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シリーズ「監査報告書の透明化」(5)監査基準の改訂(公開草案)

(月刊誌『会計情報』2018年7月号)

本号においては、2018年5月8日付の「監査基準の改訂について(公開草案)」に示された改訂の概要及びその検討が行われた第42回監査部会における「その他の記載内容」への対応手続の見直し、適用範囲及び適用時期の議論について解説します。

著者:公認会計士 結城 秀彦

企業会計審議会監査部会におけるこれまでの議論の概要については前号において概説したところであるが、その後、2018年4月24日に第42回監査部会が開催され、2018年5月8日付で「監査基準の改訂について(公開草案)」が公表されている(コメント期限:2018年6月6日)。本号においては、この公開草案に示された改訂の概要及びその検討が行われた第42回監査部会における「その他の記載内容」への対応手続の見直し、適用範囲及び適用時期の議論について解説を試みる。

1. 「監査基準の改訂について(公開草案)」の概要

「監査基準の改訂について(公開草案)」に示される主要な改訂は、以下の通り、監査基準第四 報告基準において、監査報告書の記載に関する事項について行われることが提案されている。

●無限定意見の場合も含め、常に意見の根拠区分を記載することが求められる。なお、意見の根拠区分には一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行ったこと、監査の結果として入手した監査証拠が意見表明の基礎を与える十分かつ適切なものであることを記載することが求められる(監査基準第四 報告基準 二 監査報告書の記載区分1、同三無限定適正意見の記載事項(2))。

●継続企業の前提に関する事項を記載する場合には、財務諸表の記載事項について強調する必要がある事項(以下、「強調事項」という。)及び説明を付す必要がある事項(以下、「その他の事項」という。)といった追記情報とは、別に区分を設けて記載する。(監査基準第四 報告基準 二 監査報告書の記載区分2(1)、同六継続企業の前提1)。

●当年度の財務諸表の監査の過程で監査役等と協議した事項のうち、特に注意を払った事項を決定した上で、さらに職業的専門家として当該監査において特に重要であると判断した事項(以下「監査上の主要な検討事項」という。) を記載することが求められる(監査基準第四 報告基準 二 監査報告書の記載区分2(2)、同七 監査上の主要な検討事項1)。

本連載において、前号まで「監査上の主要な事項」と呼称していたKey Audit Matters:KAMは、監査基準に「監査上の主要な検討事項」として導入されることが予定されている。

●監査上の主要な検討事項を記載する場合、当該事項の内容、監査上の主要な検討事項として決定した理由及び当該事項への対応を記載することが求められる。また、関連する財務諸表上の開示がある場合には、当該開示への参照が求められる。

(監査基準第四 報告基準 七 監査上の主要な検討事項2)。

●監査上の主要な検討事項に関する記載は、意見を表明する場合にのみ行うことが求められる。監査報告書において意見不表明とする場合には、監査上の主要な検討事項及び関連する事項については、記載しないものとされる(監査基準第四 報告基準 七 監査上の主要な検討事項2)。

●無限定適正意見の場合の監査報告書の記載事項については、監査人の意見、意見の根拠、経営者及び監査役等の責任、監査人の責任の順に記載し、監査人の意見は監査の対象とした財務諸表の範囲と併せて冒頭に記載することが想定されている(監査基準第四 報告基準 三 無限定適正意見の記載事項)。

●経営者の財務諸表作成責任及び内部統制の整備・運用責任のみならず、監査役等の財務報告プロセス監視責任についても記載することが求められる。また、経営者の責任に関する記載の一部として、継続企業の前提に関する評価責任及びその開示責任を記載することが求められる(監査基準第四 報告基準 三 無限定適正意見の記載事項(3))。

●監査人の責任に関する記載の一部として、継続企業の前提に関する経営者評価の検討の責任、監査役等との連携の責任、監査上の主要な検討事項の決定と監査報告書への記載の責任を記載することが求められる(監査基準第四 報告基準 三 無限定適正意見の記載事項(4))。

※続きは添付ファイルをご覧ください。

(531KB, PDF)
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