ナレッジ

テクノロジーによる業務高度化

【連載】非財務リスク管理-最前線-第6回

2018年8月より全6回にわたり「非財務リスク管理 最前線」を”金融財政事情”に掲載します。最終回の第6回目は、リスクアドバイザリー事業本部 宮田健太郎と伊吹良介による「テクノロジーによる業務高度化」です。

掲載:金融財政事情 2018.9.24

 近年、フィンテックの台頭や当局規制への対応事項の増大、少子高齢化など、金融機関の経営環境は大きく変動している。金融機関が従来のビジネスモデルを転換しつつ、年々増加する当局の要求に対応していくことには大きな業務負荷がかかるが、多くの場合システム・人材面での対応能力が追い付いておらず、それ自体リスクと言える。

 こうした課題を解決する手段の一つとしてAIや機械学習、自動化プログラムなどのテクノロジーをさまざまな業務やサービスに適用する動きが強まっており、規制対応についてはレグテック(RegTech)、人材活用についてはエイチアールテック(HRTech)が有効な手だてになると考えられる。そこで今回はリスク管理にもつながる、これらテクノロジーを用いた業務高度化可能性について紹介する。

(PDF、374KB)

金融機関の抱える課題

 リーマンショック以降、規制当局による金融機関の監視並びに金融機関のコンプライアンス対応は世界的に強化されてきた。米国の銀行だけで1600億ドルの罰金の支払いが命じられ、世界的にも2010~14年までの間、金融機関は年平均700億ドルをコンプライアンス対応に関して費やしてきた。今後もその傾向は継続が予想され、企業の規制、コンプライアンスに関するソフトウェアの支出は20年までに1187億ドルにのぼるといわれている(注1)。

 その一方で、規制対応担当者は不足傾向にある。国内では低収益を打破するため本部職員を営業店へ異動させる金融機関もあり、本部はこれまでと同じ、もしくは少ない人員で増加する対応事項に取り組まざるをえなくなっている。

 また、少子高齢化が進む現在、人材確保は年々厳しくなっている。総務省や国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、生産年齢人口(15歳~64歳)は、15年の約7700万人から、65年には約4500万人にまで減少するとの予想も出されており、限られた優秀な人材を巡って採用競争は一段と強まると考えられる(注2)。同時に優秀な人材を獲得するだけでなく社内へ定着させることも一層求められるであろう。

レグテック、エイチアールテックをパートナーに

 レグテックは、「規制上の要求に対しての対応を既存のシステムと比べて、より効率的かつ効果的に促進する可能性のあるテクノロジーにフォーカスしたフィンテックの一部」であり、実務的には規制上の課題への対処や規制当局の要求の理解・遵守のために、迅速なデータ処理や分析、レポーティングを可能にするテクノロジーやソフトウェアを意味する(注3)。

 具体例を挙げると、12年設立の英国のOnfidoでは、ビッグデータ分析と機能学習を利用し企業がオンラインで本人確認や身元調査ができる信用確認プラットフォームを展開しており、提供される経歴や犯罪歴などのデータが口座開設やローン契約時の審査に利用されている。また、スタンフォード大学教授が中心となって設立された米国Ayasdiは、機能学習技術の活用により 金融機関における市場や運営上のリスクを分析し、マネー・ロンダリングが疑われるような取引のパターンを効率的に検出する技術を提供している。こうした技術の活用は、課題であった効率化と正確性の両立を可能とし、規制対応の効率化・高度化につながることが予想される。

 また、企業活動に必要な人材を確保し活用していくために、エイチアールテック、つまりIT・分析技術の人事業務への適用が注目されている。エイチアールテックには大きく分けて二つの機能がある。


 一つ目は、ITを用いた人事業務の効率化で主に採用・労務・育成といった領域で適用が進んでいる。採用では、応募から面接、採用決定に至るまでのプロセスの一元管理・可視化を可能にするサービスが中心となっている。労務では、出退勤管理の自動化や社会保険手続きをオンライン化するサービスが普及してきており、育成においては動画による時間・場所を選ばない研修提供が中心となってきている。このような効率化により、既存の人事部社員を付加価値の高い業務(優秀な採用候補者のフォロー、人事の中長期計画の策定など)に振り分けることが可能になるであろう。

 二つ目は、データ活用による人事施策の高度化である。AIを適用した採用時のスクリーニングの高度化、退職者・高ストレス者の予測と対策、属性・行動データを用いた優秀者・非優秀者のプロファイル特定と育成への応用などがある。このようなデータによる分析は、社員の個別のモチベーションや強み・ 弱み、人事施策の費用対効果の把握を可能にし、人事施策の効果を高めることにつながる。例えばグーグルでは、人事部に統計の専門家を採用し、有効な面接回数の上限や優秀な上司の行動パターンを特定しており、データ分析を企業の強みとしている(注4)。

 これらのテクノロジーを活用した解決策はむろん万能ではなく、AI・システムが苦手な例外処理や判断・意思決定については依然として人の手が必要となる。しかし、増加する業務に対応しながら収益を上げていくためには、単純業務を効率化しつつ、付加価値の高い業務(新規事業、対人業務など)に人材を振り分けていくことが重要になってくる。そのためにはテクノロジー活用は避けて通れない道になっていくであろう。国内においても、外部のベンダーとともに、このようなテクノロジー活用を検討する金融機関が一部現れている。新規技術とそれを提供する企業に対し過度に警戒するのではなく、良きビジネスパートナーとして活用可能性を模索していくことが、今後業界全体にとって必要になるであろう。

*   *   *

 「非財務リスク管理最前線」と題した本連載は、今回が最終となる。分析手法や管理フレームワークは発展途上ではあるものの、本連載を通じた整理・問題提起が、各社のリスク管理態勢高度化に少しでも寄与するのであれば、執筆者一同、望外の喜びである。


(注1)Bloomberg「How RegTech closes the gap between technology and financial services」より。
(注2) 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」より。
(注3)FCA 「Call for input on supporting the development and adopters of RegTech」より。
(注4)ラズロ・ボック著『ワーク・ルールズ!』)(東洋経済新報社、15年)より。

(文中の意見にわたる部分は筆者の私見である)

お役に立ちましたか?