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IASBは、サプライヤー・ファイナンス契約に対処するためにIAS第7号及びIFRS第7号の修正を提案する

IFRS in Focus|月刊誌『会計情報』2022年2月号

注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。

トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス

本IFRS in Focusは、2021年11月に国際会計基準審議会(IASB)が公表した、公開草案ED/2021/10「サプライヤー・ファイナンス契約」(IAS第7号及びIFRS第7号の修正案)(以下、「ED」という。)に含まれる提案について解説する。

  • IASBは、サプライヤー・ファイナンス契約が負債及びキャッシュ・フローに及ぼす影響を、財務諸表の利用者が評価することを可能にする情報を企業に提供することを要求する開示目的を導入するために、IAS第7号を修正することを提案する。
  • EDはまた、開示目的案を満たすために企業が提供する必要があることとなる定性的及び定量的開示を規定している。
  • 「サプライヤー・ファイナンス契約」という用語は定義せず、代わりに修正案は、企業が提案された情報を提供することが要求される契約の特徴を記述している。
  • さらに、流動性リスクの集中に対する企業のエクスポージャーに関する情報を開示する要求事項に含まれる例としてサプライヤー・ファイナンス契約を追加するために、IFRS第7号に対する修正が提案されている。
  • 本修正は、(IAS第8号を適用して)遡及的に適用される。EDは発効日を提案していない。早期適用は認められることが提案されている。
  • EDのコメント期間は2022年3月28日に終了する。
493KB, PDF ※PDFダウンロード時には「本記事に関する留意事項」をご確認ください。

背景

2020年12月、IFRS解釈指針委員会は、サプライチェーン・ファイナンス契約に適用されるIFRS基準の要求事項を説明するサプライチェーン・ファイナンス契約に関するアジェンダ決定を公表した。本アジェンダ決定に対するフィードバックは、この形態の資金調達に関して企業が提供することが要求される情報が、利用者の情報ニーズを満たすには十分ではないことを示した。IASBはこのフィードバックを検討し、IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」及びIFRS第7号「金融商品:開示」の修正案を提案することにより、当該問題に対処することを決定した。

 

修正案

IAS第7号の修正

IASBは、サプライヤー・ファイナンス契約が企業の負債及びキャッシュ・フローに及ぼす影響を財務諸表の利用者が評価することを可能にする、サプライヤー・ファイナンス契約に関する情報を提供することを企業に要求する開示目的を、IAS第7号に追加することを提案する。

本修正は、1つ以上のファイナンス提供者が、企業が仕入先に負っている金額を支払うことを申し出て、企業は、仕入先に支払われるのと同日又は遅い日に、ファイナンス提供者に支払うことに同意する契約としてサプライヤー・ファイナンス契約を説明する。これらの契約は、関連する請求書支払期日と比較して、企業に延長した支払条件、又は企業の仕入先に早期の支払条件を提供する。サプライヤー・ファイナンス契約は、しばしば、サプライチェーン・ファイナンス、債務ファイナンス又はリバース・ファクタリング契約と呼ばれる。

見解

サプライヤー・ファイナンス契約の詳細な定義を開発することを試みる代わりに、IASBは、リバース・ファクタリング契約と同様の方法で、企業が仕入先に負っている金額のファイナンスを提供するすべての契約を捉える方法でサプライヤー・ファイナンス契約を記述することを決定した。契約の形態又は名称のバリエーションは、本開示要求が適用されるかどうかに影響を与えない。したがって、EDに記載されているサプライヤー・ファイナンス契約の特徴を有するすべての契約は、企業が、財政状態計算書及びキャッシュ・フロー計算書のどこに及びどのように関連する負債及びキャッシュ・フローを表示し分類するかに関係なく、以下に記述される新しい開示要求案の対象となる。

 

開示目的案を達成するために、企業は以下のように開示する。

(a) 各サプライヤー・ファイナンス契約の条件(例えば、支払条件の延長、担保、保証を含む)

(b) 各サプライヤー・ファイナンス契約について、報告期間の期首及び期末における次の事項

(i) 当該契約の一部である金融負債の、企業の財政状態計算書に認識されている帳簿価額及び当該金融負債が表示されている科目

(ii) (i)に基づいて開示する金融負債のうち仕入先がファイナンス提供者からすでに支払を受けているものの帳簿価額

(iii) (i)に基づいて開示する金融負債の支払期日の範囲(例えば、請求日の30日から40日後)

(c) 報告期間の期首及び期末における、サプライヤー・ファイナンス契約の一部を構成しない営業債務の支払期日の範囲

企業は、開示目的案を満たすために必要なサプライヤー・ファイナンス契約に関する追加情報(例えば、支払期日の範囲が広い場合の支払期日の範囲に関する追加情報)を開示する。企業は、これらの契約の条件が類似している場合にのみ、異なる契約について開示目的案を満たすために提供される情報を合算することが認められる。

EDは、IAS第7号44A項により要求される財務活動から生じた負債の変動に関する企業の調整表に反映される契約の例として、サプライヤー・ファイナンス契約を追加することを提案している。したがって、企業は、例えば将来のキャッシュ・アウトフローが財務活動から生じるキャッシュ・フローに分類される場合、当該調整表の一環として、サプライヤー・ファイナンス契約から生じた非資金変動(non-cash change)を開示する。

 

IFRS第7号の修正

IFRS 第7号の現行の要求事項に基づいて、企業は、金融負債から生じた流動性リスクをどのように管理しているかの説明を開示する。本修正は、サプライヤー・ファイナンス契約が、特に企業に支払条件の延長を提供する場合又は仕入先に早期の支払条件を提供する場合、当該開示を提供することを検討する可能性のある要因であることを規定する。

IFRS第7号の適用ガイダンスには、当初仕入先に負っていた金融負債の一部がファイナンス提供者に集中する結果、流動性リスクの集中がサプライヤー・ファイナンス契約から生じる可能性があることを追加することを提案している。

 

経過措置、発効日、コメント期間

EDは、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」を適用し、修正の遡及的な適用を提案する。

IASBは発効日を提案していない。発効日は、本提案の公開後に決定される。早期適用は認められることが提案されている。

EDのコメント期間は、2022年3月28日に終了する。

 

以上

本記事に関する留意事項

本記事は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。また、本記事の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本記事の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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