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IAISによる国際的な資本規制の動向について

2014年10月、グローバルにシステム上重要な保険会社(G-SIIs)に対する基本的資本要件(BCR)が金融安定理事会(FSB)によって承認された。G20およびFSBは、世界的な金融危機を受け、グローバルにシステム上重要な金融機関(G-SIFIs)に対して新たな規制を課すことを検討しており、今回承認されたBCRはその検討の枠組みの一部である。

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1. はじめに

2014年10月、保険監督者国際機構(IAIS)が開発を進めているグループベースの国際的な資本規制の第一段階として、グローバルにシステム上重要な保険会社(G-SIIs)に対する基本的資本要件(BCR)が金融安定理事会(FSB)によって承認された。G20およびFSBは、世界的な金融危機を受け、グローバルにシステム上重要な金融機関(G-SIFIs)に対して新たな規制を課すことを検討しており、今回承認されたBCRはその検討の枠組みの一部である。G-SIIsに対する資本規制としては、BCRへ上乗せされる必要資本としてより高い損失吸収能力(HLA)の開発も進められており、2015年中に完成する予定である。

一方、監督の実効性向上の観点から、G-SIIsに対する規制の開発と並行して、世界の保険市場の約半分を占める約50社の国際的に活動する保険グループ(IAIGs)を対象とした監督の枠組み(ComFrame)の開発も進められており、2013年10月には、定量的な国際資本基準(ICS)を2016年までに完成させることが正式に公表された。

以上の背景を踏まえ、本稿では、G-SIIsに対して検討されている新たな規制の概要について、BCRを中心に解説する。なお、本稿に記載された意見に関する部分は筆者の私見であり、所属する法人の公式見解ではないことをお断りする。

図表1:規制の適用範囲

規制

対象会社

保険コアプリンシプル(ICP) 

全ての単体/グループの保険会社

ComFrame

IAIGs(未選定であるが約50社を想定) 

G-SIIs規制

G-SIIs(9社:2014年11月時点)

2. BCRの解説

(1)G-SIIsに対する規制の概要

2013年7月、IAISによって、G-SIIsの選定基準および既存のICPをベースとしたG-SIIsへの適用規制が公表された。

伝統的保険事業は本質的には金融システム上重要ではないことから、G-SIIsが世界的な金融システムにもたらすリスクの性質と程度はグローバルにシステム上重要な銀行(G-SIBs)のそれとは大きく異なると考えられている。ただし、規模、グローバルな事業活動、代替性の指標に加え、システミックリスク(ある機関の困窮あるいは倒産が、世界的な金融システムの重大な転位と広範の国に及ぶ不利な経済的結果をもたらすリスク)の発生・伝播のドライバー(推進要因)と想定される以下の要素の影響が大きい場合には、G-SIIsに選定される。

  • 非伝統的商品および非保険事業(NTNI)の規模
  • 金融システムとの相互関連性(金融機関への貸出し、金融機関発行の証券の保有・借入れなど)

 

 なお、NTNIと考えうる商品・事業として以下の3つが挙げられている。

  • 証券、貸付金、他の金融商品に対する信用保証を提供する商品(短期的な商品は除く)
  • 保険者を相当な市場リスク、流動性リスクに晒し、かつ、これらのリスクヘッジのために複雑なリスク管理の実務が必要とされる商品(最低保証付きの変額年金などが含まれる。なお、一般勘定の運用成績に関連する最低保証は除く)
  • 満期変換あるいは流動性変換、レバレッジあるいは不完全な信用リスクの移転などを生じさせる投資・資金調達(伝統的保険事業を実施するために正当化される範囲を超える投機的なレポや証券の貸付などが含まれる。なお、キャットボンドなどによる調達は除く)

上記の基準によりG-SIIsに選定された保険会社(グループ)に対しては、以下の3つの規制が適用される。

(ア)監督の強化

 グループ全体の監督当局によって、以下の観点からの監督が実施される。

  • 持株会社に対して直接的な権限をもつこと。特に、グループ全体の流動性リスク管理を行うための適切な措置を要求すること
  • G-SIIsのシステミックリスク管理計画(SRMP)の策定と導入を監視すること。必要に応じて、SRMPに、システム上重要なNTNIの伝統的な保険事業からの効果的な分離あるいは制限・禁止などを含めること
  • NTNIを分離するプロセスによって、規制を受けない金融事業体が生成されないようにすること

 

(イ)効果的な破綻処理

G-SIFIsに共通して適用される要件には以下が含まれる。

  • 危機管理グループ(CMGs)の設立
  • 再建・破綻処理計画(RRPs)の策定
  • 破綻処理の実行可能性評価の実施
  • 金融機関ごとのクロスボーダーの監督協力の合意

 

上記要件の実施に際し、G-SIIsの場合は、以下に掲げる保険事業の特性が考慮される。

  • NTNIを伝統的保険事業から分離する計画
  • 伝統的保険事業を行う事業体の破綻処理の一部として、ポートフォリオ移転とランオフ協定の利用可能性
  • 保険契約者保護と保証制度の存在

 

(ウ)資本の強化

G-SIIsがNTNIを実施する際には、その破綻の可能性を軽減するための資本としてHLAが要求される。HLAの詳細は検討段階であるが、本稿執筆時点では、以下のような内容が公表されている。

  • HLAは、当初は、G-SIIsの全事業(伝統的保険事業を含む)に対して計算されるBCRを基礎として、NTNIに対する追加的な必要資本として計算する。ICSの開発が完了した後は、BCRをICSに置き換える。
  • HLAは、NTNIが伝統的保険事業から効果的に分離されているかどうかを考慮して計算される。仮にNTNIが効果的に分離されていない場合は、より高いHLAが求められる。
  • HLAは、最も高品質の資本、すなわち継続企業の前提のもとで常時保険者の損失の補填に利用可能な永久資本で充足される。



図表2:IAISの国際的な資本規制に関するスケジュール

実施時期

主なマイルストーン

2014年12月 

ICSの第一次コンサルテーション文書公表(コメント期限:2015年2月)     

2015年11月 

HLAの最終化 

2016年12月 

ICSの合意(その後もフィールドテストを通じて継続的に改善) 

2018年末

ComFrame(ICSを含む)をIAISで採択 

2019年

ComFrame(ICSを含む)の適用開始
G-SIIへのHLAの適用開始(HLAの基礎は当初BCR、その後ICS) 

(出所:IAIS「Basic Capital Requrements for Global Systemically Important Insurers」(2014年10月)を基に作成)

 

図表3:BCR原則およびHLA原則の概要

BCR

HLA

項目

概要

原則1

主要なリスクの反映

資産・負債の双方から生じるリスクを含む主要な保険リスク、および非保険リスクを反映すること

原則2

原則1

比較可能性    

以下を最小化すること

 

  • 評価プロセスに含まれる保守性の水準の差などから生じる歪み
  • 各法域であるいは時の経過に応じて適用される裁量の水準

 

原則2

G-SIIsのリスクの反映

G-SIIsのステータス評価の推進要員(ドライバー)を反映すること

原則3

コストの吸収

以下の水準に設定されること

 

  • G-SIIsの破綻あるいは経済的困窮によって生じうる金融システムや経済全体に対するコストを一定程度吸収する水準
  • G-SIIsへの指定によって生じると期待される便益を相殺する水準

 

原則3

原則4

弾力性

様々な状況(ストレス状況下のマクロ環境を含む)において機能し、かつ有効性を維持できること

原則5

継続企業

「清算企業」ではなく、「継続企業」の観点を反映すること

原則6

資本の質

「最高品質の資本」によって要件が充足されること

原則4

原則7

実用性

粒度と単純性のバランスを適切に保つこと。

すなわち、重要な問題にフォーカスした有効かつ頑強な結果が得られる一方で、パラメータやデータ要件の数を最小限に留めること

原則5

原則8

整合性

対象とすべき会社間の整合性および適用可能性が維持されること

原則6

原則9

透明性

最終結果に関する透明性の水準および公表データの活用が最適化されること

原則10

精緻化

フィールドテストを通じてIAISが収集した経験やデータを踏まえて、精緻化されること

(出所:IAIS「HIGHER LOSS ABSORBENCY (HLA) PRINCIPLES」(2014年9月)および「Basic Capital Requirements for Global Systemically Important Insurers」(2014年10月)を基に作成)

実施時期 主なマイルストーン
 2014年12月   ICSの第一次コンサルテーション文書公表(コメント期限:2015年2月) 
 2015年11月   HLAの最終化
 2016年12月   ICSの合意(その後もフィールドテストを通じて継続的に改善)
 2018年末  ComFrame(ICSを含む)をIAISで採択 
 2019年   ComFrame(ICSを含む)の適用開始
 G-SIIへのHLAの適用開始(HLAの基礎は当初BCR、その後ICS) 

実施時期 主なマイルストーン
 2014年12月   ICSの第一次コンサルテーション文書公表(コメント期限:2015年2月) 
 2015年11月   HLAの最終化
 2016年12月   ICSの合意(その後もフィールドテストを通じて継続的に改善)
 2018年末  ComFrame(ICSを含む)をIAISで採択 
 2019年   ComFrame(ICSを含む)の適用開始
 G-SIIへのHLAの適用開始(HLAの基礎は当初BCR、その後ICS) 

実施時期 主なマイルストーン
 2014年12月   ICSの第一次コンサルテーション文書公表(コメント期限:2015年2月) 
 2015年11月   HLAの最終化
 2016年12月   ICSの合意(その後もフィールドテストを通じて継続的に改善)
 2018年末  ComFrame(ICSを含む)をIAISで採択 
 2019年   ComFrame(ICSを含む)の適用開始
 G-SIIへのHLAの適用開始(HLAの基礎は当初BCR、その後ICS) 

(2)BCRの概要

前述のとおり、BCRはHLAの基礎となる必要資本であり、HLAと合わせて、G-SIIsに対する連結ベースのグループ必要資本を形成する。G-SIIsは、BCRとHLAの合計以上の適格自己資本を保有することを求められるが、G-SIIsの適格自己資本はBCRの380%と試算されており、今後開発されるHLAがBCRの280%以下であれば資本要件が充足される計算になる。

図表4:BCR=100とした場合の適格自己資本(G-SIIsの平均値)

(出所:IAIS「Basic Capital Requirements for Global Systemically Important Insurers」(2014年10月)を基に作成)

BCRは、G-SIIsにとって重要な資産と負債のリスクを考慮して設計されており、リスク感応度と実用性のバランスを図る観点から、資産と負債の各セグメントのリスクエクスポージャーにリスク係数を乗じる方式が採用されている。リスク計測上は、資産・負債の総合的な管理(ALM)のリスク、オペレーショナル・リスクおよびリスクの分散効果なども重要と考えられるが、BCRではこれらは明示的には考慮されていない(ICSでは明示的に考慮される予定)。なお、G-SIIsは2015年からグループ全体の監督当局に対してBCRの報告が求められる。

(ア)BCRの計算

BCRは、全ての持株会社、保険会社、銀行、その他のサービス会社を含む連結グループ全体で、次の3つの要素に対して計算される。
A) 保険要素
B) 銀行要素
C) その他の非保険金融事業と重要な非金融事業

BCRの計算

A)の保険要素は、伝統的生命保険(TL)、伝統的損害保険(TNL)、非伝統的保険(NT)、資産(A)の区分で、リスクエクスポージャーにリスク係数を乗じて計算される(図表5)。B)またはC)の非保険要素(NI)は、各セクターの規制を準用する(例えば、銀行の場合は、バーゼルIIIのレバレッジ比率を適用)。

ここで算式中のαは、BCRの全体水準を調整し、特定の信頼水準をターゲットにするためのスケールパラメータである(当初は1に設定)。通常の事業環境において頻繁に違反が生じないように、当局の介入が開始される規制資本(PCR)と免許維持のための最低資本(MCR)の間にBCRを設定することが想定されている。なお、αが1の場合、G-SIIsのBCRはPCRの75%と試算されている。

 

図表5:保険要素の各セグメントのリスク係数とリスクエクスポージャー

カテゴリー リスク係数 セグメント リスク
エクスポージャー
G-SIIsの
資本配分(試算)
伝統的生命保険(TL) a1 0.06%  保障型  リスク保険金額 17%
a2 0.6%  有配当商品  現在推計
a3 1.2%  年金  現在推計
a4 0.6%  その他  現在推計
伝統的損害保険(TNL) b1 6.3%  財産  保険料指標 15%
b2 6.3%  自動車  現在推計
b3 11.3%  賠償責任  現在推計
b4 7.5%  その他  現在推計
非伝統的生命保険(NT) c1 1.2%  変額年金  想定元本 17%
c2 4.0%  住宅ローン保険  有効リスク
c3 1.1%  保証型投資契約  想定元本
c4 1.3%  その他  現在推計
資産(A) d1 0.7%  債券・貸付-投資適格  公正価値 51%
d2 1.8%  債券・貸付-投資不適格   公正価値
d3 8.4%  株式・不動産  公正価値

出所:IAIS「Basic Capital Requirements for Global Systemically Important Insurers」(2014年10月)を基に作成)

 

図表5のとおり、各セグメントのリスクエクスポージャーとして、資産は公正価値、保険負債は基本的には現在推計が採用されており、現行会計上の計上金額からの修正が必要となる可能性がある。

保険負債の現在推計は、ICP14.8で「偏りのない直近の前提を使用して、保険義務を履行する際に生じる将来の全ての関連キャッシュフローの期待現在価値を反映する」金額と定義されており、現行会計上の保険負債に含められる保守的なマージンは除くと解釈されている。このマージンは、現在推計を超過する保守的なマージン(MOCE)として、ICP14.9で「保険義務を履行する際に生じる全てのキャッシュフローに関連した固有の不確実性を反映する」金額と定義されているが、法域間で異なる可能性が高いMOCEをリスクエクスポージャーから除外することによって、法域間の比較可能性が高まると考えられている。

また、比較可能性、透明性を高める更なる措置として、保険負債の割引に使用する共通のイールドカーブが明示的に特定される。イールドカーブは、流動性の高いスワップ(あるいは国債)のイールドカーブに、社債スプレッドの一定割合を上乗せして作成される。

 

なお、リスクエクスポージャーとして現在推計以外の指標が採用された主なセグメントについて、その理由は以下のとおりとされる。

  • TLの保障型:現在推計は負値になる可能性があるので、相対的なリスクの測定値としてリスク保険金額(保険金額から現在推計を控除した金額)を採用
  • TNLの財産:現在推計は未発生事象が適切に反映されない指標であり、重大な事象の発生後に大きく変動する可能性があるので、保険料設定が適切であることを前提として保険料指標(非比例再保険と巨大災害再保険の割増修正を行った保険料)を採用
  • NTの変額年金:現在推計は、負値になる可能性がある、会計基準によって異なる、通常確率論的手法で計算されるので煩雑などの理由から、決定論的な想定元本(契約上保証された契約者への支払の現在価値)を採用

 

(イ)適格自己資本

G-SIIsの連結ベースの適格自己資本は、以下の2つに分類される。

  • 中核的資本:財務の健全性の強化に寄与し、継続企業と清算企業の両前提において損失を吸収する資本
  • 追加的資本:清算の際に契約者保護に寄与する資本

前述のとおり、G-SIIsはBCRとHLAの合計以上の適格自己資本を保有することを求められるが、資本構成に関する制限として、追加的資本はBCRの50%以下とする必要がある。

また、適格自己資本に関する論点の一つとして、前述のMOCEがある。現行会計上は負債で認識されているMOCEは中核的資本に含められるので、適格自己資本が著しく増加することになるが、このMOCEの取扱いはICSの開発段階で再検討される予定である。

以上

著者: 金融インダストリーグループ 日浦優吾

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