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規制が変えるリスク管理の視点(保険編)

銀行・保険規制とリスク

金融危機以降、国際的な連携の下、保険会社への規制は銀行・証券での動きに影響を受けることが増えてきています。昨今の規制や監督の動きが、保険のERM(統合的リスク管理)にどのような変化を与えるか監査法人トーマツの後藤茂之が考察します。

保険の分野についても、規制や監督の変化がERMの中期的な方向性に影響を与えることが予想されます、特にERMについて時間軸、その実効性の担保、守備範囲といった3つの点について、質的な変化を与える可能性が十分にあります。

ERMの時間軸に与える影響として証拠金規制を取り上げます。証拠金規制とは、清算集中の対象にならない店頭デリバティブの取引関係者に対し、変動証拠金と当初証拠金の預託を義務付けるものです。保険会社には、すべての取引の時価の変動を把握し、カウンターパーティごとの当初証拠金を評価し、それぞれ担保提供するというこの一連の流れを、T+1で提供することが求められます。これまではどちらかというと、長い時間軸でポートフォリオの意思決定とリスク管理を行ってきた保険会社にとっては、このT+1 という証拠金の時間軸は発想を抜本的に変えていくものとなり、プロセスそのものの自動化が進むことになるでしょう。プロセスのオートメーションには、人間が関与する部分が減るという意味で、コンダクトリスクの低減にはつながります。また、単純作業が置き換わるということで、高付加価値業務へのリソースを再配分できます。一方でサイバーリスクの脅威は増大しますので、その対策の強化が必要となります。

増大する規制要件や厳格化という動きの中で、保険会社はERMの実効性をどのように担保するかについても発想の転換を迫られるでしょう。顧客本位の業務運営などコンプライアンスに求められる最低水準が上昇している一方で、顧客に選ばれる会社になるという視点からもコンダクトリスク管理の重要性が増しています。全体としてリスクカルチャーを浸透させること、つまりERMの強化の方向性に進んでいます。リスク管理の手法も根本的な変化を迫られています。その中で、より早く不正等の金融犯罪の予兆を発見し対処するために、レグテックを活用する動きが見られます。レグテックとは規制要件への対応や当局への報告を自動化し、リスク管理の状況をデータ化し、その蓄積をAI等で分析していこうというものです。レグテックを取り入れることで、リスク管理として従来のようなサンプル調査ではなく、全量調査をしてすべてのデータ分析した上でのエキスパート・ジャッジメントが可能となります。欧米では、トレーダー業も、リアルタイムで音声の分析をして、その状態から、個々のやりとりがヒートしているかどうかということをモニタリングする、というような状況まで来ていると聞きます。自動モニタリング体制を構築することによって、オン・オフ一体モニタリングとの連動が可能なことなど、これまでの管理手法が根本的に変化することになります。さらに、自動モニタリング体制を構築することによって、コンプライアンス機能の一部が、従来のセカンドラインからファーストライン(フロント業務)へとシフトしていくことにもつながるでしょう。

ERMの守備範囲という観点から、サイバーセキュリティを検証しましょう。サイバーセキュリティに関する規制や期待というのはERMの守備範囲を大幅に拡大させるものであると考えています。サイバーセキュリティの脅威が日々高まっていることは論を待たないことです。最近のサーベイ結果から判断すると、早期発見や不正侵入対策という点では、防御する企業側よりも攻撃者の方が、以前より勝ってきているかのように見受けられます。このサイバーセキュリティに対してどういうようなモニタリングをすべきでしょうか。顧客情報の流出など、実際の経済的損失が起きた段階で対応するのでは手遅れで、サイバー攻撃が起きたというインシデントの段階で確認することが必要です。そのためにはサイバーセキュリティに関わる関係者が社内外を含めかなり大きな広がりを持つことになります。この拡張したエクスポージャーを理解し、それを基にERMを構築していくことになるでしょう。

ERMの環境には本質的な変化が起こっています。規制改革は間違いなくERMの強化を求める方向に進んでおり、一方でERMそのものの概念が変化してきています。ERMの実効性の強化として、行動面を重視した上でのリスクガバナンスとリスクカルチャーの浸透、テクノロジーを活用してそれを正しくモニタリングすること、そして早いスピードで対応していくということが求められるようになっています。

(デロイト トーマツ金融ビジネスセミナー2018 講演録)

パラダイムシフトと今後の保険ERMの進化
パラダイムシフトと今後の保険ERMの進化

(デロイト トーマツ金融ビジネスセミナー2018 講演録)

 

銀行編はこちら

「保険毎日新聞」(2018年(平成30年)3月12日)に掲載されました。(PDF)

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