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FinTechの未来 第1回

【日経産業新聞 2016年6、7月連載】

2016年6月から7月まで「日経産業新聞」に『FinTechの未来』と題して寄稿した内容を5回に分けて掲載しています。FinTechに関する背景や現状など基礎知識と、今起きているトピックスをベースに日本における今後の発展の方向性や懸念される課題を明らかにし、FinTechの未来像について読み解きます。

FinTechの歴史的経緯と成功要因

近年、「FinTech」が金融業界を席巻しつつある。ファイナンスとテクノロジーから成る造語であり、IT(情報技術)を駆使した新たな金融サービスのことである。
FinTechが成立した理由の1つは、スマートフォン(スマホ)が急速に普及し、金融サービスへのニーズが高まったことにある。インターネットへのアクセスが容易になるとともに、フェイスブックのようなSNS(交流サイト)が拡大するなどスマホに絡んだ新しいニーズが続々と生まれている。

これに合わせ、金融サービスへのニーズも拡大しているが、従来の金融サービスは規制とインフラに守られているため、追随できていない。このギャップを埋めるのがFinTechなのである。

FinTechが成立したもう一つの大きな理由は、リーマン・ショックだ。リーマン・ショックにより、金融機関は相次ぎサービスの縮小や現状維持に傾いた。特に融資においては信用収縮が起こり、貸し渋りや貸しはがしが横行したため、そのギャップ埋めるべく、新しい審査手法に基づき融資する事業者が次々と現れた。

その一方、金融機関ではリストラが実施され、退職した大量の人材がFinTech事業者として起業、もしくはFinTechに関連する事業に参画した。

こうして成立したFinTechであるが、成功要因は限られる。まず、FinTechには将来の展望も含めた社会課題の視点があることが挙げられる。次に、ビジネスモデルが革新的であることだ。

最後に、顧客にこれまでにない体験を与えられることである。顧客経験が変わらない限り、既存のサービスやソリューションに固定化された顧客は移行しない。FinTechは、既存の金融サービスに比べて特に使い勝手を劇的に向上させている。

一方、技術については必ずしも新しいものを使っていないことが多い。むしろ、既存の技術を組み合わせ、応用していることが多いのは意外な点である。

次回以降、FinTechがどのように展開していくかについて、過去の経緯、現在の状況を見据えつつ述べていく。

〔PDF, 319KB〕
(2016/06/29 日経産業新聞)

日本と海外のFinTechの違い

一口にFinTechと言っても、日本と海外では基本的にサービス・形態も異なる。FinTechは規制とインフラとニーズの関係性によって成立しているということを前回述べた。規制は各国で比較的近いものの、インフラやニーズは各国で大きく異なるためだ。

例を挙げると、ケニアを中心とした「M―PESA」という携帯電話を使った送金・決済サービスがある。ケニアの通信会社と銀行によって運営されており、特徴は銀行口座を持たなくても、携帯電話番号さえあれば送金可能で、取次店で現金を受け取ることができることである。

ケニアでは都会への出稼ぎが多いため、送金サービスへのニーズはとても高い。一方で、銀行口座保有率(2014年で55%)を携帯電話の普及率(13年で71%)が上回る。こうした背景により、M―PESAのサービスは広く受け入れられ、同様のサービスも含めると同国内での13年の利用率は52%にも達する。

これと同様のサービスはカンボジアの「Wing」などがあり、発展途上国で流行っているビジネスモデルである。

では、日本ではどうか。日本は銀行口座保有率が97%(14年)、クレジットカード保有率が84%(15年)、さらに電子マネー保有率が80%(15年)と高い。ATMも含めた送金・決済インフラが充実しているため、同じビジネスモデルでは日本で普及するのは現実的には難しいと思える。

日本のFinTechに関して、1つのエピソードがある。日本のあるカンファレンスで、ロンドン市長が公共交通機関で使える電子マネー「オイスターカード」は素晴らしいと話したところ、聴衆から日本にも同様のサービスはあると指摘を受けたのである。

確かに、オイスターカードは世界的にも電子マネーとして先進的な取り組みであるが、実は日本はその先を行っている。日本の「Suica」「Edy」をはじめとする電子マネーは、オイスターカードよりも2年早い01年に登場し、さらに04年には「おサイフケータイ」が生み出された。

日本人は利便性を追求するので、決済の領域は欧米に比べて先進的である。一方、融資や資産運用、資本調達の領域は、欧米に比べ遅れている状況にある。

当面は海外のFinTechを日本に取り入れることから始まるが、今後、日本発祥の金融サービスが登場することを期待したい。

〔PDF, 318KB〕
(2016/06/30 日経産業新聞)

FinTechの全体動向と注目ポイント

FinTechは顧客にどのようなサービスをもたらし、最終的に金融業界を、そして社会をどう変えるのか。これについて、世界経済フォーラムのリポートではグローバルの視点で言及している。40超の金融機関や100超のFinTech事業者へのヒアリングなどを通じ、決済、市場予測、資産管理、資本調達、融資、保険において11のイノベーション要素があると定義している。

その上で、FinTechは細分化されたサービスであり、特定領域に強い特徴を持つため、既存金融のバリューチェーンが破壊され、各金融機関が現状のサービスや業務の見直しを迫られることを示唆している。

個別の領域では、例えばモバイルペイメントの普及に伴うキャッシュレス化の促進、ビットコインをはじめとした仮想通貨による迅速・安価・ボーダーレスな価値移転が挙げられている。自動で銘柄選定・運用を行うロボアドバイザーの浸透による資産管理の高度化、クラウドファンディングによる資本調達の容易化と資本市場の活性化も指摘されている。

このほか、貸し手と借り手をマッチングさせる融資仲介プラットフォームや個人資産管理(PFM)、商流情報に基づく融資の変化などである。

日本でも同様の変化は起こりうる。ただ、環境の違いから様相はやや異なる。直近で特に注目すべきなのは決済・送金や個人向け融資、法人向け融資である。

決済・送金においては、キャッシュレス化が進行するが、これに伴って、シェアリングエコノミーの付加価値あるサービスが拡大する見込みである。

個人向け融資や法人向け融資においては、貸し手と借り手とのマッチングが進む。さらに、取得情報の変更に伴い与信が高度化し、これまで十分でなかったミドルリスクの個人、企業に対しての資金供給が改善される見込みである。

資本調達や個人向け資産管理の拡大も想定されうるが、投資家数という点で課題が残る。保険については今後、あらゆるものをネットにつなぐ「IoT」の進展と共に商品・サービス開発が進むことが必要である。

FinTechが浸透していくためには、まだ規制や環境等の課題が多いが、次回以降、個別ビジネスについて詳細に述べたい。

〔PDF, 348KB〕
(2016/07/01 日経産業新聞)
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