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金融機関はデジタルトランスフォーメーションにどう対応するか

【前編】

フィンテックが金融業界の勢力図を変える中で、金融機関は組織構造とビジネスモデルの再考が求められています。その鍵を握るデジタルトランスフォーメーションについて、海外の多数の事例を知るデロイト グローバルのマイケル・タンが解説します。

デジタルトランスフォーメーションは4つの大きな領域で定義することができます。ひとつ目は、戦略的に既存モデルを無効化し、不連続な変化を起こすことです。つまり、イノベーションを背景にしたエコシステムの変化をとらえ、それをビジネスモデルやオペレーションモデルに取り込むということです。2つ目は、金融機関のフロントオフィスに関係することで、行動経済学等に基づいて顧客を中心としたビジネスをデザインし、顧客エクスペリエンスを刷新することです。3番目がオペレーションの進化です。新しいテクノロジーを取り込んで効率化を行い、生産性の向上を図るもので、組織の心臓部であるミドルオフィスやバックオフィスに関係しています。そして最後が、データ分析を通して顧客や社員のエンゲージメントをどのように高めるかという意志決定の基盤領域です。

デロイトでは、デジタルトランスフォーメーションはすでに金融機関における中核をなすものだという仮説を立てています。単にモバイルバンキングやインターネットバンキングといった新しいチャネルを導入することではなく、「トランスフォーメーション」の部分こそが重要で、顧客と直接やり取りするフロントオフィスのみならず、ミドルオフィスやバックオフィスまでをも含めたプラットフォーム全体が変革されていくことがデジタルトランスフォーメーションです。つまり、デジタルというものが組織全体のあらゆる分野に取り込まれて、変革を可能にするだけではなく、変革を推進していくということです。

顧客・社員への対応

金融機関への顧客の期待というものは、実は、金融サービス以外のところで形作られています。私は世界中でウーバーを活用していますが、ある時、通常のタクシーを利用した後に料金を払わずに車を出てしまいました。ウーバーでは目的地に着くと決済が完了するためそれに慣れ切ってしまっていたからです。このように、顧客は新しいサービスの登場によって新しい習慣や期待を持つようになります。

金融機関の顧客も、金融以外の分野で得たよりよい体験を金融にも求めるようになります。グーグルの持つ機能やデータ量、アップルの提供する楽しみや操作性、フェイスブックの広がり、アマゾンの効率的なサプライチェーン、こういったものをすべて併せ持った企業が金融サービスを提供したらどれほど魅力的なサービスが生まれることでしょう。そして今まさに、オンラインの大手が金融サービスにも進出しつつあり、デジタルと金融の境界線が曖昧になってきています。たとえば、中国のモバイル決済の90%はウィーチャットペイまたはアリペイであり、テンセントとアリババがこの分野を席捲しているのです。

デジタルトランスフォーメーションによって最大の効果を上げようとすると、最も大きな課題は組織のメンタリティや文化の変革です。顧客に最高のサービスを提供するためには、まずは社員の意識改革が必要です。デロイトではデジタルトランスフォーメーションを成功させている企業を調査し、そこから「デジタルDNA」という23の特徴を導きだしました。アジャイル、つまり変化に迅速に対応できる組織であること、組織のデザインや意思決定のスピードなどです。

デジタルトランスフォーメーションを成功に導く23の特徴(デジタルDNA)
デジタルトランスフォーメーションを成功に導く23の特徴(デジタルDNA)

新興テクノロジーの影響

デジタルトランスフォーメーションに大きな影響を与えるのはテクノロジーの進化です。これは指数関数的(エクスポネンシャル)に発展していきます。インスタグラムを例にとると、2012年にフェイスブックに買収された時には、社員数はわずか13人でした。それが今ではどれほどの広がりを見せていることでしょう。同様に、AIや機械学習、ブロックチェーンなどの分散型台帳技術も、まさにこのエクスポネンシャルな速度で成長しています。金融サービスの未来を考える際にはどうしても直線的な見方をしてしまいがちですが、テクノロジーの成長スピードは全く異なるのです。金融サービスにテクノロジーを導入する際には、この成長スピードが金融サービスにどのように影響を与えるかを考えることが重要です。現在、金融のテクノロジーはエクスポネンシャルな成長の緒についたばかりです。今後、テクノロジーの影響はますます大きくなるでしょうし、金融サービスにもゲームチェンジが起こりつつあると考えていただいてよいでしょう。

ブロックチェーンについて少し触れたいと思います。ブロックチェーンをはじめとする分散型台帳技術(DLT)は、単なる仮想通貨だけではなく、まさにゲームチェンジャーです。将来的には、分散型台帳技術は、金融のインフラと見なされるようになるでしょう。国際送金をする際に、SWIFTなどのネットワークの中からどれを使うかは問題ではなくなり、早く安く安全に送金ができるものを顧客が選ぶようになるからです。単一のテクノロジーで処理するのではなく、複数のテクノロジーが連携することでこのような未来が可能になります。ただし、テクノロジーの成長や導入のプロセスを考えると、ブロックチェーンがゲームチェンジャーとなるのは、5年から8年先のことだと見ています。

【講師プロフィール】

Michael Tang : マイケル・タン
デロイト・カナダ パートナー&グローバル金融サービス部門 
デジタルトランスフォーメーション責任者

デロイトのグローバル金融サービス部門でのデジタルトランスフォーメーション責任者。デジタルトランスフォーメーション、フィンテック、オープンバンキング、金融サービスイノベーションに関連する戦略やサービスに従事。デロイト カナダのパートナーとして、ビジネス戦略、テクノロジーの分野で活躍する企業やシニアエグゼクティブとともに仕事をしており、成長・コスト削減戦略、大規模な企業改革、デジタルテクノロジーの導入、業務全体のデジタル化、IT戦略の一貫性保持において特に高い専門性を発揮している。

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