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東日本大震災と保険(第2回:原子力保険及びその周辺)

原子力保険及びその周辺について述べます

「東日本大震災と保険」をテーマにした2回目として、原子力保険及びその周辺について述べます。

1.はじめに

2012年2月トーマツWeb掲載記事「東日本大震災と保険(第1回:地震保険及び類似の保険・共済)」に引き続き、「東日本大震災と保険」をテーマにした2回目として、原子力保険及びその周辺について述べます。なお、本稿に記載された意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りしておきます。    

2.原子力保険の概要

(1)原子力保険の定義
保険業法第101条では、

原子力保険事業(原子力施設を保険の目的とする保険又は原子力施設の事故により生じた損害を賠償する責任に関する保険の引受けを行う事業をいう。)
と規定されます。
したがって、「原子力保険」は

原子力施設を保険の目的とする保険又は原子力施設の事故により生じた損害を賠償する責任に関する保険
と定義できると考えられます。

(2)原子力保険の分類
原子力保険は、「原子力財産保険」と「原子力損害賠償責任保険」とに大別されます。
原子力保険のうち、

原子力施設を保険の目的とする保険
が、原子力財産保険に,

原子力施設の事故により生じた損害を賠償する責任に関する保険
が、原子力損害賠償責任保険になります。

(3) 原子力保険の実績
一般社団法人日本損害保険協会が集計した2011年度の種目別統計表によると、

正味収入保険料:7,556百万円
正味支払保険金:461百万円
(出典:一般社団法人日本損害保険協会「種目別統計表」(2011年度))
です。なお、下記4. 原子力損害賠償措置と原子力損害賠償責任保険(3)原子力損害賠償補償契約で述べるとおり、地震による損害は原子力損害賠償補償契約による担保されるものであるため、原子力保険からは支払われていないと考えられます。

3.原子力保険を安定的に運営するための枠組

(1)独占禁止法の適用除外と日本原子力保険プール
保険業法第101条第1項第1号の規定により、原子力保険事業につき損害保険会社が他の損害保険会社(外国損害保険会社等を含む)と行う共同行為のうち保険業法第102条の規定による内閣総理大臣の認可を受けたものについては、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」)の適用を除外されています。(地震保険に関する独占禁止法の適用除外については、2012年2月トーマツWeb掲載記事「東日本大震災と保険(第1回:地震保険及び類似の保険・共済)」4. 地震保険を安定的に運営するための枠組(3)独占禁止法の適用除外を参照)
認可を受けて独占禁止法の適用除外を受けているものの具体例としては、

・保険約款の内容の決定
・保険料率及びその他の条件の決定
・元受保険及び受再保険の引受割合の決定
・元受保険の共同処理(募集を含む)及び再保険の共同処理
・損害査定に関する審査及び決定
などが挙げられます。
(出典:国土交通省 第2回住宅瑕疵担保責任研究会(2006年6月2日)資料7「保険に係る独占禁止法適用除外の現状(PDFファイル)」)

上記のような独占禁止法の適用除外を受けた原子力保険事業に関する共同行為を行う組織が日本原子力保険プールです。
日本原子力保険プールは、2010年3月末現在

日本において営業免許を取得する外国保険会社を含めた24社
で構成されています。
(出典:一般社団法人 日本原子力産業協会 2010年4月26日発行 原産協会メールマガジン4月号 シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【14】)

原子力保険について、このようなプール組織に基づき保険の引受けを行う仕組みは、日本のみならず世界各国で行われており、日本原子力保険プールは、各国のプール組織と再保険取引を行い、リスクの分散を図っています。
(2)異常危険準備金
2010年1月トーマツWeb掲載記事「異常危険準備金について 第1回 異常危険準備金の意義と変遷及び損害保険会社の異常危険準備金 3.損害保険会社の異常危険準備金」で述べたように、原子力保険では、他の保険種目と同様に異常危険準備金を計上します(この点が、特別な責任準備金制度を有している地震保険や自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」)との違いです)が、以下の点が特徴的です。
(a) 取崩の基準となる異常災害損失が、「損害率 XX%を超える損害」ではなく、「正味支払保険金」そのものとなっていること(他の保険と同じ表現を当てはめるとすると「損害率0%を超える損害」となります)
(b) 算入限度額(正味収入保険料に対する割合)が50%と他の保険に比べて圧倒的に高いこと

4. 原子力損害賠償措置と原子力損害賠償責任保険

(1)原子力損害賠償措置の概要
原子力損害の賠償に関する法律第6条では、

原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」という。)を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない。
とされています。
ここで、損害賠償措置とは、原子力損害の賠償に関する法律第7条で
(a) 原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結
(b) 供託
のいずれかによるものとされています。
また、賠償措置額は、原子力損害の賠償に関する法律第7条及び原子力損害の賠償に関する法律施行令第2条で規定されていますが、通常の商業規模の原子炉の場合には、1工場又は1事業所あたり1,200億円(2012年7月現在)とされています。

(2)原子力損害賠償責任保険
原子力損害賠償責任保険契約は、原子力損害の賠償に関する法律第8条で、

原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合において、一定の事由による原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を保険者(保険業法 (平成7年法律第105号)第2条第4項 に規定する損害保険会社又は同条第9項 に規定する外国損害保険会社等で、責任保険(引用者注:「原子力損害賠償責任保険」のこと)の引受けを行う者に限る。以下同じ。)がうめることを約し、保険契約者が保険者に保険料を支払うことを約する契約
と規定されています。
保険業法第186条の規定により、日本に支店等を設けない外国の保険事業者は、日本に住所若しくは居所を有する人若しくは日本に所在する財産又は日本国籍を有する船舶若しくは航空機に係る保険契約を締結することが禁止されていますが、原子力損害の賠償に関する法律第8条においてもこのような日本に支店等を設けない外国の保険事業者と締結した契約は、損害賠償措置としての原子力損害賠償責任保険契約とはならない旨明記されていることになります。
また、保険会社には、正当な理由がある場合を除き、自賠責保険の契約の締結を拒絶できない、保険契約の締結義務がありますが(自動車損害賠償保障法第24条)、原子力損害賠償責任保険契約にはそのような保険会社の締結義務はありません。
(3)原子力損害賠償補償契約
原子力損害賠償補償契約は、原子力損害の賠償に関する法律第10条で、

原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合において、責任保険契約(引用者注:「原子力損害賠償責任保険契約」のこと)その他の原子力損害を賠償するための措置によつてはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付することを約する契約
と規定されています。
上記の「原子力損害賠償責任保険契約等によってうめることのできない原子力損害」とは、原子力損害賠償補償契約に関する法律第3条で規定されており、具体的には

一  地震又は噴火によつて生じた原子力損害
二  正常運転(政令で定める状態において行なわれる原子炉の運転等をいう。)によつて生じた原子力損害
(以下省略)
等が該当します。
このように、地震又は噴火による原子力損害や正常運転による原子力損害を原子力損害賠償補償契約で担保しているのは、原子力損害賠償責任保険契約等(その他の原子力損害を賠償するための措置)では、これらの損害を「うめることができない」からであり、つまり、原子力損害賠償責任保険ではこれらの損害を免責としていると考えられます。

(4)供託
原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結をしない場合は、

原子力事業者の主たる事務所のもよりの法務局又は地方法務局に、金銭又は文部科学省令で定める有価証券
(原子力損害の賠償に関する法律第12条)
による供託を行わなければなりません。 

5. まとめ

以上2回にわたって、「東日本大震災と保険」というテーマで、地震保険及び原子力保険を中心に概観いたしました。
地震大国といわれる日本においては、これらの保険の動向に今後とも高い関心を持ち続ける必要があるのではないかと考えられます。
最後になりましたが、被災地の一刻も早い復興をお祈りして、今回のシリーズを終えたいと思います。

著者: 金融インダストリーグループ 相原 浩司
2012.07.20 

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