを抜け切っていないと仮定すると、果たしてこうした政策によって経済がデフレスパイラルに陥る可能性を回避できるのだろうかということです。米国がさらなる貿易障壁を築くと予想される中、中国が不動産部門に代わる成長ドライバーとして、あるいは過剰生産分の輸出において、外需に依存することは極めて難しいでしょう。
中国としては、米国による関税の大幅な引き上げは恒久正常貿易関係(PNTR)の地位剥奪の可能性を意味するものであり、そうした最悪の事態に備えるのは当然のことといえます。中国政府はこうした対外的課題にどのように対応するでしょうか?おそらく財政てこ入れに加え、為替レート政策も重要な手段になると見られます。デロイトは、2025年の中国政府の対応は概して象徴的なものにとどまり、これにより5%から7%の人民元安になると考えています。その結果、2025年の中国の成長率は4%前後になると予想します。
アジア諸国は過去2年間、円安に持ちこたえてきましたが、これは大半のアジア諸国では通貨が過小評価されており、国際収支が良好な状態に保たれているためです。しかし大幅な人民元安になれば、中国の強大な競争力がフルに発揮される可能性があります。中国としては、景気浮揚策を実施する一方で、市場アクセスを改善し、「相互主義」および中国の輸出に対する継続的な批判に対応することが必要となるでしょう。
一言でいえば、中国は未だ高所得国入りを果たしていませんが、追いつく余力は十分に残っています。しかし2025年には、中国の政策はさらに重大なトレードオフに直面することになるでしょう。
日本
執筆者:勝藤 史郎
日本経済は長引くデフレ環境から脱却しました。デロイトは成長と価格の安定が今後数年も続くと見ています。実質GDPは、2024年の小幅なマイナス成長(マイナス0.2%)から、2025年には1.1%増に改善すると予測します。2024年のマイナス成長は、国内自動車メーカーによる車両生産の一時停止という特殊要因が大きく影響しました。
また、2024年当初は賃金の伸びを上回るペースでインフレ率が上昇し、個人消費を押し下げました。しかし2023年と2024年の春闘では、それぞれ3.6%と5.1%の賃上げが実現しました57。現在では賃金の伸びがインフレに追いつき、実質賃金の伸びはプラスに転じています。2025年の春闘ではさらなる賃上げが予想され、6%以上に達する可能性もあります。このためデロイトは、2025年には主に個人消費が牽引役となり、潜在成長率を超える成長が十分期待できると考えています。
日本銀行の目標である「賃金上昇を伴う持続的な物価上昇」は既に達成されており、今後も当面続くと見られます。日銀は2024年に政策金利を0.25%へ引き上げましたが、中立水準の1%に到達するまでは2025年も利上げを継続すると予想します。
日本の経済ファンダメンタルズは、今後1年間の底堅い経済成長を示唆しています。賃金の堅調な伸びにより実質個人所得が増加し、全般的な経済成長を促進すると見られます。日本国内の観光も活況で、今では外国人観光客数はパンデミック前の水準を上回っています。インフレは引き続き中・低所得世帯にとってリスク要因となっていますが、政府は2025年からの電気料金補助の再開を決定するなど、財政措置を通じた消費者支援を継続的に行っています。労働市場は全般的に逼迫しており、求人倍率は1.2~1.3倍と堅調です。消費者センチメントは主に高インフレの影響で低位ですが、実質所得が増加し家計の購買力が高まるにつれて改善すると思われます。
日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)は、サービス業の景況感が楽観的であることを示しています。製造業の景況感はやや見劣りするものの安定しています。さらに企業利益は歴史的高水準にあります。これは企業が生産コストの上昇の販売価格への転嫁がうまくいっており、購入側もそれを概ね受け入れていることを示唆しています。一方で、改善する個人消費に比べて企業投資は低調です。これは世界の経済的・地政学的環境を取り巻く不確実性により、企業の生産能力を高める意欲が抑制されているためでしょう。加えて、中国経済の不振が製造・輸出業者に悪影響を与えている可能性もあります。
輸出は日本経済の牽引役の一つになると予想されます。円安は製造・輸出業者にとって追い風となるでしょう。通貨の下落は好調な企業利益をもたらす重要な要素の一つです。ただし、今後の為替市場は輸出業者に有利に働かない可能性があります。デロイトは、2025年には米国FRBが利下げを継続する一方で日本銀行が利上げを続けることから円高が進むと予想します。また米国による貿易障壁が日本の輸出業者にとっての向かい風となる恐れもあります。このためデロイトは、2025年の企業部門については楽観的ながら慎重な見方を維持します。
金融市場の状況は安定的と見られ、今後も引き続き実体経済と消費者心理にプラスに働きそうです。日本銀行が金融政策の正常化を継続したとしても、利上げペースは緩やかなものとなり、景気の足を大きく引っ張ることにはならないと思われます。金融サービス業は、利回り上昇による利ざや拡大の恩恵を受けるでしょう。円高になれば、企業部門における輸入価格や生産コストの上昇がある程度軽減されます。
ただし、特に海外でいくつかリスク要因が生じています。例えば、米国による日本を含む主要貿易相手国に対する貿易赤字の削減や、日本製品に対する関税の引き上げは、日本の製造業者に大打撃を与えかねません。また中東や東アジアにおける地政学的リスクが現実のものとなった場合、経済に甚大な影響が及ぶ可能性があるほか、中国経済の悪化も日本の成長にリスクとなり得ます。
総じてデロイトは、2025年の日本経済は国内需要に牽引され、底堅く拡大すると予想します。主なリスク要因は、米国の対外貿易政策の不確実性や地政学的リスクなど海外発のものであり、それらは日本だけでなく世界経済全体に影響を及ぼす可能性があります。
インド
執筆者:Rumki Majumdar
インドの今年度上半期のGDP成長率は減速するものの、成長は力強さを維持
インドの2024~2025年度上半期のGDP成長率は前年比6.0%と58、インド準備銀行の予測6.9%を大幅に下回りました。これを受け、インド準備銀行は年間成長率予測を7.2%から6.6%へ引き下げました59。インド中央統計局による第1次速報値では6.4%の成長が見込まれています。この不振は主に、上半期の中央政府による設備投資実績対予算比が前年の49%から37.3%に低下61した結果、総固定資本形成が減速(6.4%増)60したことによるものです。この背景には、第1四半期に選挙が実施されたことや、翌四半期に天候に関連した混乱が生じたことがあります。さらに、紅海での混乱を始めとする地政学的問題や貴金属価格の世界的上昇が貿易収支に悪影響を与えました。
生産サイドでは、今年度上半期の粗付加価値が6.2%増と62、前年同期の8.0%から低下しました63。第二次産業の実績は6%増と引き続き低調でしたが、農業とサービス業は力強さを示しました64。
さらに詳細に見ると、景気の底堅さと注目すべき新たな傾向が浮かび上がってきます。
力強さを示す領域
全般的な景気の減速にもかかわらず、一部には勢いを維持している領域も見られます。国内外から圧力を受ける中、これらの領域が成長を支える上で重要な役割を果たしています。
- 農村部の消費:第2四半期に農業の成長率は過去5四半期で最高となる3.5%65を記録しましたが、これは順調なモンスーン、カリフ作物(モンスーン作物、秋作物)の好調な収穫、およびラビ作物(冬作物)の播種状況の改善によるものです。日用消費財の売上増加や、2005年マハトマ・ガンジー全国農村雇用保障法のもとで申請された雇用の減少といった指標は、今年度の農村部の消費が堅調であることを反映しています。
- サービス業:サービス業は今年度上半期に7.1%成長し、特に金融、不動産、専門サービス業が大きく寄与しました。サービス輸出も2024年4月から11月の輸出額が前年比12.8%増の2,480億米ドルに達し、11月の輸出額は過去最高を記録しました66。これは、経済成長と都市部の所得においてサービス業の担う重要性が高まっていることを示しています。
- 高付加価値製造業の輸出:政府計画による支援もあり、インドの製造業はバリューチェーンの上流に移行しつつあります。現在では電子機器、エンジニアリング製品、化学製品が輸出の31%を占めており67、零細・中小企業の寄与、および信用枠の拡大がこれを支えています。
- 財政赤字の抑制:今年度第2四半期の財政赤字はGDP比3.1%と68、制御可能な水準を維持しています。設備投資への政府支出は年間目標額を達成するため下半期に大幅に増加する見込みです。
課題とリスク
- インフレ:インフレ率は前四半期にインド準備銀行の目標である4%を突破、これを受けインド準備銀行は11会合連続で政策金利を据え置きました。コア・インフレ率も徐々に上昇しており、インフレスパイラルが予想されるリスクが生じています。現在の世界的、経済的、政治的環境において、インド準備銀行が成長目標と安定目標のバランスを取ることは難しくなると思われますが、農業の業績改善やベース効果、それに政府が供給サイドの改善を目指し過去に実施してきた介入が奏効し、価格圧力は和らぐでしょう。
- 世界貿易の不確実性:先進国の政策変更や地政学的混乱が貿易の足かせとなり、輸出需要が減少する可能性があります。そうなれば不確実性により投資家心理が悪化し、インドへの資本流入に影響を与えかねません。さらに、西側諸国の中央銀行が当初想定されていたほどの利下げを実施しない可能性もあり、その場合は世界的に資本の流動性が逼迫するでしょう。
インドの短期的見通し
インドの2024~2025年度上半期の実績が予想を下回ったことを受け、デロイトは同年度の年間GDP成長率予測を6.5%~6.8%に引き下げました。ただし下半期は、政府の設備投資支出に促進された堅調な国内需要が成長を押し上げると見られます。2025~2026年度には成長率が6.7%~7.3%に改善する可能性がありますが、世界的な景気回復や地政学的状況に関連した深刻なリスクは残るでしょう。
2月に発表される2025~2026年度の連邦予算案で、政府が巨額の支援を打ち出すことを期待します。予算案では以下が焦点となりそうです:
- 設備投資支出の本格的再開:インフラ投資を優先し、交付された設備投資予算を年内に効果的に利用するよう各州に促す。
- 国内投資の奨励:投資プロセスを簡素化し、年金基金ファンドによる投資を奨励し、家計が貯蓄を安全に資本市場に投入できるよう金融リテラシーの向上を図る。
- 労働力のスキル向上:特にテクノロジー関連のスキル格差に対処し、将来活躍できる人材を育て、雇用の促進と海外からの投資呼び込みを図る。
- 技術イノベーションの推進:デジタルインフラを推進し、政府サービスのデジタル化によりサービス提供を効率化し、インクルージョンを促進する。
政府は設備投資と家計消費の活性化を狙った政策のもと、財政的余裕を活用することで、持続可能な成長を実現するとともに、世界的な不確実性から経済を守ることができるでしょう。
オーストラリア
執筆者:Lester Gunnion
困難だった2024年を振り返る
2024年のオーストラリアの経済成長率(年率)は、1990年代初頭の景気後退時以降、パンデミック期間を除いて最低となる見通しです69。デロイト アクセス エコノミクスは2024年(暦年)の年間実質GDP成長率は約1.0%だったと推計しており、3月の公式統計でこれが確認されると見ています。さらに特筆すべき点として、オーストラリア経済は1人当たりベースで見ると2023年初頭以降、後退しています70。
サービス業における長引くインフレと借入コストの上昇が経済活動の重しとなりました。オーストラリア準備銀行は他の先進国の中央銀行とは異なり、2023年終盤以降政策金利を据え置いており、現在金利は過去10年以上で最も高い水準にあります。金融政策が他国と異なるのにはいくつかの要因があります。例えば、パンデミック後にインフレが起き、それを受けて利上げを行うという一連の流れが、オーストラリアでは他国より遅れて始まりました。また、オーストラリア準備銀行は他の先進国の中央銀行ほどには金利を高く引き上げませんでした。これはインフレ率が比較的低い水準でピークに達したためです。オーストラリアでは住宅ローンにおける変動金利型の割合が高くなっているうえ、住宅価格も比較的高いことから、金融政策の効果が波及しやすい状況にあります。そうした中、準備銀行は景気回復が見え始めた当初、労働市場の好調さを維持することを目指したのです。
さらに現在、インフレ率が継続的に低下しているにもかかわらず、準備銀行はインフレ率が今後も下がり続け、許容できる期間内に目標の2%~3%に到達するとの十分な確信を持てずにいます71。準備銀行をためらわせている主な要因は二つあります。第一に、労働市場の逼迫により賃金が伸び続けていることです。第二に、賃金の伸びは減速しているものの、生産性がなかなか向上しないため単位労働コストが比較的高い水準にとどまっていることです。
2025年の見通しはやや明るい
2025年に入っても、まだ2024年の弱いモメンタムが続いている模様です。しかしこれから今年一杯については、慎重ながら楽観的な見方ができる理由があります。
逼迫した労働市場は、より持続可能でバランスの取れた状態に徐々に戻ると予想されます。経済活動の遅行指標である失業率は、2025年初頭は上昇傾向が続くと見られます。しかし、引き続き利益率と求人倍率が過去数四半期の需要低迷の影響をある程度吸収すると見られるため、状況が急激に悪化することはなさそうです。
労働市場がより緩和されれば、賃金上昇とインフレのペースは落ち着いていくでしょう。これにより、準備銀行の焦点がインフレ上振れリスクから成長減速へと移ることが予想されます。今年上半期中には金融緩和サイクルが始まると思われます。インフレと借入コストが低下する一方で、労働市場が堅調さを維持すれば、家計支出は徐々に上向くはずです。また2024年に実施された減税の累積効果や、エネルギー料金払い戻し策の強化といった形での財政支援も家計の助けとなるでしょう。政策金利が低下すれば、オーストラリア全世帯の3分の1に当たる住宅ローンを抱える世帯の負担が軽減されます。
政府の支出と投資はいずれも2024年を通して明るい材料でしたが、2025年も引き続き、特に上半期に行われる連邦総選挙に向けて成長を支えることになりそうです。
一方で外需は、特にオーストラリア最大の輸出先である中国で構造的不振が続いていることから、2025年の成長見通しの重しとなる可能性があります。
全般的には、一定のリスクはあるものの、オーストラリアは2025年中に「ソフトランディング」を果たす可能性が十分にあります。デロイト アクセス エコノミクスは、失業率は年末までに4.3%~4.5%へ上昇し、実質GDP成長率はわずかに改善して1.6%に達すると予想しています。
高まる世界経済の不確実性によりシナリオが覆る恐れも
2025年のシナリオは、地政学的不確実性の高まりに左右されそうです。地政学的不確実性は、今後数年のオーストラリアの見通しに過大な影響を及ぼす可能性があります。例えば、貿易面での緊張が高まり、オーストラリアの主要な貿易相手国の景気が急激に悪化する恐れがあります。そうなれば、オーストラリアの輸出と為替にも悪影響が及ぶため、実質GDP見通しが引き下げられることになるでしょう。
ニュージーランド
執筆者:Liza Van der Merwe、Ayden Dickins
ニュージーランドの経済は困難だった2024年から抜け出し、回復に向かいつつありますが、国民の長期的な繁栄を守るには将来を見据えた取り組みが必要です。
ニュージーランドの家計と企業にとって過去12カ月間は厳しいものでした。過去2年間のニュージーランド経済は、GDP全体で見るとテクニカルリセッションへの突入・脱出を繰り返す状況でしたが、1人当たりGDPで見ると長引く深刻な低迷を耐え抜いたといえます。今後の回復に向けては、経済が抱える長期的課題に優先的に取り組み始めることが不可欠です。
ニュージーランド準備銀行は2021年9月、インフレ圧力の高まりを受け、他国に先駆けて政策金利を引き上げました72。金融引き締め政策(ニュージーランドではその効果が波及するまでの時間差が比較的大きい)のもと、需要が大幅減少した結果、前年比消費者物価インフレ率は2022年6月に7.3%のピークを付けた73後、緩やかに低下し始めました。
2024年9月には状況が好転し、前年比インフレ率は2.2%に到達しました74。準備銀行が目標とする1%~3%の範囲内に収まっただけでなく、重要な節目となる中間点の2%付近まで戻ったことは大きな成果でした。そして2024年8月以降、利下げが継続実施され、利下げ幅は計125ベーシスポイントとなりました。デロイトは、2025年にもさらなる利下げが行われると予想します。
これはニュージーランドの家計と企業にとっての朗報であり、議論の対象を景気後退から回復に移すきっかけにもなりますが、タイミングを考えるとさらなる景気悪化を必ずしも回避できるとは限りません。ニュージーランドでは金融政策の効果が波及するまでに時間差があります。これは家計債務の大半が住宅ローンであり、住宅ローンの大半が1~5年の固定金利であるためです。
つまり、利下げが経済活動を刺激するまでには時間がかかるということです。利下げの効果が発揮されるまでの間、家計と企業は厳しい時期をひたすら耐えることになります。
ただ、前向きに考えれば、いずれは利下げの効果が現れます。デロイトは、ニュージーランド経済は2025年にはわずかながらも象徴的で重要な拡大を見せ、それ以降はさらに成長していくと予想しています。この見通しには、今後の地政学的動向や、関税がニュージーランドの輸出に与える影響の不確実性など、いくつかの重要な短期的リスクが伴い、それらが2025年から2026年にかけて予想される回復の時期や範囲に影響する可能性もあります。
こうした短期的リスクを監視・検討することは必要ですが、デロイトは、今こそニュージーランド経済が抱える様々な長期的課題に優先的に取り組むべきだと考えます。
中でも重要なのが生産性の低さです。生産性は間違いなく、ニュージーランド経済が直面する最大の課題です。ニュージーランドはほとんどの指標で他のOECD加盟国に後れを取っており、この状況は変わりそうもないというのが大方の見方です。この流れを断ち切り、生産性を向上させることが、ニュージーランド経済が繁栄する新たな時代を築く鍵となるでしょう。しかしそれには、慎重かつ計画的な介入によって、競争、テクノロジーの導入、物的・人的資本への投資を通じてイノベーションを促進する必要があります。生産性の向上は、高齢化への対応、財政圧力の軽減、低炭素経済への転換促進といったニュージーランドが直面する他の課題の解決にも役立つでしょう。
中東とアフリカ
イスラエル
執筆者:Roy Rosenberg
2024年のイスラエル経済は中東での紛争による影響を大きく受けました。主な影響は以下の4つです。
第一に、(主に防衛費の急増により)政府支出が大幅に増加した結果、財政赤字がGDP比6.9%近くにまで拡大しました。
第二に、通貨の新シェケルが対米ドルで下落し(この傾向はイスラム組織ハマスの攻撃を受けた2023年10月7日以前に始まっていましたが2024年上半期中も続きました)、インフレを招きました。
第三に、イスラエル経済を取り巻くリスクが高まり、国内外からの投資が減少し続けました75。その不確実性を受け、世界最大級の格付機関2社がイスラエルの信用格付けを引き下げました。S&Pは2024年10月にイスラエルの信用格付けを「AA–」から「A」に引き下げ、見通しを「ネガティブ」としました。ムーディーズはさらに厳しい姿勢を取り、信用格付けを「A2」から「Baa1」に引き下げ、見通しを「ネガティブ」としました。
第四に、貿易制限(特にトルコからの鉄鋼とセメントの輸入が減少)や紅海航路の混乱による影響を受け、一部の輸入品のコストが上昇しました。
総合的に見ると、紛争による供給サイドへの制約は当初予想に比べて限定的であり、主に建設業と不動産業に集中していました。これら全ての影響で、2024年のGDP成長率は0.5%前後にとどまると推定され(これに対し2021年、2022年、2023年はそれぞれ8.6%、6.4%、2%)、さらに1人当たりGDPはマイナス成長となる見込みです。2024年のインフレ率は3.2%でした。
イスラエルの資本市場も2024年第1~第3四半期は高い不確実性に苦しみ、現地の主要株価指数のパフォーマンスは世界の他の指数を下回りました。
しかし2024年の最終四半期には、国内指数が海外指数を大きく上回るパフォーマンスを見せました。S&P 500指数のリターンがわずか2%だったのに対し、イスラエルのTA 35指数は15%でした。通年でもイスラエルの国内指数のパフォーマンスはS&P 500指数をやや上回りましたが、これは主に2024年最終四半期の例外的に良いリターンによるものです。一方でイスラエル政府債の利回りは2024年を通して大幅に上昇し、結果的にイスラエル政府の利払い費が著しく増加しました。
2024年の困難にもかかわらず、2025年以降については明るい材料が多く見られます。これは主にイスラエルの直面する地政学的脅威が変化したことによるもので、同国当局者も2024年に比べ脅威は低下したと評価しています76。明るい見通しは、既に2024年最終四半期に、現地の主要株価指数が世界の他の主要指数を上回るリターンを出したことや、新シェケルの価値がユーロなど他の主要通貨に対して大幅に高まったことにも表れています77。
ただし、民間消費の今後の伸びについては一定の不確実性が伴います。デロイトは、2025年には増税による負担の影響で民間消費は伸び悩むと見ています。イスラエル経済の将来見通しは、全ての前線で紛争が終結する時期、紛争終結後の中東における地政学的環境の変化、今後の政府の財政政策、および国内政治体制の不安定度に大きく依存します。どのようなシナリオになるにせよ、防衛予算の恒久的な拡大が見込まれる中、当面は財政負担が経済を萎縮させることになるでしょう。
とはいえ、イスラエル経済が今後2年間で急回復する可能性は十分にあります。ただしその実現は以下の3点にかかっています。第一に、イスラエルが特定の中東諸国と戦略的関係を築けるかどうか、第二に、政府が効率的な財政政策を採用し、必要な歳出削減を行いつつ国内成長分野に投資し続けるかどうか、第三に、国内政治の複雑性を解消し、政府に対するイスラエル市民と海外投資家の信頼感を高められるか、またどの程度の速度でそれを実現できるか、です。回復シナリオは当然、米国、中国、欧州諸国など主要な貿易相手国を中心とする世界経済の動向にも左右されます。
2025年のイスラエル経済に関する現時点のデロイトの予測では、GDP成長率は約4%、金利は少なくとも年内の大半はほぼ現状維持の4.5%、インフレ率は約3%となる見込みです。インフレ率は様々な相反する要因の影響を受けるでしょう。付加価値税と財産税の引き上げは物価水準を押し上げる可能性がある一方、紛争が終結した場合には海外の航空会社が運航を再開し、建設業の供給制限が緩和される結果、航空運賃や住宅価格が徐々に押し下げられる可能性があります。
西アフリカ
執筆者:Damilola Akinbami
2024年は西アフリカ諸国、特にナイジェリアとガーナにとって厳しい1年でした。両国とも高いインフレ率、金利の上昇、現地通貨の下落、債務拡大懸念に見舞われました。
ガーナでは2024年12月、比較的平和裏に選挙が行われ、政権交代と与野党逆転が起きました。大統領選挙では、国民民主会議の候補者ジョン・マハマ元大統領が2度の敗北を経て再び勝利し、8年続いた新愛国党政権に終止符を打ちました。
この選挙の結果、大学教授のジェーン・オポク・アジェマン氏が史上初の女性副大統領に選ばれたことは注目に値します。同氏は、1期目のマハマ政権時に教育大臣を務めました。
成長見通し
冒頭に記した厳しい状況は、特にナイジェリアでは長引く見通しで、2025年終盤以降にようやく徐々に緩和する可能性があります。一方で良い兆しもあります。2025~2026年にはインフレ圧力が弱まり、金融緩和的なスタンスが取られる結果、国内需要が持ち直し、成長が加速すると予想されます(主にガーナ)。
現在進められている市場重視の政府改革や債務再編、サステナビリティの取り組み(特にガーナ)が既に効果を発揮し始め、生産性の向上や経済全体の活性化を促していると見られます。国内通貨の安定化も、これらの国で予想される景気回復に寄与するでしょう。
ナイジェリアの経済成長率は、英国の調査機関エコノミスト・インテリジェンス・ユニットによると2025年には3.4%、2026年には若干低い3.2%となる見込みですが、同国政府は「中期支出枠組みと財政戦略に関する文書」78でより楽観的な見通しを示しており、2025年は4.6%、2026年は4.4%になるとしています。ナイジェリア政府は2025年にGDPの算出基準を変更する計画です。これにより名目経済規模が拡大し、アフリカ最大の経済大国の地位に返り咲けるかもしれませんが、大数の法則が働けば結果的に成長率は下がることになるでしょう。
一方ガーナの成長率はこれより高く、2025年と2026年はそれぞれ5.1%、5.3%に達する見通しです79。前述の厳しい状況が徐々に緩和する中、2025~2026年には西アフリカ全体でマクロ経済の安定性が次第に回復していくと予想されます80。
2025~2026年に経済成長が緩やかに回復する要因
インフレの鈍化
デロイトが分析対象としている西アフリカの国々でインフレ鈍化が予想される最大の要因は、ベース効果です。2年間にわたる金利上昇と国内通貨の安定化がインフレ率の低下に寄与するでしょう。
ただしこの予想には、増税や電気料金引き上げの可能性、治安の乱れ(ナイジェリアにおける誘拐事件など)、食料・農業生産に影響を与えるサプライチェーン混乱などによる上振れリスクが伴います。またガーナでは選挙戦の影響が長引いており、国内のインフレ動向にリスク要因となりそうです。
金融緩和政策
ガーナは2025年も緩やかな利下げを継続し、2026年には緩和的スタンスをさらに強めると予想されます。ナイジェリアは、2025年中はたかだか現在のスタンスを維持する程度で、何度か利上げを行うことも考えられます。ナイジェリアは、インフレ率が受入可能な水準に向けて安定的に低下する場合には、2026年中に利下げを開始する可能性もあります。
国内需要の持ち直し
インフレ鈍化と金融緩和政策により、購買力が改善し、国内需要と個人消費が持ち直すことが予想されます。民間消費と投資が拡大し、両国の経済成長を促進するでしょう。
輸出収入の増加
石油大国ナイジェリアの石油生産量は、2023年の日量123万バレルから、2024年には日量130万バレルに増加する見込みです。今後はさらに増加し、2025年には日量137万バレル、2026年には日量138万バレルに達すると予想されています。石油とコンデンセート(日量約40万バレル)を含む液分の総生産量は、2024年には日量170万バレル、2025年には日量177万バレルとなる見込みです。
新設されたダンゴテ製油所は、国内需要を満たすだけでなく輸出用に余剰分を生産する計画であるため、ナイジェリアの対外収支の改善に貢献するでしょう81。ナイジェリア政府は2025年の国内石油生産量を日量206万バレルとすることを提案しています。ニジェールデルタ地域の治安改善が、この計画の実現可能性に影響するでしょう。
ガーナの金の輸出収入は増加の見通しですが、これにはアサンテゴールド社のビビアニ金鉱山とチラノ金鉱山での5億2,500万米ドル規模の増産計画82、およびアハフォノース金鉱山での生産開始が一部影響しています。ガーナの金産出量は2023年の128トンから微増し、2024年、2025年、2026年にはそれぞれ132トン、136トン、137トンとなる見込みです83。
西アフリカ諸国の政府政策は、歳入確保と債務持続可能性が軸に
西アフリカだけでなくアフリカ全体で、債務拡大への懸念が高まっています。ガーナは2024年最終四半期に国際通貨基金の拡大クレジットファシリティによる4回目の融資3億6,000万米ドルを受け取り、同制度のもとで受領した融資額は累計で19億2,000万米ドルとなりました。デロイトは、ガーナ政府は2025~2026年も財政再建を継続すると予想します。政府は、既存の税金・関税の引き上げや、環境税などの新たな税金の導入などを含む歳入確保改革によって、この取り組みを推進していくでしょう。こうした措置により、GDP比の財政赤字額は2024年の推定4.4%から2025年には3.9%、2026年には3.6%へと低下すると予想されています84。
ナイジェリアの債務問題はガーナほど深刻ではありませんが、通貨ナイラの下落が大きく響き、債務水準は徐々に高まりつつあります。2025年予算案は47兆9,000億ナイラと、名目では2024年予算を36.62%上回っていますが、為替レートの影響を調整すると2024年を21.95%下回ります。ナイジェリア政府は、9兆2,200億ナイラ相当の新規債券を発行する計画ですが、これに対し2024年修正予算での借入額は7兆8,300億ナイラでした。初の米ドル建て国内債券の発行で9億米ドルの調達に成功したことを受け、新規債券の一部には、財政赤字を補填するための外貨建て債券も含まれる予定です。
政府は、ナイジェリア市場の投資誘致力を高めると期待される包括的な税制改革法案を提出しました。この法案は小規模企業を保護し、既存の税制を簡素化するというかなり進歩的なものです。
一方で、商品やサービスの価格が急騰する中、こうした市場重視の改革を進めることの社会経済的影響により、社会不安リスクに対応するための改革に遅れが出ているという実態もあります。とはいえ、ナイジェリアの対GDP比財政赤字は2024年の5.7%から2025年には4.8%に、さらに2026年には4.4%に縮小する見通しです85。
西アフリカの成長見通しは、わずかな回復が期待される一方で根強いリスクも
ナイジェリアとガーナは、例えば以下のようなリスクに直面しています。
- インフレ圧力の急激な高まり
- コモディティ価格の変動、厳しい気象条件
- 社会不安、治安の乱れ(特にナイジェリア)
- インフラ格差が大きいなどの構造的制約
- 停電
- 通貨安
南アフリカ
執筆者:Hannah Marais、Nikhil Jinabhai
南アフリカ経済は、2024年5月の総選挙後は安定していますが、圧力から完全に開放されたわけではありません。2024年の総選挙では、1994年から与党を務めてきたアフリカ民族会議がわずか40.2%の得票にとどまり86、議会の過半数を確保できませんでした。このため、中道派で市場重視の立場を取る最大野党の民主同盟、およびその他複数の小規模政党と連立政権を樹立しました。
これは、この歴史の浅い民主主義国家の今後の経済にとって間違いなく最善の結果だったといえるでしょう87。世界中で経済状況が改善し、利下げサイクルが開始する中、連立政権が政策の継続性を約束したことで海外投資家の安心感は一層高まりました。また、南アフリカのソブリン・リスク・プレミアムが改善し88、10年国債の利回りが約3年ぶりの低水準となる10%以下にまで低下しました。2024年9月には通貨ランドが米ドルに対し約2年ぶりの高値まで上昇しました(しかしその後、米選挙後の米ドル高により上昇分の一部は失われました)89。一方、ヨハネスブルグ証券取引所に上場している株式は、第3四半期としては10年以上ぶりとなる高値を付けました。さらに南アフリカは長年、断続的な停電に悩まされてきましたが、ほぼ3四半期連続で計画停電が回避されたことは国民を喜ばせました90。
しかし投資家心理と国内の信頼感が改善したとはいえ、南アフリカが長期的に繁栄するためにも、経済を支えるのに十分なGDP成長率を達成するためにも、構造改革と設備投資の拡大が欠かせません。これには時間がかかります。2024年第3四半期の実質GDPは予想に反し、0.3%の減少となったため、2024年通年の予想成長率も1%未満に引き下げられました。
南アフリカの2024年は低調なスタートで、第1四半期はゼロ成長を記録しました。その後、第2四半期には成長率が0.3%に改善しました。しかし第3四半期は慎重ながら楽観的な見通しだったにもかかわらず、最近のデータによると実質GDPは0.3%の減少でした。
第3四半期に実質GDPがマイナス成長となったのは、農業が前年比で29.6%減少したためです。干ばつで農作物(トウモロコシ、大豆、小麦、ヒマワリ)の生産が被害を受けました。厳しい気象条件は亜熱帯果実、落葉果樹、野菜の生産にも悪影響を与えました。成長率が最も大きかった産業は電気・ガス・水で1.6%、次が金融・不動産・ビジネスサービスで1.3%でした91。
2025年については、より楽観的な見通しが維持されています。インフレ率が中央銀行の目標の範囲内に十分に収まる水準まで低下したうえ、2025年もさらなる利下げが見込まれることから、消費者活動が活発化するでしょう。2025年の実質GDP成長率は約1.7%となり、2025~2027年の年間平均成長率はわずか1.8%にとどまる見込みです92。これは、国際通貨基金が予想する2025年の新興国・発展途上国の成長率4%を下回るばかりか、先進国の1.8%をも下回っています93。
財政赤字は現会計年度(2024~2025年度)にGDP比5%まで拡大する見込みですが、新たな連立政権(国民統一政府)はその対応に注力することを公約しており、対GDP債務比率についても翌年度には75.7%で安定すると見ています。さらに国民統一政府は、改革政策「ブリンデラ作戦」を通じて供給サイドの制約解消に引き続き取り組んでいます94。また地方政府の能力向上、地域格差の是正、デジタル公共インフラへの投資にさらなる重点を置いたエネルギー、物流、水、データ、Eビザ関連の取り組みも継続されており95、若年層の失業率(15~34歳の失業率は43.2%と、国の公式失業率32.1%を上回る)の改善も優先課題に含まれています96。
近年、政府は資本支出を通じたインフラ投資を重視してきました。南アフリカでは過去20年間、GDPに占める総固定資本形成の比率が、必要とされる水準を下回る状態が続いていました。最近はその比率が約15%(2023年)となり、国家開発計画で目標とされる30%の半分にとどまっています97。
政府は、こうした改革を迅速に実行することで信頼感の向上と設備投資の促進を図る一方で、公的部門のプロジェクトに民間部門の投資を呼び込むための新たな方法を模索しています。特に、(南アフリカにとって長年の課題である)融資可能なプロジェクトの組成とプロジェクト在庫の積み上げに重点を置き、官民パートナーシップの枠組みを改革・強化するとともに、リスク分担手法や金融商品を活用し、より多くの民間資金呼び込みを目指しています。また、官民パートナーシップや新たなインフラ資金調達制度の創設に関する立法改革にも力を入れています。さらにこれらの取り組みにとどまらず、ガバナンスの質を向上させ、より効果的かつ効率的な国家の構築に注力するとともに、政府の各レベルで見られるリーダーシップの欠如にも対処する必要があるでしょう。
とはいえ、10年以上にわたり不振にあえいできた南アフリカは今、行動を起こすべき短い限られた好機を手にしています。一連の改革、ガバナンスの改善、成長を促進するインフラ投資がもたらす成果を礎に、より多くの雇用を生み出す、より包摂的で持続可能な社会を構築することができるでしょう98。
脚注
1. Unless otherwise indicated, all data cited in this article has been taken from reported government statistics.
2. Ira Kalish and Robyn Gibbard, “United States Economic Forecast Q4 2024,” Deloitte Insights, Dec. 13, 2024.
3. Donald J. Trump, “Home page,” accessed Jan. 3, 2025.
4. Jeffrey S. Passel and D’Vera Cohn, “Size of US unauthorized immigrant workforce stable after the Great Recession: Declines in eight states and increases in seven since 2009,” Pew Research, Nov. 3, 2016.
5. US Department of Agriculture, “Farm labor,” accessed Dec.19, 2024.
6. Daniel Zaga, Cesar Alaca, and Marcos Arias, “Nearshoring in Mexico,” Deloitte, May 2024.
7. Anthony Esposito and Ana Isabel Martinez, “Mexico budget proposal trims 2025 deficit, sees better growth,” Reuters, Nov. 16, 2024.
8. Reuters, “Mexico’s controversial judicial elections face possible delay,” Nov. 22, 2024.
9. Carlos Vargas, “Colombia lawmakers approve pension reform in victory for Petro,” Reuters, June 15, 2024.
10. Nelson Bocanegra, “Colombia government will not change proposed 2025 budget value, finance minister says,” Reuters, Sept. 18, 2024.
11. Mariano Boettner, “Primer año del plan económico de Milei: los números clave de la gestión y las 5 variables para mirar en 2025,” Infobae, Dec. 10, 2024.
12. Laura Serra, “Deputies: By a large majority the Bases Law was sanctioned and the ruling party obtained the restitution of profits,’’ La Nación, June 28, 2024.
13. Clarín, “El riesgo país rebotó a 933 puntos y el Banco Central hizo la mayor compra de dólares desde mayo,” Oct. 29, 2024.
14. Deloitte, “The future of Argentina’s oil & gas industry,” Deloitte, Dec. 2024.
15. Deloitte Germany forecast.
16. Eurostat, “Real GDP growth rate—volume,” accessed Dec. 18, 2024.
17. European Central Bank, “Update on economic, financial and monetary developments,” accessed Dec. 18, 2024; Stanford University, “Tracking the global mindset of uncertainty,” accessed Dec. 18, 2024.
18. Eurostat, “Household saving rate up to 15.7% in the euro area,” accessed Dec. 18, 2024.
19. European Commission, “Latest business and consumer surveys,” accessed Jan. 3, 2025.
20. Deloitte Germany forecast.
21. Ibid.
22. Sara Petrongolo and Stefano Amadori, “L’impatto economico e occupazionale del turismo e la digitalizzazione nei Borghi più belli d’Italia,” Deloitte, April 16, 2024.
23. European Central Bank, “Overview of results,” accessed Dec. 18, 2024.
24. Deloitte, “European CFO Survey Autumn 2024,” Dec. 13, 2024.
25. European Commission, “European economic forecast, autumn 2024—France,” accessed Jan. 3, 2025.
26. L’Observatoire Français des Conjonctures Economiques, “Growth up against fiscal recovery: The 2024–2025 outlook for the French economy,” accessed Jan. 3, 2025.
27. Sarita de Albuquerque, Edouard Jousselin, Aldo Penalva, Edith Stojanovic, Alexis Heulin, Thierry de La Bretèche, Julien Lasalle, De Pastor Raymond, Pierre Berger, and Raffaella Cartigny, “The impact of the Paris Olympics on economic activity and payments in the third quarter of 2024,” Bulletin of the Banque de France, Dec. 3, 2024.
28. Pierre Aldama et al, “Macroeconomic projections—December 2024,” Banque de France, Dec. 19, 2024.
29. Pierre Aldama et al., “Interim macroeconomic projections—September 2024,” Banque de France, Sept. 18, 2024.
30. L’Observatoire Français des Conjonctures Economiques, “Growth up against fiscal recovery.”
31. Ibid.
32. L’Observatoire Français des Conjonctures Economiques, “Growth up against fiscal recovery.”
33. Aldama et al., “Interim macroeconomic projections—September 2024.”
34. European Commission, “European economic forecast, autumn 2024—France.”
35. L’Observatoire Français des Conjonctures Economiques, “Growth up against fiscal recovery.”
36. European Commission, “European economic forecast, autumn 2024—France.”
37. Aldama et al., “Interim macroeconomic projections—September 2024.”
38. European Central Bank and Eurosystem staff macroeconomic projections for the euro area, December 2024.
39. Bank of Spain, “Macroeconomic projections and quarterly report on the Spanish economy: December 2024,” accessed Jan. 3, 2025.
40. Spanish National Statistical Office, “Quarterly nonfinancial accounts for the institutional sectors (QNFAIS)—Second quarter 2024,” press release, Sept. 30, 2024.
41. Bank of Spain, “Financial accounts statistics,” accessed Jan. 3, 2025.
42. European Central Bank, “Key ECB interest rates,” accessed Jan. 3, 2025.
43. AIReF, “Report on the medium-term fiscal-structural plan 2025–2028: Report 51/24,” Nov. 5, 2024.
44. Bank of Spain, “Financial accounts statistics.”
45. Bank of Spain, “Business activity survey: 2024Q4,” accessed Jan. 21, 2025.
46. Based on a market and institutional analysts’ forecast consensus, tracked by Deloitte.
47. Data on GDP growth and inflation are from the Office for National Statistics, while business sentiment is tracked by the Deloitte CFO Survey. Other data points in this article, if unsourced, are from the Office for National Statistics.
48. John Manning, “What a new Labour government means for the UK economy,” International Banker, Aug. 19, 2024.
49. Institute for Fiscal Studies analysis.
50. Gov.UK, “Autumn Budget 2024 — Overview of tax legislation and rates (OOTLAR),” Nov. 11, 2024.
51. As measured by the GfK Consumer Confidence Barometer.
52. Data from the Office for Budget Responsibility’s Public Finances Databank.
53. Cheng Lyu and Zhen Wei, “Evaluating Chinese Equities’ performance after stimulus,” MSCI, Oct. 3, 2024.
54. Xinhua, “Xi delivers important speech at Central Economic Work Conference,” English News, Dec. 16, 2024.
55. Reuters, “Exclusive: China plans record budget deficit of 4% of GDP in 2025, say sources,” Dec. 17, 2024.
56. Ibid.
57. Japanese Trade Union Confederation, “Home,” accessed Jan. 20, 2025.
58. Haver Analytics, December 2024.
59. The RBI Bulletin, December 2024
60. Haver Analytics, December 2024.
61. Ministry of Finance, Government of India, “Government of India, Union government accounts at a glance, as at the end of September 2024,” accessed Jan. 3, 2025.
62. Ibid.
63. Ibid.
64. Ibid.
65. Ibid.
66. Ibid.
67. Ibid.
68. Ibid.
69. Australian Bureau of Statistics, “Australian national accounts: National income, expenditure, and product,” press release, Dec. 4, 2024.
70. Ibid; Australian Bureau of Statistics, “National, state, and territory population,” press release, Dec. 12, 2024.
71. Reserve Bank of Australia, “Monetary Policy Decision,” press release, Nov. 5, 2024; Reserve Bank of Australia, “Monetary policy decision,” Dec. 10, 2024.
72. Reserve Bank of New Zealand, “Past monetary policy decisions,” Nov. 27, 2024.
73. Stats NZ, “Consumers price index (CPI),” accessed Jan. 3, 2025.
74. Ibid.
75. Post war, average foreign investments were reduced by half, compared to prewar levels.
76. Bank of Israel, Macroeconomic forecast, January 2025.
77. The return of the main equity index in Israel (TA 35) during the last quarter of 2024 was 15%, compared to the return of the S&P 500, which was only 2%. The dollar exchange rate weakened by 3% relative to the new shekel. The Euro exchange rate weakened by 8% relative to the new shekel.
78. Budget Office of the Federation, Ministry of Budget and Economic Planning, “2025-2027 medium term expenditure framework and fiscal strategy paper,” accessed Jan. 17, 2024.
79. Ibid.
80. The Economist Intelligence Unit.
81. Economist Intelligence Unit, “One-click report: Nigeria,” accessed Jan. 21, 2025.
82. African Mining Market, “Asante Gold announces US$525 million Ghana investment plan,” Nov. 1, 2024.
83. Economist Intelligence Unit, “Gold,” accessed Jan. 21, 2025
84. Economist Intelligence Unit, “One-click report: Ghana,” accessed Jan. 21, 2025.
85. Ibid.
86. Economic Intelligence Unit, “South Africa’s election heralds major realignments,” June 3, 2024.
87. Velani Ludidi, “Then there were 10—unity government hits double digits while talks continue over Cabinet posts,” The Daily Maverick, June 3, 2024.
88. National Treasury, “Medium-term budget policy statement,” Oct. 30, 2024.
89. Economic Intelligence Unit, “South Africa’s election heralds major realignments,” June 3, 2024.
90. Eskom, “Loadshedding suspension continues after 191 days of uninterrupted power supply, achieving R11.51 billion in diesel savings year on year,” press release, Oct. 4, 2024.
91. Statistics South Africa, “Gross domestic product—Third quarter 2024,” Dec. 3, 2024.
92. South African Reserve Bank, “Quarterly bulletin–December 2024,” Dec.13, 2024.
93. Deloitte calculations based on: International Monetary Fund, “World economic outlook database,” accessed Jan. 3, 2025.
94. Republic of South Africa, “Operation Vulindlela,” accessed Nov. 14, 2024.
95. Ibid.
96. Bureau for Economic Research, “Impumelelo Economic Growth Lab,” Oct. 2, 2024.
97. Statistics South Africa, “Gross domestic product—Third quarter 2024.”
98. National Treasury, “Medium-Term Budget Policy Statement.”
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