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IASBは、IAS第19号及びIFRS第13号における開示要求の修正を提案
IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年6月号
注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。
トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス
本IFRS in Focusでは、2021年3月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した公開草案ED/2021/3「IFRS基準における開示要求-試験的アプローチ」(IFRS第13号及びIAS第19号の修正案)(ED)に示された提案を解説する。
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背景
2017年にIASBは、財務諸表に提供されている情報に関する懸念を理解することを目的としたリサーチ・プロジェクトの成果として、ディスカッション・ペーパー(DP)2017/1「開示に関する取組み ― 開示原則」*を公表し、十分な関連性のある情報が提供されず、あまりにも多くの関連性のない情報が提供されているという開示の問題に、IASBがどのように対処できるかを検討した。
DPに対する多くの回答者は、開示を財務諸表の利用者との効果的なコミュニケーションの手段としてではなく、コンプライアンスの行使と考える「チェックリスト」アプローチを、開示の問題の原因となる重要な要因として強調した。
利害関係者は、IFRS基準における開示要求の開発及びドラフティングに関するIASBの方法が、この「チェックリスト」アプローチに対して部分的に責任があると考えた。なぜなら、
- IASBが「開示しなければならない(shall)」又は「最低限」のような規範的な言語を使用している。
- 大量の規範的な開示要求が存在する。
- 具体的な開示目的がないことが多い。
- 開示目的と規範的要求との間の相互作用が明確ではない。
- 開示セクションが一貫してドラフトされていない。
IASBはこれらの懸念を認識し、4段階のアプローチに従うプロジェクトを設定することを決定した。
- ステップ1—開示セクションの開発及びドラフティングに使用するIASBに対するガイダンス案を作成する。
- ステップ2—ガイダンス案を適用する2つの基準を選択する。
- ステップ3—当該基準にガイダンス案を適用してテストする。
- ステップ4—ガイダンス案を組み込んで、当該基準に対する修正のEDを作成する。
IFRS基準の開示セクションを開発及びドラフトする際のIASBに対するガイダンス案
ガイダンス案(上記のステップ1)は、本協議の一部である。ガイダンス案は、IASBが、どのように開示目的を使用することを目指し、IFRS基準の開示セクションの内容を開発し、IFRS基準の開示セクションをドラフトするかを取り扱っている。特に、判断の使用を拡大するために、IASBがIFRS基準の開示要求をどのように変更するかを説明している。
IASBが開示目的をどのように使用するのか
IASBは、IFRS基準の開示セクションにおいて、全般的な開示目的とともに具体的な開示目的を使用する。IASBは、判断の適用を奨励する文言を使用して、IFRS基準の開示目的を記述することを目指す。
全般的な開示目的は以下のとおりである。
- 財務諸表の利用者の全般的な情報ニーズを説明する。
- 企業に対し、それらのニーズを満たす情報の開示を要求する。
- 財務諸表の利用者の包括的かつ重要なニーズに関する有用なコンテキストを提供する。
- IFRS基準における具体的な開示目的を適用する際に考慮することが要求される広範な考慮事項を組み込む。
- IFRS基準における具体的な開示目的に準拠して提供される情報の全体が、全般的な利用者の情報ニーズを満たしているかどうかを検討するよう、企業に求める。
具体的な開示目的は以下のとおりである。
- 財務諸表の利用者の詳細な情報ニーズを説明する。
- 目的を達成するために、すべての重要性のある情報を開示することを企業に要求する。
- 情報が財務諸表に重要性があるかどうかについての判断を、企業が適用することを支援する。
- どのような情報が財務諸表の利用者が実施することに役立つことを目的としているかを説明することによって、内容を提供する別個の項を伴う。
IASBは、それぞれの具体的な開示目的を満たすために、企業が開示する場合がある、又は場合によっては開示することが要求される情報の項目を開発する。具体的な開示目的を開発する際には、IASBは、企業固有の情報と比較可能な情報とのバランスを取る。
IASBは、具体的な開示目的が満たされているかどうかを検討するために開示要求の「チェックリスト」を満たすことから焦点をシフトすることを目的とする方法で、IFRS基準の開示目的について説明する。IASBは、以下によりこれを達成する。
- 基準における開示目的を企業が準拠することを要求するために規範的な言語を使用する(「shall」)。
- 具体的な開示目的を満たすための情報の項目を参照する際には、通常、より規範的ではない言語を使用する(「強制ではないが、以下の情報項目で企業がこの目的を満たすことが可能となる場合がある。」)。
IASBは、IFRS基準における開示セクションの内容をどのように開発するのか
IFRS基準の開示セクションを開発する際、IASBは以下を試みる。
- 論点を理解する。
- 利害関係者のニーズを理解する。
- 提案された認識及び測定の要求事項を裏付けるためにどの開示が要求されるかを理解する。
- コスト便益分析を実行する。
- 開示提案の影響を理解し、文書化する。
IASBは、IFRS基準の開示セクションをどのようにドラフトするか
IASBは、IFRS基準の開示セクションが、その意図を明確に伝達する方法でドラフトされることを確保するために、他の多くの措置を講じる。特に、IASBは以下の事項を実施する。
- IFRS基準間で一貫した言語を使用する。
- IFRS基準の開示セクションを、定型化して提示する。
- IFRS基準及びその他の文書間で、関連する要求事項とガイダンスを連携する。
見解ガイダンス案は基準ではない。しかし、最終化後IASBは、将来においてIFRS基準の開示セクションの開発及びドラフティングに本ガイダンスを適用する。IASBは、本ガイダンスの広範な適用が、判断の必要性を強調することにより、企業、監査人及び規制当局の行動に大きく影響することを期待している。提供された情報が開示目的を効果的に満たしている場合に、準拠が達成される。 |
修正案
IASBは、IAS第19号の既存の開示要求を、以下の全般的及び具体的な開示目的を含む新しい開示セクションに置き換えることを提案する。
確定給付制度についての開示
IASBは、財務諸表の利用者が、以下について可能にする情報を開示することを企業に要求する、全般的な開示目的を提案している。
- 確定給付制度が、企業の財政状態、財務業績、及びキャッシュ・フローに及ぼす影響を評価する。
- 企業の確定給付制度に関連するリスク及び不確実性を評価する。
確定給付制度に関する具体的な開示目的案には、以下に関する情報を要求する。
- 確定給付制度に関連する基本財務諸表における金額及びそれらの金額の構成要素
- 当該制度及び関連するリスクを管理するために企業が実施している戦略を含む、確定給付制度の性質及び関連するリスク
- 期末に認識される確定給付制度債務の企業の将来キャッシュ・フローについての予想される影響、及びその影響の性質
- 新規の加入者に対して閉鎖された確定給付制度の加入者に対して支払いが継続される期間
- 確定給付制度債務の算定に使用される重要な数理計算上の仮定
- 報告期間の期首から期末までの、確定給付制度に関連する財政状態計算書の金額の変動に関する重要な理由
見解IAS第19号は現在、財務諸表の利用者が、異なる仮定に対する確定給付制度債務の感応度を理解することを可能にする開示を要求している。しかし、IASBは、企業にこの情報を提供することを要求する具体的な開示目的の開発に反対することを決定した。この決定は、IAS第19号の要求事項に対応して提供される情報は、通常、作成にコストがかかり、利用者にとって最も有用な情報ではないことを示唆するフィードバックに基づいている。IASBは、財務諸表の利用者の重要な情報ニーズは、確定給付制度債務に関連する測定の不確実性に関する情報を開示する具体的な目的に準拠することにより満たされると結論付けた。 |
確定拠出制度についての開示
IASBは、財務諸表の利用者が、確定拠出制度が企業の財政状態及びキャッシュ・フローに及ぼす影響を理解することを可能にする情報を開示することを企業に要求する全般的な開示目的を提案する。
IASBは、確定拠出制度に関する具体的な開示目的を提案しない。
複数事業主確定給付制度及び共通支配下にある企業間でリスクを分担する確定給付制度に関する開示
IASBは、複数事業主確定給付制度(又は共通支配下の企業間でリスクを分担する確定給付制度)への参加について会計処理する企業が、以下に準拠することが要求されることとなることを提案している。
- 確定拠出制度の全般的な開示目的
- 確定給付制度の性質及び関連するリスクに関する具体的な開示目的
IASBは、そのような制度を確定給付制度として会計処理する企業は、確定給付制度の全般的な開示目的及び具体的な開示目的に準拠することが要求されることを提案する。
その他の種類の従業員給付制度に関する開示
IASは、財務諸表の利用者が、以下について理解することを可能にする情報を開示することを企業に要求する、全般的な開示目的を提案する。
- 短期従業員給付制度が、企業の財務業績及びキャッシュ・フローに及ぼす影響
- その他の長期従業員給付の性質、及び当該給付が企業の財務業績、財政状態及びキャッシュ・フローに及ぼす影響
- 解雇給付の性質、及び当該給付が企業の財務業績、財政状態及びキャッシュ・フローに及ぼす影響
IFRS第13号の修正
IASBは、IFRS第13号の既存の開示要求を、以下の全般的及び具体的な開示目的を含む、新しい開示セクションに置き換えることを提案する。
当初認識後に公正価値で測定される資産及び負債
IASBは、財務諸表の利用者が、公正価値測定に関連する不確実性に対する企業のエクスポージャーを評価することを可能にする情報を開示することを、企業に要求する全般的な開示目的を提案している。この情報により、財務諸表の利用者は以下について理解できることとなる。
- 企業の財政状態及び財務業績に対する公正価値で測定される資産及び負債のクラスの重大性
- 公正価値測定がどのように決定されたのか
- 当該測定の変動が報告期間の期末時点の企業の財務諸表にどのように影響を与えるのか
具体的な開示目的案は、企業に以下の情報を開示することを要求することとなる。
- 当初認識後に公正価値で測定される資産及び負債の各クラスの金額、性質及び特性、及び公正価値ヒエラルキーにおいて当該特性が資産及び負債のこれらのクラスの分類にどのように関連しているか
- 公正価値測定の算定に使用される重大な評価手法及びインプット
- 報告期間の期末における合理的に考え得る代替的な公正価値測定
- 報告期間の期首から期末までの公正価値測定の変動の重大な理由
代替的見解
3名の理事は、ガイダンス案に対する懸念から、EDの公表に反対票を投じた。特に、彼らは、開示すべき具体的な項目を要求することなしに、目的ベースの開示要求を開発することは、以下の通りとなると考えている。
- 執行における課題を増やす。
- 財務諸表の作成者にとって負担となり、重要性の判断への依存度が高まる。
- 開示に対するより柔軟なアプローチを導入することにより、比較可能性を損なう。
発効日及び経過措置
EDには、IAS第19号及びIFRS第13号の修正案の発効日は含まれていない。早期適用は認められることが提案されている。
本修正が最終化された場合、IASBは、発効日以後に開始する最初の事業年度から、本修正を将来に向かって適用することを提案している。
EDのコメント期間は、2021年10月21日に終了する。
以上
* 詳細な内容は、本誌2017年6月号IFRS in Focus 「IASBが、開示原則に関するディスカッション・ペーパーを公表」を参照いただきたい。
本記事に関する留意事項
本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。