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企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」の概要

月刊誌『会計情報』2020年1月号

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2019年10月30日に、企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」(以下、「本公開草案」という)を公表した。本稿では、本公開草案に関する解説を行う。

公認会計士 男澤ᅠ江利子

1 開発の経緯

2016年3月及び2017年11月、基準諮問会議に対して、国際会計基準(IAS)第1号「財務諸表の表示」(以下「IAS第1号」とする)第125項において開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」について、日本基準においても開示を求めることを検討するよう要望が寄せられた。その後、2018年11月に、基準諮問会議より、見積りの不確実性の発生要因に係る注記情報の充実について検討することがASBJに提言され、この提言を受けて、ASBJは、2018年12月より審議を開始し、その結果を公開草案として公表した(本公開草案第12項)。

 

2 開発にあたっての基本的な方針

本公開草案の開発にあたっての基本的な方針として、個々の注記を拡充するのではなく、原則(開示目的)を示したうえで、具体的な開示内容は企業が開示目的に照らして判断することとされている。また、IAS第1号第125項の定めが参考とされている(本公開草案第13項)。

 

3 会計上の見積りの開示目的

会計上の見積りは、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものであるが、財務諸表に計上する金額に係る見積りの方法や、見積りの基礎となる情報が財務諸表作成時にどの程度入手可能であるかは様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の不確実性の程度も様々となる。このため、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することが目的とされている(本公開草案第4項)。

ここで、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目は企業によって異なるため、個々の会計基準を改正するのではなく、会計上の見積りの開示について包括的に定めた会計基準において原則(開示目的)を示し、開示する具体的な項目及びその記載内容については当該原則(開示目的)に照らして判断することが企業に求められている(本公開草案第15項)。

 

4 開示する項目の識別

(1) 項目の識別における判断

当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目を識別する(本公開草案第5項)。

ここで識別するにあたっては、翌年度の財務諸表に及ぼす影響の金額的な大きさとその発生可能性を総合的に勘案して企業が判断することとされており、判断のための詳細な規準は示さないこととされている(本公開草案第19項、第20項)。

(2) 識別する項目

識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債であるとされている(本公開草案第5項)。ただし、当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目して開示する項目を識別するのではなく、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高いものに着目して開示する項目を識別することとされているため、例えば、固定資産について減損損失の認識は行わないとした場合でも、翌年度の財務諸表に及ぼす影響を検討したうえで、当該固定資産を開示する項目として識別する可能性がある(本公開草案第21項)。

なお、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合には、当年度の財務諸表に計上した収益及び費用、会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債、注記において開示する金額を算出するにあたって見積りを行ったものについても、識別することを妨げないとされている点に留意が必要である(本公開草案第21項)。

(3) 識別する項目の数

翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目を識別するとしていることから、比較的少数の項目を識別することになると考えられる(本公開草案第23項)。

 

5 注記事項

(1) 項目名

識別した項目について、会計上の見積りの内容を表す項目名を注記することとされている。なお、当該注記は独立の注記項目とし、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名はまとめて記載することが提案されている(本公開草案第6項)。これはIAS第1項第125項では求められていないものの、本公開草案に基づき開示された情報であることが明瞭にわかるようにすることが有用であるとの考えに基づく(本公開草案第24項)。

(2) 項目名に加えて注記する事項

識別した項目のそれぞれについて、次の事項を注記することが提案されている(本公開草案第7項)。

(1)当年度の財務諸表に計上した金額
(2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

なお、(2)のその他の情報として、以下が例示として挙げられている(本公開草案第8項)。

(1) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
(2) 当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
(3) 翌年度の財務諸表に与える影響

 

6 個別財務諸表における取扱い

連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報に代えることができることが提案されている。また、この場合、連結財務諸表における記載を参照することができることが提案されている(本公開草案第9項)。

 

7 適用時期

本公開草案では、適用時期について、以下の通り提案されている。

  • 2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用
  • 公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用することができる

以上

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