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FinTechの未来 第4回

【日経産業新聞 2016年6、7月連載】

2016年6月から7月まで「日経産業新聞」に『FinTechの未来』と題して寄稿した内容を5回に分けて掲載しています。今回は人工知能技術とブロックチェーン技術について、詳しく解説します。

人工知能技術

人工知能とは与えられた情報に対し人間の判断に近い出力をするコンピュータープログラムである。その実現には、新たな情報が与えられる度にプログラムを自動で改良する手法である機械学習を用いることが一般的だ。機械学習は様々な手法の総称であるため、人工知能に該当する技術は初歩的なものから高度なものまで多岐にわたる。

人工知能は既に様々な産業で活用されている。身近な例では、手書き文字の認識、家庭用掃除機ロボット、ウェブサイトの検索結果表示などが挙げられる。金融では、個人向け融資の与信判断や投資運用助言、経理業務の自動仕訳、クレジットカードの不正利用検知などに用いられている。

特にFinTech企業では、データを活用する際に人工知能を用いることで、少人数でコスト効率に優れた事業を行う例が多く見られる。近年、機械学習のひとつであるディープラーニング(深層学習)と呼ばれる手法の発展により、出力結果である判断の正確性が劇的に向上している。

ディープラーニングは、人間の脳細胞の活動を模したアルゴリズムであるニューラルネットワークを土台としている。これに加え、画像処理を行う素子であるGPUを使った高速計算技術や、入力データの特徴を効率的に集約するオートエンコーダーと呼ばれるアルゴリズムの組み合わせで実用化が一気に進んだ。

ディープラーニングにより飛躍的に判断の精度が高まったことで、「判断ミス」が許されないような場面にも人工知能の活用が始まりつつある。代表的な例が自動運転への活用だ。撮影された画像から周囲の歩行者や車、信号などを正確に認識することがディープラーニングによって可能になり、自動運転の実現に大きく貢献している。

金融での事例はまだ多くはないが、テキストデータの高度な解析力を生かして、トレーディングや与信判断に活用する事例が登場しており、今後さらに増加することは間違いない。

今後人工知能が発展すれば、様々な産業に自動化の波が押し寄せる。判断業務の多い金融業においては、様々なサービスを安価に利用できる時代が到来すると期待される。その一方で、人工知能では代替できない人間の創造性を発揮し、新たな付加価値を生み出すことがより一層重要になると考えられる。

〔PDF, 256KB〕
(2016/07/15 日経産業新聞)

ブロックチェーン技術・これまでの歩み

ブロックチェーンは仮想通貨「ビットコイン」発祥の技術である。端末同士が対等の立場で相互に通信するP2Pネットワークに接続された複数のコンピューターが分散型データベースを持ち、特定の管理者なしにネットワーク参加者が取引の正しさを監視できる点が特徴的である。

取引はブロックという単位で記録され続け、新たなブロックが過去のブロックに鎖状に連なることからブロックチェーンと呼ばれている。

ビットコインの世界では、参加者間の取引は都度ネットワーク全体に送信される。この取引は、各自が保持するデータベースとの照合により二重払い等の不正有無の検証がなされ、承認作業を経て完結する。承認作業は「採掘者」と呼ばれる一部の参加者により、「採掘」と「ブロックの生成」を通して実現される。

採掘者は送信される取引を取りまとめた上で、単純だが多くの計算資源(電気代など)を要する作業(採掘)を経て、特定の解を導く早さを他の採掘者と競い合う。勝利した採掘者は自身が取りまとめた取引を承認し、これを格納したブロックを生成する権利と、採掘の成功報酬として一定額のビットコインを受け取る権利を得る。

生成されたブロックはネットワーク全体に送信され、採掘者は自身が正しいと認めたブロックの後ろに新たなブロックを生成すべく再び採掘を始める。これが繰り返されることでブロックチェーンが形成される。同時期に複数の採掘が成功するとチェーンが分岐するが、一定時間後に長い方が有効とされる。

過去の取引の改ざんとその正当化には、悪意のある採掘者が他の全ての採掘者を上回る膨大な計算資源を費やして競争に勝ち続ける必要があり、事実上不可能とされる。このように、採掘等を通して参加者により正しい取引が積み上げられる仕組みがブロックチェーン技術の根幹である。

ビットコインはブロックチェーン技術の1つの実現形態であり、その本質を改ざん耐性、高コスト効率、高可用性ととらえ、金融業界を皮切りにこれを応用した新たな取り組みが始まっている。

〔PDF, 265KB〕
(2016/07/20 日経産業新聞)

ブロックチェーン技術・新たな取組

ブロックチェーンはビットコインの開発を通じて成立した技術だが、ビットコインのブロックチェーンは「ザ・ブロックチェーン」と呼ばれ、種々のシステムに適用されうるブロックチェーンは「ブロックチェーン2.0」と呼ばれている。

区別するのには理由がある。「ザ・ブロックチェーン」は公的なネットワークで運用される通貨であるが、「ブロックチェーン2.0」は公的なネットワークだけでなく、私的なネットワークでも運用される。その用途も通貨に限らず、スマートコントラクト(契約の自動化)、サプライチェーン、IoT等多岐にわたるからである。

「ブロックチェーン2.0」で注目されるのは、スマートコントラクトのプラットフォーム「イーサリアム」である。イーサリアムは、種々のアプリケーションを構築するためのプログラミング言語を備え、イーサという通貨を持つ。これにより、スマートコントラクトの実行履歴を採掘によりブロックチェーンに記録できるのである。

現在、イーサリアムをベースとしたアプリケーションが世界中で開発されている。中でも注目されているのが「The DAO(ザ・ダオ)」だ。自律分散型の投資ファンドのアプリケーションで、ファンドマネジャーがいないベンチャーキャピタルのようなものである。

ザ・ダオは募集を始めてから約1カ月間で、クラウドファンディング史上最高の150億円を超える資金を集めた。だがその後、脆弱性を突かれて、資金の3分の1を不正に引き出された。

これはイーサリアム自体にバグがあったわけでなく、イーサリアム上で動くザ・ダオのプログラムにバグがあったことによる。イーサリアム自体はブロックチェーン開発を効率化する、優れたプラットフォームである。ただ、アプリケーション構築の自由度が高すぎるため、システム構築スキルや運用経験によっては、脆弱なアプリケーションを生み出すリスクをはらんでいるのである。

今後、イーサリアム自体は更にバージョンアップされ、今回のようなアプリケーション構築上の課題に対応していくと考えられる。これに呼応して同様のプラットフォームが世界中で開発される可能性が高く、更にブロックチェーンの開発競争が進むであろう。

〔PDF, 246KB〕
(2016/07/21 日経産業新聞)

ブロックチェーン技術・今後の展望

ブロックチェーン技術は将来インターネットに匹敵する革命を起こすと言われている。現在は研究開発段階にあり、様々な業務やサービスを対象に概念実証や実証実験が世界各地で盛んに進められている。

その中でも最も注目されているのが、ブロックチェーンのスタートアップ企業である米R3CEVが主導するコンソーシアムである。世界に名だたる金融機関が50以上参画しており、金融機関のブロックチェーンプラットフォームを作ることを目的としている。

これ以外にも、大規模なコンソーシアムとしてLinux財団と日米欧の銀行・IT(情報技術)ベンダー等のHyperledgerプロジェクト等がある。

他方で、オーストラリアが国際標準化機構(ISO)に技術委員会設立を提案するなど、ブロックチェーン技術の世界的な主導権争いが起こっている。こうした動きが起こる理由はブロックチェーンへの期待感が極めて高い一方、まだ研究開発中で新しい仕組みが日々生まれるため、定義を決めきれないからである。

当社はブロックチェーンに関する政策提言を行っており、その内容は自民党の「デジタル・ニッポン2016」に盛り込まれた。政策提言の内容は大きく2つあり、1つはブロックチェーンのプロトタイプシステム構築であり、もう1つはブロックチェーンのプラットフォーム構築である。

プロトタイプシステム構築については、ブロックチェーンの高い透明性、信頼性、効率性を生かせる社会インフラが対象となり、送金・決済、マイナンバー、物流・トレーサビリティの3種のシステムを構築することを想定している。

プラットフォーム構築については、仮想通貨のイーサリアムと比べプログラミングの自由度を減らしバグの発生を抑えつつ、標準的なモジュールを多く用意し、より使いやすくする想定である。

今後、ブロックチェーンの研究開発は進み、徐々に実用化に向け動き出していくが、その道のりは遠い。特に本番稼働後の運用を事前に考慮し不測の事態を回避できるかが、ブロックチェーンが革命を起こせるかどうかの分水嶺となりうる。

〔PDF, 264KB〕
(2016/07/22 日経産業新聞)
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