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IASBが、IFRS第10号、IFRS第11号及びIFRS第12号の適用後レビューに関する情報を求める

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年3月号

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusは、国際会計基準審議会(IASB)の最近の「IFRS第10号『連結財務諸表』、IFRS第11号『共同支配の取決め』及びIFRS第12号『他の企業への関与の開示』の適用後レビュー」というタイトルの情報要請(RFI)に関する情報を取り扱っている。RFIは、要求事項が投資者、作成者及び監査人に与える影響を評価するための見解を得ることに焦点を当てている。

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背景

2011年に、IASBは、連結及び共同支配の取決めの会計処理、及び他の企業への関与の開示を取り扱う新しい基準としてIFRS第10号、IFRS第11号及びIFRS第12号を公表した。当該基準は、2013年1月1日以後開始する事業年度に適用された。

IASBは、それぞれの新しいIFRS基準又は主要な修正の適用後レビュー(PIR)を実施することを要求される。PIRは、IASBのデュー・プロセスの一環であり、要求事項が財務諸表利用者、作成者及び監査人に与える影響をIASBが評価するのに役立つ。

特に、IASBは、次のことを評価することを目的としている。

(a)ある基準における要求事項を適用する企業が、企業の財政状態及び財務業績を忠実に描写する財務諸表を作成するのかどうか、及びこの情報が財務諸表利用者が十分な情報に基づく経済的意思決定を行うのに役立つかどうか。

(b)当該基準の領域が課題を生じさせているかどうか。

(C)当該基準の領域が一貫しない適用を生じさせる可能性があるかどうか。

(d)当該基準の要求事項の適用もしくは実施の際、又は当該基準が企業に提供することを要求している情報の使用もしくは監査の際に、予想外のコストが生じるかどうか。

IASBは、IFRS第10号からIFRS第12号のPIRを2つのフェーズで進めている。第1フェーズにおいて、IASBは、現在公表されているRFIにおいてさらに検討すべき事項を識別し評価した。

 

コメント提出者への質問

IFRS第10号

支配—投資先に対するパワー

IFRS第10号は、投資者が1つ又は複数の他の会社(子会社)を支配している場合には連結財務諸表を表示することを要求している。投資者は、投資先との関与により生じる変動リターンに対するエクスポージャー又は権利を有し、かつ、投資先に対するパワーを通じて当該リターンに影響を及ぼす能力を有している場合には、支配を有している。

投資者は、投資先の関連性のある活動を指図する現在の能力を有している場合には、投資先に対するパワーを有している。議決権の過半数の保有は、状況によっては投資先に対するパワーを提供する。他の状況においては、投資者が投資先の関連性のある活動を指図する現在の能力を有しているかどうかを評価するために、他の権利及び要因を考慮する必要がある。

RFIは、IFRS第10号のガイダンスにより、どの程度まで、投資者が投資先の関連性のある活動を識別することが可能になっているか、及び投資先の関連性のある活動を識別することが困難を生じさせる状況はあるかについて質問している。IASBは、こうした状況で、他のどのような要因が関連性のある活動の識別に関連性があるかについて把握したいと考えている。

また利害関係者は、IFRS第10号のガイダンスにより、どの程度まで、投資者の権利が防御的権利であるかどうかを決定することが可能になっているか、及びどの程度まで、投資者の権利(潜在的な議決権を含む)が実質的であるかどうか、又は実質的ではなくなったかどうかを決定することが可能になっているかを質問されている。

IASBは、IFRS第10号を他の株式保有が幅広く分散している状況に適用することにより、どの程度まで、議決権の過半数を保有していない投資者が、投資先の関連性のある活動を指図する実質上の能力を取得(又は喪失)したのかどうかの適切な評価を行うことが可能になっているかについて、把握したいと考えている。IASBは、この状況はどのくらいの頻度で生じるか、及びその評価を行うために必要となる情報の入手のコストは重大かについて質問している。

 

支配—パワーとリターンとの関連

支配の1つの要素は、パワーとリターンとの関連である。投資者は、投資先への関与から生じるリターンに影響を及ぼすために投資先の関連性のある活動に対してパワーを使用できることが必要である。投資者は、他者の代理人として行動している場合には、自らのリターンに影響を及ぼすためにパワーを使用することができない。

IASBは、IFRS第10号の適用により、どの程度まで、意思決定者が本人なのか代理人なのかを投資者が判定することが可能になっているか、及び代理人関係を識別することが困難である状況があるかについて、把握したいと考えている。

またRFIは、IFRS第10号のガイダンスにより、どの程度まで、他の当事者が事実上の代理人として行動していることにより(すなわち、当事者間の契約上の取決めがない場合に)、支配が存在しているのかどうかを投資者が評価することが可能になっているかについて質問している。

 

投資企業

IFRS第10号は、投資企業に、子会社に対する投資を公正価値で測定し、公正価値の変動を純損益に認識することを要求している。投資企業は、子会社自身が投資企業でなく、子会社の主要な目的及び活動が投資企業の投資活動に関連するサービスを提供することである場合には、当該子会社を連結する。IFRS第10号は、投資企業を定義し、その典型的な特徴を記述している。

RFIは、投資企業の定義及び典型的な特徴の記述の適用は、どの程度まで、一貫した結果をもたらしているかについて質問している。一貫しない結果が生じている場合には、そうした結果を記述し、それらが生じる状況を説明するようIASBは求めている。

またIASBは、定義及び典型的な特徴の記述は、どの程度まで、企業の性質を目的適合性のある又は忠実な方法で表現できない分類の結果を生じさせているかについて質問する。たとえば、定義及び典型的な特徴の記述は、投資企業の範疇に、除外すべき(又は含めるべき)である企業を含めて(又は除外して)いるかについて質問している。

また利害関係者は、自身が投資企業である子会社に対する投資を公正価値で測定することを投資企業に要求することにより、情報の喪失を生じさせる状況はあるか、その場合、失われる有用な情報の詳細を示し、当該情報が有用であると考える理由を説明することを求められている。

またRFIは、IFRS第10号における要件以外に、投資企業についての連結除外の適用の範囲に関連性のある可能性のある要件があるかどうかについての情報を求めている。

 

投資者と投資先との関係の変化

IASBは、投資者と投資先との関係を変化させ(たとえば、親会社であることから共同支配事業者であることへの変化)、かつ、IFRS基準で扱われていないような取引、事象又は状況は、どのくらいの頻度で生じるかについて、利害関係者に質問する。

利害関係者は、これらの取引、事象又は状況を、企業はどのように会計処理しているか、及び、支配の喪失を生じさせる場合、保持している持分を公正価値で再測定することは、目的適合性のある情報を提供するかについて説明することを求められている。

 

事業を構成しない子会社の部分的な取得

RFIは、投資者が事業(IFRS第3号「企業結合」で定義)を構成しない子会社に対する支配を取得する取引を、企業がどのように会計処理しているかについての情報を求めている。IASBは、投資者が、親会社に帰属しない持分について非支配持分を認識しているかどうかについて把握したいと考えている。

 

IFRS第11号

IFRS第11号の範囲に含まれない協力の取決め

RFIは、取決めの当事者が共同支配を有していないためにIFRS第11号「共同支配の取決め」の定義を満たさない協力の取決めは、どのくらい普及しているかについて、利害関係者に質問する。IASBは、こうした協力の取決めの特徴の記述を、別個の法的ビークルを通じて組成されているのかどうかを含めて求めている。さらにIASBは、企業はそのような協力の取決めをどのように会計処理しているか、及び、その会計処理は当該取決めの忠実な表現であるか、また、その理由は何かについて質問する。

 

共同支配事業

IASBは、IFRS第11号の要求事項の適用により、どの程度まで、共同支配事業者が資産、負債、収益及び費用を目的適合性のある忠実な方法で報告することが可能となっているか、及び、共同支配事業者がそのような報告を行えない状況はあるかどうかについて利害関係者に質問する。利害関係者は、こうした状況を記述し、当該報告が共同支配事業者の資産、負債、収益及び費用の目的適合性のある忠実な表現とならない理由を説明することを求められている。

 

IFRS第12号

IFRS第12号の開示要求に関して、RFIは、どの程度まで、これらの要求事項(特に、IFRS第12号によって導入された新しい要求事項(たとえば、重要性がある共同支配企業又は関連会社のそれぞれについての要約情報に関する要求事項))は、企業がIFRS第12号の目的を満たすのを支援しているかについて質問する。

IASBは、大量の詳細情報を含めること又は異なる特徴を有する項目の集約のいずれかによって有用な情報が覆い隠されないように、IFRS第12号の目的を満たすために必要な詳細さのレベルを企業が決定するのに、開示要求が役立っているかどうかについて、把握したいと考えている。

利害関係者は、どのような追加的な情報(もしあれば)が、IFRS第12号の目的を満たすために有用となるかを示すことが求められている。そのような情報がある場合には、その理由は何か、また、どのように利用されるかについて説明し、そうした情報をどのように開示できるのかについての提案をすべきである。

またRFIは、IFRS第12号が、IFRS第12号の目的を満たすために有用ではない情報の提供を要求しているか、その場合、不要と考える情報、それが不要である理由、及びIFRS第12号のどのような要求事項がこの情報の提供を生じさせているのかを明示することを求めている。

 

その他のトピック

IASBは、このRFIで扱っていないトピック(IFRS第10号及びIFRS第11号と他のIFRS基準の相互関係から生じるものを含む)があるかどうかを質問する。その場合、利害関係者は、そのトピック及びそれをPIRで扱うべきであると考える理由を説明すべきである。

 

コメント期間

RFIのコメント期間は2021年5月10日に終了する。コメント期間が終了した後、IASBは、発見事項を要約し、レビューの結果としてどのような手順を行う計画であるのかを示す予定である。IASBは、基準設定プロジェクトをアジェンダに追加するか、1つ又は複数の事項をリサーチ・プログラムの一部としてさらに検討するか、あるいはその両方を行うことを決定する可能性がある。IASBは、何も行動しないことを決定する可能性もある。

以上

 

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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