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デロイト トーマツ 金融ビジネスセミナー2021

レジリエントで持続可能な社会の実現に向けた金融サービス ~金融機関のパラダイムシフト

デロイト トーマツ グループは、「レジリエントで持続可能な社会の実現に向けた金融サービス ~金融機関のパラダイムシフト」をテーマに掲げ、今年で7回目となる「デロイト トーマツ 金融ビジネスセミナー2021」を2月17日に開催しました。

本セミナーでは、社会問題解決に貢献し付加価値を創出する金融サービスとして、「Open Data/API」「Cyber」「Privacy Enhancing Technologies (PETs)」「Sustainable Finance」の4つの領域に着目しました。この他、世界経済フォーラム(WEF)との共同レポートから得られた示唆に日本の見解を交え、イノベーションやDXにおける国内金融機関の立ち位置や、DX加速に向けた糸口についても取り上げました。以下に、当日の講演内容のサマリーをご紹介します。

講演サマリー

WEFとの共同レポート“Forging New Pathways: The next evaluation of innovation in Financial Services”に基づく考察
~テクノロジーの戦略的組み合わせによる相乗効果の創出~

WEFレポートでは金融サービスの変革の道筋を提示

デロイト トーマツ グループ 金融インダストリーリーダー 福井 良太

最新のWEF(世界経済フォーラム)レポートでは、テクノロジーの戦略的な組み合わせから生まれる相乗効果によって、金融サービスの新たな道筋を追求できるようになると提示されている。

なかでも、新興テクノロジーである「人工知能」「クラウドコンピューティング」「拡張/仮想現実」「特定タスク専用ハードウェア」「5Gネットワーキング」「モノのインターネット」「プライバシー強化のテクニック」「分散台帳技術」「量子コンピュータ」といった9つの要素をどう組み合わせ、いかにビジネスバリューに変えていくことができるのか。その金融サービスの変革における4つの道筋として、レポートでは「A.金融の枠を超え他産業とエコシステムを構築」「B.デジタルvsフィジカルでのプロセス統合」「C.取引起点の変化」「D.コア機能の再考」を紹介している。

金融サービスにおける変革に向けた4つの道筋

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
FSI デジタルトランスフォーメーション&イノベーションリーダー 森 亮

先で触れた4つの変革の道筋について、ぞれぞれのユースケースを紹介する。

「A. 金融の枠を超え他産業とエコシステム構築」では、保険業界の例を紹介。保険会社が健康や医療に係わる顧客データを顧客からだけではなく、医療機関などと連携してデータを共有することができれば、保険会社はデータをAIで分析して、契約者にインセンティブを提供したり、健康に関するアドバイスを提供するという新しいサービスを作れるようになる。

「B. デジタルvsフィジカルでのプロセス統合」のユースケースは、銀行が融資先企業の財務・ERP・操業などの多様なデータをIoTで収集、クラウドに集積し、AIで稼働状況や資金ニーズ、課題・リスクなどを分析して見える化することで、ジャスト・イン・タイムの貸し付けという今までにないサービス体験を創造できるというもの。

「C .取引起点の変化」のユースケースは、ブロックチェーンやプライバシー強化技術を使うことで、業務や取引を根本的に変革できるようになるというものだ。例えば、メイン銀行で本人手続きを完了すると、プライバシーを守ったままKYC(Know Your Customer)/AML(Anti-Money Laundering)ネットワークで他社に共有することができる。そうすることで、顧客は他行での取引時に、顔スキャンやパスポート写真を提示するだけで、本人確認および取引が完了でき、万が一、ログイン情報を保管した端末を紛失しても、KYC/AML上での共有により、不正取引を発見しストップできるようになる。その他、グローバル送金ネットワークや、グローバルな企業IR情報ネットワークなどの実現も可能。その他の具体的な例として、北米の保険業界では死亡情報を共有する取り組みも始まっている。

「D. コア機能の再考」とは、量子コンピュータの威力を金融コア機能に取り組むこと。例えば、量子コンピュータによる営業効率最適化においては、AIで優秀な営業員の活動パターンを分析し、暗黙知をルール化、その網羅的に導き出した万単位のルールを適用した最適な解を量子コンピュータで算出することができれば、それにより、営業効率の最適化が日常的に実施可能となるかもしれない。

日本の企業は、デジタル化イノベーション創出の取り組みに対して、着実にキャッチアップしてきており、今後はいかに加速できるか、即ち難易度の高い変革活動をいかに「量産化」できるかが鍵となっていくと見られる。

Open Data / API ~Alpha Platform~

イノベーションを量産する仕組みが必要

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
FSI デジタルトランスフォーメーション&イノベーションリーダー 森 亮

イノベーションの加速・量産化を進めている先進事例は、既にたくさん登場している。例えばシンガポールのDBSは、現在の延長線上で金融商品・サービスを売ると言う戦い方では通用しなくなることを想定し、新たな競争へ向けて動いた代表例である。また、スペインの銀行BBVAもその1社。CEO自ら「BBVAはソフトウェアの企業になる」と2015年には宣言していた。

銀行だけではなく、保険業界も同様だ。例えばPing An(中国平安保険)は、世界のリーディングテクノロジー企業を目指すことを謳い、先行的に取り組んできた。また、Allianzは「ラボ=研究所」型の取り組みから一歩進んで、難しい変革の進め方を標準化し、量産する「ファクトリー=工場」型の仕組み「グローバルデジタルファクトリー」を構築した。

また、デジタル変革に先行して力を注いできた企業は、COVID-19の局面下においても迅速な対応ができていた。例えば、DBSは他行の支店が続々と閉鎖する中、支店に行かなくても貿易手続きに必要な税関書類を送信できる「Digi-Docプラットフォーム」を2週間で展開し、新規顧客を獲得した。さらに、中国平安保険もコロナに関連する最新ニュースやオンライン診療など新しいサービスを、自社の巨大なプラットフォーム「グッドドクター」を通じて提供。デイリーアクティブユーザーが600万人増えた、とも言われており、最も使用されているヘルスケアアプリとして認識されている。

これら企業が新しいサービスを生み出せるのは、数年にわたってデジタルトランスフォーメーションで先行してきたことが大きい。即ち、標準化や仕組み作りにより、再現性を高め、誰にでもできるようにすることで、イノベーションすらも「量産化」する態勢作りを進めているからこそCOVID-19局面において尚、機動性高く柔軟なビジネス対応を実現出来ているのである。

「Alpha Platform」は量産化への近道

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 
FSIシニアマネジャー 丸山 由太

すでに先行企業はイノベーションを「量産化」しているなか、時間をかけてはいられない。では、どのような近道ができるのか。

当グループでは、イノベーションを「量産化」する、つまり変革を加速する新たなアプローチを「デジタルファクトリー」と呼んでいる。これは、3つの要素で構成されている。

第一がプロダクトチーム。これはデジタルプロダクトやサービスを開発してお客さまに提供する役割を担うチームで、ビジネス部門一体としてプロダクト型組織として運営する。第二がファクトリーCoE。ファクトリーを推進していく上で、プロダクトチームの横断的な課題解決を担うチームである。第三がプラットフォームチーム。プロダクトチームがUI/UXデザインに注力できるような開発環境や、APIなどの開発、提供を行うチームである。

しかし、テクノロジープラットフォームの構築には時間を要する。それを圧倒的に近道できるのがデロイト トーマツ グループの提供する「Alpha Platform」である。Alpha Platformは3つの特徴を持つ。1つは「Not build, Assemble」。ゼロから作らないことだ。第二がAsset Based。当グループがこれまで構築してきた機能をアセット化したものである。第三がScale Fast。SaaSソリューションの組み合わせ、コアとなるAPIとマイクロサービスのコンテナ化により、ビジネス規模に応じた柔軟な拡張が可能になることだ。

Alpha Platformを活用した事例も登場している。オランダの大手銀行は、Alpha Platformで既存勘定系とAI審査エンジンをつなぎ合わせ、中小企業向け融資サービスを13週間でローンチした。機能拡張しやすいアーキテクチャにより、今ではリースや担保付きローンなどにも拡大。企業運営のお役立ち情報なども発信し、ワンストッププラットフォームに変貌を遂げている。

もう一つ、豪州のデジタルバンクの事例がある。同行ではAlpha Platformと第三世代SaaS型コアバンキングをつなぎ合わせることで、約1年での開業を実現したという。母体行はレガシーな銀行だったが、読めない未来に対応するため、母体行のライセンスを使いながら新しいデジタルブランドを立ち上げ、今ではどんどん商品ラインナップを拡充している。

デジタル変革の持続的な能力強化に力を注ぐべき局面が来ているのである。

Cyber ~ビジネスを加速する投資へ~

サイバーインシデントはITアセットの把握とセキュリティの横串チェックで防ぐ

デロイト トーマツ サイバー合同会社
CTO 兼 デロイト トーマツ サイバーセキュリティ先端研究所 所長 神薗 雅紀

昨今、サイバーインシデントが多発している。その効果的な対策およびそのピンチをどうチャンスとし、ビジネスを加速していけばよいのだろうか。DXはビジネスのさまざまな面に変化をもたらし、ビジネス領域を拡大させる一方で、ITアセットの管理遅れや設定不備などのリスクを増加させ、攻撃者の攻撃機会も増大させている。

そのリスクが「新規サービス創出に潜むリスク」「システムの効率化/高度化に潜むリスク」「他組織との連携に潜むリスク」「働き方の変化に潜むリスク」の4点だ。

金融業界での攻撃事例を紹介したい。例えば、新規サービス創出に潜むリスクの事例では、システムの本人認証を適切に行わなかったために、クライアントの情報が不正に引き出されてしまったという事件がある。システムの効率化/高度化に関する攻撃事例としては、2017年のランサムウェアWannaCryの感染事例が該当する。他組織との連携に関する事例としては、外部のファイル共有サービスが不正アクセスされ、それを利用していた銀行が情報漏えいしてしまったという事件、働き方の変化に関連する事例としては、Web会議ツール自体の脆弱性があったことや、COVID-19感染拡大により緊急でリモートワークに切り替えたことで、個人のPCがマルウェアに感染し、情報漏えいにつながったというケースもあった。

自社ビジネスをサイバー攻撃の脅威から守るためには自組織、サプライチェーン、新規サービスのセキュリティ強化が肝要になる。そのための効果的な対策は、自社を取り巻くITアセットの把握、およびセキュリティの横串チェックだ。

当グループでは、ITアセットの把握、およびセキュリティの横串チェックを実現するソリューションを提供している。ITアセットの把握については、「サービスの棚卸し」と「ウェブアセスメント」というソリューションを用意。サービスの棚卸しでは、独自のスキャンツール「サイバーフィジカルレーダー」を使い、インターネットからアクセス可能なアドレス、ドメイン名や稼働するシステム、機器を洗い出すことができる。一方のウェブアセスメントは、独自のチェックツール「レピュテーションクローラー」を用いて、Webサービスをセキュリティ、プライバシー、第三者レピュテーションなど、多面的な観点から評価するソリューションとなっている。

これら2つのソリューションを活用することで、自社やサプライチェーンのセキュリティ強化はもちろん、さらにはサイバーデューデリジェンスなどにも応用が可能であり、ビジネスを加速するセキュリティが実現する。つまり、新たなビジネス機会の創出が可能となる。

PETs: Privacy Enhancing Technologies ~組織間でのデータ共有・活用を推進する新技術~

次世代データ共有技術「PETs」とは

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 マネジャー 清藤 武暢

従来、データ共有というと、特定の業種内かつ非公表で行うのが一般的だったが、現在はクラウドやブロックチェーンなどの技術が登場したことで、異業種間でもデータ共有できる環境が整ってきている。それを私たちは、次世代データ共有と呼ぶ。

次世代データ共有を実現すると、どんなメリットが得られるのか。例えば保険会社であれば、部品会社や修理会社と連携し、データ活用することで、自動車保険の顧客サービスの向上を図ることができる。金融機関であれば、金融機関同士が取引データを共有して、AML業務の効率性を向上するなどの例が考えられる。だが、このような次世代データ共有の仕組みにおいては、アライアンス全体でセキュリティを確保することが重要になる。そのための技術がPETs (Privacy Enhancing Technologies)だ。

PETsと一口に言っても技術は様々だ。なかでも、当グループは、データを集めずに分析する「フェデレーテッド分析」、結果にあまり影響与えない程度にノイズなどを加えて加工して分析する「差分プライバシー」、データを暗号化したまま処理する「秘密計算」、データを共有せずにその正しさを検証する「ゼロ知識証明」という4つの技術に注目している。

これらの技術のうち、フェデレーテッド分析が一番、実用化に近いと考える。そこで、検証用に作成した不正取引検知デモについて紹介したい。金融機関のAML業務で機械学習を利用することが増えているが、一定数の怪しい取引はどうしても発生する。そこで複数の金融機関を連携させ、より精度の高いエンジンを生成することで怪しい取引数を減らせるという仮説を立て、実際に検証したところ、4割程度、怪しい取引数を削減することができた。さらに詳細なデータを使うことができれば、さらなる効果を見込むことができる。

いよいよ、次世代データ共有を実現しやすい環境が整備されてきたと言えるだろう。

Sustainable Finance ~コスト、リスクから収益機会の創出へ~

サステナブル社会の実現に向け金融界の主体的な役割への期待が高まる

有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部
ファイナンシャルインダストリー リーダー 神谷 精志

ESG関連の新聞記事を切り抜き始めた2015年頃は、「日本政府や金融業界において、ESG(環境・社会・ガバナンス)に対する関心はまだ薄かった」が、5年経ち、菅総理の所信表明演説において、「2050年までに脱炭素社会を実現する」と宣言された。昨年12月にはサステナブルな経済成長に向けた投融資を議論するため、金融庁によってサステナブルファイナンス有識者会議が設置され、年初から活発な議論が行われるようになった。

今年2月に開催された「東京-ロンドン グリーンファイナンスセミナー2021」では、ロンドン市長のウィリアム・ラッセル氏が「金融はESGを推進するドライバーである」と発言し、サステナブル社会の実現に向けて、金融界の主体的な役割への期待が増している。

さらに、デロイトネットワークと国際金融協会(IIF)が共同で実施したサーベイによれば、回答した金融機関のうち、半数近くがいずれかの役員にサステナブル担当の任を与えているものの、1割以上が、専任のチーフ・サスティナブル・オフィサー(CSO)を置くなど、社会からの付託に応えようという取り組みが着々と進んでいることがうかがえる。

 

サステナブルファイナンスの動き

有限責任監査法人トーマツ リスクアドバイザリー事業本部 パートナー 達脇 恵子

2006年、ダボス会議で機関投資家の意思決定プロセスにESG課題を反映させるとの主張がなされたことが、サステナブルファイナンスの契機となった。2017年頃には、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の存在が知られるようになり、EUがサステナブルファイナンスの組織を立ち上げ、タクソノミーが出され、大きな注目を集めた。2017年にはNGFS(気候変動リスクなどに係わる金融当局ネットワーク)が発足し、2019年には国連により責任銀行原則が策定されている。

また、日本国内では、環境省は早い段階からESGと金融の結びつきを模索している。経済産業省も伊藤レポートを提出。この2省に加え、金融庁の3省庁がTCFDに関して連携して動いているといった状況だ。

中国は2060年にネット(温室効果ガス排出)ゼロ、日本も2050年にネットゼロ宣言をするなど、大きな流れの変化が出ており、まさに今、サステナブルファイナンスへの期待が非常に高まっている。金融機関にとっても、大きな機会の創出につながっていくものと見ている。

NGFSが金融機関に求める役割

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 シニアマネジャー 大坪 護 

金融機関が気候変動に対応するということは、どういうことなのか。世界的規模で進行する温暖化を抑制するために、GHG排出量を金融のファンクションとしていかに抑制させるかに尽きる。NGFSが求めているものも、パリ協定目標(2℃目標)達成のために求められるグローバルな対応強化の支援、そして環境的に持続可能な発展という、より広い意味でのリスク管理であり、そのためのベスト・プラクティスの定義や実施促進、グリーン・ファイナンスの促進、グリーンで低炭素な投資のために資本活用できるよう、金融システムの役割を高めることである。

GHGを抑制しつつ、そこから生ずるリスクをどのように健全性を確保するか、これが、これから解決しなければならない、金融機関の課題である。

日本の金融庁もサステナビリティへの取り組みを期待している

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 シニアマネジャー 鶴渕広美

金融庁が基本的な方向性を示したことで、アセットマネージャーやアセットオーナー、企業におけるサステナビリティへの取り組みが進む中、銀行による同取り組みへの期待が高まっている。サステナビリティにおける機関投資家の取り組みとしては、日本版スチュワードシップ・コードが挙げられる。2020年に行われた2回目の改訂では、ESG要素などを含むサステナビリティを巡る課題に関する内容について変更・追加されており、対話への取り組みが求められている。

企業価値向上を目的とする対話においては、財務要素だけではなく、非財務要素・無形資産が重要な要素となってきている。TCFDについては、機関投資家と企業の企業価値向上を目的とする対話の中で取り上げられつつある。

世界最大の機関投資家である、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、自らのESG投資と投資先のSDGsへの取り組みは表裏の関係であるとして取り組みを進めている。

社会課題に配慮し、持続可能な社会の実現に向けての取り組みは金融業界全体で取り組むべきものとなっている。
 

金融機関における気候変動リスクとは

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 ディレクター 森滋彦

だが、このような取り組みは機会も得られるが、リスクもある。気候変動に係わるリスクをどう捉えていけばよいのか。

気候変動が金融機関にどのような影響を及ぼすのかと言えば、融資先のリスクを通じた財務インパクトが主な影響となる。

また金融機関として重視すべきリスクは、資産負債構造の違いに応じて異なってくる。そして気候変動の影響は移行リスク(脱炭素社会に向けて産業構造が変わることに伴うリスク)、物理的リスク(自然災害などから生じるリスク)を通じて経済活動・環境に影響し、これらを通じて信用リスクなどに影響することが予測される。

気候変動リスクは、気候変動によりどのような環境変化が起こるかを予想することから始まる。TCFDでは6つのステップの手順を示している。評価手法が変化していく気候変動リスク評価において、今後はNGFSデータ活用、ストレステストへの織り込みへの対応が予想されており、それによるビジネスチャンス・機会としての側面にも関心が集まると予想している。
 

ESG対応は金融機関にとってビジネス機会

有限責任監査法人トーマツ
リスクアドバイザリー事業本部 パートナー 桑原大祐

金融機関のESG対応は、金融機関自体のESG対応の高度化と、ESGを考慮した投融資判断の高度化と2通りの活動があるが、今回は後者の活動にフォーカスする。

まずは銀行、金融機関における与信判断についてだが、サプライチェーンリスクを反映していく取り組みについて紹介したい。昨今、地震や台風、COVID-19の世界的な流行など、事業継続性を含む将来予測を反映した、債務者の信用リスク評価を行う重要性が高まってきている。

債務者の信用リスク評価において、最も重要視されるのが、資金繰りを含むCFの評価と考えられる。そのためには売上高予測モデル、BCPチェックリスト、信用リスク調整ツールという3つのステップによるアプローチを提案する。

次に、ESGを活用してどのような形で投資先をバリューアップしていけばよいのか。一例として、丸井グループではESGに対して本格的な取り組みを行い、説明会やIRを通じて投資家との対話を実施、株価との相関や企業価値向上の成果を説明してきた。それにより長期投資としてのESG投資獲得を図ってきたという。

デロイト トーマツ グループでは、ESG活動項目の定量化と分析ノウハウを起点に、投資先や融資先のESG活動および高度化を支援している。どのようなことを行うとESGスコアが上がるのかなどを定量的に推計するツールも開発した。これにより、投資家として単純に収益を上げるだけではなく、投資先のESGに対して協力していくというアプローチを取ることができるようになると考えている。
 

SDGsに貢献する技術イノベーション力の評価への挑戦

モニター デロイト シニアマネジャー 田中晴基

ここでは、「企業のSDGsに貢献しうる技術イノベーション力評価への挑戦」について触れていきたい。

日本企業の研究開発の長年の課題の1つは、経営および投資家との対話力と考えている。そのため、企業の技術開発投資とSDGs貢献度にリンクを設けることにより、良い対話の循環を生み出し、経済的にも社会的にもインパクトのある構造づくりを目指している。

その構造づくりとは、企業が有する技術資産とSDGsの関連性を可視化する機械学習モデルの構築である。技術側は特許情報、SDGs側はニュース記事からキーワードを抽出し、可能な限り主観を排除したアプローチを試行するものだ。

当グループで過去5年分のグローバルの出願特許のうち、SDGs関連特許を調べたところ、気候変動に関連するゴール7、13は技術開発が進んでいた。投資機会でも顕在化が始まっていると捉えられる。また国別で見ると、気候変動に関係するゴール7、13は中国が群を抜いており、次いで米国、韓国、日本は4番手という位置づけであった。ゴール13の特許出願では、業界大手の欧米企業が目立つ一方で、中国の新興企業や、日本の超大手以外のプレイヤーの存在も認められる。そういったポテンシャルのある企業にも光を当て、投資を呼び込める仕組み作りをしていくことが、今後必要となっていく。

またSDGs13に関連するスタートアップに対する金融機関の投融資を分析すると、過去15年間で約200億ドルに上るケースも見られた。欧米の金融機関は気候変動を一定の機会と見なして、大きな投資をしている。今後、国内でもこのような動きが出てくると考える。

今回の分析結果はあくまでもトライアルであるが、分析精度を更に向上させ、インサイトの骨太化に取り組み、より世界に貢献できるよう金融機関や企業とのコラボレーションの拡大を図っていきたいと考えている。

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