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IASBは、IFRS第17号とIFRS第9号の適用開始に関する軽微な修正を提案する

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年10月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusは、2021年7月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した、公開草案ED/2021/8公開草案「IFRS第17号とIFRS第9号の適用開始―比較情報」に示されているIFRS第17号「保険契約」の修正案について解説する。

  • IASBは、IFRS第17号とIFRS第9号を同時に初めて適用する企業に対する経過措置についての狭い範囲の修正を提案する。
  • 修正案は、IFRS第17号とIFRS第9号の適用開始時に比較情報を表示し、IFRS第9号に修正再表示されていない金融資産に関連する。
  • 修正案を適用することにより、企業は、(減損を除く)IFRS第9号の分類及び測定の要求事項をそのような金融資産に適用しているように、当該金融資産の比較情報を表示することが認められる。
  • この選択肢は、資産ごとに適用可能である。
  • 本修正は、企業がIFRS第17号を最初に適用する時に発効する。
  • 60日間のコメント期間は、2021年9月27日に終了する。

 

背景

多くの保険会社は、IFRS第17号「保険契約」を適用するまでIFRS第9号「金融商品」の適用を延期することを認める一時的免除*1を適用することを選択している。しかし、当該2つの基準は、適用開始時に表示する比較情報に関して異なる要求事項を有する。IFRS第17号は、企業が少なくとも1期の修正再表示した比較対象期間を表示することを要求する。IFRS第9号は、比較対象期間の修正再表示を(要求しないが)認めており、企業がIFRS第9号の適用開始日より前に認識が中止された金融資産にIFRS第9号を適用することを禁止している。

そのようにすることにより表示される情報の有用性を改善すると考えているため、多くの保険会社は、修正再表示した比較情報を表示することを予定している。しかし、一部の保険会社は、比較対象期間にIFRS第9号を適用して分類された金融資産とIAS第39号を適用して分類された金融資産が混在している場合、表示される情報の有用性に関して懸念を提起している。保険契約負債と金融資産との間に会計上のミスマッチを生じる可能性があるため、彼らは、誤解を招く可能性のある情報を生じさせる可能性があることを指摘している。当該保険会社は、IFRS第9号とIFRS第17号の完全適用を含む年度と比較した場合、そのような情報は説明が非常に難しいことを指摘している。

さらに、保険会社は、比較対象期間の期末まで、どの金融資産がIFRS第9号について修正再表示されるのか識別することが可能でないという運用上の複雑性に関しても懸念を提起している。

これらの困難に対処するために、保険会社は、IASBに、IFRS第17号の移行日時点のIFRS第9号の分類の要求事項の適用を反映する金融商品に関する情報を表示する選択肢を求めた。

 

修正案

金融資産についての比較情報がIFRS第9号について修正再表示されていない場合、IFRS第17号とIFRS第9号を同時に初めて適用する企業は、金融資産に関する比較情報を表示する目的で、分類上書き*2を適用することが認められる。これには、企業が過去の期間を修正再表示しないことを選択する場合、又は企業が過去の期間を修正再表示することを選択するが金融資産が当該過去の期間中に認識が中止される場合の可能性がある。企業が分類上書きを適用する場合、当該事実を開示する。

見解

IASBは、分類上書きを適用することを選択する企業に、比較対象期間においてIFRS第9号について修正再表示されていないすべての金融資産への適用を要求することを提案するかどうかを検討した。しかし、IASBは、一部の企業にとって、分類上書きにより解決することを目指す問題は、企業が保有するすべての金融資産に関連性がない可能性があると考えた。IASBは、したがって、特に金融資産について、修正案を適用する便益がコストを上回るかどうかを企業が評価することを可能にする、選択的な商品ごとの適用を提案している。

IASBは、企業が便乗した結果を達成するために修正案を選択的に適用し得るというリスクを、これにより負うことを認識している。しかし、提案されている分類上書きを適用する企業は会計上のミスマッチを低減させたいと考えており、IFRS第9号とIFRS第17号を最初に適用する財務諸表にIFRS第9号を適用する方法に対するさらなる整合性を達成するため、当該リスクは軽減されるとIASBは結論づけた。

さらに、上書きを適用する金融資産を別個に識別する要求事項案はない。そのようにするコストが便益を上回る可能性が高いため、これにより、そのような金融資産を追跡する必要性を回避することとなる。

 

分類上書きを適用する企業は、企業が、IFRS第9号の適用開始時にどのように金融資産が分類されるかを予想するかを決定するために、移行日に利用可能な合理的で裏付け可能な情報を使用することを提案している(例えば、IFRS第9号の移行の準備のために実行された予備的な評価を使用する)。

企業が、IFRS第9号の分類及び測定の要求事項を当該金融資産に適用されているかのように比較情報を表示するために、予想した分類を利用しなければならないことも提案している。

見解

EDのBC25項からBC28項は、実務の観点から企業が分類上書きを適用するかもしれない点について、どのようにIASBが予想しているかを議論している。IASBは、IFRS第9号の経過措置が、事業モデルの評価及び金融資産を純損益を通じて公正価値で測定するものに指定する選択について、IFRS第9号の適用開始日に存在する事実と状況に基づいて行うことを要求していることに留意した。これは、「並行ラン」において、企業が、金融資産がIFRS第9号の適用開始日に引き続き認識されていることを前提として、IFRS第9号を適用する際にどのように金融資産が分類されると予想するかに基づいて、基本的に金融資産を分類する。言い換えれば、企業は、IFRS第9号を適用する際に当該金融資産がどのように分類されると予想するかについて「事前分析」することとなる。本アプローチを適用する企業は、分類上書き案を適用することに十分な評価を行うために、事前分析を使用するアプローチを適用するとIASBは予想している。

したがって、合理的で裏付け可能な情報により裏付けられる場合、企業は以下のように分類できることとなる。

  • 事後に以下のいずれかで測定される負債性金融商品
    −償却原価
    −純損益を通じて公正価値
    −その他の包括利益を通じて公正価値
  • 事後に以下のいずれかで測定される資本性金融商品
    −純損益を通じて
    −公正価値、公正価値の変動はその他の包括利益で表示

IASBは、しかし、分類上書きはIFRS第9号の経過措置を修正しないことに留意した。したがって、企業がIFRS第9号を適用する際、彼らは、適用開始日に引き続き認識される金融資産にIFRS第9号の要求事項を適用することが引き続き要求される。

 

分類上書きを適用する際に、企業はIFRS第9号の減損の要求事項を適用することは要求されない。

金融資産のこれまでの帳簿価額と分類上書きを適用した結果の移行日の帳簿価額との差額は、移行日に利益剰余金の開始残高(又は適切な場合には、資本の他の内訳項目)で認識される。

IFRS第9号の適用開始日時点で、企業は、当該金融資産に分類上書きを適用しているかどうかに関係なく、金融資産に対するIFRS第9号の経過措置を適用することが要求される。

企業は、以下に対しては分類上書きを適用することは認められない。

  • IFRS第17号の範囲に含まれる契約に関連がない活動に関して保有する金融資産
  • IFRS第17号の移行日より前の報告期間についての比較情報
     
見解

IFRS第17号の範囲に含まれる契約に関連がない金融資産の除外は、IFRS第17号の適用開始より前の事業年度にIFRS第9号を適用していた企業に、IFRS第17号の範囲に含まれる契約に関連がない活動に関して保有されているものではない金融資産に関して、IFRS第9号の特定の分類要件の再評価を認める、IFRS第17号C29項(a)の現行の要求事項と一貫している。除外される金融資産の例としては、銀行活動に関して保有する金融資産又はIFRS第17号の範囲に含まれない投資契約に関して保有する金融資産がある。

 

発効日及びコメント期間

本修正を適用することを選択する企業は、IFRS第17号を適用する時に、これを適用する。

60日間のコメント期間は、2021年9月27日に終了する。

以 上


*1 一時的免除についての詳細は、本誌2016年12月号(Vol.484)「IFRS in Focus:IASBがIFRS第9号とIFRS第4号を置き換える保険契約の新基準との発行日の相違に関する懸念に対処するためにIFRS第4号『保険契約』の修正を公表」を参照いただきたい。

*2 「分類上書き」は、公開草案のASBJ訳に合わせたものである。

509KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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