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IASB は、IFRS第17号の経過措置を修正する

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2022年2月号

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusは、2021年12月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した「IFRS第17号とIFRS第9号の適用開始―比較情報」というタイトルのIFRS第17号「保険契約」の修正について解説する。

  • IASBは、IFRS第17号の経過措置に対する狭い範囲の修正を公表した。
  • IFRS第17号とIFRS第9号を同時に適用する企業に対して、本修正は、IFRS第17号とIFRS第9号の適用開始の際に表示する比較情報が、IFRS第9号について修正再表示されていない(比較対象期間に認識が中止された金融資産を含む)金融資産に関連する。
  • 本修正を適用することにより、IFRS第9号の分類及び測定の要求事項が金融資産に適用されたかのように、そのような金融資産に関する比較情報を表示することが認められる。この選択肢は、金融商品ごとに利用可能である。
  • 分類上書きを金融資産に適用する際に、企業はIFRS第9号の減損の要求事項を適用することは要求されない。
  • 本修正は、IFRS第17号を適用する前にIFRS第9号を適用した企業にも適用可能である。当該企業に対しては、分類上書きは、比較対象期間に認識が中止された金融資産に適用され、企業がIFRS第17号の適用開始の際にどのように資産を指定することを予想するのかに基づいて、IFRS第17号の再指定の要求事項を適用することを認める。
  • 本修正は、企業がIFRS第17号を初めて適用する時に発効する。
499KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

多くの保険会社は、IFRS第17号を適用するまでIFRS第9号「金融商品」の適用を延期することを認める一時的免除を適用することを選択している。しかし、当該2つの基準は、適用開始時に表示する比較情報に関して異なる要求事項を有する。IFRS第17号は、企業が少なくとも1期の修正再表示した比較対象期間を表示することを要求するが、IFRS第9号は、比較対象期間の修正再表示を(要求しないが)認めている。IFRS第9号は、IFRS第9号の適用開始日より前に認識が中止された金融資産にIFRS第9号を適用することを禁止している。

そのようにすることにより表示される情報の有用性を改善すると考えているため、多くの保険会社は、IFRS第9号を適用する金融資産に対して、比較情報を表示することを予定している。しかし、一部の保険会社は、比較対象期間にIFRS第9号を適用して分類された金融資産とIAS第39号「金融商品:認識及び測定」を適用して分類された金融資産が混在している場合、表示される情報の有用性について懸念を提起している。比較対象期間において保険契約負債と金融資産の間に会計上のミスマッチを生じる可能性があるため、彼らは、誤解を招く可能性のある情報を生じさせる可能性があること指摘した。当該保険会社は、IFRS第9号とIFRS第17号の完全適用を含む年度と比較すると、このような情報は説明が非常に難しいことを指摘している。

さらに、保険会社は、比較期間の期末まで修正、どの金融資産がIFRS第9号について修正再表示されるのかを識別することが可能でないという運用上の複雑性に関しても懸念を提起している。

これらの困難に対処するために、保険会社は、IFRS第17号の移行日時点のIFRS第9号の分類の要求事項の適用を反映する金融商品に関する情報を表示する選択肢を、IASBに求めた。IASBは、公開草案ED/2021/8「IFRS第17号とIFRS第9号の適用開始―比較情報」においてIFRS第17号の修正を提案することにより、これらの要望に対応し、今般最終化された。

 

本修正

金融資産に関する比較情報がIFRS第9号について修正再表示されていない場合、IFRS第17号とIFRS第9号を同時に初めて適用する企業は、金融資産に関する比較情報を表示する目的で、分類上書きを適用することが認められる。これは、企業が過去の期間を修正再表示しないことを選択する場合、又は企業が過去の期間を修正再表示するが、金融資産が当該過去の期間中に認識が中止される場合の可能性がある。

見解

IASBは、特定の金融資産に対して分類上書きを適用することの便益がコストを上回るかどうかを企業が評価できるように、分類上書きは金融商品ごとに選択可能であるべきであると結論付けた。しかし、IASBは、分類上書きを金融商品ごとに適用する選択肢は、例えばIFRS第9号を適用する際に企業が事業モデルを評価するレベルを考慮することにより、より高いレベルの集約で企業が適用することを妨げないと考えた。

 

本修正は、分類上書きを金融資産に適用する企業が、金融資産についての比較情報をIFRS第9号の分類及び測定の要求事項が当該金融資産に適用されていたかのように表示することを要求している。企業は、IFRS第9号の適用開始時に金融資産がどのように分類及び測定されると予想するのかを決定するために、移行日において利用可能な合理的で裏付け可能な情報を使用しなければならない(例えば、企業はIFRS第9号の適用開始を準備するために行った予備的な評価を使用する可能性がある)。

見解

本修正の結論の根拠は、分類上書きを適用すると、企業は比較情報における金融資産の分類と測定を、その金融資産の分類と測定がIFRS第9号の適用開始時に行われると企業が予想するものと一致させることを説明している。IASBは、この予想されるIFRS第9号の分類及び測定は、企業が分類上書きを適用することを準備できるように、IFRS第17号への移行日に決定するべきであると結論付けた。この決定を行う際には、移行日に利用可能な合理的で裏付け可能な情報を企業が使用する必要がある。例として、企業は、IFRS第9号の適用開始の準備に実行される事業モデルとキャッシュ・フロー特性の予備的な評価を使用できる。

 

分類上書きを金融資産に適用する場合、企業はIFRS第9号の減損の要求事項を適用することは要求されないい。本修正により決定された分類に基づいて、金融資産はIFRS第9号の減損の要求事項の対象となるが、企業が分類上書きを適用する際に当該要求事項を適用しない場合、企業はIAS第39号に従って前期に減損に関して認識された金額を引き続き表示する。それ以外の場合は、そのような金額は戻し入れられ、修正再表示されたIFRS第9号の減損金額に置き換えられる。

金融資産の従前の帳簿価額と、分類上書きの適用から生じた移行日現在の帳簿価額との差額は、移行日において期首の利益剰余金(又は適切な場合には、資本の他の内訳項目)に認識される。

分類上書きを適用する企業は、分類上書きが適用された範囲(例えば、比較対象期間に認識が中止されたすべての金融資産に適用されたかどうか、IFRS第9号の減損の要求事項が適用されたかどうか、どの範囲に適用されたかどうかを、財務諸表の利用者が理解することを可能にする定性的情報を開示する。

企業は、IFRS第17号への移行日からIFRS第17号の適用開始日までの間の報告期間の比較情報にのみ分類上書きを適用する。

IFRS第9号の適用開始日において、企業はIFRS第9号の経過措置を適用する。

見解

EDでは、IASBは、IFRS第17号の範囲に含まれる契約に関連しない活動に関して保有する金融資産に分類上書きは適用されないことを提案した。しかし、EDの回答者は、IFRS第17号とIFRS第9号を同時に初めて適用する企業に対して、保険以外の活動に関して保有する金融資産に分類上書きを適用することを認めることは、適用開始時において表示された比較情報の有用性を改善させることができると、IASBに情報を提供した。

したがって、IASBは、分類上書きの利用可能性を拡大することの便益は、把握されているコストを上回ると結論付けた。

 

本修正は、IFRS第17号を適用する前にIFRS第9号を適用した企業にも適用可能である。これらの企業について、分類上書きは、比較対象期間に認識が中止された金融資産に適用され、IFRS第17号の適用開始において、企業がどのように資産を指定することを予想するのかに基づいてIFRS第17号の再指定の要求事項を適用することが認められる。

見解

EDでは、IASBは、分類上書きは、IFRS第17号とIFRS第9号を同時に初めて適用する企業にのみ適用可能であることを提案した。しかし、利害関係者は、IFRS第17号を初めて適用する前にIFRS第9号を適用した企業に対して、それほど重大ではないが会計上のミスマッチが発生する可能性があることをIASBに情報提供した。このようなミスマッチは、これらの企業が比較対象期間に認識が中止された金融資産にIFRS第17号C29項を適用できないために発生する可能性がある。したがって、IASBは、分類上書きをこれらの企業でも利用可能にするが、比較対象期間に認識が中止された金融資産に対してのみ利用可能となることを決定した。

 

発効日

分類上書きの適用を選択した企業は、IFRS第17号の適用開始時に分類上書きを適用する。

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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