ナレッジ

FinTechの未来 第3回

【日経産業新聞 2016年6、7月連載】

2016年6月から7月まで「日経産業新聞」に『FinTechの未来』と題して寄稿した内容を5回に分けて掲載しています。今回は前回に引き続き、FinTechの個別ビジネスに焦点を当て、それぞれの海外・国内の現状から、今後ビジネスが発展するために懸念される課題、必要な環境などについてポイントを解説します。

ロボアドバイザー

ロボアドバイザーとはパソコンやスマートフォンを用い、オンライン上で個人の投資診断や銘柄のアドバイス、自動運用を行うサービスである。投資目的やリスク許容度、年齢等の質問に答えると、各人の運用方針に合うように投資銘柄を選定し、自動運用する。

これまでも資産運用を専門家に任せる「ラップ口座」というサービスは存在していた。ただ、数百万円からの最低投資額や管理手数料が必要となるため、国内で爆発的に普及するまでには至らなかった。ロボアドバイザーを使うことで、最低投資額と管理手数料の大幅な低下が可能となり、小口投資家への普及が期待されている。

ロボアドバイザーは2000年代後半から米国で急速に台頭してきたサービスである。先行するベタメントやウェルスフロントは3000億~4000億円以上を運用し、今後も市場が成長すると予想される。一方で、近年はブラックロック、バンガード、チャールズ・シュワブ等の大手金融機関が参入し、市場淘汰も始まっている。

日本でも複数の事業者でサービスが開始され、ロボアドバイザーの市場が立ち上がりつつある。ただ、日本では伝統的に投資よりも貯蓄が好まれる傾向にあるため、現段階ではどこまで市場が伸びるかは不透明である。今後、日本で普及するかどうかは、投資マインドをどれだけ醸成できるかにかかっており、それには確定拠出年金(DC)が鍵を握っていると考えられる。

DCの活用で投資マインドを醸成している1つの例は英国にある。22歳以上で公的年金受給開始年齢に達していない被用者全員を一度DCに自動的に加入させる。希望者は脱退を選択できる「自動加入・オプトアウト」方式を採用することで、老後に備える責任が個人にあることを明確化し、半ば強制的に投資を行う環境に順応させようとしている。

日本に話を戻すと、16年5月に可決された改正確定拠出年金法では、17年1月から専業主婦や公務員、企業年金に加入している会社員の2600万人超が新たに対象に加わる。実質的に全ての現役世代がDCを使えるようになる。

ただ、投資経験のない人がいきなり投資銘柄やポートフォリオを自ら考え、定期的に資産構成を見直すことは現実的には難しい。ロボアドバイザーを活用することで、簡単に自身の年金を運用することができ、投資に対する抵抗感を軽減できることが期待される。

日本のDCである日本版401kは英国のように「自動加入・オプトアウト」方式を採用しているわけではないため、効果は限定的である。だが、対象者拡大をきっかけに投資家の裾野を広げられれば、ロボアドバイザーの普及に一層の弾みがつくことは疑いない。

(2016/07/11 日経産業新聞) 

〔PDF, 214KB〕

仮想通貨

ビットコインに代表される仮想通貨は、政府等の信用力に裏付けされていない、インターネットなどを通じて電子データで取引ができる財産的価値のことである。迅速・安価な交換手段としての利便性に優れ、年々取引規模は拡大している。

だが、不正利用やマネーロンダリング(資金洗浄)の対象となりやすいなどの問題点が昨年の主要7カ国(G7)の首脳宣言で指摘され、国際機関の金融活動作業部会(FATF)から規制のガイドラインが示された。

日本では「改正資金決済法・改正犯罪収益移転防止法(いわゆる仮想通貨法)」が国会提出され、5月に可決・成立した。本法案は以下の2本立てで構成され、普及の追い風として期待される。

1つ目は利用者保護の観点である。仮想通貨の交換業者を登録性とし、財務情報の提出や業務遂行のための体制整備を求め、監督当局が必要と判断した場合、立ち入り検査や業務停止命令も可能となる。2つ目はマネーロンダリングやテロ資金対策である。口座開設時に本人確認が必要となり、疑わしい取引は当局へ届け出が求められる。

今後注目するのは送金分野である。仮想通貨の価格変動率の高さや流動性の低さから、法定通貨の代替として決済の中心となることは現実的には難しい。一方で、送金は利用都度換金が可能なことから価格変動のリスクは限定的である。

特に国際送金では現状民間金融機関で1送金あたり7000~8000円程度かかる手数料を大幅に削減する効果が期待される。具体的な適用事例として、東南アジアの海外労働者における本国への送金手段としても活用され始めている。

日本においてIT(情報技術)を活用したより利便性の高いサービス開発が期待される中、議論されるべき課題も残っている。例えば税制上の問題である。海外では非課税扱いが主流だが、日本の今の税法上では「モノ」であり、課税対象である。つまり、ビットコインの譲渡の際はモノと同様に消費税が課せられ、消費者の利用意欲をそぐことになりかねない。

今後の仮想通貨の発展のためには民間の努力もさることながら、更なる市場整備が進められることも期待したい。

〔PDF, 240KB〕
(2016/07/12 日経産業新聞)

保険業界(1)

これまで、日本の保険業界ほど守られてきた業界はない。戦後半世紀にわたり規制により全ての会社が同じ商品を同じ値段で売ってきた。自由化後20年が経過しようとしているが、いまだ競争は規制時代の延長でしかない。そんな業界に「技術進化」と「社会動向変化」という波により、パラダイムシフトが起ころうとしている。

特に根幹にあるのはリスクの可視化である。あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」の世界では、事故が発生するまでのメカニズムが可視化されることになり、これまで汎用的・画一的であった保険商品は個別リスクに応じてよりカスタマイズされる。

その先にあるのは、事故的な補償から予防へのシフトである。それは自動車や住居といったモノの世界に留まらず、ウエアラブル端末によって人の健康リスクまでもが当然含まれる。

リスクが顕在化するメカニズムが明らかになればそれを回避する技術も開発される。これが普及すれば事故の損失を補償するのではなく、そもそも事故を未然に防ぐことが保険会社にも期待されるようになる。

このような進化が既に自動車保険では始まっている。欧米では、走行距離のみならず運転状況を動的に分析し保険料を算出する「UBI(Usage Based Insurance)」と呼ばれるタイプの自動車保険が普及しつつある。

単に運転データを保険料に反映させるだけではない。家族の場所を連絡する、安全運転を心掛けるようにアドバイスをするなど様々なサービスも提供され始めている。従来の保険会社のビジネスモデルと決定的に違うのは、デバイスや通信、クラウドといったテクノロジーへの投資が必要なことである。

これまでの保険ビジネスは統計データがあれば商品をつくることができた。だが、これからの競争を勝ち残るためには、顧客にどんな価値を提供するかについて自社の世界観を描き、その価値の実現に先行的な投資を行う英断が必要となる。そして、それができる保険会社のみが未来を切り開くことができる。

〔PDF, 261KB〕
(2016/07/13 日経産業新聞)

保険業界(2)

保険会社は保険という商品を世に届けるサービスプロバイダーとしての役割と同時に、集めた資金を投資することで経済活動に還元する機関投資家としての役割ももっている。これまでの保険会社の投資行動をみていると、大きく2つの視点があった。

1つは将来の保険金支払いに備えて資金を運用するための投資である。もう1つの視点はM&A(合併・買収)などを通じたビジネスの拡大だ。日本の保険会社でも2000年代後半からグローバル化を推進するためのM&Aが加速している。

そして今、新たに3つ目の視点が生まれ始めている。それが「技術」への投資である。

なぜメーカーでもない保険会社が技術への投資にいそしむのか。それは今後、技術を制するものが保険業界を制すると目されるからだ。デジタルテクノロジーの進化は保険商品やサービスのあり方のみならず、保険業界の競争ルールそのものを変えようとしている。

これまで新規顧客の開拓は人間関係が決め手であった。これがビッグデータのアルゴリズム解析によるマーケティングに代わり、保険料はあらゆるものをネットにつなぐIoTなどでセンサーが集めた大量のデータをクラウドで解析することで算出される。事故は自動的に感知され、保険料も支払われる。そんな世界が将来に広がっている。

保険関連技術で今すでに資金が集まっているのは、人工知能を使って複数の保険会社の商品や価格を比較するサイトなどのアグリゲーション(集客事業)分野である。

保険商品が細分化され複雑になるなかで、短期間で商品を比較し、最適な保険商品を提示してほしいというユーザーのニーズが高まっているということであろう。ニーズがあるところには必ず技術が発達する。

今や海外では比較サイトも単なる価格比較にとどまらない。「あなたに最適の商品」を提案し、気に入れば保険会社にコンタクトすることなくその場で加入までできる。保険会社からすれば、顧客と対話し自社の商品の魅力を説明する機会を奪われることを意味する。

このため、保険会社はスマホのアプリやウエアラブルデバイスを配布して、必死に顧客と対話する機会を守ろうとし、そのための技術に資金を投じていく。世界の資金動向から顧客に対しての主導権争いが垣間見える。

〔PDF, 231KB〕
(2016/07/14 日経産業新聞)
お役に立ちましたか?