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IASBが、セール・アンド・リースバックにおけるリース負債の測定を明確化するためのIFRS第16号「リース」の修正を提案

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年2月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照ください。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本「IFRS in Focus」は、2020年11月に国際会計基準審議会(IASB)によって公表された公開草案(ED/2020/4)「セール・アンド・リースバックにおけるリース負債」(以下、EDという)に対応するIFRS第16号「リース」の修正案について説明するものである。

  • EDで提案された変更は、IFRS第16号を以下のように修正する。

    – 売手である借手が、資産の売却として会計処理するための要求事項を満たす資産の譲渡であるセール・アンド・リースバック取引において生じる使用権資産及びリース負債を当初測定する方法を定める。
    – リースバックにおいて認識されるリース負債は、予想リース料を反映し、変動リース料(指数又はレートに応じて決まるものではないものも含めて)を含むことを明記する。
    – これらのセール・アンド・リースバック取引において生じるリース負債の事後測定の要求事項を追加する。
    – 本修正を、IFRS第16号の適用開始日より後に締結されたセール・アンド・リースバック取引に対して遡及的に適用することを売手である借手に要求する。
  • 修正案の発効日は公表後に決定される予定である。早期適用は認められることが提案されている。
  • 本提案に対するコメントは、2021年3月29日まで募集している。

 

503KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

IFRS解釈指針委員会(IFRS-IC)は、変動リース料を含むセール・アンド・リースバック取引に関する要望書を受け取った。要望書は、売手である借手がリースバックから生じる使用権資産をどのように測定し、その結果、取引日に認識する利得又は損失をどのように決定するかについて質問している。

2020年6月、IFRS-ICは、IFRS第16号は売手である借手がセール・アンド・リースバック取引の取引日における会計処理を決定するための十分な基礎を提供していると結論を下したアジェンダ決定を公表した。しかし、本件に関するIFRS-ICの議論は、IFRS第16号にセール・アンド・リースバック取引の事後測定、特にリース負債の事後測定についての明確な規定がないことを強調していた。IASBは、IFRS第16号の修正を提案することによってこの問題に対処することを決定した。

 

修正案

使用権資産及びリース負債の当初測定

IFRS第16号の既存の要求事項は、セール・アンド・リースバック取引において資産の譲渡がIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の要求事項を満たす場合には売却として会計処理し、売手である借手は、リースバックから生じた使用権資産を、資産の従前の帳簿価額のうち売手である借手が保持した使用権に係る部分で当初測定することを定めている。

EDは、この部分を、予想リース料の現在価値(リースの計算利子率が容易に算定できる場合には、当該利子率を用いて、また、そうでない場合には、借手の追加借入利子率を用いて割り引く。)を売却した資産の公正価値と比較することによって決定すると定めることを提案している。

さらに、IASBは、リース負債は開始日現在で支払われていない予想リース料の現在価値(リースの計算利子率が容易に算定できる場合には、当該利子率を用いて、また、そうでない場合には、借手の追加借入利子率を用いて割り引く。)で当初測定されると定めることを提案している。予想リース料は、リース期間中に市場のレートで資産を使用する権利に対する下記の支払で構成される。

a. 固定リース料(実質上の固定リース料を含む)から、リース・インセンティブを控除したもの

b. 変動リース料(指数又はレートに応じて決まるかどうかに関係なく)

c. 残価保証に基づいて売手である借手が支払うと見込まれる金額

d. リースの解約に対するペナルティの支払額(リース期間が売手である借手によるリース解約オプションの行使を反映している場合)

 

使用権資産及びリース負債の事後測定

売手である借手は、リースバック取引から生じる使用権資産を、セール・アンド・リースバック取引に関係のない使用権資産の事後測定と同じ要求事項を適用して事後測定する。

リースバック取引から生じるリース負債は、リース負債に係る金利を反映するように帳簿価額を増額し、開始日に決定された報告期間の予想リース料(又は、該当する場合には、再測定日に決定された報告期間の改訂後の予想リース料)を反映するように帳簿価額を減額することによって事後測定される。したがって、帳簿価額は、開始日において支払われると見込まれる金額と時期の両方を反映するように減額される。

売手である借手は、通常、報告期間におけるリースに対する実際の支払額(市場条件を上回る部分を除く)と予想リース料との差額を純損益に認識する。実際の支払額に不足が生じた場合(すなわち、支払額が支払われるべき額よりも少ない場合)、又は不足額の回収が生じた場合は、売手である借手はリース負債の帳簿価額を調整する。

セール・アンド・リースバック取引において、リース期間の変化又は独立したリースとして会計処理されないリースの条件変更が発生した場合、売手である借手は、再測定日における改訂後の予想リース料である改訂後のリース料によって、リース負債の帳簿価額を再測定する。リース期間の変化又はリースの条件変更を除き、売手である借手は将来の変動リース料の変更を反映するリース負債の再測定は行わない。

見解

修正案を開発する際に、IASBは、セール・アンド・リースバック取引から生じるリース負債を事後測定するための方法を2つ検討した。第一は、当初測定と整合的に、リース料の定義を満たしているかどうかに関わらずすべての予想される支払を含めて測定する方法である。これに対し、第二は、他のリース負債と同様に、リース料の定義を満たさない支払を除いて測定する方法である。IASBは、セール・アンド・リースバック取引の経済実態を適切に反映し、また、リースバックを通じて売手である借手が保持した使用権に係る損益を認識することを防ぐために、リース負債の事後測定の要求事項は、当初測定と整合させるべきであると結論付けた。

 

修正案は、すべてのセール・アンド・リースバック取引に適用されるが、指数又はレートに応じて決まるものではない変動リース料を含むセール・アンド・リースバック取引に特に影響を与えると予想される。

また、EDは、修正案の理解を高めるために、変動リース料を含むセール・アンド・リースバック取引を売手である借手がどのように会計処理するかを説明する例をIFRS第16号に付属する設例に追加することも提案している。

見解

EDにおいて、IASBの理事の1名は、資産を使用するための支払が将来の業績に連動した変動リース料である状況に関する代替的な見解を示した。このIASB理事の見解は、修正案の基礎を形成するIASBの分析とは異なり、売手である借手はリース期間中に、セール・アンド・リースバック取引の前に有していた資産の使用に関する権利と同じ権利をもはや有しておらず、そのような経済状況の重大な変化は売却された資産の完全な認識中止と関連する利得全額の認識を正当化することができる、というものである。したがって、このIASB理事は、この問題はIFRS-ICに提出された当初の要望書から再検討されるべきであり、また、IFRS第16号には現在、セール・アンド・リースバックの要求事項とリース料の定義及び関連するリース負債との間に黙示的な矛盾があることを認めるべきであると考えている。このIASB理事の見解では、この黙示的な矛盾を解消するために、当初認識を含めた基準設定が必要とされる。

 

 

経過措置、発効日及びコメント期間

売手である借手は、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って、IFRS第16号の適用開始日より後に締結されたセール・アンド・リースバック取引に対して、本修正を遡及適用することが要求される。

ただし、変動リース料を含むセール・アンド・リースバック取引に対する遡及適用が、事後的判断を使用することによってのみ可能である場合は、売手である借手は、本修正を最初に適用する事業年度の期首において、当該取引について予想リース料を決定する。この状況において、売手である借手は次のことを行う。

a. リースバックから生じる負債を、本修正の適用開始日における残りの予想リース料をIFRS第16号第37項で規定された利率を使用して割り引いた現在価値で測定する。

b. リースバックから生じる使用権資産を、本修正が開始日から適用されていたかのように帳簿価額を測定するが、本修正の適用開始日における残りの予想リース料にその日までにそのリースに対して行われた実際の支払額を加算して測定する。

c. 本修正の適用開始日において、本修正の適用の累積的影響を利益剰余金(又は適切な場合には、資本の他の内訳項目)の期首残高の修正として認識する。

本修正の発効日は、公表後に決定される予定である。早期適用は認められることが提案されている。修正案に対するコメントは、2021年3月29日まで募集される。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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