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「時価の算定に関する会計基準の適用指針(案)」の解説
月刊誌『会計情報』2021年3月号
企業会計基準適用指針公開草案第71号(企業会計基準適用指針第31号の改正案)
公認会計士 内田 彰彦
1 はじめに
2019年7月4日に公表された企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」においては、投資信託の時価の算定に関する検討には、関係者との協議等に一定の期間が必要と考えられるため、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」公表後概ね1年をかけて検討を行うこととし、その後、投資信託に関する取扱いを改正する際に、当該改正に関する適用時期を定めることとしていた。
また、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資(日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下「金融商品実務指針」という。)第132項及び第308項)の時価の注記についても、一定の検討を要するため、上記の投資信託に関する取扱いを改正する際に取扱いを明らかにすることとしていた。
上記の経緯を踏まえ、これらの取扱いを定めるために、2021年1月18日に企業会計基準委員会より「時価の算定に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「本公開草案」という。)が公表されている。
- 企業会計基準第30号
「時価の算定に関する会計基準」(以下「時価算定会計基準」という。) - 企業会計基準適用指針第31号
「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下「2019年適用指針」という。) - 改正企業会計基準第10号
「金融商品に関する会計基準」(以下「金融商品会計基準」という。) - 改正企業会計基準適用指針第19号
「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下「金融商品時価開示適用指針」という。)
本稿では投資信託及び組合等への出資の取扱いについて解説する。
2 公開草案の内容
(1) 投資信託財産が金融商品の場合の取扱い
<時価の算定に関する取扱い>
投資信託財産が金融商品である投資信託(契約型及び会社型の双方の形態を含む。以下同じ。)について、市場における取引価格が存在する場合、通常は当該価格が時価になると考えられる。
また、市場における取引価格が存在せず、一般に基準価額による解約又は買戻請求(以下合わせて「解約等」という。)が主要な清算手段となっている投資信託については、投資信託の購入及び解約等の際の基準となる基準価額を出口価格として取り扱うことができると考え、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合、基準価額を時価とすることを提案している。ただし、時価算定会計基準における時価の定義を満たす、他の算定方法により算定された価格の利用を妨げるものではないとしている。
一方、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合*1は、時価を算定する際に考慮する資産の特性に該当し、基準価額を基礎として時価を算定する場合には何らかの調整が必要になるものと考えられる。
ここで、基準価額に対して調整を行うことを求めた場合、投資信託が業種を問わず広く保有されていることを踏まえると、その影響も広範囲にわたることが予想され、実務的な対応に困難を伴うことが想定されるため、投資信託を構成する個々の投資信託財産の評価について、時価算定会計基準と整合する評価基準が用いられていると考えられる次のいずれかの場合に、基準価額を時価とみなすことができることを提案している。
①当該投資信託の財務諸表が国際財務報告基準(IFRS)又は米国会計基準に従い作成されている場合
②当該投資信託の財務諸表がIFRS及び米国会計基準以外の会計基準に従い作成され、当該会計基準における時価の算定に関する定めがIFRS第13号「公正価値測定」又はAccounting Standards Codification(米国財務会計基準審議会(FASB)による会計基準のコード化体系)のTopic 820「公正価値測定」と概ね同等であると判断される場合
③当該投資信託の投資信託財産について、一般社団法人投資信託協会が定める「投資信託財産の評価及び計理等に関する規則」に従い評価が行われている場合(2021年1月14日に、一般社団法人投資信託協会から「投資信託財産の評価及び計理等に関する規則」の一部改正案が公表されている)
なお、海外の法令に基づいて設定される投資信託(以下「海外の投資信託」という。)に対して、上記の取扱いを適用する際、情報の入手が困難である可能性があることを踏まえ、時価の算定日と基準価額の算定日との間の期間が短い(通常は1か月程度と考えられるが、投資信託財産の流動性などの特性も考慮する。)場合に限り、基準価額を時価とみなすことができることを提案している。
また、基準価額は投資信託委託会社等が公表するものであり、2019年適用指針第18項に定める第三者から入手した相場価格として、時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断する必要があるが、基準価額を時価とする取扱い(本公開草案第24-2項)又は基準価額を時価とみなす取扱い(本公開草案第24-3項)を適用する場合、それを適用するための要件を満たすことをもって、当該判断ができることを提案している。
<時価のレベルの分類及び開示>
基準価額を時価とみなす取扱い(本公開草案第24-3項)を適用した投資信託については、インプットのレベルが把握されない。このような状況において時価算定会計基準第12項に従って分類された時価のレベルごとの内訳に、インプットのレベルが把握されず、他の金融商品とは別のルールによってレベルの分類を行った時価が混在すると、財務諸表利用者にとって有用な情報とならないものと考えられるため、時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記しないこととし、その場合、次の内容を注記することを提案している。なお、当該注記は他の金融商品における金融商品時価開示適用指針第5-2項(1)の注記に併せて記載することとしており、金融商品時価開示適用指針第5-2項(1)の注記と同様に、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないことを提案している。
①基準価額を時価とみなす取扱い(本公開草案第24-3項)を適用しており、時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記していない旨
②基準価額を時価とみなす取扱い(本公開草案第24-3項)を適用した投資信託の貸借対照表計上額の合計額
③②の合計額に重要性がない場合を除き、②の期首残高から期末残高への調整表
④②の合計額に重要性がない場合を除き、②の時価算定日における解約等に関する制限の内容ごとの内訳
(2) 投資信託財産が不動産の場合の取扱い
市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託(契約型及び会社型の双方の形態を含む。以下同じ。)については、特段の定めがないことに起因して、実務上、会計処理に多様性が生じており、時価をもって貸借対照表価額としているケースと、時価を把握することが極めて困難と認められるため取得原価をもって貸借対照表価額としているケースが識別されている。ここで、時価算定会計基準においては、時価のレベルに関する概念を取り入れ、時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券は想定されないとしており、市場価格のない株式等を除き、時価をもって貸借対照表価額とすることとしている。また、投資信託財産が不動産である投資信託であったとしても、通常は金融投資目的で保有される金融資産であると考えられ、時価をもって貸借対照表価額とすることは、財務諸表利用者に対する有用な財務情報の提供につながるものと考えられる。これらを踏まえ、市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託について、経過措置として金融商品実務指針第62項の取扱いを踏襲した2019年適用指針第26項を削除し、金融商品会計基準に従い、時価をもって貸借対照表価額とすることで会計処理を統一することを提案している。
<時価の算定に関する取扱い>
市場における取引価格が存在する場合、通常は当該価格が時価になると考えられる。
一方、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合、投資信託財産が金融商品である投資信託と同様、基準価額を時価とすることを提案している。
また、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合*2、基準価額を時価とみなすことができることを提案している。なお、投資信託財産である不動産については、時価の算定が時価算定会計基準の対象に含まれないことから、当該投資信託を構成する個々の投資信託財産の評価について時価算定会計基準と整合する評価基準が用いられている等の要件は設けないことを提案している。
なお、基準価額を時価とする取扱い(本公開草案第24-8項)を適用する場合、投資信託財産が金融商品である投資信託と同様に、それを適用するための要件を満たすことをもって、第三者から入手した相場価格が時価算定会計基準に従って算定されたものであると判断することができることを提案している。また、基準価額を時価として用いる場合には、当該基準価額の適切性を確認することになるが、基準価額を時価とみなす取扱い(本公開草案第24-9項)を適用する場合、投資信託財産である不動産の時価の算定が時価算定会計基準の対象に含まれないことから、投資信託財産の評価が時価算定会計基準に基づいているか否かを確認することにより、基準価額が時価算定会計基準に従って算定されたものであるか否かを判断することが困難であることが考えられる。したがって、そのような手続までは求めないこととした(第24-10項参照)。
<時価のレベルの分類及び開示>
基準価額を時価とみなす取扱い(本公開草案第24-9項)を適用した投資信託については、時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記しないこととし、その場合、次の内容を注記することを提案している。なお、投資信託財産が金融商品である投資信託と同様に、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないことを提案している。
①基準価額を時価とみなす取扱い(本公開草案第24-9項)を適用しており、時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記していない旨
②基準価額を時価とみなす取扱い(本公開草案第24-9項)を適用した投資信託の貸借対照表計上額の合計額
③②の合計額に重要性がない場合を除き、②の期首残高から期末残高への調整表
なお、上記のとおり、投資信託財産である不動産については、時価の算定が時価算定会計基準の対象に含まれないことから、投資信託財産が金融商品である投資信託と同様に、解約等に関する制限の内容の注記を求めたとしても、時価算定会計基準との差異を理解するための有用な情報にはならないと考えられる。したがって、解約等に関する制限の内容の注記は求めないことを提案している。
(3) 投資信託財産が金融商品及び不動産である投資信託における共通の取扱い
- 投資信託財産が金融商品と不動産の両方を含む場合、投資信託財産が金融商品である投資信託又は投資信託財産が不動産である投資信託のどちらの取扱いを適用するかは、投資信託財産に含まれる主要な資産等によって判断する。
- 投資信託財産が不動産の信託に係る受益権である場合は、信託財産たる不動産そのものが投資信託財産であるのと同様に取り扱う。
- 投資信託の解約等を行う際に投資家が負担する信託財産留保額は、投資信託の時価の算定上の調整項目に含めない。
(4) 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記に関する取扱い
組合等への出資は金融資産であるため、金融商品会計基準では、従来から時価の注記を求めているが、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースもみられた。ここで、組合等への出資の会計処理については、有価証券とは異なり時価をもって貸借対照表価額とすることは求めておらず、どのようなケースで時価の注記を求めるかについては、どのようなケースで時価をもって貸借対照表価額とすることが必要であるかと併せて検討する必要があると考えられる。
したがって、会計処理について今後の検討課題であることを認識したうえで、本公開草案では、貸借対照表に持分相当額を純額で計上している組合等の出資については、時価の注記を要しないこととし、その場合、次の内容を注記することを提案している。なお、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないことを提案している。
①時価の注記を要しないとする取扱い(本公開草案第24-15項)を適用しており、時価の注記を行っていない旨
②時価の注記を要しないとする取扱い(本公開草案第24-15項)を適用した組合等への出資の貸借対照表計上額の合計額
3 適用時期等
時価算定会計基準は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されること、及び本公開草案による場合、企業にとって追加的な作業を要すると考えられるものの一定の実務への配慮を行っていることから、2022年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することを提案している。
また、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することができることを提案している。
なお、本公開草案が最終化された場合の本適用指針の適用初年度においては、時価算定会計基準第19項の適用初年度の経過措置における取扱いに合わせ、本公開草案が定める新たな会計方針(時価算定会計基準の定める時価を新たに算定する場合や取得原価をもって貸借対照表価額としていたものから時価をもって貸借対照表価額とする場合など)を将来にわたって適用し、その変更の内容について注記することを提案している。
以上
*1 例えば、以下のような制限のみがある場合は該当しない。
①条件が満たされる蓋然性が低い条件付きの解約制限
②投資信託委託会社の事務手続の便宜のための最低解約額の設定
③解約可能日が定期的に設定されており、その間隔が短い(1ヵ月程度)もの
*2 投資信託財産が不動産の場合、投資信託財産の換金可能性が低く、安定性を維持する観点から、通常は重要な解約等の制限があると考えられるため、解約等に重要な制限が課せられている場合には該当しない例示の必要性は乏しいと考えられる。
本記事に関する留意事項
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