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IASBは、通貨が交換可能である場合及び交換可能でない場合に為替レートを決定する方法を特定するIAS第21号の修正を提案する

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年7月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusでは、2021年4月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した公開草案ED/2021/4「交換可能性の欠如」(IAS第21号「外国為替レート変動の影響」の修正案)(ED)に示された提案を解説する。

  • IASBは、通貨が他の通貨に交換可能である場合、及び交換可能でない場合を特定するようIAS第21号を修正することを提案している。
  • 修正が最終化された場合、通貨が交換可能でない場合に、企業がどのように適用する為替レートを決定するかについても特定することとなる。
  • 通貨の交換可能性の欠如が、財務業績、財政状態及びキャッシュ・フローにどのような影響を与えるか、または影響を与えると予想されるかを、財務諸表の利用者が評価することを可能にする情報を、企業が開示することが提案されている。
  • EDは発効日を提案していないが、早期適用は認められることが提案されている。最終化された場合、企業は、発効日以後に開始する事業年度の期首から本修正を適用する。EDのコメント期間は、2021年9月1日に終了する。
509KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

IAS第21号は、一般的に、企業が財務諸表において外貨建取引または在外営業活動体の業績及び財政状態を報告する場合、直物為替レートを使用することを要求する。IAS第21号は、2つの通貨間の交換可能性が一時的に欠如している場合に、外貨建取引の報告に使用する為替レートを特定している。しかし、本基準は、交換可能性の欠如が一時的でない場合に、企業が何を行うことが要求されるのかについては特定していない。

通貨が他の通貨に交換可能かどうかをどのように判定するか、及び通貨が交換可能でない場合に使用する為替レートについて、さまざまな見解がある。これにより、交換可能性が欠如している通貨の影響を受ける企業の財務諸表に重要性のある差異が生じる可能性がある。したがって、IASBは、通貨が他の通貨に交換可能であるかどうかを企業が判定する要求事項、及び通貨が交換可能でない場合に適用する会計上の要求事項をIAS第21号に追加することを提案している。

 

修正案

通貨が交換可能であるかどうかを評価する

IASBは、ある通貨が他の通貨と交換することが可能である場合に、通貨が他の通貨に交換可能であることを明確にするようにIAS第21号を修正することを提案する。本修正は、通貨が交換可能であるかどうかを評価する際に企業が考慮する要因を示し、それらの要因が評価にどのような影響を与えるかを特定する付録をIAS第21号に追加する。付録では、以下を特定することとなる。

  • 為替取引に通常の管理上の遅延が含まれる場合であっても、通貨は他の通貨に交換可能である(例えば、一部の為替取引に適用される法的または規制上の要求または法定休日のような実務上の理由)。
  • 企業がそうすることを意図するまたは意思決定するかどうかに関係なく、企業が他の通貨を獲得することが可能である場合に、通貨は交換可能である。
  • 企業は、他の通貨と通貨を交換する取引が強制可能な権利と義務を生じさせる市場または交換のメカニズムのみを考慮する。
  • 法域の当局は、財の輸入に対する優先為替レート及び他の法域への資本送金に対する「ペナルティ」為替レートを設定する、または財の輸入に対してのみ通貨を利用可能にし、他の法域への資本送金に対しては利用可能でないようにするかもしれない。この場合、企業は、以下が通貨を獲得する目的であることを前提として、交換可能性を評価する。

– 外貨建取引を機能通貨で報告する場合に、個々の外貨建取引、資産または負債を決済する。

– 機能通貨以外の報告通貨を使用する場合に、企業の純資産を実現する。

– 在外営業活動体の業績及び財政状態を換算する場合に、在外営業活動体に対する純投資を実現する。

  • 企業が他の通貨の僅少な金額のみしか獲得できない場合、通貨は他の通貨に交換可能でない。これは、特定の目的で獲得可能である金額と、当該目的に対して要求される合計金額を比較することにより評価する。

 

見解

IASBは、企業が他の通貨の一部の金額しか獲得できない場合に、通貨が他の通貨に交換可能であるかどうかを評価する異なる代替案を検討した。例えば、IASBは、企業が他の通貨の任意の金額を獲得することができる場合、通貨を他の通貨に交換可能であると考えた。しかし、IASBは、当該代替案が非常に狭く、最も極端な状況でのみ交換可能性の欠如の結果となると考えた。他方の極端な場合として、IASBは、取引可能性を、企業が他の通貨の全額を取得できる場合にのみ想定すべきかどうかを検討した。当該代替案は、多くの状況で交換可能性の欠如につながることを考えると、あまりにも広すぎるため却下された。

 

IASBは、通貨が他の通貨に交換可能であるかどうかを企業がどのように評価するかを示す設例を、IAS第21号に追加することを提案している。

 

通貨が交換可能でない場合の直物為替レートの決定

EDは、通貨が測定日に他の通貨に交換可能でない場合に、企業がどのように直物為替レートを決定するかを特定することを提案する。その場合、企業は直物為替レートを推定することとなる。推定直物為替レートは、測定日に評価される以下の3つの条件を満たさなければならない。

  • 通貨が他の通貨に交換可能であった場合、企業が交換取引で締結することとなるレート
  • 市場参加者間での秩序ある取引に適用されることとなるレート
  • 一般的な経済状況を忠実に反映するレート

観察可能な為替レートが、上記の要求事項を満たし、企業が交換可能性を評価する目的以外の直物為替レートである場合、または当該通貨の交換可能性が回復した後に他の通貨を獲得することが可能である最初の為替レートである場合(最初の後継為替レート)、企業は、観察可能な為替レートを推定直物為替レートとして使用することができる。

IAS第21号の付録案は、推定レートが上記の条件を満たすかどうかをどのように企業が評価するかに関するさらなるガイダンスを提供する。特に、以下を使用できるかどうかを評価する。

  • 他の目的でのみ利用できる直物為替レートについては、企業は以下の指標を考慮する。

– 通貨に対して複数の為替レートが存在するかどうかー複数の観察可能な為替レートの存在には「インセンティブ」または「ペナルティ」が含まれる可能性があるため、一般的な経済状況を忠実に反映していない可能性がある。

– 通貨が交換可能である目的-限定的な目的でのみ他の通貨を獲得できる場合、観察可能な為替レートは、一般的な経済状況を忠実に反映しない可能性がある。

– 為替レートの性質-自由に変動する観測可能な為替レートは、関連性のある通貨または法域の当局からの定期的な介入によって設定された観察可能な為替レートよりも、一般的な経済状況を忠実に反映する可能性が高い。

– 為替レートが更新される頻度-観測可能な為替レートが一定期間にわたって変化しない場合、より頻繁に更新される観測可能な為替レート(すなわち1日1回以上)よりも、一般的な経済状況を忠実に反映する可能性は低い。

  • 最初の後継為替レートについては、企業は以下を考慮する。

– 測定日から交換可能性が回復する日付までの期間-この期間が短いほど、最初の後継為替レートが一般的な経済状況を忠実に反映する可能性が高くなる。

– インフレ率—通貨が超インフレまたは高インフレ率の対象となる経済の通貨である場合、そのような経済の通貨に対する最初の後継の観測可能な為替レートは、一般的な経済状況を忠実に反映しない可能性がある。

 

見解

IASBは、企業が他の通貨の限定的な金額のみを獲得することが可能である場合、ブレンド為替レートの使用を認める、または要求することを検討したが、そうしないことを決定した。ブレンド為替レートは、取引または残高の一部について他の通貨を獲得することが可能なレートと残りの部分の推定為替レートの両方を反映した加重平均為替レートであった。しかし、IASBは、ブレンド為替レートの決定は困難であり、通貨が他の通貨に交換可能であるかどうかを評価するために提案している要求事項を踏まえると、そうではければ通貨が交換可能であると考えられ、見積りが要求されることとなるため、観察可能なレートを使用できる部分は重要ではないことに気が付いた。

 

IASBは、通貨が交換可能でない場合に、企業がどのように適切な直物為替レートを決定するかを示す設例を、IAS第21号に追加することを提案している。

 

開示

本修正が最終化された場合、2つの通貨間の交換可能性の欠如が、財務業績、財政状態及びキャッシュ・フローにどのような影響を与えるか、または影響を与えると予想されるかを、財務諸表の利用者が評価することを可能にするための情報を、企業は開示することが要求されることとなる。この目的を達成するために、企業は以下に関する情報を開示することとなる。

  • 交換可能性の欠如の性質及び財務上の影響
  • 使用する直物為替レート
  • 推定のプロセス
  • 企業が晒されているリスク

IAS第21号の付録案には、企業がどのように開示の目的を満たすのかについてのガイダンスが含まれている。

 

初度適用企業

IASBは、本修正案の遡及適用についての特定の免除は、初度適用企業には必要がないことを提案する。そのため、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」の文言を本修正案に合わせるために、IFRS第1号にわずかな変更のみが提案されている。

 

発効日、経過措置及びコメント期間

EDには、IAS第21号の修正案の発効日は含まれていない。早期適用は、認められることが提案されている。

本修正が最終化された場合、IASBは、発効日以後に開始する事業年度の期首から本修正を適用することを提案する。EDは、財政状態計算書の項目が、特定の状況でどのように換算されるかについて、詳細な経過措置を提案する。EDのコメント期間は、2021年9月1日に終了する。

 

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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