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IASBが、「共通支配下の企業結合」に関するディスカッション・ペーパーを公表

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年2月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

国際会計基準審議会(IASB)は、ディスカッション・ペーパーDP/2020/2「共通支配下の企業結合」を公表した。本IFRS in Focusでは、DPの主要な概念を解説する。

  • DPは、当該結合の前後において、すべての結合される事業が最終的に同じ当事者によって支配されている企業結合を、どのように会計処理するかを検討している。
  • IASBは、共通支配下の企業結合の会計は、(i)当該結合が移転先企業の非支配株主に影響を及ぼすかどうか、及び(ii)移転先企業の株式が公開市場で取引されているかどうかによることを提案する。
  • 移転先企業に非支配株主がない場合は、簿価法が適用される。
  • 移転先企業が公開企業であり、非支配株主を有する場合は、取得法が適用される。
  • 移転先企業が非公開企業であり、非支配株主を有する場合、以下の通りとなる。
    – すべての非支配株主に対し、簿価法を使用することの提案が通知され、反対されない場合、簿価法を使用することが認められる。
    – すべての非支配株主がIAS第24号で定義されている関連当事者である場合、簿価法の使用が要求される。
  • 買収法を適用する場合、IASBは、支払われた対価が被移転企業の識別可能な資産及び負債の公正価値と等しくない場合、移転先企業について以下を提案する。
    – 公正価値が支払われた対価を超える場合、資本拠出を認識しなければならない。
    – しかし、支払われた対価が公正価値よりも高い場合、資本からの分配を認識しない(その代わり、事後に減損がテストされる、より高いのれんを認識する)。
  • 簿価法が適用される場合、IASBは以下を提案する。
    – 移転先企業は、被移転企業の財務諸表の帳簿価額を使用して受け取った資産及び負債を測定しなければならない。
    – 支払われた対価と受け取った資産及び負債の帳簿価額との差額は、資本内で認識しなければならない。
    – 移転先企業は、結合前情報を修正再表示しない。
  • DPのコメント期間は、2021年9月1日に終了する。

 

529KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

結合の前後で事業が同じ当事者によって支配されている場合、企業結合はIFRS第3号「企業結合」の範囲に含まれない。作成者は、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」 に従って、当該結合の会計方針を策定しなければならない。

具体的に適用されるIFRS基準がないことは、実務における不統一をもたらした。一部の作成者は、取得法を使用して当該結合を報告する。他の作成者は、法域において又は米国会計基準のような他の会計基準で利用可能なガイダンスにより、簿価法、例えば、「引継法」又は「持分プーリング法」を使用する。

IASBの2011年及び2015年のアジェンダ協議は、実務における不統一により、財務諸表の利用者が、共通支配下の企業結合が移転先企業にどのような影響を与えるかを理解し、類似の取引を行う企業を比較することが困難であると記載している。IASBは、不統一を除去し、比較可能性及び透明性を改善する、移転先企業に対する報告の要求事項を開発できるかどうかを検討する、共通支配下の企業結合を検討するリサーチ・プロジェクトを設定した。DPは、本プロジェクトの最初の協議文書である。

見解

本プロジェクトは、共通支配下にある企業間の企業結合の検討に限定される。IFRS解釈指針委員会は、共通支配下の非現金分配のような共通支配下の取引に関するいくつかの論点をIASBに委ねた。しかし、他の共通支配下の取引は、検討されていない。

さらに、本プロジェクトは、移転先企業の財務報告の要求事項が検討されるが、移転元企業は検討されない。これは、IASBが既存のIFRS基準が、売却企業、被移転企業、及び移転先企業及び被移転企業の共通の支配当事者に適用される要求事項を取り扱っていると考えているためである。

 

 

測定方法の選択

IASBは、共通支配下にある企業を含む、すべての企業結合に対して取得法を要求するかどうかを検討した。取得法では、結合で受け取ったほとんどの識別可能な資産及び負債は、公正価値で測定される。

IASBは、共通支配下の一部又はすべての企業結合に対して、資産及び負債の帳簿価額を基礎とする方法(簿価法)を要求又は認めるかどうか、及びそうである場合、どの簿価法とするかについても検討した。

見解

IASBは、結合される事業のすべての資産及び負債を公正価値で測定する「フレッシュ・スタート」法について議論した。IASBは、それがまれにしか使用されず、利害関係者との最初の協議中にほとんど支持されなかったので、当該方法を却下した。

IASBは、共通支配下の企業結合がIFRS第3号の範囲に含まれる企業結合と類似しているかどうか及びどのような場合に類似しているかどうか、及びどの情報が移転先企業の財務諸表の主要な利用者にとって最も有用かを検討した。IASBは、共通支配下のすべての企業結合がIFRS第3号の範囲に含まれる企業結合とは実質的に異なり、異なる方法で処理するべきであると主張した利害関係者に同意しなかった。結合される事業の最終的な支配は共通支配下の企業結合で変更されないが、すべてのそのような結合が、必ずしも単なるグループ内の経済的資源の再配分ではない。一部の結合、特に被移転企業を受け取る事業の非支配株主が存在する場合には、資源の所有持分が変化する。

 

 

非支配株主に影響しない結合

(100%所有の事業が関わる企業結合のように)移転先企業に非支配株主が存在しない場合、結合される事業の最終的な支配に変更はない。IASBは、このような状況では、ときどき、有用な情報をもたらす方法で会計上の取得企業(必ずしも法的な取得企業ではない)を識別することが困難であるかもしれないと考えている。また、非支配持分を保護する必要性がない場合、最終的な支配当事者は、支払われた対価の金額を指示するかもしれず、当該金額は、当該企業結合とは無関係の当事者間で交渉されたであろう第三者価格とは異なるかもしれない。さらに、IASBは、関与する株主が支配当事者のみである場合、株主の情報のニーズは根本的に少なくなると考えている。貸手及びその他の債権者の情報ニーズは、元本と利息の受取り、すなわち企業のキャッシュ・フロー及び債務コミットメントに焦点を当てており、当該情報は、取得法又は簿価法が当該企業結合を会計処理するために使用されているかどうかによって、ほとんど影響を受けない。

IASBは、共通支配下の企業結合が移転先企業の非支配株主に影響しない場合には、簿価法を適用しなければならないと結論付けた。

 

非支配株主に影響する結合

共通支配下の企業結合が、移転先企業の非支配株主に影響する場合、移転先当事者の財務諸表の利用者には、当該企業の潜在的な株主及び貸手及びその他の債権者に加えて、非支配株主が含まれる。利用者の構成がIFRS第3号の範囲に含まれる企業結合における利用者の構成に類似するため、それらの利用者の情報ニーズも類似する。したがって、IASBは、共通支配下の企業結合が移転先企業の非支配株主に影響する場合には、原則として取得法を適用しなければならないことを提案する。

IASBは、次に、非支配株主の所有持分が実質的でない場合又はすべての非支配株主が移転先企業に関連する当事者である場合でも、このようなすべての状況で取得法を適用すべきかどうかという問題を検討した。

IASBは、移転先企業が非支配株主を有し、その株式が公開市場で取引される場合には、常に取得法を適用しなければならないことを提案する。これは、通常、最低上場要件を満たすために、非支配株主による所有が僅少とは言えないものでなければならないためである。

非公開企業については、IASBは、移転先企業が以下の通りでなければならないことを提案している。

  • すべての非支配株主に対し、簿価法を使用することの提案が通知され、反対されない場合、簿価法を使用することを「認める」べきである。
  • すべての移転先企業の非支配株主がIAS第24号「関連当事者についての開示」 で定義されている関連当事者である場合には、簿価法を使用することを「要求する」べきである。
見解

IASBは、非公開企業に対する例外の提案を公開企業に拡大することを検討したが、却下した。IASBは、株主数及び株式所有の頻繁な変化を踏まえると、すべての株主に通知することは、当該企業にとってより困難であるかもしれないと結論付けた。IASBは、資本市場規制は通常、無関係の当事者が保有する株式の最小数を要求するため、公開企業のすべての株主が関連当事者になる可能性は低いことに気づいた。

 

 

取得法の適用

共通支配下の企業結合に対して取得法を適用する場合、IASBは、IFRS第3号の要求事項を全般的に適用することを提案する。

しかし、支払われた対価は支配当事者によって指示されるかもしれず、無関係の当事者間で交渉されたであろう第三者価格とは異なるかもしれない。その場合、当該結合は、所有者としての立場で行動する所有者との取引が含まれる。IASBは、支払われた対価が第三者価格よりも高い(又は低い)場合、移転先企業が資本からの分配(又は資本への拠出)を認識すべきかどうかを検討した。

 

分配

IASBが、共通支配下で企業結合において資本からの分配を識別し、認識することを移転先企業に要求する場合、IASBは、そのような分配をどのように測定するかを特定する必要がある。IASBは、実務において過大支払が検出可能である可能性は低く、不可能ではないとしても定量化することは困難であると結論付けた。

IASBは、移転先企業の非支配株主に影響する共通支配下の企業結合において、実務において過大支払が発生する可能性は低いと結論付けた。このような過大支払は、当該株主から事業を移転する当事者に富を移転し、最終的には支配当事者に移転する。多くの法域には、非支配株主の利益を保護するために設計された取引価格又はその他のメカニズムに直接的又は間接的に影響する法律上の要求事項及び規制がある。

したがって、IASBは、移転先企業が過大支払が行われたかどうかを評価することを要求するガイダンスを開発しないことを提案している。非支配株主に影響する共通支配下の企業結合で過大支払が生じるという可能性の低い事象においては、IFRS第3号の対象となる企業結合で発生するのと同様に、当初はのれんに含まれ、その後ののれんの減損テストを通じて対処される。

 

拠出

非支配株主が関与する場合の資本への拠出は、実務において同様に生じる可能性は低い。法的な保護はないかもしれないが、支配当事者は、非支配株主に富を移転することを認める可能性は低い。

しかし、拠出が生じるという可能性の低い事象において、IASBは、支払われた対価に対する識別可能な取得資産及び負債の公正価値の超過額として、資本を測定し認識することを提案する。これは、純損益計算書において、割安購入益として会計処理してはならない。

 

簿価法の適用

実務において、例えば以下のような、いくつかの簿価法が存在する。

  • 移転先企業は、被移転企業の帳簿価額、又は支配当事者の連結財務諸表で認識される金額で、受け取った資産及び負債を測定する。
  • 移転先企業は、結合前情報の修正再表示なしに、結合日から将来に向かってその財務諸表に被移転企業の資産、負債、収益、費用を含める。又は、移転先企業と被移転企業が常に結合しているかのように結合前情報を修正再表示し、表示される最初の期間の期首から遡及的にその財務諸表に被移転企業の資産、負債、収益、費用を含める。

移転される事業における資産及び負債の帳簿価額及び連結財務諸表で認識される金額は、その創設から又は長期間にわたり支配されている場合には同じでなければならない。しかし、以前に外部の当事者から取得された場合、支配当事者は、被移転企業の資産及び負債を取得日の公正価値で測定していたが、取得した事業の個別財務諸表に報告される金額には影響を受けないこととなる。

IASBは、被移転企業に関する中断のない過去情報を提供するため、被移転企業の帳簿価額を使用することを提案する。この方法は、(支配当事者の視点ではなく)結合される企業の視点も採用し、結合される企業の資産及び負債に関する情報を一貫した基礎で提供する。

IASBは、ほとんどの共通支配下の企業結合が、現金又は会社自身の株式を対価として取引されていると考えている。しかし、ときには対価が、他の非現金資産の形態、又は負債の発生又は引受けによることがある。IASBは、対価が現金でない場合の測定方法を検討し、以下のように結論付けた。

  • 株式発行によって対価が支払われる場合、IASBは、公正価値又は額面金額(保有している場合)で測定するかどうかを規定しないことを提案する。
  • 資産の移転によって対価が支払われる場合、IASBは、支払われた対価を、結合日における当該資産の移転先企業の帳簿価額で測定することを提案する。
  • 負債の発生又は引受けによって対価が支払われる場合、IASBは、対価を、IFRS基準を適用して結合日における負債の当初認識において決定された金額で測定することを提案する。

IASBは、支払われた対価と受け取った資産及び負債の差額は、通常、移転先企業の資本内に認識されると考えている。IASBは、経済的には、すべての差額が必ずしも移転先企業の資本への拠出又は資本からの分配を反映しているわけではないにもかかわらず、その結論に達した。その一部は、認識されないのれん又は受け取った資産及び負債の測定から生じる測定差額であるかもしれない。しかし、差額を内訳項目に分離するアプローチは、コストがかかり、適用が複雑になる。

IASBは、移転先企業が当該差額を表示すべき資本の内訳項目を規定すべきではないことを決定した。

取引コストに関しては、IASBは、会計処理をIFRS第3号と整合させなければならないことを提案する。すなわち、株式又は負債性金融商品の発行コストは適用されるIFRS基準に従って会計処理しなければならないことを除き、それらが発生した期間の費用とする。

IASB、結合前の情報を、移転先企業と被移転企業の両方の結合後の資産、負債、収益及び費用を含めるように修正再表示しなければならないかどうかも検討した。しかし、IASBは、この「プロフォーマ」情報は、それを提供するコストを上回る可能性が低い限定的な便益しかないと結論付けた。

したがって、IASBは、簿価法を適用する際に、移転先企業は、結合前情報を修正再表示せず、結合日から将来に向かって被移転企業の資産、負債、収益及び費用をその財務諸表に含めなければならないことを提案している。

見解

簿価法を使用する場合の将来に向かっての会計は、多くの法域の企業にとって重大な変更となる。多くの法域には、そのような取引を、新しい結合が常に実施されているかのように再編成に類似して処理する現地の要求がある。

 

 

開示

取得法が適用される結合について、IASBは、移転先企業がIFRS第3号の開示の要求事項に従わなければならないことを提案する。しかし、IASBは、IAS第24号の開示の要求事項と合わせて当該開示の要求事項をどのように適用するかについてのガイダンスを提供する予定である。

簿価法が適用される結合について、IASBは、IFRS 3の開示の要求事項の一部、ただしすべてではない、が適切であることを提案している。特に、移転先企業は、IFRS第3号における開示目的を適用しなければならない。結合前情報は、要求されない。しかし、移転先企業は、支払われた対価と認識される資産及び負債の帳簿価額の純額との差額について、当該差額が表示されている資本の内訳項目と共に、資本で認識される金額を開示しなければならない。

 

次のステップ

IASBは、DPのすべての事項、特に「回答者への質問」の各セクションの最後に示された質問に関するコメントを求めている。さらに、回答者は、DPで示されたIASBの予備的見解に関する他のコメントを提起することが奨励される。

コメントは、2021年9月1日まで受領される。

DPで表明されている見解は予備的なものであり、変更される可能性がある。IASBは、予備的な見解の一部又は全部を実施するための提案を含む公開草案を開発するかどうかを決定する前に、DPに対して受け取ったコメントを検討する。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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