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FinTechの未来 第2回

【日経産業新聞 2016年6、7月連載】

2016年6月から7月まで「日経産業新聞」に『FinTechの未来』と題して寄稿した内容を5回に分けて掲載しています。今回は、FinTechの個別ビジネスに焦点を当て、それぞれの海外・国内の現状から、今後ビジネスが発展するために懸念される課題、必要な環境などについてポイントを解説します。

モバイルウォレット

モバイルウォレットとは、一般的にクレジットカードや電子マネー、ポイントカード等の各種カードをスマートフォン(スマホ)に格納した電子的な財布をいう。スマホの機能向上の一つとして、決済機能を搭載し、顧客囲い込み戦略の一環として近年、携帯電話関連事業者が参入してきている。

例えば2014年に米アップルがサービスを始めたApple Payは、世界5か国(米国、英国、カナダ、オーストラリア、中国)で提供されている(日本でのサービス開始時期は未定)。その後、韓国サムスン電子がSamsung Payを米、豪、韓国で始め、米グーグルもAndroid Payを米、英で提供している。

一方、日本では海外よりも10年早い04年に「おサイフケータイ」として、サービスが開始されている。クレジットカードは搭載しておらず、楽天Edy、Suica等の電子マネーを中心に利用されている点が海外とは異なる。

日本のおサイフケータイが利用可能な場所は、JRをはじめとした鉄道の自動改札機、コンビニエンスストア等の小売店の他、多くの場所に広がっている。

一方、海外のモバイルウォレットが、日本でサービス提供を開始したとしても、おサイフケータイが利用可能な場所でそのまま利用できるわけではない。モバイルウォレットの非接触通信方式が、日本と海外では異なるためである。海外のモバイルウォレット普及に向けては、海外の非接触通信方式に対応した端末の導入が必要である。

実際のところ日本では、非現金決済の比率が2割弱にとどまる。米国は4割程度と2倍以上のかい離があり、非現金決済に課題がある。原因の一つとして、店舗側で非現金決済の仕組みの導入遅れがあげられる。

こうした課題解決に向けては、非接触通信方式だけでなく、QRコードやブルートゥース等様々な方式を使った決済方法の実現が可能となる専用のアプリケーションを開発することが望ましい。このような仕組みが広がれば、店舗側での非現金決済の仕組み導入も広がると考えられ、日本でもスマホさえあれば決済できる時代が到来すると思われる。 

〔PDF, 214KB〕
(2016/07/04 日経産業新聞)

ソーシャルレンディング

「ソーシャルレンディング」はインターネットを用いてお金の貸し手と借り手を仲介する金融サービスであり、個人と企業がそれぞれ貸し手にも借り手にもなることができる。仲介業者が手数料をとるものの、貸し手には高い利回り、借り手には低金利での融資が提供できることがソーシャルレンディングのメリットである。

また、ソーシャルレンディングが普及することによって、従来の金融機関ではカバーできていない資金需要に対し融資を提供し、社会の資金循環が改善されることが期待される。

ソーシャルレンディングは、イギリスで2004年にゾーパ社がサービスを開始した。以降、米国で06年にプロスパー社、07年にレンディングクラブ社が立ち上がり、急速に成長している。レンディングクラブ社のみで融資残高は約3000億円に及ぶ。

日本においてはソーシャルレンディング全体の融資残高は約156億円であり、欧米と比べるとその市場規模は小さいものの、急速に拡大しつつある。

しかし、日本におけるソーシャルレンディングは貸し手が融資をする際に、借り手の情報を十分に把握することができない点において、欧米とは大きく事情が異なっている。これは、貸金業者ではない一般の貸し手から、借り手を匿名化すべきであるという監督官庁からの指導によるものである。

日本では貸し手が拠出した出資金をソーシャルレンディング事業者が貸し出す形を取らざるを得ない。

一方、米国のレンディングクラブ社では、貸し手は借り手の属性情報(年収、職業、個人の信用度、与信モデルによる格付け等)を把握して、融資するか否かを決定することができる。

今後、日本においてもソーシャルレンディングが健全に普及していくためには、リスクとリターンに基づき貸し手が借り手を選んで融資の可否を判断できるような仕組みづくりが不可欠となるだろう。

監督官庁はソーシャルレンディングの普及に向けた対応方針を策定するため、時限的に規制を緩和した特区を設定して、検証を行うなどの取り組みを検討していく必要がある。

加えて、ソーシャルレンディング事業者は、貸し手の融資判断に必要な借り手の情報を分析し、リスクとリターンを比較検討できるような仕組みを開発することが必要となる。

〔PDF, 229KB〕
(2016/07/05 日経産業新聞)

トランザクションレンディング

「トランザクションレンディング」とは、売買や資金決済、顧客評価などの取引履歴を利用して審査をする融資である。主にアマゾンや楽天、ヤフーなどがEC(電子商取引)モール出店者に対して行う融資サービスが代表的である。

中小事業者が事業資金を調達する際に2つの課題がある。1つは融資審査である。銀行などは過去数年の財務情報をもとに借り手の健全性を判断する。そのため創業間もない中小事業者ではそもそも銀行からの融資対象とならない。

もう1つは、短期運転資金を調達しにくいことである。銀行で融資を受ける際、多くの場合は長期の融資であり、かつ、契約締結に時間のかかる証書貸付となる。中小事業者が必要都度に運転資金を早く調達したいというニーズを満たすものではない。

トランザクションレンディングでは、取引情報という融資先の事業実態を把握するのに十分な情報を取得し、かつ、この情報を利用した審査モデルで融資判断をする。「質の高い情報」「審査モデル」の2つを得ることにより、創業間もない期間に銀行からの融資を受けられない中小事業者への融資を実現した。

取引情報は電子化され、審査も自動化しているため、審査スピードは極めて速い。多くのトランザクションレンディングは申し込みから融資実行まで数日で完了するため、必要なタイミングで短期運転資金を調達できる。あるサービスでは申し込みせずともあらかじめ自動審査が行われ、「○○万円融資可能」と融資元から通知する仕組みまで提供している。

ECモール以外に資金決済代行企業も同様のサービスを提供しており今後、PFM(個人資産管理)、会計クラウドなど取引情報を扱う企業の参入が注目される。かつて、銀行でも中小事業者向けにスコアリング融資を行っていたが、不良債権増加を招く結果となった。理由は当時の中小事業者が提出する財務情報は情報の正確性に欠け、審査結果が誤っていることが多かったのである。

トランザクションレンディングをヒントに、生きた情報の活用により中小事業者における資金循環を改善させ、日本各地で事業育成が進むことが望まれる。

〔PDF, 243KB〕
(2016/07/06 日経産業新聞)

クラウドファンディング

クラウドファンディングとは、広義には資金の供給者と需要者をマッチングさせ資金供給を実現するサービスである。資金供給の形態は寄付や物品の購入、融資、株式の売買等があるが、ここでは投資家と新興企業との間で売買を成立させる狭義のクラウドファンディングについて述べる。

クラウドファンディングの価値は、投資家には新興企業への投資機会が増えることであり、新興企業には新たな資金調達手段が得られることである。市場規模(資金調達額)は2015年に世界で約3000億円に達し、その多くは米国や英国での調達が占める。機関投資家の未公開株投資が普及していたことや、金融危機以降、株価上昇が続きリターンを得やすかったことが背景にある。

日本では実質的にはいまだ市場が存在していない。理由は新興企業の投資判断ができる投資家が少ないこと、および投資対象となる新興企業が少ないことである。

各国政府はクラウドファンディングの振興による起業家支援のため、法律を整備している。例えば、米国では起業促進支援法(JOBS法)が5月に施行された。主な内容は株式募集時の情報開示の要件緩和による新興企業の負担軽減や、個人のクラウドファンディングの利用解禁等である。

日本でも金融商品取引法が昨年改正され、クラウドファンディング事業を想定した業態である第一種少額電子募集取扱業務が新たに規定された。

日本での発展のためには、各種の創業支援策に加え、投資家層の拡大が欠かせない。情報開示について新興企業の負担と投資家保護のバランスをとることや、取得した株式の換金手段の充実も必要となる。これらの課題が克服されれば、クラウドファンディングは日本経済再生の重要なインフラとなるであろう。

〔PDF, 256KB〕
(2016/07/07 日経産業新聞)

PFM

PFM(Personal Financial Management)とは、異なる金融機関の入出金情報やクレジットカード情報を集約し、ネット上で一元的な資産管理機能を提供するサービスを指す。2000年代後半に米国で生まれ、節約に関するアドバイスや不正なクレジットカード請求の検知等、様々な機能を提供するPFMが登場している。

日本では12年にPFMサービス事業者が立ち上がった。家計簿を手軽に記録したいというニーズを捉え、住宅や教育といった将来的な資金需要のある世代を中心に普及した。

金融機関の視点でみてもPFMは顧客サービスの拡充に有用である。例えば今春あるメガバンクが、顧客が最大3カ月分しか閲覧できなかった入出金明細を、永年にわたり閲覧できるサービスを始めた。PFMのシステム基盤を利用し、システムやデータ管理のコストを抑えながら、長期間の入出金を確認したい顧客の要望に応えた。

今後日本におけるPFMの展開は、2つのポイントが挙げられる。

1つ目はすでに資産を持つユーザーへの資産運用サービス拡大である。米国では09年から中流層向けにファイナンシャルプランナーによる資産ポートフォリオ診断や助言が受けられるサービスが始まった。

日本でもPFMサービス事業者と資産運用アドバイス(ロボアドバイザー)事業者の業務提携が発表され、資産を運用したいユーザーのニーズに応えるサービス展開が予想される。

2つ目はPFMが収集した情報の利活用の拡大である。集約された金融取引情報は金融機関のみならず、企業のマーケティング活動において利用価値が大きい。個人情報保護や情報漏えいリスクへの対応は不可欠であるが、ビッグデータ時代に向けて情報の有効な活用が望まれる。

家計簿が日本で生まれたように、日本人は家計管理を好む。ポイントサービスが普及し、用途に合わせて複数のクレジットカードを持つことも珍しくない。そのような土壌を踏まえると、日本特有のPFMサービスが生まれる可能性も高い。

〔PDF, 252KB〕
(2016/07/08 日経産業新聞)
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