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デジタル・トランスフォーメーションの加速へ向けて

「ビジネスデザイン」x「アーキテクチャーデザイン」

金融機関が今後のデジタル戦略を進めるにあたり、大きな方向性である「ビジネスデザイン」はある程度定まってきています。一方で、その変革をいかに加速するかという「アーキテクチャーデザイン」の点については、さらなる理解の深化が必要でしょう。変革を加速する基盤とは何か、それをどのように設計していくべきか、デロイト トーマツ コンサルティングの森亮が解説します。

デジタル化のトレンド - 「脅威」よりも「機会」を捉える

フィンテックが台頭してきた数年前は、金融サービスのあらゆる側面がフィンテックによって置き換えられる「アンバンドリング」を脅威と感じ、それにいかに対抗すべきかということが金融機関の課題でした。しかしフィンテックについての理解が進んだ現在では、それを脅威と捉えるのではなく機会ととらえ、その能力を使いこなしていくことが重要だということが金融機関の共通認識となりつつあります。

アマゾンのように1つのプラットフォーム上ですべてが完結する体験が当然のこととなると、顧客は金融サービスに関しても同じレベルの体験を求めるようになります。逆に言うと、競争に勝つにためにはプラットフォームという顧客のタッチポイントを制すること、そのプラットフォームを通した顧客体験を提供することが必要となります。それができなければ、金融機関は他社プラットフォームに金融商品を提供するだけの製造元となってしまいます。顧客とのタッチポイントとなるプラットフォームを構築するには、スタートアップや金融以外の産業も含めたさまざまなプレイヤーと「繋がる」ことが不可欠となります。繋がりによって新しい技術やサービスを迅速に柔軟に取り込み、さらに、もっと良いプレイヤーやサービスがあれば機動的に繋ぎ変えることも必要です。金融機関が探索すべき新たな収益源とは、プラットフォームを通して取り込んだ情報を、新しいサービスや新しい顧客体験という価値に変えていくことにあります。

デロイト トーマツが世界経済フォーラムと共同でまとめた「フィンテックのその先に」と題したレポートがありますが、その中では「繋がるためのプラットフォーム」と「繋いだ情報の価値化」が大きなテーマとなっています。スタートアップや他産業と繋がり、その能力を取り込むことで、情報という新しい価値の源泉を収益機会に変えていくことが今後の道筋として示されているのです。

「繋がるためのプラットフォーム」と「繋いだ情報の価値化」をうまく実現した事例をご紹介します。大手米銀の中で、数年前から、APIを公開した上でハッカソンを開催しているところがあります。また、スペインの銀行でも、外部の開発者やスタートアップを使って、公開APIを通して1,500にもおよぶ実証実験をしたところがあります。どちらもこれらの取り組みを新たなサービスの展開につなげています。機動性を持ってマーケットを攻略するために、新しい顧客サービスや価値創造を自社で考えるのではなく、それを外部に求めたのです。APIの公開を通して、自社と繋がってくれる新たなプレイヤーを発掘し、そこから新たな機会を見出した事例です。

情報の価値化という点では、自社の技術をスピンアウトして新たな収益源を模索している事例を見ましょう。アメリカのある保険会社は、保険契約の要素の1つであったドライバーの運転方法を分析する技術をスピンアウトしました。運転方法の計測技術を生かすことで、より安全な経路の提案や予測故障率によるメンテナンスの提案などが新たなビジネスの可能性として検討できるためです。保険の付帯サービスにすぎなかった運転方法の計測という分野ですが、そこで集めた情報を分析することで新たな事業や収益の機会を生み出すことができたのです。

デジタル・トランスフォーメーションの加速へ向けた能力強化

私はデジタル時代に有効な変革の進め方として、「大局でものを考え(Think Big)」、「小さく始め(Start Small)」、「一気に広げる(Scale Fast)」ということを提案しています。つまり、現状のサービスや既存の顧客タッチポイントを超えてどのような収益機会があるかを探索し、それを小さく始め、大きく育てることです。既存の事業体だけでは足りない能力や技術については、スタートアップや別の産業と繋がること、また、APIを公開し外部の力を取り込むことで解決します。このビジネスデザインの実現を考える際に重要になってくるのが、アーキテクチャーデザインです。

図表1:ビジネスの設計とアーキテクチャーの設計は必ずセットで連動させる
図表1:ビジネスの設計とアーキテクチャーの設計は必ずセットで連動させる

アーキテクチャーデザインで重要なのは、「使いこなし力」と「使いこなされ力」です。スタートアップや新しい技術を目利きし、いかに自社と繋ぐかというのが「使いこなし力」であり、自社のデータやサービスをAPIという形で公開することで能力ある外部にいかに使ってもらうかというのが「使いこなされ力」です。さらに、これら「使いこなし力」と「使いこなされ力」を状況に応じて繋ぎ変えるモジュール的な考え方や、成功事例を加速度的に広めていけるスケーラブルな体質も必要です。このビジネスの設計とアーキテクチャーの設計は必ずセットになって連動していなければなりません。

アーキテクチャーデザインで不可欠なものは、共通の実装基盤です。これは旧来の金融機関の基幹システムのような壮大なものではなく、何十万ぐらいの投資で小さくスタートできるものです。クラウドサービスと契約して、その上で実証実験を行い、広げる領域を探索する一方で、いかに失敗するか(fail fast)という考え方で、失敗を積み重ねていく中でよかった部分、再利用できる部分を積み重ねて共通的な実装基盤にしていきます。デジタル変革を加速するには、機動性を意味する「アジャイル開発」と開発と運用を一体化するという意味の「DevOps」という考え方があります。まさにスマホのアプリのように、新しい商品・サービスを短期間でリリースし、その後に機能を順次追加しバージョンアップを図ることを指しています。

デジタル時代の変化に対応するためには能力の内製化も必要です。日本の金融機関はともすればテクノロジーを外部依存しすぎていると言われていますが、それではデジタル時代のサービス作りやイノベーションの速度に追いつけません。さらに、基盤を使いこなす能力として、目利きの力をつけることも重要です。どの技術領域やどのスタートアップのドメインに着目してフォローするのか、それをどのようにビジネスニーズとマッチングさせるのかを判断できる力です。技術の優先度付けをし、イノベーションの卵を見極め、それを機動的に試し実装していくわけですが、この部分も内製化が求められます。金融機関には、自社の内製化を手伝う、社内に「アジャイル・DevOps」できる力を培ってくれるプレイヤーをパートナーに選んでいただきたいです。

図表2:ビジネスを加速させるこれからのデジタル・プラットフォーム(共通の実装基盤)
図表2:ビジネスを加速させるこれからのデジタル・プラットフォーム(共通の実装基盤)

デロイト トーマツは変革パートナーとして、金融機関が「大局でものを考え(Think Big)」、「小さく始め(Start Small)」、「一気に広げる(Scale Fast)」ビジネスデザインを「アジャイル・DevOps」に実装するアーキテクチャーづくりを支援しています。その道具立てとしてのサプライヤーやベンダーは日本企業が旧来付き合ってきてた企業とは異なる分野が得意な、さまざまな海外の企業が現れています。例えば、APIマネジメントやコンテナ技術(OSやインフラを意識しないでアプリケーションの開発・実行可能な技術)などがあります。開発者が、技術者の研鑽も兼ねて、世の中のためにオープンソースのコミュニティで進化してきたものが非常に多く、それを目利きしながらアーキテクトを社内に作っていかないと、「アジャイル・DevOps」は掛け声だけになってしまいます。さらに、内製化のポイントはコアとなる部隊をつくって、次、その次と増やしていくことです。ペアプログラミングのように、同じことを同時にやると、同じことができる人が2人になる。2人が4人になる、4人が8人に、という形でチームを増やしていくことができます。

まとめ

新しい顧客価値の創造にはスタートアップや他の産業と繋がることが必要だという認識が金融機関の間でも形成されつつあります。しかし、顧客志向を徹底しつつ、いかに情報を繋いでそれを価値に変えるかというビジネスデザインを実装できるようなモデルに落とし込むには一段の進化が必要です。さらに、APIや、APIの背後にあるクラウドベースの技術などを実現できるよう、オープンソースも取り込んだアーキテクチャーの設計が早急に求められています。新しい技術やスタートアップを取り込み、繋がっていくための技術を見極め、それをアジャイル・DevOpsで実現すること、これは旧来の金融機関の体質とは異なるものですから、デジタル・トランスフォーメーションの加速に向けては企業文化の変革も必要となってくるでしょう。

(デロイト トーマツ金融ビジネスセミナー2018講演録)

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