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企業会計基準公開草案第66号「収益認識に関する会計基準(案)」等の解説

(月刊誌『会計情報』2019年12月号)

著者:公認会計士 古内 和明

はじめに

企業会計基準公開草案第66号「収益認識に関する会計基準(案)」等の解説企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という)は、2019年10月30日、以下の企業会計基準及びその適用指針の公開草案(以下合わせて「本公開草案」という)を公表した。

  • 企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」(以下「本会計基準改正案」という)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第66号(企業会計基準適用指針第30号の改正案)「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「本適用指針改正案」という)
  • 企業会計基準公開草案第67号(企業会計基準第12号の改正案)「四半期財務諸表に関する会計基準(案)」(以下「四半期会計基準案」という)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第67号(企業会計基準適用指針第14号の改正案)「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「四半期適用指針案」という)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第68号(企業会計基準適用指針第19号の改正案)「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(案)」(以下「金融商品時価開示適用指針案」という)

本公開草案は、2018年3月30日に公表された企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「2018年会計基準」という)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」において決定が先送りとなっていた、収益に係る表示及び開示に関する新たな基準案を定めたものである。2018年会計基準においては、2018年会計基準を早期適用する場合には必要最低限の注記の定め(企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点))を除き、基本的に注記事項は定めないこととし、財務諸表作成者の準備期間を考慮したうえで、2018年会計基準が適用される時(2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)まで(準備期間を含む。)に、注記事項の定め及び注記の記載場所等を検討することとしていた。

また、収益認識の表示に関する次の事項についても同様に、財務諸表作成者の準備期間を考慮したうえで、2018年会計基準が適用される時までに検討することとしていた。本公開草案では、これらについても新たな基準案を設けている。

  • 収益の表示科目
  • 収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)の区分表示の要否
  • 契約資産と債権の区分表示の要否

本公開草案に対するコメントは2020年1月10日まで募集されている(コメントの提出先はshueki2019@asb.or.jp)。適用までの準備期間を考慮し、最終基準は2018年会計基準が適用される時(2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)の1年前である2020年3月末までには公表されるものと思われる。

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(1)顧客との契約から生じる収益の区分表示又は注記及び表示科目

本公開草案では、顧客との契約から生じる収益の額を、企業の実態に応じて、適切な科目をもって損益計算書に表示するか、注記することを提案している。また、顧客との契約から生じる収益は、例えば、売上高、売上収益、営業収益等として表示することを提案している(本会計基準改正案第78-2項及び本適用指針改正案第104-2項)。

(2)契約資産と顧客との契約から生じた債権の区分表示又は注記の要否

2018年会計基準では、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができることとし、当該区分表示及び注記の要否は、2018年会計基準が適用される時までに検討することとしていた。本公開草案においては、当該記載を削除することを提案している。その結果、本会計基準改正案第79項に従って、契約資産と顧客との契約から生じた債権を貸借対照表に区分して表示するか、貸借対照表に区分して表示しない場合は、それぞれの残高を注記することを提案している(本会計基準改正案第79項及び第158項)。

(3)貸借対照表上の表示科目

2018年会計基準では、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権を、企業の実態に応じて、適切な科目をもって貸借対照表に表示するとしている。本公開草案では、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権について、次の例を挙げている(本会計基準改正案第79項及び本適用指針改正案第104-3項)。

  • 契約資産…契約資産、工事未収入金等
  • 契約負債…契約負債、前受金等
  • 顧客との契約から生じた債権…売掛金、営業債権等

(4)顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合の取扱い

本公開草案では、顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)は、損益計算書において区分して表示することを提案している(本会計基準改正案第78-3項)。

(5)顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示

国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下「IFRS第15号」という)において要求されている顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示に関しては、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」の見直しと合わせて検討することとし、本公開草案において当該開示は求めないことを提案している(本会計基準改正案第157項)。

注記事項

(1)注記事項の開発にあたっての基本的な方針

本公開草案では、注記事項の検討を進めるにあたっての基本的な方針として、次の対応を行うことを提案している(本会計基準改正案第101-2項から第101-6項)。

  • 包括的な定めとして、IFRS第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを本会計基準改正案に含める。また、原則としてIFRS第15号の注記事項のすべての項目を本会計基準改正案に含める。
  • 企業の実態に応じて個々の注記事項の開示の要否を判断することを明確にし、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる項目については注記しないことができることを明確にする。

(2)重要な会計方針の注記

本公開草案では、顧客との契約から生じる収益に関して、次に掲げる項目を重要な会計方針として注記することを提案している(本会計基準改正案第80-2項及び第80-3項)。

(1) 企業の主要な事業における主な履行義務の内容
(2) 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)

ただし、上記に定める項目以外にも、「収益を理解するための基礎となる情報」として記載することとした内容のうち、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記することを提案している。

(3)収益認識に関する注記

①開示目的

本公開草案においては、顧客との契約から生じる収益に関する情報を注記するにあたっての包括的な定めとして、開示目的として「顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が注記すること」を設けることを提案している。本公開草案では、開示目的を達成するためにどのような情報の注記が必要であるかの判断に役立つよう、次の項目を注記することを提案している(本会計基準改正案第80-4項及び第80-5項並びに第164項及び第165項)。

(1)収益の分解情報
(2)収益を理解するための基礎となる情報
(3)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

必要な注記を検討するにあたっては、開示目的に照らして重要性を考慮すべきであると考えられるため、本公開草案では、重要性に乏しい情報の注記事項をしないことができることを明確にすること提案している。

②収益認識に関する注記の記載方法等

本公開草案では、収益認識に関する注記の記載方法について、次の提案を行っている(本会計基準改正案第80-7項から第80-9項)。

(1)我が国においては、個別の会計基準で定める個々の注記事項の区分に従って注記事項の記載がなされていることが多いが、収益認識に関する注記を記載するにあたっては、注記事項の構成に従って注記を記載しないことができ、開示目的に照らして、企業の収益及びキャッシュ・フローを理解するために適切であると考えられる方法で注記する。

(2)収益認識に関する注記として記載することとした内容を、重要な会計方針として注記している場合には、収益認識に関する注記として記載しないことができる。

(3)(2)における重要な会計方針以外の注記について、収益認識に関する注記として記載することとした内容を、財務諸表上の他の注記事項として記載している場合には、当該他の注記事項を参照することにより記載に代えることができる。

③収益の分解情報

本公開草案では、当期に認識した顧客との契約から生じる収益について、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報の注記を求めることを提案している。また、企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(以下「セグメント情報等会計基準」という)を適用している場合、収益の分解情報と、セグメント情報等会計基準に従って各報告セグメントについて開示する売上高との間の関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記することを提案している(本会計基準改正案第80-10項及び第80-11項並びに本適用指針改正案第106-3項から第106-5項)。

④収益を理解するための基礎となる情報

本公開草案では、顧客との契約が、財務諸表に表示している項目又は収益認識に関する注記における他の注記事項とどのように関連しているのかを示す基礎となる情報として、次の事項を注記することを提案している(本会計基準改正案第80-12項から第80-19項及び本適用指針改正案第106-6項及び第106-7項)。

(1)契約及び履行義務に関する情報
(2)取引価格の算定に関する情報
(3)履行義務への配分額の算定に関する情報
(4)履行義務の充足時点に関する情報
(5)本会計基準改正案の適用における重要な判断

⑤当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

本公開草案では、当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、「契約資産及び契約負債の残高等」及び「残存履行義務に配分した取引価格」を注記することを提案しているが、これらの注記については、財務諸表作成者から作成負担に対する懸念が寄せられており、これらの注記を求めることの要否について別途検討を行った。これらの注記は、IFRS第15号においても、実務上の負担を考慮し、当初の提案から一定の軽減を図ったうえで、有用性の観点から要求されたものである。本公開草案においては、IFRS第15号における検討を考慮するとともに、我が国においてのみ実務上の負担の観点から当該注記を取り入れないとすることは困難であると考えられることから、次の対応を図ったうえで、本公開草案に含めることを提案している。

(1)契約資産及び契約負債の残高等

当期中の契約資産及び契約負債の残高に重要な変動がある場合には、その内容について注記する。IFRS第15号では、当該記載には、定性的情報と定量的情報を含めなければならないとされているが、本公開草案では、当該記載には必ずしも定量的情報を含める必要はないものとする(本会計基準改正案第80-20項及び第189項並びに本適用指針改正案第106-8項及び第191項)。

(2)残存履行義務に配分した取引価格

残存履行義務に配分した取引価格の注記については、IFRS第15号と同様に、当初の予想期間が1年以内の契約の一部である履行義務について、残存履行義務に配分した取引の注記に含めないことを認める。また、当該実務上の便法に加えて、FASB Accounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)のTopic 606「顧客との契約から生じる収益」(以下「Topic 606」という)において、IFRS第15号に追加して定められた実務上の便法を含める。さらに、残存履行義務に係る実務上の便法を適用した場合の注記に関して、Topic 606の注記の定めにおいてIFRS第15号における注記の定めも包含されているため、Topic 606に基づく注記の定めを基礎として定めを設ける(本会計基準改正案第80-21項から第80-24項及び第190項から第202項)。

⑥工事契約等から損失が見込まれる場合

企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下「工事契約会計基準」という)に関する注記事項は、収益認識会計基準が適用される時に廃止されることとなるため、本公開草案においては、工事契約会計基準に定める次の注記を引き継ぐことを提案している(本適用指針改正案第106-9項及び第106-10項)。

(1)当期の工事損失引当金繰入額
(2)同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合、棚卸資産と工事損失引当金の相殺の有無と関連する影響額

個別財務諸表及び四半期財務諸表

(1)連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における注記

本公開草案では、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、「収益を理解するための基礎となる情報(第80-5項(2))」を注記することとし、「収益の分解情報(第80-5項(1))」及び「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報(第80-5項(3))」については、個別財務諸表に注記しないことができることを提案している(本会計基準改正案第80-25項及び第80-26項)。

また、「収益を理解するための基礎となる情報(本会計基準改正案第80-5項(2))」の注記を記載するにあたり、連結財務諸表における記載を参照することができることを提案している。

(2)四半期財務諸表における注記

本公開草案では、すべての四半期の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表において、年度の期首から四半期会計期間の末日までの期間に認識した顧客との契約から生じる収益について、収益の分解情報の注記を要求することを提案している(四半期会計基準案第19項(7-2)及び第25項(5-3)、第58-5項及び第58-6項)。

会計処理

(1)会計処理の見直しを行ったもの

①契約資産の性質

2018年会計基準においては、契約資産を金銭債権として取り扱うこととしていたが、本公開草案においては、契約資産が金銭債権に該当するか否かについて言及せず、契約資産に係る貸倒引当金の会計処理について、金融商品会計基準における債権の取扱いを適用すること、また、外貨建ての契約資産に係る外貨換算について、企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」の外貨建金銭債権債務の換算の取扱いを適用することを提案している(本会計基準改正案第77項及び第150-3項)。

適用時期及び経過措置

本公開草案では、適用時期及び経過措置について、次のように取り扱うことを提案している(本会計基準改正案第81項から第83-2項及び第89-3項から第89-5項)。

  • 最終改正後の会計基準等は、2018年会計基準の適用日を踏襲し、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。
  • 早期適用として、最終改正後の会計基準等は、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。なお、追加的に、2020年4月1日に終了する連結会計年度及び事業年度から2021年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用することができる。
  • 適用初年度に表示方法の変更が生じる場合には、当該変更は、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」に定める会計基準又は法令等の改正による表示方法の変更として取り扱う。
  • 適用初年度に表示方法の変更が生じる場合には、「適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表及び個別財務諸表(以下合わせて「適用初年度の比較情報」という)」について、注記事項を含め新たな表示方法に従った組替えを行わないことができる。また、この場合、適用初年度において、影響を受ける連結財務諸表及び個別財務諸表の主な表示科目に対する影響額を記載する。
  • 適用初年度においては、最終改正後の会計基準等において定める注記事項を、適用初年度の比較情報に注記しないことができる。

おわりに

本公開草案においては、表示及び注記事項について、以下の設例及び開示例が追加されている。具体的な注記については、開示例を参考に各社の実情に併せて開示されることが望まれる。

(1)設例

[設例27]履行により認識される契約資産
[設例28]履行により認識される顧客との契約から生じた債権

(2)開示例

[開示例1]収益の分解情報
[開示例2]残存履行義務に配分した取引価格の注記
[開示例3]残存履行義務に配分した取引価格の注記-定性的情報

なお、会社法連結計算書類及び計算書類における収益に係る表示及び開示の取扱いについては、本公開草案等では触れられていない。今後、最終改正後の会計基準等の公表時期に併せ、関係当局等により必要な修正が行われるものと思われる。

以上

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