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IFRS財団は、継続企業の評価に関連するIFRS基準の要求事項に関する教育的資料を公表

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年4月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusは、2021年1月にIFRS財団が公表した教育的資料「継続企業-開示に焦点を当てる」*1を取り扱っている。

教育的資料は、COVID-19パンデミック中に利害関係者を支援するというIFRS財団のコミットメントの一環として作成され、会計の継続企業の前提が引き続き適切であるかどうかの評価、および当該評価に関して要求される可能性のある開示に関するIFRS基準の現行の要求事項を強調している。

重要な点として、教育的資料は以下を示している。

  • 継続企業の経営者の評価は、報告日から少なくとも12か月をカバーすることが要求される。しかし、これは上限ではなく最短の期間である。
  • この評価は、報告期間の末日の後、財務諸表の発行が承認された日までの事象の影響を反映する必要がある。
  • 財務諸表が作成される基礎および継続企業に対する重要な不確実性を開示するという具体的な要求事項に加えて、IAS第1号の全般的な要求事項で、継続企業の評価の一環として行われた重要な判断の開示が要求される可能性がある。
544KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

COVID-19パンデミックは、他の要因と共に、ストレスがかかっている(stressed)経済環境につながり、多くの企業にとって、収益、収益性、そして重要なこととして、流動性の悪化は継続企業として存続する能力に対する潜在的な疑問を引き起こしている。したがって、その財務諸表を継続企業の前提により作成することが適切であるかどうかを決定する企業にとって、通常よりも大きな程度の判断が必要となる可能性がある。

IFRS財団の教育的資料は、この点についてIFRS基準の要求事項を変更または追加するのではなく、継続企業の前提による作成が適切であるかどうかの評価に関する現行の要求事項、および重要なこととして、当該評価に関して提供される開示を強調している。

 

教育的資料が取り扱っている論点

教育的資料が取り扱っている論点

継続企業の前提による作成が引き続き適切であるかどうかの評価

教育的資料は、以下の点を強調している。

  • 年次または期中財務諸表を作成する場合、IAS第1号「財務諸表の表示」は、経営者が継続企業として存続する企業の能力を評価することを要求している。本基準は、経営者に当該企業の清算若しくは営業停止の意図がある場合、またはそうする以外に現実的な代替案がない場合を除いて、財務諸表を継続企業の前提により作成することを説明することにより、継続企業を定義している。
  • この評価を行う際に、IAS第1号は、経営者が報告期間の終了後少なくとも12か月間を見通すことを要求しているが、見通しは12か月に限定されないことを強調している。これは、財務諸表の発行が承認された日から12か月間についての継続企業の検討を要求する一部の国の規制と不整合ではない。

これらの要求事項を詳しく説明して、教育的資料は、経営者が、企業の現在および予想される収益性、既存の借入れの返済時期、および借換えをする場合の潜在的な借入先に関連する要因を検討する必要がある可能性があり、現在のストレスがかかっている経済環境では、企業が過去よりも幅広い要因の影響を受ける可能性があることを指摘している。例えば、COVID-19パンデミックは、企業の活動の一時的な中止または縮小、将来政府により課される可能性のある活動に対する制約、政府による支援の継続的な利用可能性、市場の長期的な構造変化(顧客の行動様式の変化等)の影響などの要因を生じさせる可能性がある。

継続企業を含む、COVID-19パンデミックの財務報告に対する影響については、IFRS in Focus「新型コロナウイルス感染症に関連する会計上の検討事項」*2においてより詳細に説明している。

 

教育的資料はまた、IAS第10号「後発事象」が、作成における継続企業の前提の使用についての経営者の評価は、報告期間の終了後、財務諸表の発行が承認された日までに発生する事象の影響を反映する必要があることを説明している点についても強調している。財務諸表の発行が承認される前に、もはや経営者が営業を停止する以外に現実的に代替案がないほどに状況が悪化した場合、財務諸表は継続企業の前提により作成してはならない。

見解

後発事象への参照は、COVID-19パンデミックの重大度の変化、および政府または他の当事者による行動の結果(企業自身の緩和のための行動を含む)によって生じる可能性のある、ダイナミックな環境において特に関連性がある可能性がある。報告日以後、財務諸表の発行が承認される前の動向は、それ自体がIAS第10号の全般的な要求事項での修正を要する事象でない場合であっても、継続企業の評価に考慮しなければならないことに留意することが重要である。

 

開示の重要性

教育的資料は、財務諸表を継続企業の前提により作成するかどうかの決定は二者択一であるが、その前提が使用される状況は、企業の収益性が高く、流動性の懸念がない場合から、経営者が計画する緩和のための行動を考慮した後でさえも、継続企業の前提により財務諸表を作成するのが「間一髪(close call)」である場合まで、大きく異なる可能性があることを示している。現在のストレスがかかっている経済環境では、企業がその分布(spectrum)内の場所を明確に開示し、経営者の評価の一環として行われた仮定と判断は、財務諸表の利用者の注目となる可能性が高い。

異なる状況で適用される可能性のある開示の要求事項を示すために、教育的資料は、企業の状況が悪化するとともに適用される要求事項のマトリックスを提示している。

教育的資料は、次に、図示された状況の各企業に関連性のある可能性のある開示の要求事項を強調している。

  • 継続企業に関する重大な疑義がない場合は、作成の基礎を記述する必要性を除いて、継続企業に関連する特定の開示の要求事項はない。また、継続企業の前提により財務諸表を作成する結論に達する際に、重要な判断を伴った可能性も低い。
  • 継続企業の前提の会計が適用されるが、重要な不確実性が存在する場合(例えば、経営者が自社製品の需要の減少に対処するための立直し戦略を実行する能力、および/または借入れを更新または借り換える能力について)、IAS第1号は当該不確実性の開示を要求している。
  • 継続企業に関する重要な不確実性が存在する場合、または継続企業に関する重大な疑義があるが重要な不確実性が存在すると考えられる程度ではない場合(例えば、経営者が実行可能な代替的な借入先の識別を含む、戦略の成功についての十分な証拠を示す立直し戦略を実行し始めた可能性がある)、経営者が行った重要な判断の開示(企業が継続企業であるかどうか、または重要な不確実性が存在するかどうかに関する)が、IAS第1号の全般的な要求事項で要求される。
  • 見積りの不確実性の発生要因の開示に関するIAS第1号の包括的な要求事項は、報告期間の末日に見積りの不確実性の主要な発生要因があり、翌事業年度中に資産および負債の帳簿価額に重要性のある修正を生じる重要なリスクがある場合にも関連性がある可能性がある。

2014年7月のIFRIC Update*3で報告されているように、IFRS解釈指針委員会は、企業の経営者が、企業が継続企業として存続する能力に重大な疑義を生じさせる可能性のある事象または状態を検討している状況について議論した。計画された緩和のための行動の実行可能性と有効性を含めて、すべての関連性のある情報を考慮した上で、経営者は、IAS第1号25項に従って開示が要求される重要な不確実性はないと結論付けた。しかし、重大な不確実性は存在しないという結論に至るには、重要な判断を要した。

この状況において、委員会は、IAS第1号122項の開示の要求事項は、継続企業として継続する能力に対して重要な疑義を生じさせる可能性のある事象または状態に関する重要な不確実性が依然として存在していないと結論を下した際に行った判断にも適用されると結論付けた。

 

継続企業ではない企業*4

教育的資料は、IAS第1号が、企業がもはや継続企業ではない場合に、財務諸表を作成するための代替的な基礎を定めていないが、財務諸表が継続企業の前提により作成されていないという事実、および企業が継続企業とみなされない理由を開示し、財務諸表が作成された基礎を開示することを、企業に要求していることを示している。

 

教育的資料のステータス

IFRS財団は、教育的資料がIFRS基準の一貫した適用を支援するために公開され、現行の要求事項を変更または追加しないことを明記している。それは現行の要求事項を強調しているのみであるので、教育的資料には発効日がなく、IFRS財団は本資料についてのコメントを募集していない。しかし、教育的資料は、2021年3月に情報要請を公表する、国際会計基準審議会の今後のアジェンダ・コンサルテーションの対象となる潜在的なアジェンダ項目として、継続企業のトピックが識別されていることを示している。

 

*1 企業会計基準委員会(ASBJ)のウェブサイトで、教育的資料の日本語訳が入手可能である。(https://www.asb.or.jp/jp/ifrs/press_release/y2021/2021-0113.html

*2 デロイト トーマツのウェブサイトを参照いただきたい。(https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/finance/articles/ifrs/ifrs-covid19.html

*3 2014年7月のIFRIC Updateの日本語訳については、ASBJのウェブサイトをご参照いただきたい。(https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/201407-1.pdf

*4 2021年2月のIFRS解釈指針委員会にて「企業がもはや継続企業ではない場合の財務諸表の作成(IAS第10号「後発事象」)が議論され、当該事項に関する基準設定プロジェクトを作業計画に追加しない暫定的なアジェンダ決定を公表し、2021年4月14日までコメントを募集している。詳細についてはASBJウェブサイトの2021年2月のIFRIC Updateの日本語訳をご参照いただきたい。(https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ifric_202102.pdf

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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