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グローバル展開を行う製造業における減損会計の留意点②

月刊誌『会計情報』2021年3月号

新型コロナウイルス感染症(Covid-19)による影響を受けて

マニュファクチャリング事業ユニット インダストリーナレッジチーム 公認会計士 鈴木 桃子

1. はじめに

前稿では新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」)の広がりが製造業の業績に影響を与えている現状に則して、減損会計の全体像、減損会計の対象資産、グルーピング及び減損の兆候の判断について、国際会計基準(以下、「IFRS」」及び米国会計基準(以下、「USGAAP」)との差異に関する情報を交えて取り上げた。本稿では、「減損損失の認識の判定」及び「減損損失の測定」について取り上げる。

各基準の減損会計の流れと本稿の構成は下記の図のとおりである。基本的に減損会計の流れに沿って説明するが、一部の検討のステップは基準によって異なり、将来キャッシュ・フローの総額の見積りについては項目2.(3)にてまとめて取り上げるため、下記表の該当項目を参照してもらいたい。

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【図表1:減損会計の流れ】
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2. 減損損失の認識の判定

(1)概要

前稿に記載したとおり、日本基準では、減損の兆候が生じている資産又は資産グループについて、①割引前将来キャッシュ・フローの総額と帳簿価額を比較することで認識の要否を判定し、②認識が必要となった場合、回収可能価額まで帳簿価額を減額する2ステップ・アプローチを採用している。日本基準において、減損損失の測定は将来キャッシュ・フローの見積りに大きく依存するが、事業用資産の生み出す将来キャッシュ・フローの測定は主観的にならざるを得ず、減損の存在が相当程度確実な場合に限って減損損失を認識することが適当であるとされているためである(企業会計基準適用指針第6号 固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(以下、「減損適用指針」)96項)。USGAAPでも日本基準と同様に2ステップ・アプローチを採用しており、根本的な考え方は日本基準と大きな相違は見られない。対して、IFRSでは各報告期間の末日現在で、資産が減損している可能性を示す兆候がある資産について回収可能価額(処分コスト控除後の公正価値と使用価値(将来キャッシュ・フローの現在価値)のいずれか高い金額)を見積り、当該回収可能価額が帳簿価額を下回っている場合、当該金額まで減額する1ステップ・アプローチを採用している。

以下では、「割引前将来キャッシュ・フローの総額の見積り」にあたって用いられる「主要な資産」及び「経済的残存使用年数」について、具体的な算定方法及び留意点を踏まえて説明する。

(2)主要な資産及び経済的残存使用年数

日本基準では、減損損失を認識するかどうか判定するために割引前将来キャッシュ・フローを見積る期間は、資産の経済的残存使用年数又は資産グループの中の主要な資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い方とする(固定資産の減損に係る会計基準(以下、「減損会計基準」)二2.(2))。主要な資産とは、資産グループの将来キャッシュ・フローの生成能力にとって最も重要な構成資産をいい(減損会計基準 注解 注3)、主要な資産とされた資産は、原則として、翌期以降の会計期間においても当該資産グループの主要な資産となり(減損適用指針22項)、主要な資産の決定にあたっては、①企業は、当該資産を必要とせずに資産グループの他の構成資産を取得するか、②企業は、当該資産を物理的及び経済的に容易に取り替えないかの要素も含めて、総合的に判断する必要がある(減損適用指針23項)。

また、割引前将来キャッシュ・フローを見積る期間は20年を上限としているが、これは、①少なくとも土地については使用期間が無限になりうることから、その見積期間を制限する必要があること、②一般に、長期間にわたる将来キャッシュ・フローの見積りは不確実性が高くなることが理由とされている(減損適用指針96項)。

例えば、工場等を資産グループとした場合、土地又は建物等の比重が高くなるケースが想定されるが、土地等の非償却資産や建物等の経済的残存使用年数が20年を超える資産を主要な資産とする場合、資産グループの将来キャッシュ・フロー生成能力にとって最も重要な構成資産であるかどうかに留意する必要がある(減損適用指針23項なお書き、103項)。
主要な資産を決定するにあたって、個々の資産ではなく、経済的残存使用年数は異なるが物質的性質や用途等において共通性を有する複数の償却資産の集合体が最も適当であると判断される場合がある。製造業の場合、工場に複数の製造ラインがある場合は特定の機械設備やラインを主要な資産とするのではなく、複数ライン等の集合体を主要な資産とし、当該資産の経済的残存使用年数を平均した年数を当該主要な資産の経済的残存使用年数とすることができる(減損適用指針102項なお書き)。なお、共用資産やのれんは、原則として、主要な資産には該当しない(減損適用指針24項)。

USGAAPにおいても、減損の兆候があると判断された資産について減損テストを実施するか判定するための回収可能性のテストにあたって、キャッシュ・フローの見積期間として、長期性資産(資産グループ)の残存耐用年数を定めなければならない。当該残存耐用年数は、そのグループを構成する主要な資産を基礎とし、資産グループがそのキャッシュ・フロー獲得能力を引き出す最も重要な部分を主要な資産としなければならず、この点は日本基準と大きな差異はない。一方で、日本基準のように20年といった年数制限も設けられていないこと、土地又は非償却無形固定資産は主要な資産とならないことが相違している(ASC360-10-35-31)。

製造業においては、特有の機械設備・生産ラインを用いて、独自の製品を製造している場合には、将来キャッシュ・フローの生成能力にとって最も重要な構成資産である主要な資産は、機械設備となるケースが考えられる。また、重要な機械設備等がないものの、工場等で労働集約型の製造を行う企業の場合は、建物等の不動産が主要な資産になるケースも想定される。

なお、IFRSでは主要な資産という概念はないが、使用価値の測定にあたってのキャッシュ・フロー予測は、資産の残存耐用年数が考慮される(IAS36 33)。ここでいうキャッシュ・フローの予測の対象期間は、最長でも5年とされているが、これは、キャッシュ・フロー予測が経営者が承認した直近の財務予算・予測を基礎としており、5年超よりも長期にわたる期間については一般的に入手できないとされているためである(IAS36 34)。5年を超えた耐用年数終了までの期間におけるキャッシュ・フロー予測をどのように見積るのかについては、3.(4)使用価値にて記載する。

【図表2:主要な資産及び経済的残存使用年数】
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(3)割引前将来キャッシュ・フローの総額の見積り

日本基準では、減損損失を認識するために見積る割引前将来キャッシュ・フローの総額は、主要な資産と主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数との関係を考慮して、以下のとおり算定される。

① 資産グループの中の主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超えない場合

この場合、割引前将来キャッシュ・フローは「主要な資産の経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フロー」+「主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における主要な資産の正味売却価額」+「主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超える場合、当該主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の回収可能価額」+「主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が、主要な資産の経済的残存使用年数を超えない場合には、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該資産の正味売却価額」で算定される(減損適用指針97項)。

② 資産又は資産グループの中の主要な資産の経済的残存使用年数が20年を超える場合

この場合、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに、20年経過時点の回収可能価額を加算する。具体的には、20年目までの割引前将来キャッシュ・フローに21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローの割り引かれた金額が加算されるが、主要な資産以外の構成資産の経済的残存使用年数が20年を超える場合、以下を21年目以降に見込まれる将来キャッシュ・フローに加算する。

  • 構成資産の経済的残存使用年数>主要な資産の経済的残存使用年数>20年の場合、主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の回収可能価額(減損適用指針18項(4))
  • 主要な資産の経済的残存使用年数≧構成資産の経済的残存使用年数>20年の場合、当該構成資産の経済的残存使用年数経過時点における当該構成資産の正味売却価額(減損適用指針18項(3))

また、資産グループの中の主要な資産の経済的残存使用年数は20年を超えるが、それ以外の構成資産の経済的残存使用年数が20年を超えない場合、当該構成資産の正味売却価額を、主要な資産の経済的残存使用年数までの割引前将来キャッシュ・フローに加算する。(減損適用指針98項)。

将来キャッシュ・フローは、企業に固有の事情を反映した合理的で説明可能な仮定及び予測に基づいて見積る必要がある。一般的には、取締役会等の承認を得た中長期計画の前提となった数値を基礎に見積りが行われるが、その際当該数値が企業の外部要因に関する情報や内部の情報(予算、その修正資料、業績評価の基礎データ、売上見込等)と整合しているか、修正を検討する。また、各資産又は資産グループの現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮する必要がある。(減損適用指針36項(1))

企業によっては、中長期計画が存在しない場合や中長期計画の見積期間を超える期間の将来キャッシュ・フローが算定されるケースが想定される。中長期計画が存在しない場合、企業は、経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報に基づき、各資産又は資産グループの現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮して、将来キャッシュ・フローを合理的に見積る。これには、過去の一定期間における実際のキャッシュ・フローの平均値に、これまでの趨勢を踏まえた一定又は低減する成長率(ゼロやマイナスになる場合もある。)の仮定をおいて見積ることも含む(減損適用指針36項(2))。また、中長期計画の見積期間を超える期間の将来キャッシュ・フローについては、原則として、取締役会等の承認を得た中長期計画の前提となった数値に合理的な反証がない限り、それまでの計画に基づく趨勢を踏まえた一定又は逓減する成長率(ゼロやマイナスになる場合もある。)の仮定をおいて見積る(減損適用指針36項(3))。

COVID-19の拡大が多くの企業の事業活動に甚大な影響を及ぼしており、その収束時期や事業に与える影響額を正確に把握することが困難であるとされている。そのような状況を減損含め会計上の見積りにどのように反映するかについて、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことは極めて困難である場合が多々ある。COVID-19はその収束時期や感染状況を正確に予測することは困難であり、また、業種によって受ける影響も異なり、日本国内のみならず世界各国でのロックダウン等の経済活動の制限を受けている企業も多数ある。企業会計基準はCOVID-19のような予測困難な事象であっても、それによって企業が受ける影響が多岐にわたることに鑑みて、一定の仮定を置いた上で最善の見積りを行う必要があるとしている。よって、減損会計にあたっての将来キャッシュ・フローは、例えば中長期計画の数値に、企業が置いた一定の仮定による影響額を反映する等、財務報告時点での最善の見積りを実施することが求められる。また、COVID-19は客観的な外部情報に基づいて仮定を置いたとしても、事後的な結果と仮定が乖離することが考えられる。企業は財務諸表作成時に入手可能な情報を使用して、また誤用しないようにして、仮定を置く必要があり、また、状況の変化に応じて仮定を見直す必要はあるが、乖離は、著しく楽観的・悲観的等不合理な仮定に基づくものでない限り、誤謬として扱われない。なお、当該仮定はCOVID-19という同一条件下であっても企業間で異なることが想定され、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったか財務諸表利用者にわかりやすく示すため、具体的な開示が求められる。なお、固定資産の減損会計が翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある会計上の見積りに該当する場合、2021年3月期より企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」に従い、会計上の見積りに用いた主要な仮定等の財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を注記する必要があるが、詳細は次稿で説明する。

また、将来キャッシュ・フローの見積りに将来の設備の増強や事業の再編の結果として生ずる将来キャッシュ・フローを含めることができるか否かが論点となる。日本基準では、それが合理的な計画に基づくものであれば、主要な資産の経済的残存使用年数経過時点における現在価値を考慮することができる(減損適用指針38項(1)、[設例3])。しかし、減損適用指針ではあくまで必要と考えられる留意点を列挙しているだけであることに留意したい。例えば、企業が将来的に大型投資を計画しており、それが取締役会等会議体で承認を得られたものであっても、資産グループの大部分を入れ替えるようなものであれば、当該投資によって産出されるキャッシュ・フローを考慮するか否かについては慎重な判断が必要とされる。

なお、主要な資産以外の構成資産が償却資産のときには、将来時点の正味売却価額に代えて、現在の当該構成資産の帳簿価額から主要な資産の経済的残存使用年数までの適切な減価額を控除した金額を用いることができる(減損適用指針29項、33項また書き)。例えば、製造業で機械装置を主要な資産とした場合で、当該機械装置よりも残存耐用年数の長い資産がある場合については、主要な資産以外の構成資産に当該規定を使用することが想定される。これは、減損会計の認識の判定を行う際には、資産グループにかかる減損処理の目的が主要な資産の減損損失を認識することにあると考えているためである(減損適用指針 設例3)。但し、実務において、機械装置を主要な資産とした資産グループにおいて、建物等、金額的重要性が認められかつ耐用年数が長い償却資産が含まれる場合がある。このような場合でも、減損の認識の判定にあたって、当該建物等の正味売却価額を、主要な資産の経済的残存使用年数経過時点の帳簿価額に代えることができるかどうかは、実務上慎重な判断が必要である。

USGAAPでは、既に使用に供している長期性資産(資産グループ)の見積り将来キャッシュ・フローは、テスト時点での資産の既存のサービス提供能力を基礎に算定される。そのため、資産の既存のサービス提供能力を維持するために必要な支出は算定に含めるが、資産のサービス提供能力を拡大するような支出は含まれない(360-10-35-33)。

IFRSでの将来キャッシュ・フローの見積りにあたっては、(a)資産の継続的使用によるキャッシュ・インフローの予測、(b)資産の継続的使用によるキャッシュ・インフローを生み出すために必然的に生じるキャッシュ・アウトフローで、当該資産への直接賦課又は合理的で首尾一貫した基礎による配分ができるものの予測、(c)当該資産の耐用年数の終了時点での処分について受け取る(又は支払う)正味キャッシュ・フロー(もしあれば)を含まなければならない(IAS36 39)。将来キャッシュ・フローは、資産の現在の状態で見積らなければならず、(a)企業が未だコミットしていない将来のリストラクチャリング及び(b)当該資産の性能の改善又は拡張による発生すると見込まれる見積将来キャッシュ・インフロー又はアウトフローは含めてはならないことが明示されている。

COVID-19による景況の悪化に伴い、リストラクチャリングを計画する企業は少なくないと想定される。日本基準及びUSGAAPにおいてリストラクチャリングによるコスト節減及びその他の便益を将来キャッシュ・フローにどう反映されているかは明文化されていない。日本基準では、前述のとおりそれが合理的な計画に基づくものか、リストラクチャリングにより資産グループの大部分が再編されないか等を踏まえて、キャッシュ・フローに含めるかどうか個別に判断する必要がある。

IFRSではリストラクチャリングを経営者が立案し統制している計画であって、企業が従事する事業の範囲又は事業を運営する方法に重要性がある変更を加えるもの(IAS36 46)と定義している。IAS37では、リストラクチャリングの例として(a)一事業部門の売却又は撤退、(b)国もしくは地域における事業所の閉鎖、又はある国もしくは地域から他の国もしくは地域への事業活動の移転、(c)経営管理構造の変更(例えば、管理階層の削減)、(d)企業の事業運営の性格と重点に重要な影響を及ぼす根本的な再編成を挙げている(IAS37 70)。IFRSではIAS37にリストラクチャリング引当金の定めがあり、リストラクチャンリング引当金の計上の要否が、将来キャッシュ・フローにリストラクチャリングによるコスト削減や経済的便益を反映できるかを左右している(IAS36 47、48)。例示のみならず、リストラクチャリングを行う推定的義務が生じている場合として、①企業がリストラクチャリングについて詳細な公式の計画を有していること、②企業が計画の実施を開始する、又は影響を受ける人々に対して当該契約の主要な特徴を発表するなど、リストラクチャリングを実行するであろうという妥当な期待を、影響を受ける人々に対して惹起していること、両方に該当する場合に限定している(IAS37 72)ため、将来キャッシュ・フローにリストラクチャリングの影響を反映するかどうかについて、これらの要件を充足しているかについて、留意する必要がある。

【図表3:割引前将来キャッシュ・フローの総額の見積り】
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3. 減損損失の測定

(1)概要

日本基準では、減損損失を認識すべきであると判定された資産又は資産グループについては、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として当期の損失とする(減損会計基準二3.)。対して、US-GAAPでは、前項で説明した回収可能性のテストの結果、割引前キャッシュ・フローが帳簿価額を下回るとされた長期性資産(資産グループ)について、その公正価値を算定し、公正価値が帳簿価額を下回る場合、公正価値まで減額する必要がある。

IFRSでは、減損している可能性を示す兆候がある資産について、企業が当該資産の回収可能価額を見積らなければならず(IAS36.9)、回収可能価額は資産の処分コスト控除後の公正価値及び使用価値のいずれか高い金額と定義されている(IAS36.18)。

以下では、減損損失の測定に関して、その算定方法と実務上の留意点について、US-GAAP及びIFRSとのGAAP差を交えて説明する。

(2)回収可能価額の算定

回収可能価額とは、資産又は資産グループの正味売却価額と使用価値のいずれか高い方の金額をいう(減損会計基準 注解(注1)1.)。通常使用価値は正味売却価額より高いと考えられるため、減損損失の測定において、明らかに正味売却価額が高いと想定される場合や処分がすぐに予定されている場合等を除き、必ずしも現在の正味売却価額を算定する必要はない(減損適用指針28項)。

IFRSでは前述のとおり、回収可能価額は資産の処分コスト控除後の公正価値及び使用価値のいずれか高い金額と定義されているが、これらの金額のどちらか1つでも資産の帳簿価額を超過する場合には、資産は減損していないため、もう一方の金額を見積る必要はないと明記されている(IAS36 19)。

【図表4:回収可能価額の算定】
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(3)正味売却価額及び公正価値の算定

正味売却価額は、以下のように求められた資産又は資産グループの時価から処分費用見込額を控除して算定される(減損適用指針28項)。

① 観察可能な市場価格

市場価格とは、市場において形成されている取引価格、気配又は指標その他の相場と考えられ、固定資産について市場価格が観察可能な場合は多くないが、存在するときには、原則として、市場価格に基づく価額を時価とする(減損適用指針28項(1)、108項)。

② 合理的に算定された価額

市場価格が観察できない場合には、合理的に算定された価額が時価となる。合理的に算定された価額は、以下のような方法で算定される。

(a) 不動産については、「不動産鑑定評価基準」(国土交通省)に基づいて算定する。自社における合理的な見積が困難な場合には、不動産鑑定士から鑑定評価額を入手して、それを合理的に算定された価額とすることができる。

なお、重要性が乏しい不動産については、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標を合理的に算定された価額とみなすことができる(減損適用指針28項(2)①)。具体的には、土地に関しては公示価格、都道府県基準地価格、路線価による相続税評価額又は固定資産税評価額が挙げられる(減損適用指針90項)。

(b) 不動産以外のその他の固定資産についてはコスト・アプローチやマーケット・アプローチ、インカム・アプローチによる見積方法が考えられるが、資産の特性等によりこれらのアプローチを併用又は選択して算定する。自社における合理的な見積りが困難な場合には、製造業者や販売業者、物件売買仲介会社など適切と考えられる第三者から、前述した方法に基づき算定された価格を入手して、それを合理的に算定された価額とすることができる(減損適用指針28項⑵②)。

  有形固定資産の価値評価 留意点

コスト・アプローチ

対象資産を再調達した場合にかかるコストから、当該資産の運搬や据付、試運転に要する費用等、売却先にとって価値を有しない設置コスト、現地実査等で判明した物理的減価、機能的減価及び経済的減価額、撤去コスト、売却手数料を除くことにより、動産の価値を算出する手法。

コスト・アプローチにより算定した価値が市場参加者の観点から経済的合理性を有するか、また、正味売却価額の定義に沿っているかという点に関し十分に見極める必要がある。
減価を判断する過程においては必要に応じ現地実査やエンジニアリングインタビュー(メンテナンス・デューデリジェンス)を実施する等により、資産の状態を把握する必要がある。
また、各種の設置コスト、撤去コスト、手数料を個別に見積る必要がある。

マーケット・アプローチ

市場における売買事例に基づき資産価値を推定する手法。実際の取引事例をもとに、取引条件、時期、年齢、規模、状態及びスペック等を考慮し、評価対象資産へ調整することにより、動産の価値を算出する手法。

対象動産の中古市場が存在する場合には特に有効な手法である。逆に、マーケット情報が限定的な場合には、適用が限定される。
本アプローチにて正味売却価額を求める際には、時価より控除すべき処分費用(撤去コストや売却手数料)見込額を個別に見積る必要がある。

インカム・アプローチ

特定の動産によって生み出される将来のキャッシュ・フローを算出し、動産の価値を算出する手法。

個々の資産に紐づくキャッシュ・フローの特定が困難なケースにおいての適用は限定的である。また、動産単独でキャッシュ・フローを生み出すことは稀であるため、本アプローチを採用する場合には評価対象資産に帰属するキャッシュ・フローの範囲につき十分な検討が必要となる。
正味売却価額は時価から処分費用見込額を控除した金額であり、処分費用見込額を見積る必要性は上記と同様である。

 

製造業の場合、工場に土地及び建物の他、製造に用いる機械装置や工具器具備品、車両運搬具等の機械設備が含まれることが想定される。これらのうち、機械設備には車輌、工作機械等は中古市場が形成されているものがある一方、そうでない設備も多く、その場合、汎用性があるものについては、第三者の利用を前提としたインカム・アプローチを基礎とすることも考えられる(減損適用指針110項)。汎用性がなく中古市場も存在しない設備についてはコスト・アプローチの利用も想定されるが、コスト・アプローチにより算定した価値が市場参加者の観点から経済的合理性を有するか否かについては十分に見極める必要がある。

海外では機械設備の評価を専門家に依頼する実務例も多いが、従前の日本では、その機械設備の評価に際して準拠しなければいけない「基準」や「マニュアル」が存在しなかった。そのため、機械設備評価の実務慣行は必ずしも成熟しているとは言えないのが問題点の一つであった。

しかし、日本の製造業に係る有形固定資産残高は不動産評価の対象資産(土地と建物及び構築物)が約3.3兆円であるのに対して、機械設備評価対象となり得る資産(機械及び装置とその他)は約8.3兆円と、不動産の2.5倍にも及んでおり(出典:経済産業省 平成29(2017)年工業統計表 対象:30人以上の事業所/年次:2016)、機械設備の金額的重要性を示している。

このような機械設備の評価の利用側面、実務慣行の状況及び機械設備の金額的重要性を総合的に鑑みて、日本公認会計士協会は「機械設備の評価実務」に関する研究報告を2019年7月12日に公表している。あくまで規範性はない研究報告であるものの、減損会計での利用や専門家の利用も明示さており機械設備の評価にあたっても利用可能な指標の一つとして示されており、本研究報告を減損会計においても参考とすることが想定される(機械設備の評価実務 はじめに 6)。今後、日本国内の機械設備等動産評価については、その金額的重要性や国際的な動向等を鑑みて、外部専門家へ依頼することも含め、慎重な判断が必要とされる。

IFRSでの公正価値は「測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」と定義されている(IAS36.6)。また、IFRSにおいてもその公正価値を測定するために広く用いられている評価技法として、マーケット・アプローチ、コスト・アプローチ又はインカム・アプローチが提示されている(IFRS13.62)。

USGAAPでは、公正価値はTiopic820にてIFRSと同じように定義されている。主要な市場における市場価格が利用可能な場合においては、公正価値を最も適切に示すものであるとされている。また、非金融資産の公正価値の評価にあたっては、市場参加者によって、最有効使用されたことによって生み出される経済的便益が考慮されることに留意したい(ASC820-10-35-10A)。なお、Subtopic360-10が適用される長期性資産(資産グループ)については活発な市場における市場価格は利用可能ではないことが多く、また、キャッシュ・フローのタイミング及び金額に不確実性が伴うことが想定される。このような長期性資産(資産グループ)については、その不確実性をキャッシュ・フローの見積り又はリスク・プレミアムに反映できるとされている期待現在価値法が、公正価値を算定するにあたって適切な技法とされている(Subtopic360-10-35-36)。

(4)使用価値

使用価値は、日本基準で「資産又は資産グループの継続的使用によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フロー」と「使用後の処分によって生ずると見込まれる将来キャッシュ・フロー、つまり当該時点における正味売却価額」の合計額を、割り引いて現在価値と定義されている(減損会計基準 注解(注1)4.)。ここでいう将来キャッシュ・フローの算定方法については2.(3)「割引前将来キャッシュ・フローの総額の見積り」を参照してもらいたい。

IFRSでは、使用価値は「資産又は資金生成単位から生じると見込まれる将来キャッシュ・フローの現在価値」と定義されている(IAS36 6)。使用価値の測定は経営者が正式に承認した直近の財務予算及び予測を基礎としなければならず、また、その対象期間は正当化できる場合を除き、最長でも5年間と定められている(IAS36 33(b))。これは、将来のキャッシュ・フローの詳細で明確かつ信頼しうる予算・予測は、5年間よりも長期にわたる期間は一般的に入手可能ではないとされているためである(IAS36 35)。よって、当該予算・予測の期間を超えたキャッシュ・フロー予測は、後続の年度に対して一定の又は逓減する成長率を使用した予算・予測に基づくキャッシュ・フロー予測を推測して延長することにより見積る(IAS36 33(c))。減損テストの対象となる資産又はCGUの残存耐用年数が5年を上回ることも想定されるが、その場合、耐用年数の終了時までのキャッシュ・フローの予測は、財務予算・予測に基づくキャッシュ・フローの予測を後続年度についての成長率を用いて延長することにより見積られる(IAS36 36)。その際、一定の例外を除き、成長率は一定又は逓減的でなければならない(同項)。また、成長率が高い産業については競争者が市場に参入して成長を制限する可能性が高いとして、企業が長期間にわたって営業活動を行う製品、産業、もしくは国又は市場の平均的な過去の成長率を上回ることは困難としている(IAS36 37)。

会社の事業によっては、設備投資後数年間は損失の発生が見込まれるものの、その後の著しい成長を見込んで投資をすることが想定される。そのような事業の資産又はCGUのキャッシュ・フロー予測を、5年内の財務予算・予測とその後の期間は一定の又は逓減する成長率を乗じて算定した数値とすることは、企業の想定と異なることが考えられる。IAS36では、より長い期間が正当化できる場合は、キャッシュ・フロー予測にあたっての期間を5年超とすることができる(IAS36 33(b))としているが、採用するにあたって慎重な対応が求められる。

【図表6:使用価値】
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(5)使用価値の算定に際して用いられる割引率

減損損失の測定にあたり、使用価値を算定する際に用いられる割引率は、減損損失の測定時点の割引率を用い、原則として、翌期以降の会計期間においても同一の方法により算定される。また、将来キャッシュ・フローが税引前であることに対応して、税引前の割引率を用いる必要がある(減損適用指針43項)。

なお、使用価値の算定にあたって、将来キャッシュ・フローが見積値から乖離するリスクが発生する。当該リスクは、将来キャッシュ・フローの見積又は割引率のいずれかに反映させる必要があり、どちらに反映させるかによって、割引率の算定方法が異なる。

① リスクを割引率に反映させる場合

以下のもの又はこれらを総合的に勘案したものを用いる。

  • 当該企業における当該資産又は資産グループに固有のリスクを反映した収益率
  • 当該企業に要求される資本コスト
  • 当該資産又は資産グループに類似した資産又は資産グループに固有のリスクを反映した市場平均と考えられる合理的な収益率
  • 当該資産又は資産グループのみを裏付け(いわゆるノンリコース)として大部分の資金調達を行ったときに適用されると合理的に見積られる利率

② リスクを将来キャッシュ・フローの見積に反映させる場合

この場合、貨幣の時間価値だけを反映した無リスクの割引率を用いる。

IFRSでは、割引率は、次のものに関する現在の市場評価を反映した税引前の利率としなければならないとある(IAS36 55)。

(a) 貨幣の時間価値

(b) 当該資産に固有のリスクのうち、それについて将来キャッシュ・フローの見積りを調整していないもの

当該割引率は類似資産の現在の市場取引で暗示されている利率か、検討中の資産と潜在用役及びリスクが類似している単一の資産(又は1組の投資資産)を有する上場企業の加重平均資本コスト(WACC)から見積る(IAS36 56)。実務上、資産特有の利率が市場から直接入手可能でない場合があることが想定されるが、その場合、企業は割引率の見積りに、可能な限り次の項目について市場の評価を反映する必要がある(IAS36 57、A16)。

(a) 資産の耐用年数の終了時までの期間の貨幣の時間価値

(b) 将来キャッシュ・フローの金額又は時期の変化の可能性に関する予想

(c) 資産固有の不確実性から生じる価格

(d) その他、時として識別不可能であるが、市場参加者が、企業が当該資産から得られると予想する将来キャッシュ・フローの価格付けに際して反映する(流動性のような)要因

このような見積りを行うため、企業は次の利率を考慮に入れる(IAS36 A17)。

(a) 資本資産価格モデル(CAPM)のような手法を利用して決定した、当該企業の加重平均資本コスト

(b) 当該企業の追加借入利子率

(c) その他の市場借入利率

また、これからの利率は、カントリー・リスク、通貨リスク、価格リスク等のリスクを考慮しなければならず(IAS36 A18)、企業の販売市場が海外である場合政情不安のリスクを、価格競争により値下げが強いられる場合は当該リスクを、割引率に織り込むべきである。ただし、当該リスクを反映する際は二重計算を避けるため、将来キャッシュ・フローの見積りに反映するリスクを割引率に反映してはならない(IAS36.56、A15)。リスクを将来キャッシュ・フロー又は割引率の見積りのいずれかに反映すべきというのは日本基準とIFRSの共通項だと考えられる。

また、日本基準もIFRSも割引率を税引前の利率とすることを要求している。これは使用価値の算定基礎である将来キャッシュ・フローも税前であるためである。例えば、割引率の加重平均資本コスト(以下、「WACC」)を採用することとして、税引前WACCをどのように算定するかというと、日本基準では減損適用指針設例6にて、具体例とともに下記のとおり算定方法が示されている。

 

税引前WACC=借入資本コスト×他人資本比率+
自己資本コスト×自己資本比率/(1−実効税率)

 

IFRSにおいても、税引前の利率が容易に算定されればそれがそのまま適用できるが、実務上は税引後の利率を基礎に税引前の利率を算定する。ただし、IFRSでは、税引前の割引率は必ずしも税引後の割引率を標準税率で割り戻したものではない(IAS36 BCZ85)と明記されていることに留意が必要である。「真の」税引前の割引率は税率、税引後の割引率、将来キャッシュ・フローの時期及び資産の耐用年数に左右されるためであり(同項)、実務上税前割引率は下記のプロセスによって算出される。

① 税引後キャッシュ・フローを税引後の割引率で割り引く。

② 税引前キャッシュ・フローに、①で算出した結果と同額となるように税引前割引率を算出する。

前述のとおり、日本基準においてもIFRSにおいても、税引前の利率を用いるが、その算定プロセスに違いがあることに留意する必要がある。

【図表7:使用価値の算定に際して用いられる割引率】
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以上

 

参考文献

長谷川茂男(2019)『米国財務会計基準の実務(第11版)』中央経済社

佐瀬剛「減損会計における実務上の留意点②」『本誌2020年9月号(Vol.529)』

近藤雅治「固定資産の減損③」『本誌2017年1月号(Vol.485)』

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