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人工知能時代の雇用のあり方(2):Deloitte Review issue 21

激しい変化の波に乗る 21世紀のキャリア像

人工知能やロボットが普及し、スキルセットがほんの数年で時代遅れになる中、多くの労働者が世の中の流れについていくためにもがいている。組織はどうすればすべての雇用者の継続的な学習を促進し、個々のモビリティを向上させ、成長への向上心を育むことができるのか?学習する組織を再設計し、ジョブモデルを再検討し、ハイブリット・ジョブを創造する。こうした改革にうまく対処できた企業は大きな対価を得られるだろう。

新しい世界のための新しいモデル

企業が従業員にやりがいのあるキャリアを提供することは、以前はそれほど難しいことではなかった。つまり、大学卒の優秀な若手を採用し、まずはエントリーレベルの役割を与え、その後は退職に向けて出世階段を登っていくのを見守るというものである。 学位に沿って人材を採用し、彼らがゆっくりと着実に能力開発ができるよう支援し、その中から何人かはリーダーとなり、その他の一部は専門家となり、またその他の一部は同じポジションに留まるという、継続的なキャリア過程を想定することができた。

しかし今日、こうしたキャリア開発のモデルは既に崩壊している。過去の調査結果を見ても、私自身の経験からも、堅実で安定したキャリアを目指す時代は、既に終わりを迎えていると言える。多くの組織がチームやプロジェクトベースに移行する中で、組織構造はよりフラットになり、組織の上へ上へと出世を目指すキャリアは一般的でなくなっている。

若手新入社員は、多くの場合、経験豊富な社員が持ち合わせていないスキルを身につけており、今や古参の社員の多くは若手リーダーの下で働いている。そして、テクノロジーの急速な進歩は、たった数年の内に多くの仕事、熟練技術、そしてスキルを陳腐化させている。

組織のトレーニング部門は、かつて安定的で緻密に設計されたキャリアを従業員に提供していた(私の場合、社会人最初の1年間はIBMで研修生として働いたが、既にその後10年間のキャリア・パスが明確に描かれていた)。今日、多くのトレーニング部門は変化への対応に苦戦しており、社員にオンラインコースや学習プログラムを受講するよう勧め、新しいスキルを身に付けるのは社員各自の仕事だと言うばかりである。そして、社員に対して今後のために必要なものを提供しようと取り組む一方、トレーニング部門そのものもまた、変化に対応できていないことが調査では明らかになっている。例えば同調査では、従業員は自社の人材開発部門(L&D)に対して、ネット・プロモーター・スコアでその他全ての部門よりも低い、惨憺たる-8の評価をつけた。

【中略】 全文はPDFファイルをご参照ください
 

激しい変化の波に乗る [PDF: 4MB]

今の波から次の波へ

今日キャリア像を考える際には、自分自身をサーファーに例えてみるといい。つまり、よい波を人生の早い段階で掴み、浮き沈みを経て次の波を待つのである。

労働市場調査会社Burning Glass Technologiesのデータを元にしたBersin by Deloitteによる調査では、多くの技術的なスキルへの高い需要がある一方、それらのスキルは多くの人が習得してしまうと、たちまち価値を失うことが明らかになった。グラフィック・デザイナーを例に挙げると、インターネットが発明された時代より、格段にその職業価値を失っている。彼らは未だ稼げてはいるものの、今日では我々が誰でもインターネットの力を借りてデザイナーになれるため、グラフィック・デザインの専門家に対する企業からのニーズは減少している。

ただ、もちろん特定の新興分野では、専門家に対する高い需要とふさわしい報酬がある。例えば、企業は Hadoop やその他ビックデータの扱いに長けた技術者や、サイバーセキュリティといった注目を集めている分野の専門家を必要としている。そして、企業はこのような分野の専門家に対して、トップクラスの報酬を与えている。しかし、これから数年でこうした分野の専門家の供給が増え、彼らのキャリアもまた、未知の方向へと向かうのである(例えば、Hadoopの専門家がその他のテクノロジーの専門家に転身するなど)。そして彼らは、今後の報酬の減少に満足できないのであれば、次の波を見つけなければならない。

従って、我々1人1人が大学卒業から退職までのキャリアを、次々に訪れる波だと仮定すればよい。そうすれば、波に乗り、波の上まで辿り着いた後は、穏やかに海岸へと到着し、その後また海に漕ぎ出て次の波に乗るのである。新しい波では、進む方向に沿って新たなスキルや経験を身につけ、自分自身を再教育するのである。

【中略】 全文はPDFファイルをご参照ください

図3. 学習と能力開発の進化とスピード

学習の未来像とは?

継続的な学習と新しいスキルの習得を繰り返さなければならないという事実を受け入れるとして、どうすればそれが可能になるのだろうか。従業員全員を何年かに一度学校に通わせ、他の学位を取得させるべきなのだろうか。答えはノーである。

過去10年間で、学習とトレーニング産業は急成長を遂げている。2015年と2016年の2年間だけで、投資家はアメリカの新しい教育テクノロジー会社やベンチャー企業に対して、10億ドル以上を投資した。スマートフォン、エンベデッド・ビデオ(YouTubeなどから引用し、自身のブログなどに埋め込まれた動画コンテンツ)、YouTubeなどのテクノロジーによって、私達は自分の手元で質の高い学習ができるようになり、教育、専門技術開発、企業トレーニングの世界市場は、今や4,000億ドル以上へと成長した。我々個々人で、Udemyのような共有サイト、Lynda.comのような学習コースサイトやPluralsight、Skillsoft、 General Assemblyといった技術教育サイトにアクセスし、低価格の学習コースやレッスン、専門教育を受講することが可能になった。

HRの多くは、こうした急速な学習手段の選択肢(図3)の変化に危機感を抱いている。経営層もまた、内製の学習・能力開発(L&D)プログラムは、市場の変化に遅れをとっていると感じている。事実、最も直近に行われた当社のHigh-Impact Learning Organization surveyでは、従業員は時代遅れの学習管理システムとコンテンツに対して不満を持っており、自社のトレーニング部門に対してネット・プロモーター・スコアで−8の評価をつけた。

外部環境のこうした変化よって、 学習と能力開発の機会は、企業ブランドとエンプロイー・エクスペリエンス(従業員の経験価値)にとって不可欠なものとなっており、当社は経営層に対してこの分野への投資を増やすようアドバイスしている。実際、GE、Visa、IBMといったイノベーティブな企業は、巨大なオープン・オンライン・コース (MOOCs) と社内で開発されたコンテンツのネットワークを構築し始めており、自前の教材を含めたトレーニングを従業員自ら購入できるようにしている。 HRテクノロジー市場において学習・能力開発分野は最も成長しており、我々はこの先5年間で、多くの企業が社内学習システムを取り替えるか更新するだろうと予想している。

こうした学習コースは、一般向けであっても企業向けであっても、キャリア開発のためにとても役立つ。

従業員は、自らのデスクトップからUdacity、Coursera、NovoEd、edX といった企業のMOOCs にアクセスし、技術、マネジメント、パーソナルスキルといった広範囲に渡るトピックに関する、それぞれの専門家のコースを受講することができる。トレーニング会社が、コース修了者に対して新しいコンピテンシーが備わったことを意味する受講修了証を提供する機会も益々増えるだろう。
 

各社でできる対応策

寿命の伸長、より短い在職期間、新しいテクノロジー習得への容赦ないプレッシャーは、どんなに努力してももはや避けることはできない。しかし、企業は社員の新たなスキルの獲得、再教育とキャリア開発を支援するためのプログラムを採用することで、上記のような問題に対処することができる。当社のグローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド・レポート2017では、同トピックはトップ・プライオリティーに挙げられている。学習と能力開発は、ビジネス及びHRリーダーの間で2番目(1年前の5位から上昇)に関心が高く、83%の企業がキャリア・プログラムを再設計する予定と回答した。

【中略】 全文はPDFファイルをご参照ください
 

キャリアの波乗りを容易にするには?

サーフィンをすることは、いくら晴れた日であっても勇気がいることである。特に、自分の生活が危機に瀕する可能性がある時、波が何度も何度もサーフボードからサーファーを投げ落とそうとするキャリアのサーフィンであれば尚更である。では、どうすれば組織は痛手を負うことなく、従業員を先導し、彼らがこの新しいキャリアの世界で成功できるよう、手助けができるのだろうか。

その答えは明確である。我々リーダーは、組織を再設計することで、従業員に対して多様で継続性のある成長機会を提供することができる。第一に、社員が自分の仕事を変え、技術的な専門性を構築し、社内を広範囲に異動し経験を積めるよう、報酬システムを変更しなければならない。 自社は、社員の技術的専門性と幅広い経験に対して、しっかりと対価を支払っているだろうか。もしくは、組織の出世階段を登っている社員のみ評価していないだろうか。

更に、コーチング、キャリア・プランニング、キャリアアセスメントなどにも投資しなければならない。「自分のキャリアは自分でマネジメントする」という古い格言は、従業員の学習は会社の外で行う、ということを示唆している。 進歩的な企業は、既にキャリア・プランニング用のツールを提供し、ポストの社内公募を積極的に行い、内部雇用と異動を積極的に支援している。

当社のクライアントの1つで、アジアのある大手エネルギー会社では、 リーダー層の中で誰かが死ぬか辞めるまで、その他多くの社員が昇進することができない、厳格に構造化されたジョブモデルを特徴としていた。経営層は私に、従業員が社内でよりよい仕事を得るには、「一度退職して、違う職種に再応募することだ」と、冗談交じりに話したものである。 しかし、これは全く冗談ではなく、実際には同様のことが今日多くの大企業で起きている。

結論を言うと、従業員が組織内でより容易に自分のスキルをもとにして異動し、 新たな仕事でそれらを発揮できるよう、伝統的なキャリアモデルと仕事のあり方を変革しなければならない。

労働者にとっても雇主にとっても、未来の変化に富んだキャリアをマネジメントすることは、簡単なことではないだろう。しかし、その中で成功をおさめるには、学習する組織を積極的に再設計し、ジョブモデルを再検討し、より多くのハイブリット・ジョブを創造し、「昇進か退職か」という伝統的なキャリア開発の考え方を捨て去ることが大切である。

こうした改革にうまく対処できた企業は、大きな対価を得られるだろう。 当社の調査では、自社には学習に適した環境があると回答した組織は、その他の組織より財務収益が23%多く、競合他社とイノベーション面で差をつけ、より長く強靭なビジネスサイクルを実現できることが明らかになった。 次の大きな波が地平線の先に現れた今、我々全員が自分自身のサーフィンについて考えなければならない。

英語原文はこちらをご覧ください
Catch the wave: The 21st-century career(Deloitte Review, issue 21)

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