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金融業界におけるデータ活用方法の一例

イールドカーブによるデータ分析からみる金利の期間構造

保険業界を含む金融業界の業務の場面において、市場から得られるデータをどのように活用しているかを、主成分分析の理論や金利の期間構造の例を用いて概説します

1. はじめに(データ分析の様々な応用)

ビッグデータという言葉が使われ始めてから数年が経過しました。現在では、バズワードの期間を経て、データを業務の場面でどのように活用するかという段階にあると言われています。他方、保険業界を含む金融業界においては、リスク管理や市場分析のために膨大なデータを活用するといったことは古くから行われてきました。生命保険業界では、超長期の負債を保有するために金利に対する負債価値の感応度が高くなっており、金利リスクの管理の必要性が唱えられて久しくなっております。

本稿では、イールドカーブの主成分分析の例を交えながら、金利の期間構造について示します。理論的な厳密性よりも、リスク管理の場面でのデータの活用方法の一部を主成分分析を切り口として見ていくことを目的とします。
なお、本稿に記載された意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りしておきます。

2. 主成分分析とは

例えば、「身長」と「体重」といった二つのデータの組み合わせを考えた場合、多くの人にとっては「身長」が高ければ「体重」も重くなるだろうという直観が働きます。しかしこの場合、身長が高くても痩せ型の人や逆に身長が低くても貫禄のある人もいるように、データのばらつきが想定され、それらに対して最も説明力を持った「軸」(図2-1の矢印のようなもの)はどのようなものだろうか、という疑問が生じます。主成分分析の目的はこの疑問に対する答えを提供することです。以下では金利の期間構造を主成分分析した結果を示します。主成分分析の理論につきましては、Appendixで概説いたします。

図2-1:「身長」と「体重」を例にした主成分分析

3. イールドカーブの主成分分析(その1)

主成分分析の応用として有名なものの一つに、金利の期間構造の分析が挙げられます。債券の最終利回りと残存期間との関係を表した曲線をイールドカーブといい、残存期間が長くなるほど最終利回りが増加する傾向があることが一般的に知られています。
図3-1の例では、各イールドカーブは3か月から30年まで19個の時点でのデータを観測しているので、19次元空間の点であると見ることができます。

以下(図3-2参照)では、2009年6月末から2014年6月末までのUSD金利スワップの日次データを用いて、イールドカーブの差分を主成分分析したときの第一主成分、第二主成分および第三主成分の結果を示します。

一般に、イールドカーブを主成分分析した場合、表3-1で示すように、その変動方向は、第三主成分までの累積寄与率によってほとんどのばらつきを捕捉することができます。これらは金利の期間構造を分析するときに各主成分が似たような形状としてしばしば観測されることが知られており、それぞれ順に「パラレルシフト」、「ツイスト」、「バタフライ」と呼ばれています。すなわち、イールドカーブはパラレルシフト、ツイスト、バタフライの線型結合によって表される方向に(累積寄与率の分だけ)変動すると考えることができます。

図3-1:イールドカーブの例

出典:BloombergのUSD金利スワップレートのデータから筆者作成

図3-2:イールドカーブの主成分

出典:Bloombergの5年分の日次のUSD金利スワップレートのデータから筆者作成

表3-1

出典:Bloombergの5年分の日次のUSD金利スワップレートのデータから筆者作成

3. イールドカーブの主成分分析(その2)

次に、パラレルシフト、ツイスト、バタフライの形状に注目したときに、これらがリスク管理上どのような性質を持つかを考えることとします。

パラレルシフト(図3-3参照)については、その形状から、この方向にイールドカーブが変動した場合は、すべての残存期間について同じ方向に最終利回りが動くことになります。すなわち、この場合はすべての残存期間について債券価格は同方向に変動することになります。このことは、金利リスク管理の場面で、一定方向への金利に対する債券価格の感応度であるデュレーションをコントロールすることの有効性について、理論的な正当性を与えたと見ることもできます。

また、ツイスト(図3-4参照)については、残存期間の短いところで正値、長いところで負値となっているため、この方向にイールドカーブが変動した場合は、満期までの期間が短い債券の価値と長い債券の価値が逆向きに変動することになります。

バタフライ(図3-5参照)については、残存期間の短いところと長いところで共に負値となっており、符号が同じであるため、残存期間の短い債券と長い債券に対して同じ方向の価格変動をもたらすことがわかります。

また、パラレルシフトの寄与度が圧倒的に高いことに注目すると、イールドカーブの変動はほとんどパラレルシフトであることも分かります。
リスク管理においては、このようなイールドカーブの各主成分の性質を考慮し、それらの方向にイールドカーブが変動したときの資産や負債に与える影響の度合い、またその方向性(純資産を増大させるか減少させるか)などを見ることによって、純資産の十分性の検証やポートフォリオ毎のリスクの把握を行うことが考えられます。

図3-3:パラレルシフトによるイールドカーブの変動

出典:BloombergのUSD金利スワップレートのデータから筆者作成

図3-4:ツイストによるイールドカーブの変動

出典:BloombergのUSD金利スワップレートのデータから筆者作成

図3-5:バタフライによるイールドカーブの変動

出典:BloombergのUSD金利スワップレートのデータから筆者作成

4.1. 前提と結果の誤認

主成分分析を考える場面で良く誤解されやすいこととして、「前提」と「結果」の順序を逆に捉えてしまうことが挙げられます。例えば、イールドカーブを主成分分析した場合、パラレルシフト、ツイスト、バタフライの形状をした軸が一般に観測されることから、「予めこのような軸を仮定しておけば、イールドカーブを表現することができる。」といったものです。
主成分はあくまでもデータの構造から導かれるもので、それらを先に仮定してデータの要素を表現するといったものではありません。説明力が高いと考えられる軸を最初に仮定して、データの変動をそれらで表現しようとする分析方法としては、因子分析が挙げられます。本稿では深い内容までは踏み込みませんが、これらは互いに対になる概念であり、市場分析の場面などではどちらか一つを用いるのではなく、両者を適切に織り交ぜることがデータ自身の性質を正確に捉えるためにも、また、何らかの指標との関連性を把握するためにも重要だと考えられます。

4.2. 単位の標準化

たとえば、一つ目の要素が身長、二つ目の要素が体重、三つ目の要素が年齢となっているデータを考えたときには、要素ごとに単位が異っているため、全体でのばらつきをどのように捉えるかが問題になります。このような場合は、各要素の分散が1となるようにデータを標準化する方法が考えられます。標準化されたデータとされる前のデータでは当然、主成分が異なります。分析の対象となるデータの性質や目的に応じて、単位を使い分けることが必要になります。

データを経営戦略に活用する有名な例として、あるスーパーマーケットチェーンで実際にあったといわれている「ビールとおむつの関係」があります。一定期間中に購入された商品のバスケットの履歴をチェックした結果、"ビール"と"おむつ"はしばしば一緒に購入されるということが判明しました。この結果を受けて、ビールとおむつの売り場を隣接させた結果、両者の売り上げを伸ばすことができたというものです。これには「子供のおむつを買いに行かされた父親がついビールを手に取ってしまう」といった説がありますが、その信憑性については定かではありません。しかし、データ分析をする上で重要な視点の一つは、「予め何らかの先入観によって理由付けがなされたものではなく、データに対する説明力の強い軸をデータの構造から導く」といったものです。主成分分析は正にこのような考え方に基づいた分析方法だといって良いでしょう。

6. まとめ

今日では、IT技術の発達やデータ管理システムの普及により、かつてない程情報が氾濫しているといわれています。例えば、インターネットによって何かのトピックスを検索した場合、瞬時に膨大なデータベースを使用した検索結果が表示されます。しかし、どの情報が有益であり、また、どれが不必要であるかについては、判断が難しい場合があります。膨大な情報からどの要素が重要であるか(たとえば寄与率の高い軸のようなもの)を見出すことによって、リスク管理や経営戦略の場面で有利に立てることが期待されます。

著者 : 有限責任監査法人トーマツ 金融インダストリーグループ
白滝 桂太郎

Appendix-主成分分析の理論

Appendixはこちら 

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