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フィールドテストの結果についての考察

金融庁からのフィールドテスト結果とソルベンシーIIの影響度調査との比較

平成27年6月、金融庁より公表された「経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に係るフィールドテスト」の結果と、EUのソルベンシーIIとの影響度調査と比較しながら結果の概要をお知らせします。

はじめに

平成27年6月に金融庁より、経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に係るフィールドテスト(以下、フィールドテストと呼びます)の結果の概要が公表されましたので、EUのソルベンシーIIの影響度調査と比較しつつ、結果の概要を述べます。なお、公表内容は次のリンクよりご確認いただけます(経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に係るフィールドテストの結果について<外部サイト>)。また、本稿に記載された意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りしておきます。

フィールドテストの概要

保険会社各社の対応状況や実務上の問題点等を把握することを目的に、全保険会社を対象に、経済価値ベースの保険負債等の計算の実施することについて金融庁が要請し、第1回フィールドテストの試行は平成23年5月に結果が公表されています。今般、第2回フィールドテストの試行が行われ、その結果の概要が公表されました。

公表内容には計算仕様の概要が含まれます。先行して実施されたEIOPA(欧州保険・年金監督機構)のQIS-5(第5回定量的影響度調査)と比較すると、基本的な計算仕様に大きな違いはないものと考えられます。

なお、一連のQIS(定量的影響度調査)および、その後のLTGA(長期保証影響度調査)やストレステストの影響度調査での中でも経済価値ベース指標の計算が行われました。それらを踏まえて、EUではソルベンシーII規制の適用が平成28年1月に予定されています。

一方で、詳細な計算仕様には相違点があり、その一つには割引率の設定方法の違いが挙げられます。QIS-5では、リスク・フリー・レートとして、原則、スワップレートに基づいて設定され、非流動性プレミアムに基づく調整が考慮されますが、フィールドテストでは、原則、国債レートに基づいて設定されます。どちらもキャッシュフローをリスク・フリー・レートで割り引いて、負債とリスクの評価を行うことで経済価値ベース評価を行っています。

金融庁の報道発表資料(平成27年6月26日)

出典:金融庁の報道発表資料(平成27年6月26日)(経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に係るフィールドテストの結果について) およびEIOPA Report on the fifth Quantitative Impact Study(平成23年3月14日)より筆者作成

フィールドテストの結果の概要(1)

【経済価値ベース指標について】

・経済価値ベースの保険負債
下記の表に示すとおり、現行の保険負債(*)と大きな乖離はない(現行≒フィールドテスト)ものと考えられます。第1回フィールドテストでは、保険負債は含み益(現行>フィールドテスト)の状態でしたので、第1回と今回の間に生じた金利低下により負債が増加した影響が大きいものと考えられます。
(*)保険負債は責任準備金の他に配当準備金および支払備金を含みます。

・資本リスク比率
資本リスク比率(=マージン/リスク量)は現行のソルベンシー・マージン比率と同様に将来の保険金等支払に対応するマージンを備えているかを示す指標になると考えられます(ただし、現行ソルベンシー・マージン比率はリスク量に1/2を乗じているため、200%以上がリスクをカバーできる目安となります)。
当比率について、生命保険会社全体の区分では150%以上、損害保険会社全体の区分では190%以上と公表されています。これはリスクをカバーできる目安の100%以上であり、かつ、QIS-5の全社計ベースの165%と同等あるいはそれ以上の水準となっています。

保険負債の比較

出典:金融庁の報道発表資料(平成27年6月26日)(経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に係るフィールドテストの結果について)より筆者作成(計算結果が複数あるものは最大値を表示)

フィールドテストの結果の概要(2)

【内部モデルの使用状況】

フィールドテストでは、リスク管理に内部モデルを使用しているかどうかについてのアンケートが行われ、結果の概要が公表されています。下記の表に示すとおり、リスク・カテゴリ別に見て多くは内部モデルの使用割合(リスク総額ベース)が9割程度まで達している状況にあり、内部モデルで評価する体制が一定程度整備されているものと考えられます。
一方で、巨大災害リスクにおける内部モデルの使用割合が生保より損保の方が大きいこと、逆に、解約リスクにおける内部モデルの使用割合では損保より生保の方が大きいことから、ビジネスモデルに特有のリスクを内部モデルで評価しようとする会社があるものと考えられます。
また、概ね、リスク総額ベースでの使用割合が会社件数ベースのそれを上回っていることから、巨額なリスクを保有するリスク・カテゴリについて、優先的に内部モデルを使用しているものと考えられます。

生保と損保の内部モデルの使用割合

出典:金融庁の報道発表資料(平成27年6月26日)(経済価値ベースのソルベンシー規制の導入に係るフィールドテストの結果について)より著者作成

今後の経済価値ベースの評価についての論点

EUでは、QIS-5に続く経済価値ベース指標の試行として、LTGA(長期保証影響度調査)とストレステストが行われました。これらの試行で調査された論点については、今後の日本のソルベンシー規制を議論する際にも有用であるものと考えられます。

LTGAでは、割引率の補正等の各種措置について、その有効性が調査されました。たとえば、イールドカーブの補外方法あるいは終局金利の設定方法は、今のところ一般的な方法が確立されておらず、これから日本で議論する余地があるものと考えられます。なお、EIOPAでもリスク・フリー・レートの設定については、検討が続けられており、平成27年6月にはそれに関する技術情報がアップデートされています。

ストレステストでは、”二重ストレス”(double hit)シナリオと長期化する低金利シナリオを含むストレスシナリオでの影響測定が行われました。

二重ストレスシナリオは、たとえば、スプレッドの上昇とリスク・フリー・レートの低下が同時に起きるシナリオで、複数のパラメータが同時に変動するシナリオです。すなわち、金融危機のようなシステミックな状況を想定しているものと考えられます。フィールドテストでは、主に単一のパラメータが変動したシナリオでリスク量を測定していますが、加えて、単一のパラメータの変動だけでは評価できない保険会社の脆弱性を評価することは一定の有用性があるものと考えられます。

低金利シナリオは、日本の過去の低金利の状況を参考にして設定されました。したがって、シナリオそのものを参考にしても日本におけるストレスシナリオになり得ない可能性があります。一方で、フィールドテストの評価基準日である平成26年3月31日以降も金利が低下傾向にあるため、さらに低金利が長期化するリスクをどのように評価すべきか検討する価値があるものと考えます。

国債利回りデータ

(出典:財務省の利付国債のデータをもとに筆者が作成) 

まとめ

以上のように、フィールドテストの結果の概要とこれからの論点を中心に概括しました。今後、経済価値ベースのソルベンシー規制導入にむけた議論はますます進むものと考えられ、保険会社各社のリスク管理戦略の動向等に関心を持つ必要があるのではないかと考えられます。

著者 : 有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ
大屋 雅彦

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