ISSBは、資本市場に対するサステナビリティ開示基準のグローバル・ベースラインを提案する ブックマークが追加されました
ナレッジ
ISSBは、資本市場に対するサステナビリティ開示基準のグローバル・ベースラインを提案する
iGAAP in Focus サステナビリティ報告|月刊誌『会計情報』2022年6月号
注:本資料はDeloitteの IFRS Global Officeが作成し、有限責任監査法人トーマツが翻訳したものです。この日本語版は、読者のご理解の参考までに作成したものであり、原文については英語版ニュースレターをご参照下さい。
トーマツIFRSセンター・オブ・エクセレンス
目次
- ISSBは、資本市場に対するサステナビリティ開示基準のグローバル・ベースラインを提案する
- 背景
- IFRS第S1号案「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項」
- IFRS第S2号案「気候関連の開示」
- 経過措置、発効日、コメント期間
本iGAAP in Focusは、2022年3月31日に国際サステナビリティ基準審議会により公開協議のために公表された、IFRSサステナビリティ開示基準IFRS第S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」及びIFRS第S2号「気候関連の開示」の提案について解説する。
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背景
我々のPurpose-driven Business Reporting in Focus「IFRS財団は、グローバルなサステナビリティ基準を設定するための新しい審議会を創設する」*1 で示している通り、IFRS財団(IFRSF)は、2021年11月に新しい国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の創設を発表した。ISSBは、投資者の情報ニーズを満たすために、高品質のサステナビリティ開示基準の包括的なグローバル・ベースラインを開発するために設立された。
同時にIFRSFは、気候変動開示基準委員会(CDSB)及び価値報告財団(VRF)(以前はサステナビリティ会計基準審議会(SASB)財団と国際統合報告評議会(IIRC))とのテクニカルな専門知識、コンテンツ、スタッフ及び他のリソースをISSBと統合するコミットメントを発表した。CDSBとの統合は完了しており、VRFとの統合は2022年6月までに完了する予定である。
IFRSF評議員会は、ISSBが国際会計基準審議会(IASB)と並立し、IASBと同じ堅牢なデュー・プロセスに従うことを規定する定款の改訂を公表した。その意図は、新しいISSBがビジネスにとって重要なサステナビリティの幅広いトピックに取り組むことであるが、当初は緊急性を考慮して気候を優先する。ISSBには、設立中の2つの主要な諮問機関、サステナビリティ諮問委員会とサステナビリティ基準アドバイザリー・フォーラムがある。
評議員会は、ISSBの創設を発表した際、技術的準備ワーキング・グループ(TRWG)によって開発された2つのプロトタイプを公表した。
- サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項のプロトタイプ
- 気候関連開示のプロトタイプ
TRWGは、ISSBに助走を与えるために2021年3月に組成された。これは、ISSBによる検討のためのテクニカルな提案事項を提供することを目的として、投資者の情報ニーズを満たすことに焦点を当てた関連組織の作業を統合し、構築するように設計されている。
最初の発表以来、評議員会はISSBに議長(Emmanuel Faber氏)及び副議長(Sue Lloyd氏)を任命した。利害関係者からのインプットを得ながら、ISSBの作業を適時に進める必要性のバランスをとるために、評議員会は、利害関係者のインプットを得るための最初の公開草案(ED)を適時に公表できるようにするために、議長及び副議長に特別な権限を付与することを決定した。
8名のISSBメンバーの定足数が、EDについて受け取ったフィードバックを審議し、要求事項を確定するために要求される。定足数を満たした審議会を適時に達成するために、IFRSFは、既に任命された議長及び副議長に加えて、さらに6名のISSBメンバーを任命することを優先する。定足数に達した後、IFRSFは、14人のメンバーからなる完全な審議会となる残りの任命を完了する。評議員会は、ISSBの募集プロセスが2022年第3四半期までに完了すると見込んでいる。
EDは、TRWGのプロトタイプに限定的な変更を導入しており、TCFDによる提言及び国際的なサステナビリティ機関のフレームワークと基準の要素が含まれている。これらは、広範な公開協議の対象となったものであり、重要な市場での取込みを達成した。
EDに関する協議期間は、2022年7月29日に終了する。
見解 今年後半、ISSBは基準設定の優先事項について協議を行う予定である。この協議には、企業価値を評価する際の投資者のサステナビリティ関連の情報ニーズ、及びSASB基準に基づいて、幅広いサステナビリティの問題を取り扱う産業別の要求事項のさらなる開発に対して、フィードバックを求めることが含まれる。 |
サステナビリティ報告の要求に向けた法域の取組みEDは、重要な政策及び規制上の対応の時に公開される。ISSBの基準は、法域の要求と補完(したがって相互運用)できるグローバル・ベースラインを作成することを目的としている。最も重要な法域での進展には、以下が含まれる。 EU:欧州委員会(EC)は2021年4月、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)により開発される強制される欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の規定を含む、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)案を公表した。CSRDの最終化は、2022年半ばに予定されている。EFRAGのESRSに関するプロジェクト・タスク・フォースはワーキング・ペーパーを公表しており、新たに設立されたEFRAGサステナビリティ報告審議会は、2022年4月に最初の公開草案を公表する予定である。 米国:米国証券取引委員会(SEC)は、2022年3月21日に「投資者向け気候関連情報開示の充実及び標準化(The Enhancement and Standardization of Climate-related Disclosures for Investors)」という名称の規則案を公表した。規則案は、公開協議が行われている。 |
IFRS第S1号案「サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項」
IFRS第S1号EDは、IAS第1号「財務諸表の表示」から着想を得ており、完全な一組のサステナビリティ関連の財務情報を市場に提供するために、すべての重要なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関するサステナビリティ関連財務情報を企業が開示するための全体的な要求事項を定めている。有用なサステナビリティ関連の財務情報の質的特性に関して、ガイダンスが提供されている。
目的
IFRS第S1号の目的案は、一般目的財務報告の主要な利用者が企業価値を評価し、企業に資源を提供するかどうかを決定する際に、一般目的財務報告の主要な利用者にとって有用な、重要なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を開示することを企業に要求することである。
報告企業は、それが晒されているすべての重要なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する重要性のある情報を開示する。重要性(マテリアリティ)の評価は、一般目的財務報告の利用者が企業価値を評価するために必要な情報の文脈で行われる。企業の一般目的財務報告には、サステナビリティ関連の財務情報の完全で、中立的で、正確な描写を含めることが要求される。
EDは、企業価値を企業の総価値、すなわち企業の株式の価値(時価総額)と企業の純負債の価値の合計として定義することを提案している。
企業価値は、短期、中期及び長期にわたる将来のキャッシュ・フローの金額、時期及び確実性、及び企業のリスク・プロファイル、財務へのアクセス及び資本コストに照らしたこれらのキャッシュ・フローの価値に対する期待を反映している。
EDは、サステナビリティ関連の財務情報は財務諸表で報告された情報よりも広く、以下に関する情報を含むことができると規定している。
- サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する企業のガバナンス、及びそれらに対処するための戦略
- 関連する財務諸表の認識規準をまだ満たしていない、将来のインフロー及びアウトフローをもたらす可能性のある企業によって行われた決定
- 企業が行った行動の結果としての評判、パフォーマンス、見通し(人々、地球、経済との関係、それらへの影響及び依存など)
- 企業による知識ベースの資産の開発
IFRS第S1号はまた、サステナビリティ関連の財務情報を開示するための基礎を次のように規定する。
- 前期の企業のサステナビリティ関連財務情報と、他の企業のサステナビリティ関連財務情報の両方と比較可能である。
- 企業の一般目的財務報告の他の情報と結合されている。
見解 企業価値の定義案及び説明は、企業がその直接的な活動及びそのバリュー・チェーンを通じて人々、地球、経済に与える影響が、一定の期間にわたり企業のパフォーマンス、見通し、キャッシュ・フローに影響を与えることを認識している。したがって、この提案の目的は、企業価値に影響を与える可能性のある、サステナビリティ関連の幅広いリスク及び機会を捉えることである。2020年、国際的なサステナビリティ基準設定主体及び枠組みをリードする「グループ・オブ5」は、企業価値に関連する問題を、サステナブルな進展に関連する企業のより広範な影響のサブセットとして位置づけた。このサブセットは、主流の企業報告における開示のマテリアリティの評価の基礎を形成し、EDに示されたアプローチと整合している。「グループ・オブ5」はさらに、企業価値に対するこれらの影響のいくつかは、報告日にすでに発生しており(又は将来のキャッシュ・フローの評価及び見積りを裏付けるキャッシュ・フローの予測に含まれている)、したがって、財務諸表で認識されている金額としてすでに表現されていることを強調した。 |
範囲
企業は、IFRSサステナビリティ開示基準に従ってサステナビリティ関連の財務情報を作成及び開示する際にIFRS第S1号を適用する。企業は、その企業の関連する財務諸表がIFRS会計基準又は他の会計フレームワークに従って作成されているかどうかにかかわらず、IFRSサステナビリティ開示基準を適用することができる。
コア・コンテンツ
別のIFRSサステナビリティ開示基準が、提供しないことを認める又は要求する場合を除き、企業は以下に関する開示を提供する。
- ガバナンス 企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会をモニタリング及び管理するために使用するガバナンス・プロセス、コントロール及び手続
- 戦略 短期、中期、長期にわたり企業のビジネスモデル及び戦略に影響を与える可能性のあるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するためのアプローチ。以下が含まれる。
―サステナビリティ関連のリスク及び機会の識別
―戦略及び意思決定
―財政状態、財務業績及びキャッシュ・フロー
―レジリエンス(弾力性)
- リスク管理 サステナビリティ関連のリスクを識別、評価及び管理するために企業が使用するプロセス
- 指標及び目標 サステナビリティ関連のリスク及び機会に関連する企業のパフォーマンスを評価、管理及びモニタリングするために使用される情報。指標は、企業が設定した目標に対する進捗を含めパフォーマンスをどのように評価するかを、利用者が理解できるようにしなければならない。企業は、そのビジネスモデルに沿って、また特定のサステナビリティ関連のリスク又は機会に関連して、その活動に適用する指標を識別する。一部の企業にはさまざまな活動があり、したがって、複数の産業に適用される指標を適用する必要がある場合がある。
EDは、これらの各側面の目的、及び当該目的を達成するための開示要求を定めている。
全般的特徴
EDは、サステナビリティ関連の財務情報は、それが関連性があり表現しようとしている対象を忠実に表現している場合に、有用性があると規定している。EDは、これらを基本的な質的特性として記述している。情報に比較可能があり、検証可能性があり、適時性があり、理解可能性がある場合、有用性は補強される。
サステナビリティ関連の財務情報は、一般目的財務報告の一部を形成し、したがってIASBの「財務報告に関する概念フレームワーク」(概念フレームワーク)における質的特性が、サステナビリティ関連の財務情報にも適用される。しかし、IFRS第S1号案の目的を達成するために要求される情報の一部の性質は、一般目的財務諸表で提供される情報とは異なる。したがって、EDは、有用なサステナビリティ関連の財務情報の質的特性を定めている。
見解 ISSBのアプローチは、IASBの「概念フレームワーク」の主要な概念に根ざしている。報告される情報の期待される属性とIASBのアプローチとの一貫性は、サステナビリティの開示と財務諸表との間の結合性及び一貫性の向上を促進することを意図している。 |
報告企業
サステナビリティ関連の財務情報開示は、関連する一般目的財務諸表と同じ報告企業に関する情報を提供しなければならない。例えば、報告企業がグループである場合、連結財務諸表は親会社とその子会社の財務諸表である。したがって、当該報告企業のサステナビリティ関連の財務開示は、一般目的財務報告の利用者が当該親会社及びその子会社の企業価値を評価できるようにすることを目的としている。
企業は、サステナビリティ関連の財務開示が関連する財務諸表を開示する。通貨が測定単位として特定されている場合、企業は財務諸表の表示通貨を使用する。
IFRS第S1号の目的を達成するために、企業は、それが晒されているすべての重要なサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する重要性のある情報を開示することが要求される。これらのリスク及び機会は、以下のような活動、相互作用及び関係、及びバリュー・チェーンに沿ったリソースの使用に関連している。
- その雇用慣行及びサプライヤーの雇用慣行、販売する製品の包装に関連する廃棄物、又はサプライチェーンを混乱させる可能性のある事象
- 支配する資産(希少な水資源に依存する生産施設など)
- 関連会社及び共同支配企業への純投資(共同支配企業を通じた温室効果ガス排出活動への資金提供など)を含む、支配する投資
- 資金調達の源泉
バリュー・チェーンは、報告企業のビジネスモデル及び活動する外部環境に関連する活動、資源及び関係の全範囲として定義することが提案されている。これには、出現から引渡し、消費及び使用終了までの製品又はサービスを作成するために企業が使用及び依存する活動、資源及び関係が含まれる。
つながりのある情報
本提案では、企業は、さまざまなサステナビリティ関連のリスク及び機会の間の結合性を評価し、これらのリスク及び機会に関する情報が一般目的財務諸表の情報とどのようにリンクされているかを、一般目的財務報告の利用者が評価できる情報を提供する。
EDは、IFRSのサステナビリティ開示基準が情報の共通項目の開示を要求する場合、企業は不必要な重複を避けるべきであると提案している。例えば、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会の監督を統合する場合、ガバナンスに関する開示も、サステナビリティに関連する重要なリスクと機会ごとに別個のガバナンス開示の形で提供するのではなく、統合しなければならない。
見解 サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する開示は、報告の理解可能性を損ない報告書を長くする可能性のある、トピックごとに切り離された記述として表示するのではなく、全体として統合しなければならないことが想定されている。 サステナビリティ関連情報と財務情報とのコネクティビティは重要な考慮事項であり、投資者グループから繰り返し要求されてきた。したがって、EDは、企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会が、短期、中期、長期にわたり、財政状態、財務業績及びキャッシュ・フローに与える影響を開示する必要がある可能性があることを強調している。この情報は、財務諸表の情報、及び特定の指標及び目標にリンクする必要がある場合もある。 |
適正な表示
完全な一組のサステナビリティ関連の財務情報開示は、企業が晒されているサステナビリティ関連のリスク及び機会を適正に表示すべきであることが提案されている。公正な表示は、基準案に示された原則に従って、サステナビリティ関連のリスク及び機会の忠実な表現が要求される。
EDは、IFRSのサステナビリティ開示基準を適用し、必要に応じて追加の開示を行うことで、サステナビリティ関連の財務情報開示が適正な表示を達成することを推定している。
サステナビリティ関連の重要なリスク及び機会、及びそれらに関連する指標及び目標を識別するために、企業は、IFRSサステナビリティ開示基準を適用する。また、産業別のSASB基準、ISSBの強制されないガイダンス(水及び生物多様性関連の開示に関するCDSBフレームワーク適用ガイダンスなど)、及び投資者の情報ニーズを満たすように要求事項が設計された他の基準設定主体の最新の文書における開示トピックを検討することが要求される。企業はまた、同じ産業又は地域で事業を展開する企業により識別されたサステナビリティ関連のリスク及び機会も検討することが要求される。
企業が晒されているサステナビリティ関連のリスク及び機会が企業価値にどのように影響するかを評価することに役立つ可能性が高い、前の段落で示した開示(指標を含む)を識別するために、企業は同じ情報源を使用する。開示に関する追加の要求事項は、以下のとおりである。
- 一般目的財務報告の利用者の意思決定ニーズに目的適合性がある。
- 特定のサステナビリティ関連のリスク又は機会に関連して、企業のリスク及び機会を忠実に表現する。
- 中立である。
見解 EDで提案されたアプローチは、取引、その他の事象又は状況に具体的に適用されるIFRS会計基準がない場合、経営者は、目的適合性があり信頼性がある情報をもたらす会計方針を策定及び適用する際に判断を使用しなければならないという、IAS第8号10項に類似している。このアプローチにより、企業は、IFRSサステナビリティ開示基準が取り扱っていないものを含め、すべての重要なサステナビリティ関連の問題に関する、目的適合性のある情報を提供できることを保証する。 経営者がサステナビリティに関連する重要なリスク又は機会に関する開示を識別する際に判断を適用する際に使用する可能性のある他の基準設定機関からのガイダンスには、指標、目標及び移行計画に関するTCFDの最新のガイダンス、VRFの国際<IR>フレームワーク及び/又は世界経済フォーラム(WEF)国際経済会議(IBC)のステークホルダー資本主義指標が含まれる。したがって、特定のトピックについてIFRSサステナビリティ開示基準が存在しない場合、企業は、当該フレームワークが上記の要求事項を満たしている場合、別のフレームワークに従って既に行っている可能性のある開示を提供し続けることができる。 |
重要性(マテリアリティ)
サステナビリティ関連の財務情報は、当該情報が省略、誤表示又は覆い隠される場合、一般目的財務報告の主要な利用者が、特定の報告企業に関する情報を提供するこれらの報告に基づいて行う意思決定に、影響を与えると合理的に予想し得る場合、重要性がある。
EDは、サステナビリティ関連の財務情報が、企業の企業価値に対する主要な利用者の評価に影響を与えることが合理的に予想される要因への洞察を提供する場合、重要性があることを提案している。企業価値に対する主要な利用者の評価に影響を与える可能性がある場合、当該情報は、活動、相互作用及び関係、及び企業のバリュー・チェーンに沿った資源の使用に関連している。これには、確率は低いが影響の大きい結果になる、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を含めることができる。
説明的ガイダンス案は、重要性の判断の実施に関するさらなる情報を提供する。これは、特定の報告企業の一般目的財務報告の主要な利用者によって行われた決定に、情報が影響を与えると合理的に予想し得るかどうかを評価する際に、企業が、それらの利用者の特性及び自身の状況を検討することを示している。
主要な利用者の共通の情報ニーズを満たすために、企業は、最初に、基準案で定義される3種類の主要な利用者のうちの1つ、例えば、投資者(現在の及び潜在的な)によって共有される情報ニーズを別個に識別し、次に残りの2種類、すなわち融資者(現在の及び潜在的な)及び他の債権者(現在の及び潜在的な)について評価を繰り返す。識別された結合情報ニーズは、企業が満たすことを目指す共通の情報ニーズのセットである。
企業は、IFRSのサステナビリティ開示基準において規定された開示を提供することが要求されるのは、その情報に重要性があると企業が判断した場合のみである。重要性の判断には、定性的及び定量的な考慮の両方が含まれる。例えば、IFRS実務記述書第2号「重要性の判断の行使」には、そのような定性的な考慮事項には、「企業の取引その他の事象又は状況、あるいはそれらの置かれている文脈の特性のうち、存在するならば、情報が企業の財務諸表の主要な利用者の意思決定に影響を与える可能性が高まるもの」が含まれる可能性があることを記述している。その結果、その内容により、いくつかのIFRSサステナビリティ開示基準が要求する情報は、定性的要因の存在のため、重要性があるものとなる可能性が高い。例えば、重要な気候関連リスクに晒されているすべての企業は、当該リスクのガバナンスに関する情報に重要性があると評価する可能性が高い。
重要性の判断は企業固有であるため、企業の開示は以下を提供することが期待される。
- 一般的な開示ではなく、企業の実務及び状況に固有の情報
- 企業がサステナビリティ関連のリスク及び機会にどのように貢献し、影響を受けるかを評価するために必要な重要性のある情報
比較情報
企業は、当期に開示されたすべての指標について、前期に関する比較情報を開示することが要求される。そのような情報が当期のサステナビリティ関連財務開示の理解に目的適合性がある場合、企業は、説明的及び記述的なサステナビリティ関連財務開示についての比較情報も開示する。
報告の頻度及び情報の記載場所
企業は、関連する財務諸表と同時にサステナビリティ関連財務開示を報告することが要求され、サステナビリティ関連財務開示は、財務諸表と同じ報告期間のものとなる。
企業はまた、一般目的財務報告の一環として、IFRSサステナビリティ開示基準により要求される情報を開示することが要求される。
企業に適用される規制又はその他の要求に従って、EDは、企業の一般目的財務報告には、サステナビリティ関連の財務情報が開示される可能性のあるさまざまな場所があることを認識している。例えば、経営者による説明が企業の一般目的財務報告の一部を構成する場合、サステナビリティ関連財務開示を企業の経営者による説明に含めることができる。
経営者による説明は、企業の財務諸表を補完するものである。これは、企業の財務業績及び財政状態に影響を与えた諸要因並びに企業が将来において価値を創出しキャッシュ・フローを生み出す企業の能力に影響を与える可能性のある諸要因についての洞察を提供する。経営者による説明は、経営者による検討及び分析、経営及び財務のレビュー、統合報告書及び戦略報告書を含む、さまざまな名称で知られている又は組み込まれている。
EDは、IFRSサステナビリティ開示基準によって要求される情報を、その情報が相互参照される情報と同じ条件で同時に一般目的財務報告の利用者が利用できることを条件として、相互参照によって含めることを認めている。
見解 サステナビリティ関連の財務開示を関連する財務諸表と同時に報告することは、現在財務諸表とは異なる時期に独立のサステナビリティ報告書を発行している企業にとって、大きな変化を意味する可能性がある。 |
見積りの不確実性の源泉
指標を直接測定できず、見積もることしかできない場合、測定の不確実性が生じる。EDは、合理的な見積りの使用は、サステナビリティ関連の指標を作成する上で不可欠な部分であり、見積りが正確に記述及び説明されている場合、情報の有用性を損なうものではないことを認識している。測定の不確実性が高かったとしても、そのような見積りが有用な情報を提供することを必ずしも妨げるわけではない。企業は、見積りの不確実性が重要である指標を識別し、見積りの不確実性の源泉と性質、及び不確実性に影響を与える要因を開示する。
サステナビリティ関連の財務情報開示に財務データ及び仮定が含まれる場合、EDは、そのような財務データ及び仮定が、可能な限り、企業の財務諸表の対応する財務データ及び仮定と整合的でなければならないことを提案している。
企業はまた、重要な結果の不確実性が存在する場合、サステナビリティ関連のリスク又は機会の潜在的な影響について開示する情報に関連する、将来について行う仮定に関する情報、及びその他の重要な不確実性の源泉も開示する。
準拠表明及び誤謬
サステナビリティ関連の財務情報開示がIFRSサステナビリティ開示基準のすべての目的適合性のある要求事項に準拠している企業は、明示的かつ無限定の準拠表明を含めることが要求される。
EDは、それが実務上不可能でない限り、企業が、開示された過年度について比較対象の値を修正再表示することにより、重要性がある過年度の誤謬を訂正することを提案している。
プロトタイプからの主な変更点
サステナビリティ関連財務情報開示に関する全般的要求事項のプロトタイプと比較して、EDでは以下の主要な変更が行われている。
- EDにおける企業価値の定義はより正確なものであり、定義の側面は現在基準案の目的に含まれ、EDにおいて全般的に強化されている。
- 「報告の境界」は、EDにおいて「報告企業」と改名され、その定義IASBの定義と整合している。さらに、報告企業は、主要な利用者の企業価値への評価に影響を与えるサステナビリティ関連のリスク及び機会(バリューチェーンを含む)を開示することが要求されることが明確化されている。
- EDにおいて、IFRSサステナビリティ開示基準で取り扱われるものに加えて、どのように目的適合性のあるサステナビリティ関連リスク及び機会を識別するかに関する要求事項及びガイダンスをより明確にしている。
- EDにおいて、「コネクティビティ」を「つながりのある情報(connected information)」に変更し、作成者が明確かつ理解可能な意思決定に有用なサステナビリティ関連情報を表示し、財務情報とのコネクティビティを強化するという目的を強化する。
- 曖昧さを解消するために、EDの「報告チャネル」を「情報の記載場所」に変更する。
IFRS第S2号案「気候関連の開示」
IFRS第2号に関するEDは、初のテーマ別IFRSサステナビリティ開示基準についてのISSBの最初の提案であり、TCFDのガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標の4つの中核的要素を中心に構成されている。
目的
IFRS第S2号の目的案は、企業が気候関連の重要なリスク及び機会に対するエクスポージャーに関する情報の開示を要求することにより、企業の一般目的財務報告の利用者が、以下を可能にすることである。
- 重要な気候関連のリスク及び機会が、企業の企業価値に及ぼす影響を評価する。
- 企業による資源の使用、及びそれに対応するインプット、活動、アウトプット及び成果が、その重要な気候関連リスク及び機会を管理するための企業の対応及び戦略をどのように裏付けるかを理解する。
- 計画、ビジネスモデル及びオペレーションを、気候関連の重要なリスク及び機会に適応させる企業の能力を評価する。
範囲
IFRS第2号は、以下に適用される。
- 企業がさらされる気候関連リスク(以下を含むが、これらに限定されない)。
―気候変動による物理的リスク(物理的リスク)
―低炭素経済への移行に伴うリスク(移行リスク) - 企業が利用できる気候関連の機会
ガバナンス
ガバナンスに関する気候関連財務情報開示の目的案は、一般目的財務報告の利用者が、気候関連のリスク及び機会をモニタリングし管理するために使用されるガバナンス・プロセス、コントロール、及び手続を理解できるようにすることである。この目的を達成するために、企業は、気候関連のリスク及び機会を監督するガバナンス機関(取締役会、委員会、又はガバナンスの責任を負う同等の機関が含れることがある)に関する情報、及びそれらのプロセスにおける経営者の役割に関する情報を開示することが要求される。
戦略
戦略に関する気候関連財務開示の目的案は、一般目的財務報告の利用者が、気候関連の重大なリスクと機会に対処するための企業の戦略を理解できるようにすることである。
この目的を達成するために、企業は以下に関する情報を開示する。
- 短期、中期又は長期的にわたり、自身のビジネスモデル、戦略及びキャッシュ・フロー、ファイナンスへのアクセス及び資本のコストに影響を与えることが合理的に見込まれる重要な気候関連リスク及び機会
- 気候関連の重要なリスク及び機会が、企業のビジネスモデル及びバリュー・チェーンに与える影響
- 移行計画を含む、気候関連の重要なリスク及び機会が、企業の戦略及び意思決定に与える影響
- 報告期間中の財政状態、財務業績、キャッシュ・フローに対する気候関連の重要なリスク及び機会の影響、及び短期、中期、長期にわたり予想される影響(気候関連のリスク及び機会が企業の財務計画にどのように含まれているかを含む)
- 重要な物理的リスク及び重要な移行リスクに対する戦略(ビジネスモデルを含む)の気候レジリエンス(弾力性)。企業は、気候レジリエンスを評価するために、気候関連のシナリオ分析を使用することが要求されることが提案されている。ただし、それが不可能である場合を除く。企業が気候関連のシナリオ分析を使用できない場合は、気候レジリエンスを評価するために代替的な方法又は手法を使用しなければならない。このような代替的な方法又は手法には、定性的分析、単一点予測、感応度分析及びストレス・テストが含まれる可能性がある。
見解 シナリオ分析は、企業及び投資者が、気候変動がビジネスモデル、戦略、財務業績及び財政状態に及ぼす潜在的な影響を理解するのに役立つツールとして、ますます確立されつつある。多くの企業は、リスク管理においてシナリオ分析を他の目的で使用する。しかし、気候関連のシナリオ分析の適用は多くの企業によりいまだ開発中であるため、要求事項案は、レジリエンス評価の代替的アプローチに対応するように設計されている。ただし、重要な気候関連リスク及び機会のシナリオ分析は、重要な気候関連リスクに対する企業の戦略のレジリエンスを理解する利用者の情報ニーズを満たすための望ましい選択肢になることが提案されている。 |
リスク管理
リスク管理に関する気候関連財務情報開示の目的案は、気候関連リスク及び機会を識別、評価及び管理するプロセスを、一般目的財務報告の利用者が理解できるようにすることである。
この目的を達成するために、企業は、以下のために使用するプロセスを開示する。
- 気候関連のリスク及び機会を識別する。
- リスク管理目的で気候関連のリスクを識別する。該当する場合、以下を含む。
―そのようなリスクに関連する発生可能性及び影響をどのように評価するか(定性的要因、定量的閾値及び使用される他の規準など)。
―リスク評価ツール(例えば、科学的根拠に基づくリスク評価ツール)の使用を含む、他の種類のリスクと比べて気候関連リスクをどのように順位付けするか。
―使用するインプット・パラメータ(例えば、データソース、対象となる事業の範囲及び仮定に用いた詳細さの水準)。
―過年度と比較して、用いたプロセスを企業が変更したかどうか。
- 気候関連の機会を識別し、評価し、順位付けする。
- 関連する政策を含む、気候関連のリスク及び機会をモニタリング及び管理する。
企業はまた、以下も開示する。
- 気候関連のリスクの識別、評価、管理プロセスが、企業の全体的なリスク管理プロセスにどの程度及びどのように統合されているか。
- 気候関連の機会の識別、評価、管理プロセスが、企業の全体的な管理プロセスにどの程度及びどのように統合されているか。
指標及び目標
指標及び目標に関する気候関連財務開示の目的案は、企業がその重要な気候関連リスク及び機会をどのように測定、モニタリング及び管理しているかを、一般目的財務報告の利用者が理解できるようにすることである。EDは、これらの開示により、設定した目標に対する進捗を含め、企業がパフォーマンスをどのように評価するかを、利用者が理解できるようにすることを提案している。
この目的を達成するために、企業は以下を開示する。
- 産業及びビジネスモデルに関係なく企業に目的適合性のある、産業横断的指標のカテゴリーに目的適合性のある情報
- 開示トピックに関連し、産業に参加する企業、又はビジネスモデル及び基礎となる活動が当該産業のビジネスモデルと共通の特徴を共有する企業に目的適合性のある、産業に基づく指標(EDの付録に示されている)。
- 目標に対する進捗を測定するために取締役会又は経営者が使用するその他の指標
- 気候関連のリスクを緩和又は適応するため、又は気候関連の機会を最大化するために企業が設定した目標
産業横断的指標及び産業に基づく指標のより詳細については、以下を参照いただきたい。
産業横断的指標
IFRS第S2号は、以下の業界横断的な指標のカテゴリーに目的適合性のある情報の開示を要求する。
- 温室効果ガス(GHG)排出量:
―報告期間中に発生した企業の温室効果ガスの絶対総排出量。温室効果ガスプロトコル企業基準に従って測定された、CO2換算のメートルトンとして表現し、スコープ1、スコープ2及びスコープ3に分類する。
―スコープ2及びスコープ2の排出量については、連結会計グループ(親会社及びその子会社)についてと、関連会社、共同支配企業、連結会計グループに含まれない非連結子会社又は関連会社について、別々に排出量を開示する。 - 移行リスク 移行リスクの影響を受けやすい(vulnerable)資産又は事業活動の金額及び割合
- 物理的リスク 物理的リスクの影響を受けやすい資産又は事業活動の金額及び割合
- 気候関連の機会 気候関連の機会と整合する資産又は事業活動の金額及び割合
- 資本投下 気候関連のリスク及び機会に投下された資本的支出、ファイナンス又は投資の金額
- 内部炭素価格:
―企業が排出量のコストを評価するために使用する温室効果ガス排出量の1メートルトンあたりの価格
―企業が意思決定において炭素価格をどのように適用しているかの説明(例えば、投資判断、移転価格及びシナリオ分析) - 報酬:
―当期に認識された経営者の報酬のうち、気候関連の考慮事項にリンクするものの割合
―気候関連の考慮事項が、役員報酬にどのように織り込まれているかの説明
産業に基づく指標
基準案は、特定のビジネスモデル、経済活動、及び産業への参加により特徴付けられるその他の共通の特徴に関連する、企業の重要な気候関連のリスク及び機会に関連する情報を識別、測定及び開示するための要求事項を定めている。基準案を適用する際には、特定の産業に参加する企業は、これらの要求事項に示された情報を提供することが要求される。
産業別の開示要求はSASB基準から派生しており、EDの付録に示されている。これらは業界別に整理されており、企業はビジネスモデル及び関連する活動に適用される要求事項を識別できる。基準案には、11セクターにわたる77の産業分類が含まれている。68の産業別の開示要求のセットが、別々の巻となっている。残りの9つの産業分類には、産業横断的な要求事項を上回る気候関連の開示要求はない。
産業別に、気候関連のリスク又は機会に関連する開示トピックが識別されている。一連の指標は、各開示トピックに関連付けられている。開示トピックは、その産業の企業にとって最も重要である可能性が高いものとして識別された気候関連のリスク及び機会を表現し、関連する指標は、企業価値の評価に目的適合性のある情報の開示につながる可能性が最も高いと識別された指標である。
一部の企業は、複数の産業にまたがる可能性のある幅広い活動に参加している。(コングロマリットのように)事業が産業横断的に水平に、又はバリュー・チェーンを通じて垂直に統合されている企業については、完全性の目的を満たし、企業価値を創造する企業の能力に影響を与える可能性が合理的に高い気候関連の開示トピックの全範囲に対処するために、複数の産業別の要求事項のセットを適用することが要求される場合がある。
産業別の要求事項は、サステナブル産業分類システム(SICS)に従って編成されている。業界別の要求事項に従った開示を作成する際、企業は選択した単一又は複数の産業を識別する。出発点として、企業はSASB基準のウェブサイトで、主要な産業分類を識別できる。
見解 要求事項案は、SASB基準の同等の要求事項からほとんど変更されていない。しかし、EDに含まれている要求事項には、現行のSASB基準と比較して、いくつかの対象を絞った修正が含まれている。 変更案の最初のセットは、SASB基準が法域固有の規制又は基準を引用した指標のサブセットの国際的な適用可能性に対処している。この場合、EDは、国際基準及び定義、又は適切な場合には法域における同等のものへの参照を含む修正を提案している。 現在のSASB基準と比較した変更案の第2のセットは、金融セクターにおける投融資による排出量(financed emissions)又は促進された排出量(facilitated emissions)の測定及び開示に関する新たなコンセンサスを取り扱っていることである。これを取り扱うために、EDは、商業銀行、投資銀行、保険、アセット・マネジメントの4つの産業における開示トピック及び関連する指標を追加することを提案している。要求事項案は、排出量に資金を提供する又は促進する貸付、引受、及び/又は投資活動に関連している。この提案は、カテゴリー15(投資)から生じる間接排出量の計算に関するガイダンスを含む、GHGプロトコル・コーポレート・バリューチェーン(スコープ3)基準に基づいている。 |
プロトタイプからの主な変更点
気候関連開示のプロトタイプと比較して、EDでは以下の主要な変更が行われている。
- 移行計画及びカーボン・オフセットについて、開示目的を満たすために必要な情報の特定性及び明確性を向上させるための要求事項が追加されている。
- シナリオ分析を実行できない場合に、企業が気候レジリエンスを評価するために使用できる代替的方法又は手法について、開示要求が追加されている。
- 温室効果ガス排出量の開示要求を拡大する。例えば、スコープ1及びスコープ2の排出量を、連結会計グループについてと、連結会計グループに含まれていない関連会社、共同支配企業、非連結子会社又は関連会社についてとで別々に開示する。
- 法域固有の指標は、国際化されている。
- 投融資による排出量に関する指標が、追加されている。
経過措置、発効日、コメント期間
本基準は、最終決定された場合、将来に向かって適用される。企業は、基準案を適用する最初の期間に比較情報を提供することは要求されない。
EDは発効日を提案していない。発効日は、基準が最終化される際に設定される。
EDのコメント期間は2022年7月29日までである。
以 上
本記事に関する留意事項
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