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IFRS財団の評議員会は、国際サステナビリティ基準審議会に対応するためにIFRS財団の定款の修正を提案する

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年7月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusでは、国際財務報告基準財団(財団)が公表した公開草案「IFRSサステナビリティ基準を設定する国際サステナビリティ審議会に対応するための、IFRS財団定款の的を絞った修正案」(ED)を要約している。また、EDと一緒に公表された、財団の評議員会(評議員会)のフィードバック文書「サステナビリティ報告に関する協議ペーパー」についても要約している。

  • IFRS財団の評議員会は、財団のガバナンスの下で新しいサステナビリティ基準委員会の創設を可能にする、IFRS財団定款の修正を提案するEDを公表した。同時に、評議員会は、2020年9月の評議員会の協議ペーパーに対する回答を要約し、評議員会がフィードバックにどのように対応しているかを記述しているフィードバック文書を公表している。

  • 評議員会は、IFRS財団のガバナンス構造の中で新しい審議会を創設するための必要条件である修正を提案している。特に、以下の提案がなされている。

    −IFRS財団の目的は、公益に資するよう、明確に記述された原則に基づく、高品質で理解可能な、強制力のある国際的に認められるサステナビリティ基準の単一のセットを開発することを含むように拡大される。

    −評議員会は、新しい審議会を「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」と名付けることを提案する。新しい審議会の基準は、「IFRSサステナビリティ基準」と名付ける。

    −ISSBは、通常14名のメンバーで構成される。ISSBのメンバーは、評議員会によって任命される。少数のISSBのメンバーは、非常勤のメンバーであることが可能となる。ISSBのメンバーの主要な適格要件は、専門的能力と関連性のある専門的な経験である。議長は、副議長候補と同様に、常勤のメンバーの中から評議員会により選任される。

  • 承認された場合、変更案により、財団はISSBの創設に必要な資源を確保することができる。

  • 2021年7月29日のコメントレターの締切後、評議員会は定款の修正案に関するコメントの分析をレビューする。
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背景

2020年9月、評議員会は、グローバルなサステナビリティ報告基準に対する要望を全般的に評価し、そのような基準が必要であると仮定して、財団がその要望にどのように対応すべきかについて協議する、サステナビリティ報告に関する協議ペーパー(協議ペーパー) *を公表した。

協議ペーパーに対して受領したフィードバックに基づいて、評議員会は、財団のガバナンスの下で新しいサステナビリティ基準審議会の創設を可能にする、IFRS財団定款の修正を提案している。評議員会はまた、協議ペーパーに対して受領した主要なメッセージを要約するフィードバック文書を公表した。

 

IFRS財団評議員会のフィードバック文書「サステナビリティ報告に関する協議ペーパー」

評議員会は、グローバルなサステナビリティ基準に対する国際的な要望の高まり、及び財団のガバナンスの下で当該基準の基準設定主体を設立することに対する広範な支持を示す577通のコメントレターを受領した。フィードバック文書の要点は、以下のとおりである。

 

一貫性のあるサステナビリティ報告基準のグローバルなセットの要望及びIFRS財団の可能性のある役割

国際的に認められるサステナビリティ報告基準のグローバルなセットの必要性

回答は、グローバルに認められるサステナビリティ報告基準に対する、広範な利害関係者の支持を示している。回答者は、グローバルなガバナンス機関との関係、国際的な基準設定に関する専門性及び厳格なデュー・プロセスを理由に、IFRS財団がグローバルなサステナビリティ報告に対して役割を果たすことへの支持を表明した。全般的に、財団のガバナンス体制の下で運営される新しい審議会を創設することによって、財団が最も効果的に貢献するという広範な利害関係者の合意があった。

評議員会は、回答は、サステナビリティ報告におけるグローバルな一貫性と比較可能性を改善するための緊急の要望の高まりを示していると結論付けた。また、回答は、行動の緊急の必要性と、サステナビリティ基準の設定において、財団が主導的な役割を果たさなければならないという広範な要求も示した。したがって、評議員会はさらなる分析を行うことを決定し、作業の次のフェーズを監督するために評議員会のステアリング・コミッティーを結成することに合意した。

 

IFRS財団のガバナンス構造の下でのサステナビリティ基準審議会の創設の可能性

財団のガバナンス体制の下で運営する新しい審議会を設立することに対して、回答者の間で広範な支持があった。一部は、企業報告における財務とサステナビリティの問題の相互接続を促進する方法として、1つの組織内に財務報告とサステナビリティ報告の両方に対する国際基準を設定する2つの審議会を有することの潜在的価値を指摘した。

 

成功のための主要な要件

回答者は、新しい審議会をさらに発展させるための適切な条件として、協議ペーパーで提案された成功のための主要な要件に全般的に同意した。回答者は、気候変動を緊急の問題と説明し、気候関連の財務開示のグローバルな基準化がカーボン・ニュートラルなグローバル経済への移行において重要な要素であると主張した。回答者は、彼らの支援の条件は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)及びサステナビリティ報告の他の基準設定主体などのグローバルのイニシアチブの作業に基づいてIFRS財団が構築することであると主張した。

評議員会は、成功のための主要な要件、特に気候に関するグローバル基準を開発する緊急の必要性を追加する提案に同意した。

 

他の機関及びイニシアチブとの関係

グローバル・プラットフォームの提供

グローバルなサステナビリティ基準の採用を支援するために、財団が、利害関係者との関係を利用すべきであるという回答者からの幅広い支持がある。回答者は、証券監督者国際機構(IOSCO)、金融安定理事会(FSB)、国際通貨基金、国際連合及び世界銀行のような国際機関と関わることで、グローバルな解決策を模索することを財団に特に奨励した。

評議員会は、IFRSサステナビリティ基準の導入及び一貫性のある適用をグローバルに実現することに不可欠である、このような利害関係者との関係を考慮することを確認した。

 

既存のイニシアチブに基づく構築

回答者は、財団がTCFDのようなサステナビリティ報告に関するイニシアチブ、及びCDP(旧気候開示プロジェクト)、気候変動開示基準委員会(CDSB)、グローバル・レポーティング・イニシアチブ(GRI)、国際統合報告評議会(IIRC)、SASBなどの既存のサステナビリティ及び統合報告組織と協力することを強く奨励した。回答者によれば、混乱を減らし、取組みの重複を避けるために、機運に基づいて構築し、関連するイニシアチブを統合することが、財団にとって重要である。このようなアプローチは、財団がこれらのイニシアチブの幅広い専門性及び経験を引き出すことができるようにもなる。回答者によれば、サステナビリティの報告を調和させ、加速し、義務付ける緊急の必要性が存在し、既存の組織の作業を活用することは、この目標を達成するためのコスト効率が高く、効果的な成果のアプローチとなる。

回答者は、「ビルディング・ブロック」アプローチを、サステナビリティ報告のイニシアチブに取り組むための方法として参照した。回答者は、このアプローチは、新しい審議会がスピードをもって進める能力を促進し、投資家に焦点を当てたサステナビリティ報告について広範に認められ、複数の利害関係者のサステナビリティ報告イニシアチブが、新しい審議会の作業と並行して進めることを可能にする可能性があると説明した。

回答者の幅広い支持を得て、評議員会は、新しい審議会が、TCFDの確立した作業及び企業価値に焦点を当てたサステナビリティ及び統合報告の主要な基準設定主体の作業に基づいて構築することを期待している。評議員会は、TCFDフレームワークの4つの柱(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標)がどのように組織を運営するかの中核的な要素であり、企業価値に焦点を当てたサステナビリティ及び統合報告の他の主要基準設定主体によって指標のレベルに関するさらなる作業が行われていることを認識している。

 

見解

2021年3月評議員会は、サステナビリティ基準審議会の設立に向けたステップに取り組むというリリースを公表した。リリースでは、評議員会は、基準開発の「可能性のある基礎」としてCDP、CDSB、GRI、IIRC及びSASBにより開発された気候関連財務開示基準のプロトタイプを審議会が検討することについて述べている。気候関連基準のプロトタイプの開発は、デロイト、インパクト・マネジメント・プロジェクト、世界経済フォーラム(WEF)によって促進された。

 

一貫性のあるサステナビリティ報告のためのグローバルな解決策の発見

ほとんどの回答者は、グローバルな一貫性と比較可能性を達成するために、グローバルに認められるサステナビリティ報告基準のセットの必要性を表明した。彼らはまた、世界中のサステナビリティ報告イニシアチブへのアプローチの違い、成熟度及び範囲を考慮すれば、法域の規制環境と互換性のある、ベースライン基準に関するグローバルなコンセンサスを構築することは、財団が取る生産的なアプローチになるだろうと述べた。

評議員会は、高品質で理解可能な、強制力のある、グローバルに認められるサステナビリティ基準の国際的なベースラインを作成する財団の回答者の支持を歓迎した。評議員会は、このアプローチをグローバル・コンバージェンスの必要性に対処するための実行可能な方法であると考えている。

 

範囲

気候を優先

回答者は、気候が唯一の焦点であってはならないことを強調しながら、新しい審議会は、基準設定において気候変動を優先すべきであることに広範に合意した。新しい審議会は、一般的に環境、社会及びガバナンス(ESG)要因全体で基準を設定すべきであるという強い支持があった。

評議員会は、新しい審議会が、企業価値に関心を持つ投資家に目的適合性があるIFRSサステナビリティ基準を開発する必要性を強調した。評議員会の見解は、新しい審議会は気候関連の報告に関する作業を優先すると同時に、他のサステナビリティ及びESGの問題に関する投資家の情報ニーズを満たすことに向けて取り組むこととなる。

 

対象者

投資家がIFRSサステナビリティ基準の対象者であるという評議員会の提案に対する回答者からの幅広い支持があり、新しい審議会は投資家の情報ニーズに基準設定の焦点を絞ることを推奨した。回答者は、非財務報告指令の更新に関する作業及び欧州の非金融報告基準についての欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)の準備作業を含む、欧州連合(EU)の作業と緊密に連携する新しい審議会の必要性を強調した。

フィードバックに基づき及びIOSCO理事会により奨励されているように、評議員会は、企業価値に関する投資家の情報ニーズに対応する報告基準の開発に対する重要な公益を認識した。また、企業価値の創出又は侵食は、社会及び環境のために創出又は浸食された価値と根本的に相互に依存しているため、企業価値に目的適合性があるサステナビリティに係るトピックに関する企業からのより一貫性のある開示は、より持続可能な事業活動への資本配分を増加させることができると認識している。

 

監査及び外部保証

回答者の間では、年次報告書に開示されているサステナビリティ関連の情報は、監査を受けるか、外部保証の対象になるべきであるという広範な合意があった。回答者は、独立した保証は企業が開示する情報の信頼性を高めることができると述べた。

評議員会は、新しい審議会が、第三者の保証の対象となる基準を達成するために監査の専門家と協力する際に、国際会計基準審議会(IASB)の経験から便益を受けるべきであると考えている。

 

IFRS財団の定款の修正案

EDは、IFRSのサステナビリティ基準を設定する新しい審議会を創設するために、財団の権限を拡張する定款を修正することを提案している。

特に、評議員会は、公益のために、明確に明示された原則に基づいて、「高品質で理解可能な、強制力のある、グローバルに認められるサステナビリティ基準の単一のセット」の開発を含めるよう、財団の目的を拡大することを提案する。当該基準は、投資家及び世界の資本市場の他の参加者が意思決定を行い、複数の利害関係者のサステナビリティ報告と連携することに役立つために、企業報告に、高品質で透明かつ、比較可能性のある情報を要求する。

定款はまた、財団のガバナンス構造の下で、サステナビリティ基準審議会(国際サステナビリティ基準審議会(ISSB))の構造及び機能を概説する。ISSBに関連する修正案は、可能な限りIASBの構造及び機能を意図的に複製する。これは、新しい審議会のガバナンス構造が全般的にIASBのガバナンス構造を反映すべきであるという協議ペーパーに対する回答者の広範な合意を反映する。新しい審議会が基準設定で適切なレベルの成熟度に達し、評議員会の戦略的方向性の範囲内でテクニカルな専門性を進展することができるように、IASBの構造からは2、3の逸脱がある。重要なのは、ISSBのデュー・プロセスの基本的な要素は、IASBのそれと同じであることである。

 

見解

評議員会は、サステナビリティ基準解釈委員会の導入を提案しないことを決定した。評議員会は、新しい審議会の基準の使用が、別個の解釈委員会を創設することを提案する前に十分に成熟すべきであることを示唆している。評議員会は、新しい理事会が完全に運用され、その基準が広く使用される時に、この論点を再検討する可能性があることを示唆している。

 

提案では、ISSBは通常、評議員会によって任命される14名のメンバーを有することになる。少数のメンバーは、非常勤メンバーであることが可能であるが、これは当該メンバーが財団による有給での雇用にほとんどの時間をコミットすることを意味する。ISSBメンバーの主要な資格は、専門的能力及び関連性のある専門的な経験である。ISSBメンバーの要件には、サステナビリティと報告に関するテクニカルな能力及び知識とともに、サステナビリティ報告環境の認識が含まれる。ISSBは、監査人、作成者、利用者、学者、市場及び/又は金融規制当局を含む、テクニカルな専門性及び国際的なビジネス及び市場での経験の多様性の最良の組合せを表す。ISSBのメンバーは、広範なスキル、経験及び視点が必要である。したがって、ISSBメンバーは、サステナビリティに関連性のある多様な専門性及び役割を反映した専門的な背景を有する可能性がある。

IASBと同様に、メンバーシップは、提案された地理的な割当との広範な国際的なバランスを確保する。IASBと比較して、ISSBはより多くの「全体枠」の座席(4つ)が提案され、適切なスキルのある候補者を引き付ける柔軟性を高めている。

常勤のISSBメンバーのうち2名が議長と副議長に任命され、IASBと同様の役割を果たす。(議長と副議長を含む)ISSBメンバーの最初の任期は最長5年になる。任期はさらに3年間再任可能であり、最長5年間の更新が可能である。任期は、合計で10年を超えてはならないことが提案されている。

ISSBメンバーは独立である必要があり、常勤のメンバーは現在の雇用主とのすべての雇用関係を終了する必要がある。非常勤のメンバーは、他のすべての雇用契約を終了することは期待されないが、十分なレベルの独立性を明示することができる必要がある。

ISSBの会議は一般に公開され、すべてのISSBメンバーが会議で1票を有する。単純過半数のメンバーによる決定について同点投票の場合、議長は追加の決定票(casting vote)を行う。公開草案又はIFRSサステナビリティ基準は、ISSBの単純過半数の承認が要求される。他の決定は、ISSBメンバーの少なくとも60%が出席している会議において、出席するメンバーの単純過半数が要求される。
ISSBの設立段階で、議長と副議長は、新しい審議会の作業計画案に関する公開のインプットを求める場合がある。このような公表物は、議長と副議長の承認を得て公表することができる。

また評議員会は、IASB及びISSBの議長と協議して、財団のExecutive Directorが評議員会により任命されることを規定するために定款を修正することを提案する。これらの修正案は、2つの基準設定の審議会を有する組織の報告ラインを明確にする。

 

見解

IASBとISSBの両方がIFRS基準(IFRS会計基準及びIFRSサステナビリティ基準)を設定するため、評議員会は財団の正式名称(IFRS財団)を維持することを提案している。また、評議員会は財団の名称を「国際コーポレート・レポーティング財団」に改名することについても議論した。しかし、これは財団の確立されたブランドに基づいて構築することの便益を失うことを意味することとなる。

 

 

次のステップ及びコメント期間

承認された場合、変更案により、財団はISSBの作成に必要なリソースを確保することができる。2021年7月29日のコメントレターの締切後、評議員会は定款修正案に関するコメントの分析をレビューする。この分析により、評議員会は新しい審議会の創設に関する最終決定を下すことが可能となる。評議員会が最終的にそのような審議会を創設することを決定したと仮定すると、当該計画は2021年11月に開催予定の国連気候変動会議(COP26とも呼ばれる)で発表される。

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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