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IFRS第4号の全面的な改善を提案する再公開草案「保険契約」の概要について

保険契約に関する再公開草案(以下、再EDという)が2013年6月20日に公表された

保険契約に関する再公開草案(以下、再EDという)が2013年6月20日に公表された。本稿では、コメントが募集されている事項の概要を解説し、最後に今後の予定について述べる。

1. はじめに

保険契約に関する再公開草案(以下、再EDという)が2013年6月20日に公表された。
経緯としては、保険契約の会計処理の全面的な改善を提案すべく国際会計基準審議会(IASB)が2010年7月に公開草案(以下、ED2010という)を公表し、非常に多くの数のコメントが寄せられ、再審議で議論をおこなった結果、再EDとして公表し再度コメントを求めることとなった。ただし、再EDでコメントが求められている事項は、これまでの議論を踏まえ、再ED全体ではなくED2010から重要な変更のあった以下の5つの論点を含む7つに限定されている。なお、括弧内の文言は筆者の補足である。

(1)契約サービス・マージンの調整
(2)保険者に裏付資産の保有が要求され、裏付資産のリターンとのリンクが特定される保険契
約(「ミラーリング・アプローチ」)
(3)保険契約収益および費用の表示
(4)利息費用の純損益への表示(割引率の変動のその他包括利益(OCI)への表示)
(5)適用日および経過措置

本稿では、コメントが募集されている上記(1)~(5)の概要を解説し、最後に今後の予定について述べる。なお、本稿に記載された意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りする。

2. 解説

(1)契約サービス・マージンの調整
ED2010では、保険契約の当初測定時に初日利得の認識が禁止され、その初日利得を残余マージンとして保険契約負債の一部として認識し、再測定は行わずにカバー期間にわたって規則的に償却することが求められていた。再EDでは、初日利得の認識が禁止されている点に変わりはないが、以下の点で変更があった。
•初日利得を保険契約負債の一部として認識したものの名称が、契約サービス・マージン、となった
•将来の補償に関するキャッシュ・フローの見積りの変更による変動分を契約サービス・マージンで調整する(リスク調整の変動は純損益に表示)。調整に関しては、以下の事項が提案されている

a.調整は増加・減少の両方向あり
b.調整後の契約サービス・マージンはマイナスにならない(出再保険契約にかかる契約
サービス・マージンはマイナス になりうる)
c.過去分(例えば既発生保険金など)に関する変動分は調整しない

これはED2010に対する反対意見、例えば見積の変更により損失が認識された後の期間に利得が生じることは当初測定時に初日利得を認識しないことと不整合であるなどとの意見を受け再審議されたことによる。

(2)保険者に裏付資産の保有が要求され、裏付資産のリターンとのリンクが特定される保険契約(「ミラーリング・アプローチ」)
ED2010には存在せず再EDで導入された提案である。保険者に対するキャッシュ・フローが裏付資産のリターンに直接的に連動する場合は経済的ミスマッチが生じないにも関わらず、両者の測定および表示方法に相違があれば会計上のミスマッチが生じてしまうことから、この会計上のミスマッチを避けることを目的として、通常のビルディング・ブロック・アプローチとは異なる手法、いわゆるミラーリング・アプローチが導入されることとなった。ミラーリング・アプローチの適用対象となる契約は以下の通りである。
a.保険者に裏付資産の保有が要求され、かつ、
b.保険契約者への支払額とこれら裏付資産のリターンとのリンクが特定される

保険契約の測定にミラーリング・アプローチが適用される場合には、キャッシュ・フローを以下の3つの構成要素に分解し、その構成要素毎に異なる測定および表示が要請されることとなった。

I. 裏付資産のリターンと直接的に連動するキャッシュ・フロー
II. 間接的に連動するキャッシュ・フロー
III.連動しないキャッシュ・フロー

ここで、I.の構成要素の変動にかかる表示は裏付資産の表示に合わせ、II.の変動の表示はすべて純損益に、III.の変動の表示は純損益およびOCIに区分して表示されることとなる。
なお、キャッシュ・フローを3つの構成要素として表現する分解方法は複数存在し得るため、任意の分解方法を許容すれば、同一契約に対して異なる測定と表示が適用される可能性があることから、再EDでは、以下の要件を満たす分解を提案している。

a.裏付資産のリターンとの連動を最大にするようにキャッシュ・フローを表す
b.保険契約者が受け取る最低固定金額を最大化する

なお、分解方法の例示が再EDに記載されているが、紙面の都合上、ここでは詳細は割愛する。

(3)保険契約収益および費用の表示
ED2010では、包括利益計算書に要約マージン・アプローチが採用されていたが、再EDでは包括利益計算書に保険契約収益と呼ばれる項目を表示し、その保険契約収益には経過保険料アプローチを導入することとなった。
保険契約収益は、サービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価を反映する金額で、保険契約から生じるサービスの移転を描写するものとされ、当期のカバーに関連する予想保険金および費用の最新の見積額、当期純損益に認識された契約サービス・マージンの金額、リスク調整の変動額、直接的に帰属する新契約費の回収に関連する保険料の一部の配分額の合計とされる。なお、保険契約収益および発生保険金からは投資要素を控除するものとされる。
これはED2010の要約マージン・アプローチでは包括利益計算書から保険料、保険金および費用といったボリューム情報が取り除かれ注記でのみ開示されてしまうことになる一方、これらの情報は企業のグロスでの業績に関する情報を提供するために必要であるというコメントなどを受け再審議されたことによる。

(4)利息費用の純損益への表示(割引率の変動のOCIへの表示)
ED2010では、保険負債の変動はすべて純損益に表示されていた。再EDでは、割引率の変動から生じる保険負債の変動はOCIに表示される一方、利息費用は当初認識時の割引率(キャッシュ・フローが裏付資産のリターンに直接的に連動する場合には、更新された割引率)で算定され、純損益に表示されることとなった。
これは、割引率の変動によって各報告期間の純損益が大きく影響を受けボラティリティが発生することに対して懸念が表明されたことなどを受け再審議されたことによる。

(5)適用日および経過措置
ED2010では、経過措置として移行日における残余マージン(再EDでは契約サービス・マージン)をゼロとして測定することとなっていた。再EDでは、実務上不可能である場合を除いて保険契約の当初認識時まで再EDを遡及適用することによって、契約サービス・マージンを算定することが提案されている。
これは、移行日時点に有効な契約と移行日後に認識される契約との比較可能性が失われることや、この比較可能性が失われることによる影響は保険契約のデュレーションが長期にわたることから長年に及ぶことなどが懸念されたことを受け再審議されたことによる。
なお、実務上不可能である場合を除いて遡及適用されるが、実務上不可能な場合には簡便的な修正遡及適用が提案されている。
適用日に関しては、保険者にとって包括的な変更を求める提案で実装に負荷が見込まれることから、最終基準書の公表日から概ね3年とすることが提案されている。また、早期適用は許容されることが提案されている。

3.その他の事項
再EDでは、その他にもED2010からの変更点が存在する。例えば、保険料配分アプローチが強制から許容に変更され、またその残存カバーに係る負債の測定にも変更がおこなわれていることや契約の認識や境界線の判定条件が一部変更されていることなどである。

4. 今後の予定
コメント期限と今後の予定は以下のとおりである。
(1)コメント期限:2013年10月25日
(2)コメントの再検討を踏まえて2014年上半期に論点を再審議
(3)2015年前半に最終基準書を公表
(4)基準書の適用日は最終基準書の公表日から概ね3年後

なお、今後、スケジュールおよび内容は変更される可能性があり、引き続き注視が必要であると考えられる。

著者: 金融インダストリーグループ 清水 宏久

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