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IASB、単一の取引から生じる資産及び負債に係る繰延税金についてIAS第12号を修正

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年7月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusは、2021年5月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した、「単一の取引から生じる資産及び負債に係る繰延税金」(IAS第12号の修正)というタイトルのIAS第12号「法人所得税」の修正を解説する。

  • 本修正は、IAS第12号の当初認識の免除に対する例外を導入する。
  • この例外規定を適用することにより、当初認識時に、同額の将来加算一時差異及び将来減算一時差異が生じる取引には、当初認識の免除は適用されない。
  • 本修正は、表示する最も古い比較対象期間の期首以後に発生する取引に適用される。
  • 本修正は、表示する最も古い比較対象期間の期首における、使用権資産とリース負債、及び廃棄義務と資産として認識された対応する金額に関連する将来加算一時差異及び将来減算一時差異にも適用される。
  • 本修正は、2023年1月1日以後開始する事業年度に発効する。本修正の早期適用は認められる。
483KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

一部の取引について、IFRS基準は、資産と負債の両方を同時に認識することを要求している。その結果、IAS第12号は、相殺される一時差異の認識を要求し得る。本修正の前には、IAS第12号が、これらの一時差異について繰延税金の認識を要求しているのか、あるいは当初認識の免除が適用されるのかは明確ではない。当該免除は、企業結合ではなく会計上の利益にも課税所得にも影響を与えない取引における資産又は負債の当初認識時に、繰延税金資産及び繰延税金負債を認識することを禁止している。

 

修正点

IASBは、当初認識の免除に対するさらなる例外を提供するようにIAS第12号を修正する。本修正の下で、企業は、同額の将来加算一時差異と将来減算一時差異が生じる取引には、当初認識の免除を適用しない。

適用される税法により、同額の将来加算一時差異と将来減算一時差異が、企業結合ではなく会計上の利益にも課税所得にも影響を与えない取引における資産又は負債の当初認識時に生じる場合がある。例えば、リースの開始日にIFRS第16号を適用してリース負債と対応する使用権資産の認識時に、これが生じる場合がある。IAS第12号の修正を受けて、企業は、関連する繰延税金資産及び繰延税金負債を認識することが要求される。繰延税金資産の認識は、IAS第12号の回収可能性の要件の対象となる。

また IASBは、本修正をどのように適用するかを説明する設例をIAS第12号に追加する。

 

見解

IASBが修正案を公表した際には、そうでなければ企業が同額でない繰延税金資産と繰延税金負債を認識することとなる範囲には、認識の例外を引き続き適用することを提案していた(「キャップ」)。キャップを適用すると、企業は、同額かつ回収可能性の要求事項を適用して企業が認識することとなる繰延税金資産の範囲でのみ、繰延税金資産と繰延税金負債を認識することとなる。

これがIAS第12号の原則と一貫しないことをフィードバックが示したため、IASBは、本修正からキャップを削除することを決定した。さらに、これは複雑であり、適用に負担がかかる。

したがって本修正は、取引の当初認識時に同額でない繰延税金の認識につながるかもしれない。そのような場合、企業は差額を純損益に認識することとなる。

 

経過措置及び発効日

企業は、本修正を、表示する最も古い比較対象期間の期首以後に発生する取引に適用する。

さらに、最も古い比較対象期間の期首に、企業は以下を認識する。

▶ 以下に関連するすべての将来減算一時差異及び将来加算一時差異に対する、(将来減算一時差異を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で)繰延税金資産及び繰延税金負債

– 使用権資産及びリース負債

– 廃棄、原状回復及びそれらに類似する負債、及び関連する資産の取得原価の一部として認識される対応する金額

▶ 利益剰余金(又は、適切な場合には、資本の他の内訳項目)の期首残高の修正として、本修正の適用開始の累積的影響

初度適用企業は、IFRS移行日において、これらの規定を適用する。

 

見解

公開草案において、IASBは、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従った本修正の全面的な遡及適用を提案した。しかし、IASBは、このことが、それぞれのリース及び廃棄義務が当初認識において同額の将来加算一時差異及び将来減算一時差異を生じさせるかどうかを遡及的に評価することを、企業に要求することに気づいた。

したがってIASBは、移行のアプローチには、本修正の目的を達成するが、全面遡及修正アプローチよりも容易で負担が少なく本修正を適用できるようにする項目を含めるものと結論づけた。このアプローチは、どのように本修正がIFRS第16号の経過措置と相互作用するかに関する不確実性を避けることにもなる。

 

本修正は、2023年1月1日以後開始する事業年度に発効する。本修正の発効日より前の適用は認められる。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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