ナレッジ

IASBは、公的説明責任のない子会社に対する削減された開示を提案する

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2021年10月号

注:本資料はDeloitteのIFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusは、2021年7月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した、公開草案ED/2021/7「公的説明責任のない子会社:開示」に示されている新IFRS基準案について解説する。

  • IASBは、子会社の財務諸表にIFRS基準を適用する際に、子会社が削減された開示を提供することを可能にする新IFRS基準を提案する。
  • 子会社に公的説明責任がなく、その最上位の親会社又は中間親会社の最終的又は即時の親会社がIFRSに準拠した公表用の連結財務諸表を提供するばあいには、子会社は削減された開示に適格となる。
  • 新基準は、適格である子会社にとってのオプションである。新基準は、この適用を選択した子会社に対する開示要求、及び適用されず本基準案により置き換えられるIFRS基準における開示要求を示している。
  • EDは発効日を提案していないが、早期適用が認められることを提案している。新基準は、特定の経過措置を有していない。
  • コメント期間は、2022年1月31日に終了する。
506KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

親会社がIFRS基準を適用する場合、子会社は通常、連結目的で親会社に報告する際に、IFRS基準の認識及び測定の要求事項を適用する。

IASBは、これらの子会社の一部は、開示要求が削減されたIFRS基準を適用することで、自身の財務諸表を作成することを選好するというフィードバックを受けた。その認識及び測定の要求事項がIFRS基準と異なるため、当該子会社にとって中小企業向けIFRS基準(IFRS for SMEs基準)は魅力的ではないことを、IASBは認識した。それにより、IFRS for SMEs基準を適用する子会社は、追加の会計記録を維持することが要求されることとなる。

公的説明責任のない企業の財務諸表の利用者のニーズの対象でない開示を削除することにより、新基準案は、当該財務諸表の利用者が必要とする情報を失うことなく、子会社のコストを削減することができる。

 

新基準案

目的

新基準の目的は、適格な子会社が、新基準の開示要求及びIFRS基準の認識、測定及び表示の要求事項を適用することを認めるというものでる。新基準により、

  • IFRS基準を適用する親会社に連結目的で報告する、公的説明責任のない子会社のコストを削減する。
  • 同時に、当該子会社の財務諸表の利用者に対する、財務諸表の有用性を維持する。

 

範囲

企業は、報告期間の期末において次の場合にのみ、連結、個別又は単独財務諸表に新基準を適用することが認められる。

  • 子会社である。
  • 公的説明責任がない。
  • IFRS基準に準拠した公表用の連結財務諸表を提供する最上位の親会社又は中間親会社を有する。

次の場合、企業には公的説明責任がある。

  • その負債性又は資本性金融商品が、公開市場(国内又は外国の株式市場又は店頭市場、ローカル及び地域市場を含む)で取引されている、又は公開市場で取引するためにそのような金融商品を発行する過程にある。
  • 主要なビジネスの1つとして、外部者の広範なグループのための受託者の立場で資産を保持している(ほとんどの銀行、信用組合(credit unions)、保険会社、証券ブローカー・ディーラー、投資信託及び投資銀行は、この要件を満たす)。

 

新基準を適用する選択肢

新基準の範囲に含まれる企業は、その適用を選択することが認められ、後にその選択を取り消すことができる。企業は、新基準の適用を複数回選択することができる(たとえば、以前の期に新基準を適用したが、直前期に適用しなかった企業は、当期に新基準の適用を選択することが認められる)。

企業は、当期に提供することが要求される開示に基づいて比較情報を提供する。当期に削減された開示を提供することを選択した場合、比較情報も削減される。企業が削減された開示から完全な開示に切り替えた場合、比較情報も完全に提供する必要がある。

 

IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」との相互作用

新基準には、最初のIFRS財務諸表を作成し、当該財務諸表を作成する際に新基準を適用することを選択した企業に適用される、削減された開示要求が含まれている。

IFRS初度適用企業が新基準を適用することを選択した場合、企業は次のようになる。

  • IFRS第1号を適用する。ただし、新基準の付録Aに列挙されているIFRS第1号の開示要求は除く。
  • 新基準の本文における開示要求を適用する。

このアプローチは、基準案が他のIFRS基準とどのように相互作用するかに関する、IASBの提案と一貫することとなる。

見解

IASBは、IFRS第1号が他のIFRS基準と異なることを認識している。IFRS第1は、企業がIFRS基準を初めて適用した場合にのみ適用され、IFRS基準の初度適用企業がその移行をどのように行うべきかを示している。コメント募集の中で、IASBは、新基準にIFRS第1号に対する削減された開示要求を含めることに同意するか、又はIASBがIFRS第1号の開示要求に手をつけずそのままにすることを選好するのか、利害関係者に質問している。

 

削減された開示要求

新基準は、以下を規定する。

  • 企業が新基準を適用する場合に適用される削減された開示要求(新基準の本文にIFRS基準ごとに列挙)
  • 他のIFRS基準のどの開示要求が、新基準の削減された開示要求に置き換えられるか(新基準の付録A)
見解

削減された開示を開発するために、IASBは、IFRS for SMEs基準の開示要求から開始し、IFRS for SMEs基準の認識及び測定の要求事項が完全版IFRSの要求事項と異なる場合に調整を行った。例えば、完全版IFRSが取り扱っているがIFRS for SMEsにより省略されているトピック又は会計方針の選択肢に対する開示要求を追加し、またIFRS for SMEsにおいて適用可能であるが完全版IFRSにおいては適用可能ではない会計方針に関連する開示要求を削除する。このアプローチには、新基準の結論の根拠において説明されているいくつかの例外がある。

 

IAS第1号「財務諸表の表示」の要求事項と一貫して、新基準は、削減された開示について、それらに重要性がある場合にのみ行う必要があることを明確にしている。削減された開示が、特定の取引、他の事象及び状況の企業の財務状態及び財務業績に対する影響を、財務諸表の利用者が理解するために不十分である場合には、追加の開示が要求されることとなる。

見解

新基準には、IFRS第17号についての削減された開示要求は含まれていない。新基準を適用することに適格なIFRS第17号を適用する企業があるかもしれないが、IFRS第17号は、その開示要求に裏付けられている保険契約についての会計のモデルを導入していることを、IASBは主張している。削減の可能性があるとしても、限定されたものとなる。また、IFRS第17号を適用する初期の年度において、財務諸表の利用者の関心は、完全なIFRS第17号の開示により最も良く対応されるかもしれない。したがって、新基準案とIFRS第17号を適用する子会社は、IFRS第17号の完全な開示要求を適用することが要求される。

 

発効日、経過措置、コメント期間

EDには、新基準の発行日は含まれていない。早期適用は認められることが提案されている。

新基準には、特定の経過措置はない。

EDのコメント期間は、2022年1月31日に終了する。

 

以 上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

お役に立ちましたか?